「KsotaiQ(クソタイク)」の代表 稲垣泰斗

トレイルランの大会で救護チームを務める「KsotaiQ(クソタイク)」の代表 稲垣泰斗さん。北里大学病院で救命救急医を務める稲垣さん。私、奥山とは長年の交流がありますが、今一度、自身についてざっくばらんに語っていただきました。

「KsotaiQ(クソタイク)」の代表 稲垣泰斗

取材場所は(いつもの!)沖縄料理屋「ニラカナイ」にて。

奥山)いつぐらいから山に興味を持ち出したのですか?

稲垣)高校生の時からです。中学校の友人の一人に、ボーイスカウトなどで、山を知っているやつがいて。地元の山に行ったのが初めてです。毎月、友人だけで、計画書を作って。様々な山を行くようになりました。高校時代の後半にもなってくると、北アルプス縦走も。

部活ではないけれども、自分たちで計画してやって。自分らだけで、山に入るのが特別な感じもして。本当に楽しかったです。いつも行くメンバーは同じ(笑)。出身は愛知。鈴鹿山脈、奥美濃、北アルプスによく通いました。

大学生に進学して、しばらくワンダーフォーゲル部に在籍してました。でも、なんか物足りなくって(苦笑)かつ、アメリカンフットボール部もやっていたので、忙しくって。高校生の時の友人と夏キャンプなどはしていましたけど。

社会人になり、研修医時代は、多忙を極めてました。いつしか、自分から、率先して、運動しないといけないなーと感じ始めて……。そこで、山を登りたいし、ランニングでもしたいと思い立ち、トレイルランニングを知りました。

プロトレイルランナーの石川弘樹さんや鏑木毅さんとかの存在を知り、雑誌でも『タカタッタ』(エイ出版)を買って読んだりしていました。

今まで、例えば、二泊三日で行っていた登山が、走れば一日でいけちゃう。そこに魅力を感じて。休みはそんなに取れる職ではないので、ならば、走っちゃえばいいやと思って(笑)

トレランをやり始めて、半年後あたりに、同じ職場で、トレランをやっている人がいると聞きつけ、即意気投合。当時、第1回「白馬国際トレイルランニング」にみんなで出ようよ、という流れになり。勢いでエントリーして。2011年の出来事ですかね。

その大会で、いきなり、28km 総合8位になってしまい(汗)。そこで、ちょっと勘違いしてしまい(笑)。満足のいく大会デビューでした。それから、ますますトレイルランにドはまりしました。

関連書籍や雑誌を日々読むようになり、UTMBをはじめ、海外レースや、80kmや100mile規模の大会を知りました。その頃、100mileを出て、完走したいなと、憧れが芽生えましたね。

いきなりは無理だと思いましたし、仮に歩き倒して、完走というのも面白くないなと、思ったので。ちゃんと走れるようになろうと思って。5年計画を立てました。

1年目に30km規模、2年目に50kmのレース。3年目に50mile、4年目に100km、5年目に100mile。

このプランに向けて、ちゃんとトレーニングを始めました。順を追ってやっていったんですけれどもね。

結局、100mileを完走するまでに6年かかりましたけど(苦笑)

2015年のONTAKE100で初めてDNFをして。翌年のONTAKE100で100mileを初完走。

2017年にHURTとONTAKE100で、100mileを完走。

「KsotaiQ(クソタイク)」の代表 稲垣泰斗

HURTにて。トレイルランが生涯スポーツだと体感した貴重なレース。

今では、100mileレースは、年間で1,2本は参戦したいな、と思ってます。タラウェラは体調を崩してDNF。100mileレースは5戦して、3勝2敗ってところです。

なんか難しいですよね。大会で走っていると、自分の戦略とか、ペース配分とか、だいたいわかってくるものですけど。

100mileに関しては、別物。手強いゆえに、やりがいがあります。

HURTは当選し、参戦。海外レースの雰囲気もサイコーでした。その時に、僕よりも上位選手に年上の方が多かった印象でしたね。また、あんまり、体を絞ってない方も強いんですよ(笑)

まだまだ、自分もこの先、やっていけるんだな、と。強くなれる可能性はあるな、と、思いましたね。100mileは、選手として、生涯的に続けていけるスポーツ。まだまだ、自分は若造だな、と知りました(笑)。

奥山)どうして、レース救護に関わるように?

稲垣)まず、職場にトレイルランをする仲間がいることを知り、スタッフでチームを作りました。チーム名はその名も、「KsotaiQ(クソタイク)」。「北里救急(KITASATOQQ)」から、ダブっている文字を消して、シャッフルし、命名しました。

クソ(=very)や体育といった意味合いも含んでいます。我ながら、いいチーム名だな、と今でも思っています(笑)

そんな矢先、北丹沢12時間山岳耐久レースで、自分の病院に患者が運ばれてきたんです。重症の熱中症2名が運ばれてきて。その患者さんの主治医が私でした。

患者さんが回復するまでに、大会事務局の方がお見舞いに病院に度々通ってきている姿をみて、大会主催者も大変だなと……。それに、北丹沢12時間山岳耐久レースは、同じ相模原市内の大会。自分の職場にもトレイルランのチームがあるので、お手伝いすることがあれば、やります、みたいなことを大会事務局の担当者と話したのが、救護に関わるようになった、きっかけです。早速、同年の陣馬山トレイルランニングレースから、サポートをするようになりました。

「KsotaiQ(クソタイク)」の代表 稲垣泰斗

救護チームの面々。そのメンバー構成は稲垣氏の人脈による。

稲垣)チーム当初は、職場のスタッフだけだったんで、医師と看護師のみでした。はじめはまったくの手探り。

人が集まる状況の救護体制を考える医学、マスギャザリング医学という分野があるのですが、その医学を専門としているのは、一般的には救命救急医。これを我々が専門としてやってみようと思いました。

