ハイキング、縦走登山、沢登り、アルパインクライミング。山を登る人には沢山の嗜好があり、その人しか知り得ない感動と興奮があります。どんなスタイルの登山でも欠かせない食事は、誰もがホッとする時間で、時に和気あいあい、時に山で過ごす時間に身を委ねるなど、山での食事がもたらす感動は、その日の行動と次の山に向かう原動力になります。今回はそんな山飯の時間を存分に楽しめる山をご紹介します。
山飯が楽しい山のポイント
ポイント①:ロケーション
360度の大パノラマ、木漏れ日のある森林、迫力の名瀑。食事自体の質も大切ですが、ロケーションは一番に気にするところです。
山を登って10年以上経ちますが、食事をしっかり摂るときは、なんだかんだで頂上や「休んでいきなよ」と言わんばかりのロケーションが良いところを無意識に選んでいます。不思議なもので、今が一番空腹だと思う時ではないのです。
目的によって山を選ぶ理由はそれぞれですが、山飯目的で登るときは、山の事前情報を入手する際にどんなスポットがあるか見ておくと良いです。
私がおすすめなのは、下山中の渓谷。大半の登りを終え、適度に疲労感が溜まったところで足を伸ばし、沢の流れを見つめながら作る食事は、何を食べても格別です。試したことはありませんが、世界で一番苦手なグリーンピースでさえも大盛りで食べれる気がします。
ポイント②:避難小屋や休憩小屋がある
ルート上にある避難小屋や休憩小屋は、風雨から身を守れる安全な空間であり、多くは椅子やテーブルが設置されています。
安心安全に調理ができるという点が大きく、また調理もしやすいのが魅力です。
山の静寂とは異なる小屋の静寂も雰囲気が良く、山で淹れたお茶やコーヒーを、湯気をぼんやり眺めながら飲むのが私の楽しみです。
山飯を楽しみたい登山をする時は、避難小屋や休憩小屋を選んで登ることがあり、あまりの居心地の良さに登りの時間と休憩時間が一緒という事もありました。
小屋にもそれぞれ個性があり、頂上付近、峠などの立地によって小屋から見える世界が変わります。中から山の景色を眺めるだけで感覚が変わるのも新鮮で、窓越しに見る眺望が一層食事の美味しさを引き立てます。
ポイント③:所要時間
山飯を目的として登る場合、計画はご自身の体力に負担が少なく、時間に余裕を持った山を選ぶのがポイントです。
私で言うと、山飯と休憩に時間をかけることを想定する時は、合計時間が6時間前後で収まる計画を立てています。
山飯登山は、とことんのんびり、とことん食事を楽しむことが目的なので、次の行動を気にしないくらいが丁度良いです。
山飯が楽しいおすすめの山
【丹沢】塔ノ岳:360度の大パノラマの中で食べる山飯に舌鼓
好アクセスで適度な登り応え、山頂でのパノラマ。山飯スポットにおいて死角無しの山頂が、神奈川県の丹沢山塊の名峰、塔ノ岳です。
私が丹沢に良く登るというバイアスがかかっているかもしれませんが、今回の選定にあたり、どれほど見直しても始めにおすすめしたい山頂が塔ノ岳でした。
山飯を楽しむ場合は、電車バス、マイカー共にアクセス良好な大倉から登るルート、大倉尾根を利用するのが良いです。
8時頃に出発すれば昼前には到着し、のんびり山飯を楽しんで日没前には下山できます。
山・街・海が広がる遮るもののない大パノラマが塔ノ岳の大きな魅力。山頂には山飯を楽しんでくれと言わんばかりに、身体を休めるスペースが豊富にあります。
個人的には富士山を真正面に見るより、風を避けやすく山・街・海の三位一体の眺望を見ながら山飯を楽しめる東側に座るのがベストです。
標高1,491mの塔ノ岳は四季折々の姿があり、1年を通して山飯を楽しめることは間違いなく、登るたびに山頂からの眺望は変わります。ここでの景色を見て食べた山飯は全てが美味しく、思い出深いものばかりです。ぜひ塔ノ岳で山飯を堪能してください。
【奥秩父】金峰山:五丈岩と森林限界の世界で過ごす特別な山飯時間
森林限界を越える高所に行くには、1泊以上か健脚の早朝日帰りをする必要があり、低山より厳しい天候になりやすく、山頂も岩峰になると狭くなったりと、山頂に着いても下山時間を考慮するとのんびりする時間はありません。
