登山には遭難リスクがあるため、遭難しないための知識を学んでおく必要があります。遭難対策は、実際に起きた事例をもとに考えると理解しやすいでしょう。以下では、登山の遭難事故例から、遭難しないための予防策について解説しています。
南アルプス・荒川三山の遭難事故
南アルプスの荒川三山に単独で登り、遭難したケース。荒川三山に登頂後、下山しようとしたところ、途中で道に迷ってしまいました。そのまま下山を試みましたが、最後には滝から落ち、足を骨折する事態に。その後、ヘリで救助されました。
日時 | 1999年8月 |
山域 | 南アルプス 荒川三山(前岳・中岳・悪沢岳) |
コース | 三伏峠~荒川三山の往復コース |
人数 | 1人 |
登山者情報 | 男性。当時の年齢は52歳 登山歴は10年以上 |
荒川三山の遭難事故の原因は「道迷い」
荒川三山の遭難事故は、道に迷ったことから起きました。雨が降るなか、早く下山したい一心で、引き返さずにそのまま進み続けたのです。さらに沢を下っていくと滝に進路を阻まれます。すでに退路はなく、どうしようもない状況に。そこで、登山者は滝つぼに落ちる選択をした結果、左足を骨折して行動不能になったのです。
荒川三山の遭難事故から学べること
「道に迷ったら引き返す」のは登山の鉄則です。登山者は、引き返さずに進んだせいで、滝に進路を阻まれる窮地に立たされています。道迷いに気づいた際、もし引き返していたら、こうはならなかったでしょう。
ではなぜ、そのまま進み続けたのか。それは、登山者にある心理が働いていたからです。
・雨が降っているから早く下山したい
・登り返すのがめんどう
・山小屋までもうすぐだし、そのまま進んでも着けるだろう
そんな焦りと油断の心理が、登山者の判断を狂わせてしまったのです。とくに下山時は疲労で注意が散漫になりがちになるのも、道迷いを引き起こす要因の一つでしょう。
北信地方・高沢山の遭難事故
ファミリーハイクで遭難したケース。母親と上の娘2人は途中で分かれて下山。父親と末娘は高沢山と三壁山へ登りました。下山時に道を間違え、さらに雪の斜面で滑落してしまいます。登り返せない斜面のため、周囲をさまよい、その後ヘリで救助されました。
日時 | 2003年5月 |
山域 | 北信地方 高沢山 |
コース | 富士見峠~高沢山~野反ダム |
人数 | 2人 |
登山者情報 | 当時45歳男性とその娘 |
高沢山の遭難事故の原因は「道迷いと滑落」
遭難事故の発端は、下山時に道を間違えてしまったことでした。三壁山の山頂付近で、ピンクテープを頼りに進みましたが、そのピンクテープは登山道を示すものではなかったのです。
また、山頂付近は雪に覆われており、道を間違えた先は急斜面になっていました。軽アイゼンなどを持ち合わせていなかった登山者2人は、数十m滑落してしまいます。大きなケガはしなかったものの、付近をさまようことになりました。
高沢山の遭難事故から学べること
山に印されているピンクテープは登山用だけではありません。林業関係の目印だったり、道迷いした際につけたものが、そのままにしてあったりします。そのため、ピンクテープをすべて信じるのではなく、こまめに地図やGPSを確認して歩くようにするとよいでしょう。
当時の5月、山頂付近には残雪がありました。軽アイゼンを携行していなかった登山者は準備不足だったといえるでしょう。そのため、登山道の状態はどうなのか、事前に情報を集めるのが大切です。また、必要であれば、軽アイゼンや防寒具などの装備も準備しましょう。
北海道・トムラウシ山の遭難事故
登山ツアー参加者15名とガイド3名の計18名がトムラウシ山で遭難したケース。当時、雨と強風にさらされる悪天候で、行動不能になる人が続出しました。結果として、18人のパーティーのうち8人が死亡する事態に。
日時 | 2009年7月 |
山域 | 北海道・トムラウシ山 |
コース | 大雪山系縦断コース |
人数 | 18名(内3人ガイド) |
登山者情報 | ツアー参加者とガイドのパーティー。ツアー参加者の多くは50~60代の方。 |
トムラウシ山の遭難事故の原因は「低体温症」
山中の天気は、強風で雨が降る悪天候。暴風雨にさらされた登山者たちは、体温を奪われていきました。その結果、夏にも関わらず「低体温症」を引き起こしたのです。
低体温症:体温(直腸温)が35℃以下に下がること。正常な生体活動の維持に必要な水準を下回ると様々な症状が出る。
低体温症になると、はじめは寒さを感じ、体が震えだします。次第に歩行は遅くなり、転倒するように。さらに体温が下がると、昏睡状態になり、いずれ死に至ります。
トムラウシ山の遭難事故から学べること
生き残った登山者たちは、体温を下げない工夫をしていました。
・重ね着をする
・雨具の袖や首元にタオルを巻き、雨の侵入を防ぐ
・ビバーク(緊急露営)して雨風を防ぐ
体温が下がる要因は、雨や汗による濡れが大きく影響します。体が濡れると、急激に体が冷えてしまうのです。生き残った登山者は、雨具を着て、さらにそのすき間をタオルで埋めることで、暴風雨から身を守りました。さらに、こまめに食事をとったり、温かい飲み物を飲んだりして、体温を上げる工夫をしていました。
こうした体温を下げない行動により、低体温症から自分の身を守り、生還することができたのです。
遭難事故を起こさないための予防策まとめ
上記の遭難事故例から、予防策を3つにまとめました。
①事前に登山コースについて情報を集める
②道迷いに気づいたら引き返す
③悪天候時は体温を下げない工夫をする
とくに、大切なのは山の情報収集です。登山コースの情報を把握しておけば迷いづらくなるし、注意ポイントへの対策も立てることができます。つまり、山の情報を適切に集め、無理のない登山計画を立てることが、遭難事故を未然に防ぐことにつながるのです。
実際に起きた登山の遭難事故例から、遭難しないための予防策について解説しました。山の情報を適切に集め、無理のない登山計画を立てることが、遭難事故を未然に防ぐための第一歩になります。今回ご紹介した事例以外にも、疲労で動けなくなった例や、野生動物に襲われた例など、さまざまな遭難事故があります。他の遭難事故例も知り、さらに安全登山に努めたいですね。
▼今回ご紹介した3つの遭難事故例は、下記の書籍から詳細が見られます。