神奈川県を代表する丹沢山塊。その山域の中で最もアクセスが良好なのが表丹沢エリア。多くの登山者が訪れるこのエリアにおいて、林道、沢の渡渉、尾根歩きと変化に富んだ鍋割山は、登山の楽しみを一層深める山として人気です。今回は鍋割山の登山コース・周辺の観光スポットをご紹介します。
鍋割山の特徴
標高1,272mの鍋割山は、東に表丹沢の代表格である塔ノ岳、西に雨山峠を経由して檜岳、ユーシンなどの山深いエリアへ続く登山道を持ち、南面は後沢、ミズヒ沢などの豊富な沢を抱えており、目的によって多様な登山が楽しめるのが特徴です。山頂は南面や富士山方面の眺望が特に良く、足を伸ばしてのんびりするのに最適で、関東近郊の登山者に親しまれています。
山頂には鍋割山荘があり、名物の鍋焼きうどんを目的に来る人がいるほど有名です。
山の名前 | 鍋割山 |
都道府県 | 神奈川県 |
標高 | 1,272m |
天気・アクセスなど | 鍋割山の詳細情報 |
紹介する鍋割山の登山コースについて
今回ご紹介するコースは、鍋割山で日帰り可能な登山コースです。鍋割山の稜線歩きや沢沿いの登山道は、山頂の眺望だけではない「登るまでも楽しい」登山の楽しみの一つを満喫できます。今回は、経験者向きのバリエーションルートもご紹介しています。
おすすめ度
おすすめ度は「歩きやすさ」「コース上の眺望」「アクセスの良さ」を考慮して決定しました。おすすめ度が高いほど、丹沢が初めての人におすすめです。
コースタイム
休憩時間を含まない、下山までの移動時間を記載しています。行動途中の休憩、頂上の大休止をプラスした時間が登山にかける時間になります。日帰り可能なコースタイムですが、季節によって日没の時間が早まるので、秋冬といった日没が早い時間は、行動開始を早めるといった対策を取ると良いです。
難易度
「歩く以外の動作が必要か」「コース上に迷うところがあるか」「登山道が整備されているか」を考慮して決定しました。鍋割山への登山コースは明瞭で歩きやすい場所が多いですが、分岐や時期によっては増水で通行できない程になる場所もあるので、ご自身の経験と技術を照らし合わせてコースを選ぶのが良いです。
鍋割山の難易度別おすすめ登山コース
鍋割山は山頂から3つの登山道が分岐し、東の塔ノ岳方面、西丹沢方面、南の寄・大倉方面と別れていて、そこからさらに幾つもの登山道が分岐しているため、登山者の技量と季節などに応じたコース設定が可能です。沢登りやバリエーションコースもあり、1年を通して飽きることがありません。今回はその中でも、全行程8時間以内で初心者におすすめの登山コース3つと、全行程8時間以内の経験者向きのコースを1つご紹介します。
コース①:林道・沢・尾根歩きと、登山のシチュエーションが楽しめる大倉コース
往復コースタイム | 8時間 |
距離 | 約16.5km |
累積標高 | 約2,500m |
難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
コースの中で最もアクセスが良好なのが、この大倉コースです。小田急線渋沢駅から神奈川中央交通大倉行きのバスで終点下車、都心からのアクセスが良好であり、林道、沢沿い、尾根歩きという、登山で出くわす環境を経験できます。
スタートは表丹沢を代表する登山口、大倉からスタートです。ここから1時間以上の林道を歩くので、気持ちと装備をしっかり整えて歩き出します。標高はゆっくり上げていくので、足に大きな負担はかからず、これから出会う山の景色に思いを馳せながら歩を進めます。
林道を終えると四十八瀬川が現れ、二俣に到着します。現在は登山道としては見られていませんが、大倉尾根の堀山の家に至る道があり、また勘七沢、小草平ノ沢などの沢登りの入渓点への分岐点となっているのがこの二俣です。
沢の景色が夏には心地良く、足を休めて沢の水に触れて涼むのがおすすめです。私はここで一休みするのが好きで、下山時にここで軽食を摂っています。沢の音を聴きながら食べるご飯は最高です。
二俣を過ぎると高度が上がり始め、幾つかの沢を渡り、沢の音が徐々に薄れ、樹林帯へと入っていきます。
樹林帯を終え谷間を通っていくと、鍋割山への尾根へと至る後沢乗越に到着します。ここからは急な登りが山頂まで続いていくので、行動食と水分を補給しておくと良いです。見上げるとそびえ立つような尾根が眼前にあり、気合が入ります。
尾根は急勾配が続きますが、時折平坦地が現れます。「あれ、頂上着くの?」と頂上への期待が膨らみますが、偽ピークです。「まだあるのか・・・」と心折れる時があると思いますが、歩けば着くという精神でペースを崩さず登ると良いです。
