関東近郊在住の登山者に人気の山域、丹沢。標高1,000m前後の山が連なり、その複雑な地形と海に近い立地から、ハイキングから沢登り、厳冬期登山まで、多様な登山を楽しむことができます。今回は丹沢の中でも特に登山者に人気の主峰の塔ノ岳をご紹介します。初心者にも安心のコース、北アルプス登山を目指した上級者コースと難易度別で紹介します。
塔ノ岳登山のQ&A
塔ノ岳の難易度は?
塔ノ岳は整備された登山道、主要となるルートには山小屋があり、登山者も多いことから、難易度は初心者向けとなっています。公共交通機関、マイカーのアクセスも充実しているので、初めての本格的な登山、もしくはより高所の山に向けたトレーニングの山としてもおすすめで、神奈川県内在住の登山者に親しまれています。
降雪は?
降雪は12月から見られ、4月頃まで残ります。塔ノ岳を含む丹沢山域の山々は、シーズン中に何度か大きな降雪があり、降雪直後は膝まで埋まるほどの積雪となることもあります。冬山装備は本格的なピッケル、アイゼンこそ必要ないものの、軽アイゼンを使用した歩行、冬用ウェアなど、夏山には装備が必要となります。
私は塔ノ岳によく登っているのですが、この雪のあるシーズンが最も好きです。澄み切った空気の中で見る山頂からの眺望は冬の時期でしか見られませんが、さらに山頂にある尊仏山荘に泊まり、山、海、街が同時に魅せる夜景は、塔ノ岳ならではのおすすめの景色です。足跡を始めとした生物の息遣いが無積雪期とは違う形で感じられるなど、冬山ならではの山の楽しみを堪能できます。
塔ノ岳の難易度別おすすめ登山コース
首都圏からの登山者に人気が高く、アクセスも良好な山です。信仰登山としての歴史があり、山頂にはかつて尊仏岩というシンボルがありました。山頂までは多様なルートがあり、縦走や沢登り、バリエーション登山などの、通年を通して楽しめる山です。四季折々の姿、都心と相模湾、富士山側の山深さを一度に楽しめる眺望が魅力で、多くの登山者が訪れています。
今回ご紹介するコースは全部で4種類。いづれも塔ノ岳の代表的な日帰り可能な登山コースです。どのコースも丹沢らしい四季折々の景色が楽しめ、最後には塔ノ岳の素晴らしい眺望が待っています。
紹介した山 | 塔ノ岳 |
都道府県 | 神奈川県 |
標高 | 1,491m |
天気・アクセスなど | 塔ノ岳の詳細情報 |
コース紹介中の表の見方
おすすめ度
おすすめ度は「歩きやすさ」「コース上の眺望」「アクセスの良さ」を考慮して決定しました。おすすめ度が高いほど、丹沢が初めての人におすすめです。
コースタイム
休憩時間を含まない、登山口から頂上までの移動時間を記載しています。行動途中の休憩、頂上の大休止をプラスした時間が登山にかける時間になります。日帰り可能なコースタイムですが、季節によって日没の時間が早まるので、秋冬といった日没が早い時間は、行動開始を早めるといった対策を取ると良いです。
難易度
「歩く以外の動作が必要か」「コース上に迷うところがあるか」「登山道が整備されているか」を考慮して決定しました。塔ノ岳への登山ルートは明瞭で歩きやすい場所が多いですが、崩れやすい岩場や露出した木の枝が、急勾配の登りで随所に見られるので、下山時は疲労で怪我をしないように気をつけます。
コース①:大倉尾根コース
おすすめ度 | ★★★★☆ |
コースタイム | 約4時間 |
難易度 | ★★☆☆☆ |
最も利用される登山コースで、標高差1,200mを一気に登ることから通称「バカ尾根」と呼ばれています。登山口である大倉バス停から樹林帯に入り、急な勾配を登りながら右手に丹沢表尾根、左手に西丹沢と時折見える富士山を眺めながら標高を上げていきます。中間地点である堀山の家を過ぎ、花立山荘直下の辺りから視界が一気に開け、東に大山、西に箱根を望める「これぞ丹沢」と呼べる景色が顔を出し始めます。
花立山荘を過ぎると、30分前後で山頂に到達します。