当時は、トレイルランニング大会の救護体制は、専門性に欠けていたので、我々でしっかりと築きたいと思ったのです。マラソン大会と同じように、トレイルランニングの大会の救護体制も確固たるもに、と。

それに、何がきっかけで、私の責任が問われるか、わからないですし、私も仲間を連れて行く手前、ちゃんと体制を作らないと、仲間を守れないということにもなる。その上、周囲でやっている人がいなかったので、パイオニアワークとしてやる面白さもありました。

とはいえ、日進月歩の成長です。北丹沢山岳センター主催大会以外にも、シクロクロスの大会もサポートするようになって。業界内で話題になるようになり。さがみ風っこトレイルや白山ジオトレイル、奥宮俊佑選手のFUN TRAILS。

近年ですと、伊豆トレイルジャーニーと信越五岳トレイルランニングレース。規模にこだわっているわけではないですけれど、自分らでやれることをやる。逆に、我々に声がかかるということは、現実問題として、このような救護チームはなかなかいない、ということなんだと思いますし。

奥山)WMAJ(ウィルダネスメディカルアソシエイツジャパン)とのつながりは?

稲垣)2014年、自分が受講生でした。ある時、大学の一般教養の授業で、山のファーストエイドの講義をやってほしいという依頼を頂いたんです。それで、ファーストエイドの教え方を知りたかったんですよね。たまたまネット検索していたら、WMAJがヒットして。

医師向けコースを受けたかったのですが、タイミングが合わず、その時は、一般向けのアドヴァンスコースを受講しました。そしたら、(当然ですが)ちゃんと教えてて。

僕らが日常診療でやっていることのベースを、一般市民にもわかるように、教えているわけです。単純にすげーな、と驚きました。今まで、医療に関わっていない方が、40時間、80時間、ちゃんと学んで、身につけている。講義自体も、アウトドアガイドや山好きの方と知り合いにもなり、とても楽しかった。

現実問題。1、2時間で教えられることなんて、たかが知れています。WMAJを、一般のトレイルランナーにも広めたらいいなと思ったんですよね。WMAJでは、ベースを学んだ上で最終的に求められるのは分析的思考。客観的に、自分で考えろ、と。街で、救急車を呼べば済む、というわけではなく、まず、自分は何をすれば、いいのかを、一般市民に考えさせているんです。

2014年のWAFA(アドバンスレベル)を受講した際、4人でひと部屋でした。3泊4日。そのメンバーの一人に、トレイルランナーの相馬剛さんがいました。同じ部屋で。相馬さんは、朝15km走ってから講義を受けられていましたね。真面目な印象でした。彼がFuji Trailheadを立ち上げたばかりで……。

4日間、いろいろお話をしましたね。その一ヶ月後に相馬さんはマッターホルンで行方不明に。

WMAJのスタッフは、日本医療の業界にも、野外災害救急法を浸透させたい思いがあったようで。また、組織ディレクターのデビット・ジョンソン医師が日本の医療と野外の実情を知っているパートナーを探しているタイミングだった、ということもありました。それで、2017年に医療アドバイザーを設けようと。その話が、私にあり、引き受けた次第です。

奥山)今後について。

稲垣)チームとして、5年以上の経験。個人的にも救命救急医としての使命感もあります。

我々が携わる以上、アルバイト感覚の医者とは全然違う救護チームなんだぞ、と示したいんです。表面に出るのは難しいかもしれませんが。大会全体の安全面が強化されたという視点を築きたい。そして、我々がイイと思ったメソッドは共有していきたいし、他のレースからもどんどん学んでいきたい。

マラソンに比べて、トレイルランニングはまだマイナースポーツ。同じことはできないにしても、質の高い救護を、大会に持ち込みたいんです。

山岳スポーツ。もちろん安全とは言い切れないスポーツです。それを承知の上でも、結局、選手に存分に楽しんでもらいたいんですよね。そういった中で、選手に対する安全は最低限保たれないといけない。

確かに軽装すぎるトレイルランナーは良くないと思います。でも、選手は楽しんでほしい。趣味なんだから。その反面、大会運営サイドは安全管理の準備する視点をしっかりと持ってほしい。救護所に医者1人がいたら、安全になるか……。そんなことあるわけない。安全管理をした上で、大会運営をしていただきたい、と思っています。

とはいえ、大会ルールや必携装備品で、選手や愛好家をがんじがらめにしてほしくもない。選手、個人個人が、自分たちで考えて挑む大会が増えてほしいです。

また、トレイルランニングは、ローカルスポーツ。各大会がそこのローカルで完結できるような体制が理想的。地元の山岳救助隊や救命士が活きるやり方。地元住民ならではの、地理感や山岳知識。コミュニティー、ネットワーク、フィールドをフル活用されるのがベストだと思います。

トレイルランニングの大会は、地域のお祭り的な存在であってほしいですね。

「KsotaiQ(クソタイク)」の代表 稲垣泰斗

語りたいことは山ほどある!と話はヒートアップ(汗)

稲垣)私は仲間に恵まれています。趣味として一緒に楽しめる。また、ある程度、労力も責任も伴うことに同じベクトルで向かってくれる仲間がいる。KsotaiQはKso最高なヤツらです!WMAJメンバーも、みんなプロフェッショナリズムの塊のような連中。

彼らから学んだオープンマインドとハードワークで、アウトドアの安全レベルを上げる活動に少しでも貢献していきたいと思っています。

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