キツイ登りを終えると山小屋がちらりと見え、とうとう偽ピークではない、鍋割山山頂に到着です。
鍋割山荘はこの山のシンボル的な存在で、山荘を囲うように思い思いの時間を過ごしている人達の風景が、私は好きです。標高の高い山ではそこにいるだけで危険が高くすぐに下山したくなるのですが、寝転がって昼寝したり、食事をしながら他愛のない話をするのが、低山ならではの素敵な時間です。
もちろん眺望もバッチリ。富士山、相模湾、箱根など、丹沢ならではの眺望を心ゆくまで堪能できます。
コース②:静かな尾根と鍋割山稜の稜線歩きが楽しめる小丸方面
往復コースタイム | 6時間40分 |
距離 | 約9.7km |
累積標高 | 約1,900m |
難易度 | ★★★☆☆ |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
マイカー、もしくはタクシーで表丹沢県民の森へ行き、小丸尾根を経由して山頂に至るコースです。大倉からの林道を大幅にショートカットできるお手軽コースで、小丸からの眺望と稜線歩きを楽しめます。登山者が比較的少ないので登山経験がある人向けですが、その分静かな山歩きも出来たり、タクシーでアクセスすれば、塔ノ岳や西丹沢方面へ下山というアレンジも可能な魅力的なコースです。
表丹沢県民の森から二俣に向かいます。
分岐を鍋割山方面に入ると、勘七橋を渡り、大倉からの林道と合流します。
二俣の四十八瀬川を渡り、間もなく小丸尾根分岐に着きます。ここから小丸までの尾根は眺望も少なく目立ったスポットもありませんが、人気が少なく静かな山登りを楽しみたい人におすすめです。ここの尾根を登り切ると、小丸からの眺望が待っています。
小丸からは箱根や鍋割山に続く稜線の眺望に優れています。来る人も少ないので、レア感があって私はここからの景色がお気に入りです。
小丸からは鍋割山への稜線を歩きます。多少のアップダウンはありますが、歩きやすく稜線ということでこれまでの尾根と比べ、見晴らしの良い道が続きます。
新緑の季節に登るのも良いですが、葉が枯れ落ちた時期に来ると、丹沢主脈を始めとした眺望がより開けるようになり、気持ちの良いコースになります。冬になれば積雪があり、雪の踏みしめる音だけが聞こえる、動植物も静まり返り春を待つ山の自然を独り占めです。1年を通して楽しめるコースなので、是非足を運んで頂きたいです。
コース③:山深く歩きごたえがある、寄起点の経験者コース
往復コースタイム | 8時間 |
距離 | 約14km |
累積標高 | 約2,500m |
難易度 | ★★★★☆ |
おすすめ度 | ★★☆☆☆ |
小田急線新松田駅から富士急行バスで寄行きに乗り、終点下車。寄から鍋割山の西に位置する雨山峠を通って鍋割山に至り、櫟山を経由して寄へ戻る周回コースです。通過ポイントである雨山峠までは経験者向きのコースですが、丹沢のより山深いの姿を見ながら登ることが魅力です。
スタート地点の寄バス停には、自販機やトイレがあるので出発の準備をするにはピッタリ。
しばらくは中津川沿いにこれから目指す山を見ながら登山口を目指します。
赤い橋が目印の登山口に到着し、橋を渡らず目の前のやどりき水源林を通ります。
水源林を抜け本格的な登山道となると、沢の渡渉を何度か繰り返しながら、雨山峠を目指します。スリリングな道が続きますが、その分登山の醍醐味の冒険、探検性を体験出来るコースです。表丹沢の主要登山道に比べるとマイナーな道で、初めてこのコースを通ったときは「穴場を見つけたな」と人知れず喜んだのを覚えています。
雨山峠までは迷いやすい道もあり注意が必要です。また前日までの天候が悪ければ増水で渡渉困難になる可能性もあるので、事前に情報を入手しておくと良いです。
雨山峠はユーシン、檜岳、寄、鍋割山と四方の登山道の分岐に別れた場所で、現在は登山道以外ではアクセスができなくなったユーシンへ続く重要な通過ポイントでもあります。ここを鍋割山峠方面に90分ほど進めば、鍋割山に到達します。
鍋割山を下山し、後沢乗越を通過して寄方面へ向かいます。ここまで来れば登山道も明瞭で分かりやすく一安心。
寄からの別コースとして、今回の下山路をピストンコースとして利用することも出来ます。登山道も明瞭で雨山峠より道迷いなどの心配も少ないので、こちらもおすすめです。
コース④:登山道のない道を歩く、特別な景色が見れるマルガヤ尾根
往復コースタイム | 6時間 |
距離 | 約10km |
累積標高 | 約1,700m |
難易度 | ★★★★☆ |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
