表丹沢を代表する縦走路、丹沢表尾根。各ピークには歴史とその山頂ならではの眺望があり、個性ある山々が連なります。その表尾根の中でも、広々とした山頂で眺望が堪能できる三ノ塔は、縦走路のひとつでありながら、ここだけを目指すハイカーがいるほど人気の山です。今回は日帰りで楽しめる山、三ノ塔をご紹介します。
三ノ塔の特徴
標高1,205m。表尾根縦走路のひとつにある山頂の三ノ塔。丹沢を歩いていると様々な場所から目視でき、麓の秦野市からもその姿が確認できます。ヤビツ峠から続く表尾根コース2番目のピークであり、ヤビツ峠、大倉、菩提、戸沢など、豊富な登山コースを持っています。山頂にはシンボルである避難小屋があり、ゆっくり腰を落ち着けて過ごすことが出来ます。展望に優れ、ゆっくり出来る避難小屋など、初心者におすすめのコースでありながら、何度山を登っていても、ふと訪れたくなる魅力的な山です。
山の名前 | 三ノ塔 |
都道府県 | 神奈川県 |
標高 | 1,205m |
天気・アクセスなど | 三ノ塔の詳細情報 |
紹介する三ノ塔の登山コースについて
今回ご紹介するコースは、三ノ塔で日帰り可能な登山コースです。鍋割山の稜線歩きや沢沿いの登山道は、山頂の眺望だけではない「登るまでも楽しい」登山の楽しみの一つを満喫できます。今回は、経験者向きの沢登りコースもご紹介しています。
おすすめ度
おすすめ度は「歩きやすさ」「コース上の眺望」「アクセスの良さ」を考慮して決定しました。おすすめ度が高いほど、丹沢が初めての人におすすめです。
コースタイム
休憩時間を含まない、下山までの移動時間を記載しています。行動途中の休憩、頂上の大休止をプラスした時間が登山にかける時間になります。日帰り可能なコースタイムですが、季節によって日没の時間が早まるので、秋冬といった日没が早い時間は、行動開始を早めるといった対策を取ると良いです。
難易度
「歩く以外の動作が必要か」「コース上に迷うところがあるか」「登山道が整備されているか」を考慮して決定しました。三ノ塔への登山コースは明瞭で歩きやすい場所が多いですが、登山者が少なく傾斜があり、足元が安定していない二ノ塔尾根もあり、各コースに特徴があります。ご自身の経験と技術を照らし合わせてコースを選ぶのが良いです。
三ノ塔の難易度別おすすめ登山コース
三ノ塔は山頂から3つの登山道が分岐し、北西へ続く塔ノ岳方面、南西の大倉方面、南東のヤビツ峠方面と別れていて、各方面に幾つもの登山道が分岐しているため、登山者の技量と季節などに応じたコース設定が可能です。沢登りやバリエーションコースもあり、1年を通して飽きることがありません。今回はその中でも、全行程8時間以内で初心者におすすめの登山コース3つと、全行程8時間以内の沢登りのコースを1つご紹介します。
コース①:表丹沢の玄関口、大倉からスタートするおすすめコース
場所 | 神奈川県・丹沢山塊 |
往復コースタイム | 6時間30分 |
距離 | 約10.7km |
累積標高 | 約2,150m |
難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
三ノ塔を直接目指せるおすすめコースです。登山口は電車バス利用で都心からのアクセスが良好な大倉で、標高差は1,000m近くありますが、中間点の牛首までは舗装路を利用して行けるので楽に歩け、コースタイムも日帰りでは余裕を持って歩ける範囲です。整備された登山道と危険箇所も殆どない尾根歩きは、登山初心者の方におすすめのコースです。
大倉バス停を降り、戸川公園のシンボルである風の吊橋へ向かいます
三ノ塔方面へ歩いていくと、公園の雰囲気から徐々に登山道への様相へ変わっていきます。
しばらくは舗装路を歩き、登山道と林道との分岐点を目指します。
分岐点には道標がありますが、気が付かず通り過ぎることもあるので注意しておきます。
今回は先に登山道を歩きます。硬い舗装路から山道に変わる瞬間は、いつも「登山が始まった」という気合が入る瞬間でもあります。
