大きなバックパックに詰め込まれた荷物。細かに計量された食糧、フカフカの寝袋、寝床の要であるマット、そして移動式マイホームのテント。テントを背負った登山は、自立した登山者への印として、そしてテント泊での登山は、日帰り登山とは違う感動をもたらしてくれます。今回はそんな大きな感動をくれるテント泊登山デビューにおすすめのテント場をご紹介します。
テント泊におすすめのポイント
ポイント①:登山口から近い
初めてのテント泊で起きる最初の実感は、日帰りや山小屋と比べて荷物が重いということです。
沢山の荷物を背負っているので、バックパックの性能でとても歩きやすくはなっているものの、思ったように移動できず、日帰りの軽量な装備とは異なり移動にはコツも必要になってきます。
初めてのテント泊では、出来る限り行動時間をコンパクトにして身体の負担を最小限にするのが最適です。そのため登山口からテント場まで2時間程度の山だと、テント泊の重量感を掴んで登山を終えられるので、次回のより本格的なテント泊に向けてのステップとしても良いです。
私の初めてのテント泊は、新穂高ロープウェイから西穂山荘にテントを張り、独標を目指すという登山でした。事前の準備は入念に行って臨みましたが、テント泊の荷物=幸せの重さと言うには非情な重量感があり、たっぷり詰めた水を放水して軽量化を図ろうとしたり、見栄を張って背負った同行者(現在の妻)の荷物も押し付けようとしたりと、情けないことを考える始末。
山荘までの移動時間は1時間30分でしたが、日帰り登山を終えた様な達成感がありました。
ポイント②:荷物をデポして山頂へ向かえる
数日をかけて移動する縦走のテント泊登山や、諸々の都合で全装備を背負って山頂を目指す場合、疲労による怪我のリスクが上がったり行動時間が予想以上にかかる事で、天候や出発時間を入念に考慮する必要が出てきます。
そんな時、テント場をベースキャンプ地として荷物を最小限にまとめて山頂を目指せれば、安全でスピーディに、身体の負担も軽くして行動できます。
例えば、登山口からテント場まで2時間程度、テント場から山頂まで往復6時間前後であれば、初日は遅めの出発で移動日として、2日目で身軽に登頂して下山というスケジュールを組むことができます。
遠方へ行くときは、初日の登山口の移動だけでも一苦労なので、ゆとりがある行動計画に見えて、これくらいがちょうど良かったりします。
ポイント③:水がある
初めてのテント泊でなくても、私が常に意識しているテント場の条件は、水場があるか、水場が登山日に涸れていないか、水が入手できるかということです。
荷物の中でも重量があり面積を有する水は、日帰り登山の時も容量を気にするほどで、テント場に水場がない、もしくは現地での水の購入も難しくなると、2日分の水分を背負わなくてはならず、これが夏の登山になると、雪を融かして飲むという雪山での水確保もできず、重くて放り投げたいのにそれができないというジレンマに陥ります。
テント場に水場があると、テント場までの移動に必要な最低限の水があれば良いので、荷物は非情に軽くなります。
山に登ると実感する飲水の大切さ。山の中で無限のウォーターサーバーともいえる水場があると、行動負担の軽減だけでなく、水の心配をする必要がないことでテント場での時間がとても潤いのある充実したものになります。※水場ではなく山小屋から水を頂く場合は、必要な量を良識の範囲内で。
初めてのテント泊におすすめのテント場
【赤岳鉱泉】八ヶ岳エリアの代表的なテント場:主峰赤岳を身軽に目指せる好立地
長野県と山梨県に位置する初級者から上級者を受け入れる山域、八ヶ岳。主峰の赤岳や、赤岳が位置する岩稜を縦走する際に選ばれるのが、赤岳鉱泉です。
登山口である美濃戸口から3時間、または美濃戸口から1時間ほどの美濃戸までマイカーアクセスできれば、2時間で赤岳鉱泉に到着、登山道にも難所はないので、負担なく目指すことが可能です。
赤岳鉱泉から赤岳までは往復4時間30分、水も無料で頂けるという好立地です。
テント場も広くハイシーズンは早着が良いですが、平日やハイシーズンを避けた休日であれば、余裕を持ってテントを張れます。
私は赤岳を含む岩稜帯を登るときは赤岳鉱泉を利用していて、八ヶ岳の高級3つ星ホテルと形容できる快適さで、テント泊でどこか山に登ろうと思い立った時、赤岳鉱泉の影響でいつも八ヶ岳が選択肢に入ります。
私が特にありがたいのが、トイレの綺麗さ。山のトイレと言えば、赤外線に誘われた沢山のお友達(虫)と一緒に用を足すのが当たり前と思っていましたが、丁寧にメンテナンスされたトイレはとても快適で、一昔前の山の常識を覆えされました。
【富士見平小屋】奥秩父にある日本百名山を目指せるテント場:登山口に近くテント泊デビューにおすすめ
山梨県北杜市に位置し、奥秩父にある日本百名山、瑞牆山と金峰山を目指せるテント場として知られています。
富士見平小屋はテント泊デビューに私が特におすすめするポイントがあり、ひとつは、登山口である瑞牆山荘からテント場まで50分という近い場所にあるという点です。
