関東甲信越を代表する山岳地域のひとつ、奥秩父。3県の境に位置する甲武信ヶ岳は、日本百名山の一峰として多くの登山者に親しまれ、今なおその山頂は深い歴史を刻み続け、一度は訪れてみたい憧れの山として佇んでいます。今回は自然豊かな森林に囲まれた名山、甲武信ヶ岳をご紹介します。
甲武信ヶ岳登山が人気の理由
人気①:自然豊かな深山
私が初めて甲武信ヶ岳を登ったのは、長野県側の登山口である毛木平からでした。沢沿いを歩きながらゆっくり高度を上げ、山頂に突き上げる行程は、山旅と呼ぶに相応しい自然と溶け込めた時間でした。山梨県側の登山口である西沢渓谷も風光明媚な姿を残した名所で、登山道を経て山頂に至り、一面に広がる奥深い山の眺望は、甲武信ヶ岳でしか感じ得ない感動がありました。
いずれも日帰りは楽な行程ではありませんが、これぞ登山と感じられる高揚感が得られるのは、甲武信ヶ岳が登られる人気の理由です。
人気②:縦走登山の要所−奥秩父主脈上の一座
奥秩父を登る登山者であれば一度は挑戦してみたいと思うのが、2,000m級の山が連なる奥秩父の縦走です。東京都最高峰の雲取山から山梨県に位置する瑞牆山までの縦走は2泊以上は必要な長大な縦走登山になり、甲武信ヶ岳はそのルート上に位置する重要な頂きです。「ルート上にあるから」という理由ではなく、縦走登山はそれぞれの山が持つ歴史を辿る体験であり、荒川・千曲川・笛吹川の源流という特徴、甲州・武州・信州の境という歴史を持つ甲武信ヶ岳は、正に奥秩父の歴史そのもので、登らずにはいられない山です。
歴史を辿る体験であるからこそ、甲武信ヶ岳は必ず辿り着きたい1座であり、登山者にとって目が離せない存在であるといえます。
人気③:山頂直下で泊まれる山小屋−甲武信小屋
甲武信ヶ岳の山頂直下には、森林に囲まれた稜線上に甲武信小屋という山小屋があります。甲武信ヶ岳が初心者から中上級者といった多くの登山者に登られている理由は、日帰りから宿泊、ULハイクを始めとした多様な登山スタイルに対応できる山であることです。
小屋泊・テント泊の利用が可能で、水場を始めとした各種補給も可能で、かつ山頂直下というメリットは、甲武信ヶ岳が山深い場所にありながら足を伸ばせる大きな理由となっています。私も甲武信ヶ岳登山の際には必ず立ち寄っていて、補給地という重要な存在でありながらも、稜線上の静かな森林に囲まれた雰囲気にいつも癒やされます。
甲武信ヶ岳登山のQ&A
難易度は?
甲武信ヶ岳は山頂に至るまでの所要時間が長く、日帰りであれば早朝からのスタートが望ましい山です。とはいえ登山道は明瞭で分かりやすく、技術的難易度は易しいので、登山を何度か経験し、基本的な知識がある方なら登れます。日帰りが不安な場合は柔軟に甲武信小屋泊の計画も立てられるので、安心して登ることが可能です。
アクセスと駐車場は?
日帰り登山の対象となる登山口は、山梨県側の西沢渓谷、長野県側の毛木平です。
西沢渓谷は中央線塩山駅からバスが出ており、駐車場があるのでマイカーでのアクセスも可能です。
毛木平は小海線信濃川駅からバスが出ていますが、バス停から登山口までは1時間ほど要するので、毛木平登山口の駐車場を利用したマイカーアクセスがおすすめです。
水場とトイレは?
毛木平ルートには沢の上流部に水場があります甲武信小屋でも水場があるので、小屋泊、テント泊の時は水を大量に担ぎ上げなくても大丈夫なので非常に助かります。
トイレは各登山口にあり、甲武信小屋にも設置されています。
山小屋は?