私は丹沢の近くに住んでおり、この大倉尾根に100回以上は登っていますが「達成感」「疲労感」「幸福感」を手軽に味わえるコースだなといつも実感しています。深夜に登って朝日を見たり、沢登りの下降ルートにしたりと、今は一般的に登ることは減りましたが、とても馴染みがあり、思い入れのある登山道です。「明瞭な登山道」「点在する山小屋」「遭難対策の道標」などもあり、初心者の方も安心して登れますよ。
コース②:表尾根コース
おすすめ度 | ★★★★★ |
コースタイム | 約4.5時間 |
難易度 | ★★★☆☆ |
東に位置するヤビツ峠から尾根に上がり、幾つかのピークを越えていく縦走コースです。表丹沢の眺望を堪能でき、丹沢の歴史と共に歩ける道として、大倉尾根と並ぶ、塔ノ岳への代表的な登山道として親しまれています。
新しくレストハウスが建ったヤビツ峠をスタートし、県道70号線を30分ほど歩き登山道に入ります。最初のピークである二ノ塔を過ぎ、10分ほ前後で三ノ塔に到達すると、そこには丹沢の山並みを一望できる絶景が広がっています。
初めてここに登った私の仕事仲間は「ここは本当に神奈川県ですか?」と名言を残しています。三ノ塔には綺麗に整備された避難小屋があり、丹沢の山並みを眺めながらゆっくり過ごして下山というくつろぎプランも組み込め、三ノ塔から大倉に下山できるコースもあります。
三ノ塔を過ぎると表尾根の本格的な道のスタートです。急峻な尾根道のアップダウンを繰り返し、烏尾山、行者岳、新大日など、山岳信仰を象徴する名前を冠した山頂を越えていき、塔ノ岳に到達します。このコースのハイライトは何と言っても鎖場で、山を登り始めて日が浅い人には少し勇気のいるポイントになりますが「山に登っている自分」「非日常的な体験」を、ここで実感することができます。
頂上で一休みしたら大倉尾根を下山します。
塔ノ岳は目指すコースの中でも距離が長く疲労感もありますが、終始眺望に恵まれ、日帰りでいくつものピークを越える縦走を体験できるのはこの表尾根コース最大の魅力です。厳冬期はバス停のヤビツ峠が利用できないため登山者が減りますが、積雪によりグレードが上がり、雪山の世界と静かな夏山とは一変した厳しくも美しい丹沢の世界を見ることができます。
コース③:鍋割山経由コース
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
コースタイム | 約5.5時間 |
難易度 | ★★★☆☆ |
西側に位置する鍋割山から山頂へアクセスするコースです。距離もある健脚向けコースですが、鍋割山と塔ノ岳の間の稜線は人も少なく静かな山を楽しめ、歩きごたえと達成感があります。
鍋割山は丹沢の西部に位置する山で、大倉尾根と同じく大倉バス停を起点に山頂を目指します。しばらくは林道歩き、次第にいくつかの沢を渡渉し、尾根に取り付きます。
西丹沢は山梨県の道志、山中湖などにも繋がる山深いエリアで、鍋割山山頂に着くと、大倉尾根、表尾根とはまた異なる丹沢の眺望を楽しめます。山頂には鍋割山荘と広いスペースがあるので、足を広げてゆっくり休めます。
一休みしたら塔ノ岳に向かって稜線を歩きます。私はこの稜線が好きで、表尾根からはあまり見れない北側方面を眺めながら歩け、丹沢が持つ豊かな自然を垣間見ることができるのが魅力です。特に稜線の途中にある小丸で一休みするのが定番です。
大倉尾根との合流である金冷しまで着けば、塔ノ岳まで20分ほどです。下山は大倉尾根を利用します。
コース④:天神尾根コース
おすすめ度 | ★★☆☆☆ |
コースタイム | 約2.6時間 |
難易度 | ★★★☆☆ |
水無川を流れる戸沢から天神尾根に取り付いて大倉尾根に上がるコースです。戸沢を起点として周回できる個性的な計画を組め、何度か丹沢を登った方におすすめです。
戸沢までは大倉バス停から90分ほど林道を歩いて行くか、マイカーでアクセスすることができます。路面が荒れているので、マイカーアクセスの場合は底部が擦れないように注意が必要で、一般車でも行けますが四駆がおすすめです。私はよくバイクでアクセスし、ここから沢登りを楽しんでいます。
戸沢は広い河原があり、野営や登山のベースにするのに最適です。
天神尾根は樹林帯を登るコースで、眺望やハイライトのないシンプルな尾根ですが、周回コースのひとつとして選択肢になります。