登山口から近い上に、目指す山頂が瑞牆山と金峰山という、高難度な場所が無い山であるという点も、テント泊デビューにはおすすめの理由でもあります。
近すぎるあまり「テント泊の意味あるの?」と思われますが、荷物をデポして初日は瑞牆山に登り、2日目は金峰山に登るというのが富士見平小屋の定番プランで、瑞牆山と金峰山を1泊2日で登れるのは、富士見平小屋があってこそです。
2つ目は、冬でも涸れない水場と広大なテント場。テント場のそばにある水場は通年涸れることがなく、富士見平小屋を利用させて頂いた時で、水で悩まされることは一度もありませんでした。
テント場も広く、赤岳鉱泉同様ハイシーズンは要注意ですが、テント利用者が多いと思う時期でも、すし詰めではなく感覚を保って張れるほどです。
初日は瑞牆山に登り、早々にテントに戻って酒を飲むというのが富士見平小屋での私の楽しみ。登山口から近いので、登山向けの軽量チェアや食糧を贅沢にしても大きな支障はないので、テント泊とは思えない快適な環境で山の一夜を過ごせるのも個人的に気に入っています。
【ロッヂ長兵衛】駐車場から至近距離:日帰りルートの大菩薩嶺を贅沢にテント泊で
山梨県にある日本百名山の一峰、大菩薩嶺。無雪期は上日川峠までマイカー、またはバスで上がれば日帰り登山が可能であるので、ハイシーズンは沢山の登山者で賑わいます。
そんな上日川峠にあるロッヂ長兵衛のキャンプ指定地は、なんと駐車場から至近距離。ぽっかり空いた連休のゆったり登山に、お子さんのテント泊デビューに、仲間と気軽なテント泊登山におすすめなテント場です。
初めてのテント泊での不安点である悪天候時の対処も、いざとなれば車に避難すれば良いという安心感があります。また、登頂を目指すための戦略的な意味で野営するという基本的なテント泊の目的からは大きく逸れますが、車に荷物を積み込んでおけるので、多めに食糧を持ち込んでささやかに楽しむという、緩いテント泊も可能です。
私はロッヂ長兵衛さんのテント場には麓の大菩薩峠登山口からアプローチして利用させてもらいました。水場があるので水の荷揚げは不要、トイレも公共のトイレを利用できることもあって、登山で想定されるカロリー以上の飯を詰め込んで登り、翌日の朝は強風と雨になりましたが、快適なテントでの一夜を満喫しました。
上日川峠といえば大菩薩嶺登山を一番に思い浮かべますが、日本一長い山名の牛奥ノ雁ヶ腹摺山(うしおくのがんがはらすりやま)を始めとした周辺の登山も可能で、静かで山の奥深さを満喫できる山梨県の名山を訪れるにも、上日川峠はおすすめのスポットです。
ロッヂ長兵衛で初日は大菩薩嶺、テント泊で翌日は牛奥ノ雁ヶ腹摺山登山というのも良いですね。
【西穂山荘】北アルプスのテント泊デビューにおすすめ:ロープウェイアクセスが嬉しい
日本の山岳史を語る上では欠かせない一大山岳エリアの北アルプス。峻険で登山経験者向きのルートが多い中で、新穂高ロープウェイで標高を上げたところからスタートし、1時間30分でアクセスできてしまうテント場が、西穂山荘です。
標高2,300mを越える立地にありながら通年営業、夏頃は沢山の登山者のベースとして、厳冬期は西穂高岳を目指す手練を迎える場所として親しまれています。
西穂山荘が初のテント泊としておすすめのポイントとして、ロープウェイから1時間30分でアクセス可能である点と、比較的初心者でも登れる西穂高岳独標までも往復2時間程度という点にあります。
北アルプスの山を何度か歩いていますが、体力・技術的に気軽に登れる山は無く、その分登頂の達成感は、一言では語れない複雑な感情に見舞われるほど。
そんな登山者の憧れ、北アルプスに登る第一歩として、そこでテント泊できる。それが叶うのが西穂山荘です。
水は有料で入手可能で、この他山荘には名物の西穂ラーメンがあり、高所にありながら生麺のラーメンが頂けるなど、北アルプスの夜景と思い出に残る時間を過ごせます。
おすすめテント場まとめ
テント場 | 赤岳鉱泉 | 富士見平小屋 | ロッヂ長兵衛 | 西穂山荘 |
山域 | 八ヶ岳 | 奥秩父 | 奥秩父 | 北アルプス |
山頂 | 赤岳 | 瑞牆山・金峰山 | 大菩薩嶺 | 西穂高岳独標 |
水場・トイレ | あり | あり | あり | あり:水有料 |
張数 | 100〜150 | 100 | 30 | 30 |
登山口からの所要時間 | 2時間 | 50分 | 0分 | 1時間30分 |
特徴 | 充実した設備と余裕ある敷地 | 百名山二峰を登れる好立地 | 駐車場至近でゆったりテント泊 | 高所テント泊と西穂ラーメン |
初めてのテント泊で登山の新しい魅力を感じよう
山登りのステップアップとして、そして大きな憧れとして、長く登山者の目標であり続けているテント泊。初めてのテント泊は不安で、テント場も沢山あって自分の力量にあった山、テント場を選ぶのはとても迷います。今回のおすすめのテント場紹介が、少しでも参考になってくれれば幸いです。
初めてのテント泊で、登山の新しい魅力をぜひ感じてみてください。