山梨県・長野県・静岡県に位置する日本有数の山岳エリア、南アルプス。日本第二位の高峰である北岳を筆頭に2,000m峰が連なり、深い森に豊かな自然を有し、登山者が一度は訪れたい場所として高い人気を誇ります。南アルプスにある2,000m峰にして鳳凰三山の一角を成す薬師岳は、山域の豊かさと威厳を表現した山のひとつで、南アルプス登山でおすすめの山です。今回は南アルプス鳳凰三山のひとつ、薬師岳をご紹介します。
薬師岳登山が人気の理由
人気①:八ヶ岳・富士山などの山々を独り占め
鳳凰三山の中でも南方に位置する薬師岳。山頂を目指すには北方の地蔵岳方面、東方の青木鉱泉、南方の夜叉神峠からのアプローチになります。いずれも樹林帯を経て森林限界を越え、山頂に至りますが、森林限界以降の稜線から見る眺望は、眼前に北岳の堂々たる姿が迫り、遠望で富士山、南アルプスと同じく屈指の山岳エリアである八ヶ岳など、文句なしの景色が広がります。
私が以前夜叉神峠からアプローチした際、薬師岳の前に位置する砂払岳付近から森林限界を越えた瞬間、深い森に生命を宿した南アルプスから一変、来る者を寄せ付けない足がすくみそうな山容と、それとは裏腹な神々しさを放った稜線に出会いました。
この瞬間が今でも思い出すと堪らず、南アルプスに来て良かったと心から思える時間でした。
人気②:静寂の樹林帯を歩く優雅な登山
登山で樹林帯と聞くと、頂上に至るまでのプロセスであり、長い樹林帯が続くと変わり映えのしない光景に辟易することも。私も樹林帯は苦手で、原生林ではない植林帯の道を歩くと、早くこの道が終わらないかと気持ちが萎えてしまいます。
南アルプスは森林限界を越えた稜線に出るまでの樹林帯が長いことでも知られていますが、広大かつ豊かな自然を内包する南アルプスの樹林帯は、深い森の中に様々なスポットがあり、標高を上げるごとにその姿が変わり、ありのままの自然が残された道は人工的な道と異なり、歩くだけで癒やされる空間です。
静かで深い森の中を歩いていると動植物の息遣いを常に感じ、他の山域では体感することのない山と一体になった様な感覚は、南アルプスならではです。
人気③:柔軟な山行計画を立てられる
薬師岳へは、鳳凰三山南方に位置する夜叉神峠、ドンドコ沢コースを経て稜線に出る青木鉱泉、鳳凰小屋を経由する御座石鉱泉、南アルプスの代表的な登山口である広河原といった、主に4つの登山口から登られます。いずれも行動時間が8時間を超えるので、一泊二日が望ましいコースとなっています。
豊富な登山口を持つので、登り口と下り口が同じなピストンの他、鳳凰三山を縦走して登山口とは別の場所へ下山する方法が可能です。
御座石鉱泉から入山し、地蔵岳、観音岳、薬師岳を縦走するルートは一度は歩きたい鳳凰三山のおすすめルート。柔軟な計画して好きなコースを思う存分歩けて、遠方から来る方にとって南アルプス登山は後悔の無いように登りたいことを考えると、薬師岳登山計画の柔軟性はとてもありがたいです。
人気④:周辺に点在する山小屋
薬師岳周辺には2つの山小屋があります。南方の樹林帯に佇む南御室小屋、頂上直下にある薬師岳小屋です。テント泊利用者は南御室小屋が利用でき、樹林帯の中にあるので安全に設営でき、薬師岳小屋に泊まれば稜線での宿泊という贅の他、山頂でのご来光が楽に望めます。
私は冬季に薬師岳に登り、南御室小屋でテント泊をしていますが、前述の通り樹林帯にあるため安全に宿泊でき、身も心も安堵できました。
日帰りが困難な薬師岳なので、山小屋の存在は必要不可欠。山頂付近と樹林帯に山小屋があるのは嬉しいポイントです。
薬師岳登山のQ&A
難易度は?
コースタイムがどれも8時間を超えるため、一泊二日の行程が必要なので、難易度は登山経験者向きです。地図読み、テント設営などの基本的な登山技術が必須となりますが、宿泊装備を担いで8時間を歩ける体力が観音岳登山では求められます。
日帰り登山や入門的な宿泊登山を経験したり、各種登山技術に関する講座を受けるなど、十分な準備をして登ると良いです。
アクセスと駐車場は?
どの登山口にもシーズンによりますが、登山口までバスが出ています。バス利用がリーズナブルですが、タクシーを予約していけば柔軟な縦走計画の幅も広がります。公共交通機関が通らなくなるので、夜叉神峠、青木鉱泉、御座石鉱泉へはマイカーアクセスとなります。
広河原へはマイカー規制がかかっているので、付近の駐車場に駐めてバスに乗るか、最寄り駅からのバスアクセスが必須となります。
駐車場は繁忙期は大変混み合うので、早めの到着がおすすめです。
水場とトイレは?