牛首までの登山道は明瞭な道が続くので迷うことはありません。途中に送電塔があり、真下から見上げる送電塔は「でっけぇな・・」と、首が痛くなりそうなほど上を見上げてしまいます。
鉄塔を過ぎ先へ進むと、中間地点の牛首に到着です。ここは舗装路との合流地点でもあります。
牛首を過ぎると舗装路がなくなり、登山道を歩きます。
三ノ塔尾根は眺望の少ない樹林帯を終始歩きますが、所々で眺望があります。
長い尾根を登りきると、ヤビツ峠との分岐に到着します。ここを曲がれば、三ノ塔は目の前です。
三ノ塔に到着です。
初めての山としてもおすすめな三ノ塔。それは筆舌に尽くしがたいこの眺望で、長い上りの時間を経て得られる山からのご褒美として、これ以上のものはありません。山頂でご飯と景色をたらふく堪能したら、身支度を整えて下山を始めます。
下山中の注意点は、途中の道標を見失ってに迷い込まないように気をつけます。ボーッと歩いているとうっかり作業路に入り込んでしまうので、道標を見失わないようにします。登山道から外れると突然歩きづらくなったり、傾斜が急になるなどの変化があります。「変だな・・」と思ったら、一度来た道を登り返して、登山道と分かる場所まで戻ることが良いです。「降りればどこかに着くだろう」と思っていると、沢に降りたり登り返せなくなります。
牛首まで戻ったら、舗装路を下ります。傾斜はありますが、ペースを一気に上げて下山できます。私は下山は時間をかけたくないセッカチさんなので、三ノ塔の下山は必ずこの舗装路を利用しています。
大倉まで下山すると、戸川公園ののどかな風景と風の吊り橋。登山特有の「戻ってきたぁ」という安心感がブワァっと押し寄せます。
コース②:岳ノ台・二ノ塔を経て三ノ塔へ。ヤビツ峠起点のプチ縦走コース
往復コースタイム | 5時間 |
距離 | 約8km |
累積標高 | 約1,400m |
難易度 | ★★☆☆☆ |
おすすめ度 | ★★★★☆ |
表尾根のスタート地点として多くの登山者が訪れるヤビツ峠。ここから程近い位置にある岳ノ台へ至り、一旦菩提峠まで下り、二ノ塔を通過し、三ノ塔へ登頂するコースです。岳ノ台から二ノ塔までは東に位置する独立峰、大山の雄姿が望め、ゆっくり視界が開けている過程は、樹林帯から森林限界を越えピークに至るアルプス登山の様。標高差も少なく往復5時間程度で登れ、通過に注意を要する大きなポイントも少ないので、岳ノ台までならファミリーハイクにも向いています。歩き慣れていない方には途中の岳ノ台で折り返すことも出来ます。アクセスはヤビツ峠までバスがあり、マイカーであればより気軽に訪れるのも魅力です。
起点のヤビツ峠。岳ノ台へは目の前に登山道を進みます。
岳ノ台へは静かな樹林帯を進みます。山頂までは起伏のある道ですが、さほど厳しくなく、50分程で到着します。
岳ノ台山頂。展望台に上がると大山が望めます。
一息入れたら、菩提峠へ下ります。菩提峠までは150m前後の標高差です。
菩提峠。広めの駐車スペースとなっており、ここから三ノ塔を目指すことも出来ます。
菩提峠を過ぎ先へ進むと、二ノ塔への登山道に到達します。
ここからはやや勾配のある樹林帯となり、息を整えながらゆっくり登ります。
樹林帯を抜けるとガレ場となり、再び堂々たる大山が姿を現します。大山は端整な顔立ちで美しく、つい足を止めて眺めてしまいます。
ガレ場を過ぎると、間もなく二ノ塔へ到着です。
二ノ塔は展望のない山ですが、眼前に三ノ塔が見え、登頂への期待感が高まります。
二ノ塔を過ぎ一旦下りと、痩せ尾根を登り返すと程なく三ノ塔尾根との分岐です。
三ノ塔で休憩後、来た道を菩提峠まで下ります。このまま岳ノ台を経由しても良いですが、帰りは楽をしたいので、県道70号線を通ってヤビツ峠へ戻ります。
コース③:戸沢から烏尾山へ登り表尾根の一端を行く経験者向きコース
往復コースタイム | 5時間 |
距離 | 約5km |
累積標高 | 約1,400m |
難易度 | ★★★☆☆ |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
