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輝く星たち、燃えるフィッツロイ

輝く星たち、燃えるフィッツロイ

今でこそ登山に夢中で、常日頃山のことばかり考えている自分だが、過去の自分は登山に一切興味が無かった。

過去の自分は、苦しい思いをしながら登山を楽しむ人達の気持ちが全く理解出来なかった。

そんな自分が180度変わったのは、今から5年前の2017年、世界一周中に出会った、パタゴニアのフィッツロイの朝焼けを見たことがきっかけだろう。

そもそも私はフィッツロイの存在すら知らなかったが、当時一緒に旅をしていた旅仲間からフィッツロイのことを教えてもらったのだ。

わからないけど、行ってみよう!

フィッツロイってなんだろう?

全く知識は無かったが、面白そうなので私もフィッツロイに行くことに決めた。

明け方の二時頃に起床。

手短に準備を済ませ、まだ暗いエル・チャルテンの街中を、ヘッドライトをつけて登山道を目指す。

暗がりの中を歩き続けると、フィッツロイ登山口に到着した。

登山道とはいうが、日本の登山道と同様に整備された道ばかりではない。

暗闇の中を、倒木を跨いだり、大きな岩を避けながら慎重に歩く。

歩きだしてからはしばらく地味な登り坂が続く。

しばらく登り坂を歩き続けると、息が上がってきたため少し休憩することにした。

この頃にはようやく暗闇に目が馴染んできて、遥か遠くにぼんやりと浮かぶフィッツロイの姿が見えた。

だいぶ遠く見えるけど、あそこまで歩けるのかな?

体力に自信が無い自分は、少し不安を感じた。

しかし目的地に行くには歩くしかない。息が落ち着いてきたので再び歩きだした。

山の中は静寂に包まれていた。

静寂に包まれた山の中を歩いていると、自分も自然の一部になったような感覚になる。

山道を踏みしめる我々の足音だけが響く。

最初の山道を超えると、あとは楽な平坦な道だった。

途中、草原が広がるひらけた場所に到着した。

足元が悪いためずっと下を見ながら歩いていたので気づかなかったが、ふと空を見上げて驚いた。

物凄い数の星が夜空に瞬いていたのだ。

天の川がハッキリと見え、思わずその場に立ち尽くしてしまった。

漆黒の夜空に瞬く幾千もの星々。

これまで旅を続けてきて何度も美しい星空を見てきたが、ここは本当に身ぶるいがするほどの美しさだった。

空全体に星が煌めき、人間の小ささ、自然の美しさを身を持って感じた。

星空を眺めたあとは、再び歩き出す。

歩き続けると、石段の道が現れた。

さて登るか、石段なら整備されていて歩きやすいな、と若干気が抜けそうな気持になったところ、先に前を歩いていた外国人グループに大声で何か呼びかけられた。

「石段が凍っているから危ないよ!足元に気を付けて!」

ぎょっとしてヘッドライトを足元の石段に当てると、彼らが言う通り、石段がカチコチに凍っているではないか。

これはぼんやりといている場合ではない。

彼らに御礼を言い、気を引き締めて凍っている箇所を避けてゆっくりと慎重に石段を上った。

フィッツロイへのラストスパートは、本当にきつかった。

砂利道の登り坂が延々と続き、一歩踏み出す度に細かな砂利で足元がすくわれる。

苦痛で顔をゆがめながらも、一歩一歩歩き、山頂を目指す。

暗闇に浮かぶフィッツロイ

しばらく歩き続け、ようやくフィッツロイの山々の姿が間近に見えてきた。

静寂の中に佇むフィッツロイの姿は美しかった

真っ暗だった空が若干白みを増してきており、その中に浮かび上がるフィッツロイの姿に神々しさを感じ、その姿を見ただけで何故か涙が出そうになったほどだ。

夜中に苦労をしてここへ来たのは、フィッツロイでの朝日を拝むためだ。

朝日を浴びるフィッツロイは燃えるように紅く輝くため、紅いフィッツロイと呼ばれているらしい。

しかし朝日が綺麗に輝くのは晴れの時だけだ。

天気が悪いと、紅いフィッツロイは見ることは出来ない。

朝日が現れるまで、地面に腰を下ろして待つことに。

山道を歩いているときは暑いほどだったが、じっとしている今は寒いに決まっている。

底冷えとはまさにこのことだろう。

指先からじわじわと冷えてきて、体全体が氷のように冷たい。

寒さに耐えながら待っていると、だんだんと空が明るくなって来た。

しかし肝心の朝日がなかなか出てこない。

今日の天気予報は晴れのはずなのに…

寒さが限界に達してきたころ、ようやく朝日が現れた。

徐々にフィッツロイが紅く染まり出す…

私と同じように朝日を待ち構えていた大勢の人達も、この美しい光景に見入っていた。

フィッツロイの先端を照らした紅い光は、徐々に下に降りてゆき、次第にフィッツロイの全体を紅く染め上げた。

朝日を浴びて燃えるように紅く輝くフィッツロイは、本当に美しかった。

色の移り変わりはあっという間だった。

次第に山並みにも光の筋が刺していく。

紅く輝いたフィッツロイは次第にオレンジ色に変わり、日陰となっていた待機場所も明るい太陽の光に照らされた。

美しい山々の景色を楽しみながらの下山

朝日を堪能した後は、下山するのみ

寒さでかじかんだ足に気を使いながら、登山時より更に気を使ってゆっくりと降りる。

寒さで全身が冷えていたが、登山時と違い太陽に照らされた美しい景色を見ることが出来たため、それほど疲労を感じることは無く楽しく歩けた。

降りてきた道を振り返ると、真っ青な空の中にたたずむ、雪をまとった真っ白なフィッツロイが見えた。

暗闇のなかに浮かぶフィッツロイ

朝日を浴びて紅く輝くフィッツロイ

青空の下の真っ白なフィッツロイ

言葉を失う美しさ、とよく言うが、この表現はまさにフィッツロイのための言葉ではないか、と思うほどであった。

世界一周を終え日本に帰国。すっかり山に魅了される

フィッツロイを見てから、私はすっかり山の美しさに魅了された

帰国後は友人やソロで国内の山に繰り出し、今年の夏は初めての北アルプスに挑戦することを決めた。

まだまだ体力や知識は初心者レベルだが、これから徐々にレベルアップしてゆき、まだ見ぬ日本の美しい山々にも出会いたいと思っている。

フィッツロイに行くには、アルゼンチンのエル・チャルテンという小さな街へ宿を取ることから始まる。

パタゴニアは基本的に物価が高いため、基本的に相部屋のドミトリーでも¥3,000以上と考えた方がいい。そして交通の便が悪いため新鮮な野菜が届けられないのか、街中のスーパーに置いてある野菜はしなびていたり、傷んでいるものが多かった。

そしてエル・チャルテンは小さな街のため、どこの宿を取ってもフィッツロイの登山口までは徒歩30分以内で到着可能だ。

エル・チャルテンではフィッツロイ以外にもラグーナトーレという、フィッツロイを真正面に眺めることができる湖へ行くトレッキングコースなどもあり、山好き自然好きには天国のようなところだろう。

私もいつかまた、パタゴニアに行く日を夢見ている。

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