今回紹介するのは一般の登山者にはオススメしづらいハードでマニアックな北アルプスの登山ルートだ。山と高原地図ではしっかりと登山ルートとして紹介されているのだけど、実際に歩いてみると険しい道、歩きづらい道の連続で心の折れる登山となる。
しかしながら1日目の最後は祖母谷温泉で1泊となるので最高の温泉とビールが待ち受けており達成感につつまれる至福の時間が待っている。
この登山は2泊3日で最後は白馬岳から栂池へと下山をするルートをたどる。それでは第1回1日目の登山体験レポートをお送りしていこう。
ゴンドラリフトを乗り継いで八方尾根へ
都内を夜に出発し真夜中に八方の駐車場に到着。車中泊を行い、朝一で八方のゴンドラリフトに乗る。
ゴンドラの営業開始時間を鑑みて登山開始は7時半頃。八方尾根を唐松岳へ向かって歩いて行く。
第1から第2ケルン、八方ケルン、第3ケルン、丸山ケルン、とケルンづくしの八方尾根を歩いて行くとまず初めの休憩ポイント丸山ケルンに到着。
到着すると運よくガスが流れていき白馬三山を南に眺め反対側には五竜、鹿島槍と壮大な山の景色が楽しめる。
この丸山ケルンから唐松岳へは標高差200m ほど。
丸山ケルンから唐松岳へ
唐松岳へ登りながら向かって右側には白馬三山の山容を眺め、秋の紅葉がこの先楽しめるかウキウキしながら登って行く。
コースタイム30分ほど早めに唐松岳頂上山荘に到着。予定にはなかったのだけれども唐松岳頂上へ荷物をデポしピストンで頂上へ向かう。
このピストンの時間おおよそ40分ほどだったのだが、祖母谷への下山を早めに開始しておくべきだったと後で悔やむことになる。
しかしながら唐松岳頂上からの眺めは最高で、不帰嶮を俯瞰しながら、その奥に白馬鑓、杓子岳、白馬岳と北アルプス最南端の山々を眺めるベストスポット。
唐松岳頂上山荘に戻ると人だかりが出来ておりなんだろうと近づくと雷鳥がクックと僕たちの目を楽しませてくれた。
雷鳥のオスの鳴き声は嗄れた声でガーガーと鳴き、メスはクックと囁くように鳴くそうだ。だから僕達が見た雷鳥はメスなのだろうと推測できる。
ここまでの登山道は人も多く五竜岳へ向かう人、八方尾根を下山する人、白馬方面へ向かう人と様々だが、唯一祖母谷温泉へ下ろうとする登山者は僕たちだけ。
ここからが試練の始まりであり、今までとは真逆の静けさが僕たちを包み込む。
唐松岳から祖母谷温泉へ
この唐松岳から祖母谷温泉へと降る登山道にはひとつ餓鬼山というピークがある。名前からしていやらしい感じがあり、その名の通りいやらしく、歩けど歩けど頂上へ到達できない、まるで狐や狸に騙されたかのような登山道。
そんな未来が待っているとはつゆ知らず、馬鹿下り、と呼ばれる登山道をまずはじめに下っていく。
唐松岳2620m から一気に1900 m まで下り、それこそ足がバカになってしまうような登山道の連続がまずはじめの試練。
途中欅平から祖母谷温泉をつないで、唐松岳へと登ってきた登山者の方とすれ違い、この先の悪路について話を聞けた。
彼らは、左右切り立った細尾根が危険であること、また祖母谷温泉近くの登山動において、足元が草だらけで非常に滑りやすく、さらにその場所が急坂であることなどを話してくれた。
まず始めのポイント大黒銅山跡に到着した僕たちはこれまでの下りでかなり疲労困憊。ここから約300mほど標高を上げると餓鬼山に到着する。
ここまでで約半分なのだけれども既に1時間ほどロスしており祖母谷温泉到着が予定より遅くなることが予想された。
大黒銅山跡から餓鬼山まではコースタイム2時間20分で、すでに疲れた体を振り絞って歩くことを考えると若干遅れることが予想された。
餓鬼山への登山はこの登山ルートにおけるドMポイントその2(その1は馬鹿下り)で、何度も何度もめげそうになった。
餓鬼山に到着した写真を後から見てみるとその疲れ方は今まであまり見たことがない。
ここから下り基調なのでコースタイムを稼ぐことが出来ると思いきや、この登山ルートは下りこそが辛い。
僕たちは白馬岳の1/50000の山地図を持ち歩いていたのだが祖母谷温泉への登山ルートは途中切れておりあまり詳しく知ることができなかった。
しかし鹿島槍、五竜岳の山地図にはしっかりとこの登山ルートの詳細が書かれており、そこには『非常に長いコースなので健脚者向き』と注意書きがあった。
餓鬼山から降ると避難小屋に到着する。この避難小屋の前後の登山道が、細尾根で左右切り立っており、一歩踏み外すと滑落というような場所が多くある。
歩くのに必死で写真はほぼないが、歩きながら考えていたことは、この登山道そんなに命は長くないのかも、ということだった。それこそ数年後に、何かの拍子に歩きたいと思っても、もう無理という想像も難しくない。それほど荒れている。
あとちょっとという場所で足止めを食らうのも、この登山ルートの醍醐味だ。とにかく道が滑りやすい。草つきの登山道だけが滑りやすいと思いきや、岩に足を置くとつるりと乾いているにも関わらず滑る。
木の根っこは湿っており正直どこに足を置いていいのやら戸惑うほどだ。
歩いて疲れるというのは筋肉や神経の問題なのかもしれないが、この登山道はそれよりも精神的に疲れるという側面が強く、精神が疲れるということが、こんなにも心が折れるものとは思いもしなかった。ここがドMポイント・ザ・ファイナル。
祖母谷温泉付近は沢に近く川の音がするということはゴールが近いということで、あとちょっとなのだと感じることができる場所まで来ると疲れがドッとやってきた。
夕方の5時半頃に祖母谷温泉に到着した僕たちは、強い握手を交わし、とにかく頑張った!と言葉なく健闘を称えあった。
テント場は平で、気持ちの良い睡眠が取れそうだと祖母谷温泉を見ながら思うのだった。
祖母谷温泉の主人は感じが良くつらかった登山道の話をすると『そうそう。長いんだよね。白馬岳へ向かう登山道はもっと長いからつらいよ。』次の日僕たちが登っていく道の話を聞き、なんとなく疲れが増したような気がした。
もう疲れたから寝る、と宴会ナシの雰囲気だったが、温泉に入って購入したビールで乾杯したら一気に元気が回復した。
十数年の登山人生の中で、こんなにも気持ちの良いお風呂、そして美味しいビールは何事にも変えられない、貴重な経験を掴んだと思っている。
ただしあまりにもマニアックすぎてこの体験をどのように他者に伝えるべきか非常に悩ましかったが、今このような形で執筆の機会に恵まれ、これが多くの人の目に触れ、僕も私も挑戦してみたい、危ないから辞めようなどと、参考になったら光栄だ。
僕はテントの中で寝ていると1度は何かの拍子で目を覚ましてしまうのだが、気づいたら次の日の出発時間になっていた。