表丹沢の奥地に位置する戸沢。ここから表尾根の縦走路に位置する烏尾山に登り、三ノ塔を目指します。烏尾山に至る登山道は仲尾根と呼ばれ、殆ど登る人がいない静かな道です。仲尾根からは表尾根が望め、誰もいないこの尾根でのんびり休むのがこの登山道での楽しみです。往復5時間で比較的短時間で登れますが、痩せ尾根あり、道迷いのポイントありと、経験者向きのコースです。
作治小屋手前の登山口からスタートです。
烏尾山まで歩きやすい登山道ですが、痩せた尾根や道迷いを誘発しそうなポイントがあり、転倒に注意し、コースが合っているか確認しながら進みます。
上部に達すると、景色の良いポイントがあります。休憩するには良いところで、ここで足を休めたら、息を整えて先へ進みます。
烏尾山へは表尾根の登山道に飛び出すような形で到着します。
烏尾山は三ノ塔から下ったところにあり、三ノ塔から見ると急坂を降りた先にあるピークとして見え、初めて表尾根を縦走したとき「あそこに行くのか・・」と、緊張と高揚感が入り交じる不思議な感覚に見舞われた思い出深い山です。山頂には烏尾山荘とトイレ、ベンチが設置されています。
烏尾山を後にして、三ノ塔を目指します。三ノ塔までは足元が安定せずかつ急傾斜の道となっているので、滑らないよう慎重に登ります。
最後の痩せ尾根を登れば、三ノ塔まで間もなくです。
コース④:丹沢で人気の沢登りコース、葛葉川本谷から三ノ塔へ
往復コースタイム | 6時間 |
距離 | 約7.5km |
累積標高 | 約1,500m |
難易度 | ★★★★★ |
おすすめ度 | ★★★☆☆ |
丹沢は沢登りのスポットとして人気の高い山域で、中でも葛葉川本谷は、沢登りの入門として最適な沢として多くの人が遡行しています。源頭を詰め上がれば三ノ塔尾根に合流し、頂上へ至ります。下山路は一般的に二ノ塔尾根で葛葉の泉に向かいます。往復は6時間ですが、沢登りではそれ以上の時間を要する場合があり、整備された登山道もないため、登山道と比較すると注意すべきポイントが多いです。難易度は上がりますが、それに見合う沢の景色と水の流れる空間、心が洗われるような空気感は、沢登りならではの醍醐味です。
※葛葉川本谷は沢登りのコースです。地図読みやクライミング技術を持ち、専用の装備で遡行する必要があります。
地元では湧き水で有名な葛葉の泉がスタート地点
入渓すると登れる滝が連続し、飽きさせません。
前半部の終了点である林道の橋が見えます。ここで遡行を終えれば二ノ塔尾根に合流し、半日沢として楽しめるのが葛葉川の魅力の一つです。
後半も滝が連続し、富士形の滝を始め、一般登山道では見られない空間が広がります。自然の原風景を残した山の世界が見られるのが、私が沢登りに取り憑かれている大きな理由です。
水が途絶え、沢筋を離れて尾根へ合流します。合流するまでの詰めがしんどいのが沢登りのお決まりで、詰めた先に合流する登山道は、まるで舗装路の様に歩きやすく、天国です。
三ノ塔尾根に合流後は三ノ塔まで30分ほどです。
三ノ塔で休んだ後、二ノ塔へ向かいます。
二ノ塔から二ノ塔尾根を利用して葛葉の泉へ。
葛葉の泉に下山。沢で汗まみれの顔を洗い流して、帰路に着きます。
三ノ塔の眺め
三ノ塔は表丹沢を一望できる眺望に優れた山です。表丹沢方面は表尾根と奥に富士山が見えます。
大山も丹沢山域のひとつですが、他の峰とは違う独特の存在感を放っています。
三ノ塔トイレ情報
トイレは大倉、戸沢、ヤビツ峠、葛葉の泉にそれぞれトイレがあります。山頂にもトイレが設置されているので、非常に便利です。大倉のトイレは通年使用できますが、ほかは山中にあるため、使用不可能になる時があります。事前に情報を入手しておくか、麓で済ませておくのが良いです。
三ノ塔の駐車場情報
大倉には秦野戸川公園駐車場が利用でき、戸沢、ヤビツ峠、葛葉の泉にもそれぞれ駐車スペースがあります。
三ノ塔までのアクセス
マイカーの場合
東名高速秦野中井インターチェンジから15分ほどで、大倉登山口です。戸沢へは大倉から林道を走り、15分ほどで到着します。ヤビツ峠へは、同インターチェンジから40分ほどで到着します。