塔ノ岳には堀山の家上部に合流し、大倉尾根を利用して塔ノ岳に到達します。下山はそのまま同コースを往復するのが最短ですが、政次郎尾根、書策新道(バリエーションルート)などのコースを利用して戸沢に降りれるので、より丹沢を知りたい人に是非登ってみてください。
コース⑤:源次郎尾根コース
おすすめ度 | ★★☆☆☆ |
コースタイム | 約4.5時間 |
難易度 | ★★★☆☆ |
天神尾根と同じく、戸沢を起点にして山頂を目指すコースです。
源次郎尾根は登山道を使わないバリエーションルートのため、登山者は少なく、ここでしか見られない眺望が魅力です。序盤は樹林帯を登り、標高を上げていくと原生林のエリアに入ります。視界が開け、丹沢が本来持つ自然と相模湾を始めとした景色がこのルートのハイライト。
後半は大倉尾根に合流し、山頂に至ります。
そのまま源次郎尾根を降りても良いですが、体力に余裕がある時は表尾根や他のルートを通って周回するのがおすすめです。戸沢は複数のルートを持つベースとして知られ、柔軟な計画を立てられるのも嬉しいですね。
※源次郎尾根を登る際は、地形図を見て現在地を把握したり、ビバークやルート復帰といった、万が一ルートを見失っても対処できる総合的な登山スキルが必要です。
源次郎尾根上部の西側には大倉尾根があり、尾根が変わるだけで山の印象が大きく変わるのかと感じたのが、このルートを登った際の最初の印象でした。大倉尾根の紅葉坂で見る癒やしの空間が好きですが、手つかずの自然もまた良いものです。
一般ルートとは違う角度で見る丹沢の眺望。表尾根、大倉尾根に挟まれて見る湘南と相模湾、遠くに伊豆大島も見えます。このあたりで横になってのんびりするのが大好きで、至福の時間です。
塔ノ岳山頂の眺め
塔ノ岳の最大の魅力は何と言ってもこの360度に広がる眺望です。都市部、湘南などの海、日本のシンボルの富士山という、異なる3つの世界を同時に味わえるこの景色をこの大パノラマで堪能できるのは、塔ノ岳だけです。ハイシーズンの夏秋だけでなく、厳冬期に非常に澄み切った世界で見る塔ノ岳山頂からの眺め、尊仏山荘に泊まって夜景を堪能するなど、何度訪れても飽きることのない山頂です。
東に大山や横浜、天気が良ければ東京スカイツリーまで目視できます。
西側は富士山が大きく鎮座し、鍋割山を始めとした西丹沢方面、「ユーシンブルー」で有名なユーシン渓谷が望めます。
北側は「主脈」と呼ばれる、丹沢最高峰の蛭ヶ岳まで伸びる稜線が見えます。遠くには南アルプスも確認できます。
塔ノ岳周辺の花々
塔ノ岳周辺のルート上には、季節に応じた花々が咲いています。登っている間にホッと一息ついて、山を彩る花々に癒やされてみてください。
塔ノ岳周辺の水場情報
塔ノ岳周辺の水場は、山頂よりユーシン方面へ15分ほど降りた場所に水場があります。
この他、戸沢に向かう途中にある竜神の泉、ヤビツ峠より表尾根へ向かう県道にある護摩屋敷の水があります。この他、山頂や途中の山小屋で水分を購入することができます。尊仏山荘は通年営業ですが、その他の山小屋は土日営業が多いので、事前に営業日を調べておくと良いです。
塔ノ岳トイレ情報
塔ノ岳を目指すコース上には幾つかのトイレが設置されています。主に各登山口、大倉尾根、表尾根、尊仏山荘、鍋割山荘などにあります。冬期になると使用できないので、事前に情報を入手しておくか、事前に済ませておくなどしておきます。
塔ノ岳の駐車場情報
大倉には秦野戸川公園駐車場が利用でき、戸沢、ヤビツ峠にもそれぞれ駐車スペースがあります。
戸川公園は8時から21時まで利用可能で、日帰りのみの利用となります。ヤビツ峠にはしっかりした駐車場があり、戸沢は河原に駐車します。
塔ノ岳までのアクセス
マイカーの場合
東名高速秦野中井インターチェンジから15分ほどで、大倉登山口です。戸沢へは大倉から林道を走り、15分ほどで到着します。ヤビツ峠へは、同インターチェンジから40分ほどで到着します。
公共交通機関の場合