登山道を利用しないバリエーションルートです。
鍋割山と小丸尾根の間にあるマルガヤ尾根を歩くこのコースは、周辺の尾根より視界が良好で気持ちの良い尾根歩きが楽しめるのが魅力です。地図を見て現在地を特定する読図の知識と、登山道ではないので足場が緩いので、登山技術と体力が必要ですが、明瞭な尾根道なので、バリエーションルートの入門としておすすめです。
マルガヤ尾根取り付きまでは、大倉からの登山道と同様の道を歩きます。
二俣を過ぎ、ひとつめの沢を渡渉。
すぐにマルガヤ尾根の取り付きが見えます。
始めはつづら折りの踏み跡を辿って登り、徐々に道が絞られ、明瞭な尾根になってきます。
マルガヤ尾根の魅力は、なんといってもここでしか見られない眺望。「ここでしか見られない」というのはどの道でも当たり前なのですが、道なき道を自分で見つけ、辿り着いて見る景色というのは、どこか特別で価値のあるものに感じます。後沢乗越から鍋割山に至る尾根を始め、箱根方面の景色が良好です。
小丸から鍋割山に至る稜線に合流すれば、鍋割山までは20分ほどです。
鍋割山山頂の眺め
鍋割山は南から西側の眺望が良く、相模湾、箱根、富士山が望めます。おすすめは早朝に行く雲海と、冬で空気の澄んだときに、雪化粧した箱根や富士山が特に美しく、時間を忘れて眺めていられます。
鍋割山トイレ情報
登山口の大倉、表丹沢県民の森、寄バス停にトイレがあり、山頂にも設置されています。登山道の途中にはトイレが無いので、出発時に済ませるのが良いです。
鍋割山の駐車場情報
大倉は戸川公園駐車場と近隣のコインパーキングが利用出来ます。寄には登山者用の駐車場は無く公共交通機関利用か、水源林前にある寄大橋そばの駐車スペースに数台停められます。
表丹沢県民の森にも駐車スペースはありますが、すぐに満車となるので迷惑にならないスペースに駐車するか、小田急線渋沢駅からタクシー利用になります。
鍋割山までのアクセス
マイカーの場合
東名高速秦野中井インターチェンジから15分ほどで大倉にアクセス出来ます。表丹沢県民の森は同じく秦野中井インターチェンジから30分ほどです。
寄は東名高速大井松田インターチェンジから30分ほどで、寄大橋にアクセス出来ます。
公共交通機関の場合
大倉へは、小田急線渋沢駅から神奈川中央交通バスで大倉行き終点下車です。
寄へは小田急線新松田駅、もしくはJR御殿場線松田駅から富士急行バスで寄行き終点下車です。
表丹沢県民の森へはバスが無いので、渋沢駅からタクシー利用になります。
鍋割山周辺の観光情報
弘法の里湯
秦野市にある公営の温泉です。小田急線鶴巻温泉駅のそばにあり、駅前とは思えない綺麗で雰囲気のある施設で、登山で疲れた身体を癒すのに最適です。登山口から離れた場所に温泉があると、マイカーや直通のシャトルバスが無いと行きづらいのですが、駅のそばにあるので誰でも気軽に利用できるのが良いですね。
ブルックス ショップ&カフェ
東名秦野中井インターチェンジのそばにある、コーヒー・お茶の通販会社、ブルックスの直営店です。
インターチェンジから近く、のんびりくつろぎながら登山を振り返り、次の登山の事を考えるのに良いお店です。おすすめは足湯で、浸かりながら軽食を摂れるのは、登山で疲れた身体には嬉しいサービスです。店内では焙煎行程が見れ、登山とは関係が深いコーヒーの製造過程を楽しめるのも良いですね。
ラーメンAQUA
小田急線新松田駅、JR御殿場線松田駅のそばにあるラーメン屋さんです。湯河原発祥の小田原系ラーメンで、縮れ麺に豚骨醤油ベースのスープはこの地域でしか食べられないので、丹沢登山の思い出として立ち寄るのがおすすめです。個人的には登山後のラーメンは好みで、山で不足した栄養を一気に摂取出来る上に、何かも忘れて夢中になってすすれる時間は、正に至福です。
おすすめ登山道具
鍋割山は沢の渡渉が多く、往復の所要時間も日帰り山行では長めの山です。登山中の足の負担を減らし、翌日以降の疲労を最小限にするのに、トレッキングポールを使うのがおすすめです。トレッキングポールは歩行時の負担軽減の他、沢の渡渉時に支えとして使えば、安心して渡る事が可能です。
鍋割山登山で、全身で山の自然を感じる登山を!
鍋割山は、多様な山の自然を感じながら登れるコースに恵まれた人気の山です。沢沿いを歩いて山の豊かな自然に触れながら、急な尾根道を乗り越えた先には、神奈川の優れた眺望や名物の鍋焼きうどんが待っています。大倉からの登山コースを基本として、寄コース、経験者向きの沢登りやバリエーションコースなど、多彩な登山計画を立てられ、鍋割山は1年を通して楽しめます。丹沢が魅せる四季折々の景色を感じながら登れる鍋割山に是非訪れてみてくださいね。