葛葉の泉も秦野中井インターチェンジから30分ほどです。
公共交通機関の場合
小田急線渋沢駅から神奈川中央交通バスを利用、大倉行き終点で下車します。都心からのアクセスは新宿から大倉まで90分ほどと良好です。
ヤビツ峠へは、小田急線秦野駅より神奈川中央交通バスを利用、終点のヤビツ峠で下車します。本数が少なく乗る人も多いので、なるべく早めの到着がおすすめです。乗り切れない場合は直通の臨時便も出ています。
葛葉の泉へは、小田急線秦野駅より神奈川中央交通バスを利用、菩提経由渋沢駅行きに乗り、菩提原で下車。バス停から40分ほどで葛葉の泉に到着します。
三ノ塔周辺の観光情報
三ノ塔は朝早くに登れば、昼過ぎには下山出来るアクセス良好の山です。せっかく山に来たのにどこも寄らずに帰るのも、もったいないですよね。アクティビティだけではない丹沢の魅力を是非感じてください。
丹沢大山五右衛門 本店
国道246号線から名古木交差点を曲がりヤビツ峠へ向かう道の途中にある豆腐店です。丹沢の麓は良質な水を使った豆腐が有名で、丹沢大山五右衛門は昭和38年創業の老舗。一般的な絹、木綿、おぼろなどの豆腐のほか、石臼豆腐、石臼なまゆばなどをラインナップ。一般的に食べる豆腐より大豆本来の旨味があり、飽きを感じません。そのままでも十分美味しいですが、わさびや醤油など、ちょっとアクセントを加えると味が引き立ち、個人的におすすめです。
菜の花台展望台
ヤビツ峠に向かう途中にある展望台です。「景色は山に登れば見れるでしょ」と思いますが、立ち寄ってでも見る価値のある眺望があるのが、この菜の花台です。秦野の街並み、相模湾、大きく構える富士山、見上げると丹沢の稜線、それぞれ違う魅力を持った景色がバランス良く配置され、ドライブやツーリングのスポットとしても人気があります。山の帰りに腰を下ろして昼寝したり、ランチを食べたり、のんびりするのにおすすめです。
バイクで登り、自転車(ロードバイク)タイムアタックで登り、妻とドライブで登りと、私の人生で欠かせないスポットである菜の花台。いつ来ても変わらないこの景色に、とても癒やされます。是非お立ち寄りください。
はだのじばさんず
地元の農産物を扱う直売所です。秦野は県内一の落花生の生産地として有名で、良質な水と土地で育まれた野菜はどれも美味しく、かながわブランドのハウスみかんを始めとした神奈川自慢の食材を購入できます。山に来たらその土地のものを買って帰ることが良くあり、山の思い出とその土地を想いながら食べるのが登山の醍醐味です。野菜だけではなく地元の食材も取り扱っており、じばさんずオリジナルの梨サイダーといった、ここでしか買えないものもあります。
おすすめ登山道具
山頂には避難小屋があり、のんびりとした時間が楽しめる三ノ塔。山頂での時間が多く確保できるなら、ゆっくり食事をしながら山頂の景色を眺めるのがおすすめです。
普段、私は山でコーヒーを飲んでいて、効率を考えスティックで済ませています。時間があるならドリップも良いですが、余裕があるならパーコレーターという手もあります。
加熱時の圧力を利用してケトル内で抽出するパーコレーターは、味こそドリップに劣るものの、吹き出す湯気から押し寄せるコーヒーの香りは、つい時間を忘れてしまうほど引き込まれてしまいます。登山向けのケトルより重量がありサイズも大きいですが、時間と体力に余裕がある登山で持っていって、頂上時間を贅沢に過ごすのに最適です。
三ノ塔でのんびり登山を楽しもう!
豊富なコースと優れた眺望、登山口までのアクセスが良い三ノ塔。「縦走路の途中にある山」と思われがちで、近くにある丹沢の主峰、塔ノ岳の影に隠れがちな山ですが、バリエーションコースから沢登りなど、入門から経験者向きまで、幅広い登山者に支持され、自然の魅力を存分に堪能できる山です。早ければ半日で下山できるので、地元の観光や温泉など、登山と観光をセットにするのもおすすめです。三ノ塔で、登山の魅力を存分に堪能してくださいね。