甲武信ヶ岳山頂直下に位置する甲武信小屋があります。山の風景と一体化したような趣ある外観が魅力的な山小屋で、2,000mを越える稜線上において水、食糧の補給ができるという点でも、登山者にとってオアシスという存在です。
GW頃から11月まで営業しており、冬季は小屋は開放していませんが、テント泊が利用可能です。水、カップラーメンなどの補給ができます。小屋泊、テント泊共に予約が必要なので、事前の連絡をしておきます。
雪は?
降雪は10月下旬頃よりあり、5月頃まで残雪があります。積雪期の甲武信ヶ岳はアイゼンを始めとした雪山装備が必要です。樹林帯で冬山特有の強風は受けにくく歩きやすいですが、夏道が埋まり踏み跡が無い時もあるので、地図読みや基本的な雪山登山の技術が必要となります。
甲武信ヶ岳登山のおすすめルート紹介
紹介した山 | 甲武信ヶ岳 |
都道府県 | 埼玉県・山梨県・長野県 |
標高 | 2,475m |
天気・アクセスなど | 甲武信ヶ岳の詳細情報 |
風光明媚な西沢渓谷から山頂へ−徳ちゃん新道ルート
スタート地点 | 西沢渓谷 |
ゴール地点 | 甲武信ヶ岳 |
地点間の距離 | 7.3km |
片道コースタイム | 5時間15分 |
難易度 | ★★★☆☆ |
山梨県側から甲武信ヶ岳へ登るルートの1つで、甲武信小屋の主人、山中徳治氏が拓いた事に由来する徳ちゃん新道という登山道を利用して山頂に至ります。
西沢渓谷をスタートし、徳ちゃん新道入口を目指します。
徳ちゃん新道は長い尾根道で、終始樹林帯を登ります。
長い尾根を終えると、主脈の稜線に入ります。
木賊山を過ぎれば甲武信小屋を経由して山頂に至ります。
山頂は広くはありませんが、深山らしく静かな空間と眺望に、ここまでの苦労が嘘のように消えてしまいます。
千曲川の源流を経て頂へ−毛木平ルート
スタート地点 | 毛木平 |
ゴール地点 | 甲武信ヶ岳 |
地点間の距離 | 7.1km |
片道コースタイム | 4時間10分 |
難易度 | ★★☆☆☆ |
千曲川の源流を経て山頂に至るルートです。個人的には甲武信ヶ岳日帰りルートで最もおすすめで、緩やかに標高を上げ、沢沿いの景色に癒やされながら歩けるので、気持ちの良い登山が楽しめます。
中盤まで沢沿いを歩きます。
距離が長いので適宜休憩をはさみながら。
源頭を過ぎて稜線を目指します。
稜線に上がれば甲武信ヶ岳まで30分ほどです。
おすすめ温泉情報
はやぶさ温泉
西沢渓谷を目指す国道沿いに位置する日帰り温泉施設です。100%源泉かけ流しで、42度でなめらかな泉質ということで、登山後の体を癒やしながらゆっくり浸かれます。入浴後は食事も楽しめるので、温泉と食事でしっかり疲れを取って帰路につけます。
和泉館
海ノ口温泉という源泉を使った温泉施設です。その昔、海底であった地層の影響で源泉が茶色く、ミネラルが豊富に含まれているのが特徴で、37度の温度はぬるめですが、長く浸かって登山の疲れを癒せます。館内は昔ながらの姿を残しており、どこか懐かしさを感じさせるのも、山旅の締めくくりにピッタリなロケーションです。
甲武信ヶ岳に登って奥秩父の歴史に触れよう
甲武信ヶ岳は奥秩父主脈上に位置する山で、山域を代表する歴史ある山です。清流を経て山頂に至るルート、先人が開拓した由緒ある登山道など、甲武信ヶ岳に関わる場所ひとつひとつに想いが詰まっており、そのひとつひとつが積もり歴史となり、歴史を体現した甲武信ヶ岳は、奥秩父の魅力を感じられる重厚な登山が楽しめます。
甲武信ヶ岳に登って、奥秩父の歴史にぜひ触れてみてください。