小田急線渋沢駅から神奈川中央交通バスを利用、大倉行き終点で下車します。都心からのアクセスは新宿から大倉まで90分ほどと良好です。
ヤビツ峠へは、小田急線秦野駅より神奈川中央交通バスを利用、終点のヤビツ峠で下車します。本数が少なく乗る人も多いので、なるべく早めの到着がおすすめです。乗り切れない場合は直通の臨時便も出ています。
塔ノ岳周辺の観光情報
塔ノ岳の登山口となる大倉、ヤビツ峠周辺には沢山の観光名所があります。下山後も登山の余韻に浸りながら過ごせる場所として立ち寄られてください。
YAMA CAFE ヤマカフェ
大倉バス停の目の前にあるカフェです。登山後、バスの待ち時間や帰路につく前の一息にピッタリです。休日は早朝から営業しているので、登山前に立ち寄って行くのも良いですね。ゆとりのあるスペースとさり気なく置かれたアウトドアグッズ、販売されているアイテムには、登山と大倉尾根への想いに溢れています。軽食からデザート、アルコールを扱っており、定番ながらありがたいメニューが揃っています。
湯花楽 秦野店
大倉登山口から車で10分ほど、渋沢駅との間に位置する入浴施設です。清潔に整った館内と雰囲気のある大浴場と露天風呂が、登山後の疲れを癒やしてくれます。丹沢で宿泊山行をした際や夏の縦走をした際によく立ち寄っていて、しっかりと食べられる飲食フロアもあるので、身も心も満足して登山を終えられます。
入浴施設の良いところは、仲間とその日の山の記憶をゆっくりとした環境で共有できるというところで、悪天に見舞われたり、滑落で命をすり減らして辛い思いをした時も、不思議と良い思い出に変わってしまいます。「次はどんな山に行こうか」と、湯に浸かりながら思い巡らせるのも楽しみのひとつです。
滝沢園キャンプ場
大倉登山口のそばを流れる水無川沿いにあるキャンプ場です。「翌日も余裕があるからキャンプして帰ろうか」「前日入りしてキャンプと登山をセットで」なんていう時におすすめです。
私はここの雰囲気が好きで、他の山奥にあるようなキャンプ場より大自然感はありませんが、穏やかに流れる水無川、落ち着く里山の雰囲気の中で過ごすテント泊は、滝沢園キャンプ場ならではの空間です。登山前後や家族、仕事でもよく利用しています。フリーサイトで利用すればリーズナブルにテント泊を楽しめます。川の流れは平時は穏やかなので、子連れ登山後の利用としてもおすすめです。
ヤビツ峠レストハウス
標高761mに位置するヤビツ峠。表尾根縦走の登山口、大山、岳ノ台とハイキングの拠点として休日は賑わっています。その峠直上にあった空き地に、2021年3月にレストハウスが出来ました。
表尾根を往復で縦走する際、帰りのバスを待っている時は寂しい思いをしたり、「拠点だけど何もない・・」場所の代名詞であったヤビツ峠に観光名所が出来たことは、丹沢を登り歩く人には嬉しい変化です。
軽食がメインのレストハウスですが、振る舞われるロイヤルカレーやクロモジ茶は、地元秦野産の食材を使ったメニューで、ロイヤルカレーはその名の通り、お忍びで丹沢に来られた天皇陛下が食されたカレーのレシピがベースになっているそうです。
塔ノ岳のみならず、ヤビツ峠起点のハイキングの時におすすめです。
おすすめ登山道具
景色が良くアクセス良好の塔ノ岳は、頂上でゆっくりする時間が確保できます。コンビニ弁当やおにぎり、パンなどでササッと終わらせるのも良いですが、少し手間をかけて頂上時間を楽しむのもおすすめです。
今回、頂上時間を過ごすおすすめアイテムは「ホットサンド」です。熱々のホットサンドを頬張る瞬間はまさに「至福」で、コーヒーがセットされれば、筆舌に尽くし難い最高の登山になります。
日帰り低山という、荷物が軽く時間に余裕があればこそ持ち出せるおすすめアイテムです。ぜひお試しください。
塔ノ岳で神奈川の絶景を堪能しよう!
塔ノ岳は丹沢の主峰にして、関東の低山の中でも360度の大パノラマと豊富なコースを持つ人気の山です。人と密接に関わってきた長い歴史のある山であることから、登れば登るほど魅力の増す山で、初心者からベテランまで幅広い登山者が訪れています。何度登っても飽きない、登山の魅力に溢れた塔ノ岳に、ぜひ足を運んでくださいね。