南御室小屋に水場があり、登山口では広河原、青木鉱泉にもあります。山頂に最も近い山小屋である薬師岳山荘には、水場はありませんが飲料を購入することができます。
山小屋は?
南御室小屋、薬師岳小屋があります。離れていますが鳳凰三山縦走時は鳳凰小屋も利用範囲内です。小屋泊には事前予約が必須で、申込み時期は余裕を持って連絡をすると良いです。営業期間は各山小屋で異なるので、事前確認が必要です。
テント泊は南御室小屋、鳳凰小屋で可能で、基本的には予約不要の先着順ですが、鳳凰小屋は事前予約が必要な時期があるので、こちらも小屋泊同様確認しておくと良いです。
雪は?
10月頃より降雪があり、5月頃まで雪が残ります。一度降雪があると、南アルプスは厳しい雪山の世界に変わります。稜線では烈風が吹き荒れ、樹林帯では深い雪をかき分けてルートを作っていくラッセルが求められ、体力も頂上までの時間も、夏の2倍以上かかります。
時期を見ていけば雪に苦労せず登れるので、最新の現地情報を入手して自身のレベルと計画に合わせて行くのが良いです。
薬師岳登山のルート紹介
紹介した山 | 薬師岳 |
都道府県 | 山梨県 |
標高 | 2,780m |
天気・アクセスなど | 薬師岳の詳細情報 |
夜叉神峠から薬師岳へ-鳳凰三山の一峰を一泊二日で目指す山旅
一年を通して鳳凰三山の登山口として利用される夜叉神峠から薬師岳を目指すメジャーコースです。
初日は夜叉神峠登山口をスタートし、樹林帯がメインの登山となります。途中の夜叉神峠からは南アルプスの名峰が顔を出し、これからの登山への期待を高める眺望を堪能。初日のうちに登頂し、2日目で下山します。
南御室小屋から稜線に上がれば、ここまでの苦労と合わせると感動が倍増する、北岳を始めとした絶景がお出迎えしてくれます。時間と体力に余裕があれば、薬師岳を経て観音岳へ登ることも可能で、このさきの稜線は飽きることのないご褒美の連続です。
本コースは初日で登頂、2日目で下山という余裕を持ったスケジュールを組んでいますが、ご来光や天候の調整のために2日目に登頂というスケジュールも可能です。
また日帰り往復では体力的に余裕なく怪我のリスクも大きく上がる無茶な登山となるので、南御室小屋で優雅に一泊して二日目に下山という計画がおすすめです。
薬師岳を余裕を持って登れるのが、本コースの特徴であり、南アルプスの森と稜線を味わえるのが魅力です。
夜叉神峠登山口をスタートします
夜叉神峠までは広葉樹、針葉樹エリアが連続します。冬の広葉樹の登山道は落ち葉の堆積で段差が見えず、滑りやすくなっているので要注意。
夜叉神峠は最初のビューポイント。登頂へのモチベーションが上がります。
以降は樹林帯が続きます。
鹿さんもお出ましです。
長い樹林帯を越え、苺平に到達。ここまで来れば南御室小屋まで間もなくです。
南御室小屋。長いこと歩いての山小屋だったので、これでしっかり休めると涙が出そうになりました。
荷物をまとめたら、軽量装備で薬師岳を目指します。
樹林帯を歩きます。
森林限界を越えると、遂に南アルプスの山々が眼前に迫る稜線に出ます。
見入ってしまいます。
砂払岳を越えて薬師岳へ。
薬師岳小屋。
薬師岳小屋から薬師岳は10分かからず到着です。
薬師岳からの眺望も見事。
薬師岳から目視できる観音岳へは40分前後です。ここまで休憩時間を除けば行動時間は約7時間。無理せず南御室小屋まで戻り、1泊します。
今日のホテルです
冬のテント場。空気が澄んでいて風も弱かったですが、上部からは強風が聞こえていました
2日目の朝、身支度をして下山しました。長い下山路になるので、怪我のないよう慎重に。
おすすめ温泉情報
金山沢温泉
夜叉神峠に向かう道中にある温泉です。下山後に立ち寄りやすく、親しみやすい外観に惹かれて入館すれば、内風呂と露天風呂を備えてお風呂場で山旅の疲れをゆっくり癒せます。緑豊かで季節の移ろいを特に感じられる南アルプス。南アルプスが魅せる季節を、登山とはまた違う視点で愛でられるので、ぜひ立ち寄って頂きたい温泉です。
薬師岳で南アルプスの深い自然に触れよう
薬師岳は南アルプスを代表する山々である、鳳凰三山の一峰です。日帰り困難で体力を求められる山ですが、森林限界を越えるとこれまでの苦労が全て吹っ飛ぶほどの眺望と、豊かな森と威風堂々とした山容など、南アルプスが持つ深い自然との出会いがあり、登山の魅力が詰まっています。下山後に温泉に立ち寄れば、登山とはまた違う南アルプスの美しさに触れることができ、登って良し、浸かって良しと、薬師岳は山旅の醍醐味を心ゆくまで堪能できます。
薬師岳に登って、南アルプスの世界にぜひ触れてみてください。