奥秩父の金峰山は、山域内の中で森林限界を越える高所にありながらも、大弛峠からスタートすれば片道2時間30分程度、日帰り登山圏内で山頂も広く、くつろぐには最高のロケーションです。
山頂のシンボルである五丈岩と頂上から見る山々、低山とはまた異なる趣で摂る食事は、ソロで山の神秘に包まれながら静かに摂るも良し、高所の澄み切った空間を仲間と共有しながら摂るも良しです。
登山を始めた頃、初めて訪れた金峰山で初めてコッヘルで炊飯を炊き、ハンバーグをおかずに山頂で食事をしました。湧き上がる雲、聳える五丈岩、全てが神秘的で心穏やかに食べる山飯は、今でも忘れることはありません。
【那須】那須岳:ロープウェイで登ってのんびり山飯タイム-豊かな植生と眺望を楽しむ
栃木県にある標高1,915m、那須連山の主峰にあたる茶臼岳は、現在も活動を続ける活火山です。
那須ロープウェイを利用して登れば、山頂駅からはわずか40分で山頂に達するので、ファミリーハイクや半日登山にも最適。もちろん山飯にバッチリの眺望、高山植物といったロケーションもあります。
山飯を存分に楽しむには適度な疲労感も必要で、しっかり歩きたい方はロープウェイを利用せず登るルートもあります。
子どもにとって山での食事は一生の思い出に残るような貴重な時間です。私も公私で子どもと一緒に山に登ることがありますが、登った後、ふと子どもが口にするのは「あの山で食べたご飯、また食べたい」で、頂上の景色と食事が脳裏に焼き付いている様でした。
那須岳はお子さんでも山の魅力を肌で感じられる特徴を持ち、頂上でゆっくりできる空間があるので、思い出に残る山飯時間を過ごせます。
私が初めて那須岳に登ったのは冬の時期で、那須岳特有の爆風が吹き荒れていました。この時に峰の茶屋跡避難小屋付近で食べたカップラーメンの味は鮮明に覚えています。
【八ヶ岳】西天狗岳:南八ヶ岳を眺めながらくつろぐ山頂時間
八ヶ岳北部の山々である北八ヶ岳。同エリアの双耳峰にして最高峰である天狗岳は東天狗岳と西天狗岳に分かれますが、最高峰の西天狗岳が私のおすすめ山飯スポットです。
八ヶ岳は硫黄岳の様な広々とした山頂から、蓼科山、編笠山の様な山頂が岩場となっている山、赤岳、権現岳といった屹立した岩峰など多彩な山頂があります。
その中で、通年で訪れやすく、かつ眺望も優れているのが西天狗岳です。
主要な登山口である唐沢鉱泉から西天狗岳へは2時間45分。冬山の入門としても知られ、アクセスには冬仕様のマイカーが必要ですが、しっかり登山技術を身につければ通年で登ることも可能です。
山頂は腰を落ち着けるには十分なスペースがあり、見応え抜群の南八ヶ岳の岩峰、空気が澄んでいる時期なら八ヶ岳ブルーと呼ばれる深い青空を、特等席で心ゆくまで眺めながら食事を楽しめます。
【丹沢】畦ヶ丸:ひっそりと佇む避難小屋で自然と溶け込む
最後に再び丹沢からのご紹介です。
丹沢西部のエリアである西丹沢。眺望は木々に囲まれた山頂が多いものの、山深く玄人の登山者に好まれる山域で、畦ヶ丸は西丹沢の中では比較的登りやすい山として知られています。
山頂は標識とベンチがある静かな場所で、すぐ近くには避難小屋があり、畦ヶ丸を訪れた登山者が心身を休める貴重な場所として親しまれています。令和2年10月に建て替えられ、この避難小屋に来ることを目的にしたくなるほど綺麗な外見と内装に。電波が通るなら、ここでテレワークしたいくらいです。
中に入ると木の温もりを感じ、外を見れば森林に癒やされる贅沢な空間。そんな心落ち着ける空間で山飯を作り、仲間と時間を忘れて語らっていると、山登りに来たことを忘れてしまいそうになります。
幾つか避難小屋で過ごしてきましたが、畦ヶ丸の避難小屋での山飯タイムが、避難小屋の中では一番おすすめです。
登山口である西丹沢ビジターセンターからは往復5時間10分、途中には沢を通るので、ここで時間を取って食事をするのも良いです。
山飯におすすめのアイテム
Helinox(ヘリノックス) チェアゼロ
ゆったりとした山飯時間は、登山をする方にとって待ちに待ったご褒美タイム。とはいえ休日にはベンチがいっぱいだったり、雨季や凍結していた地面に日が当たりぬかるんでいる場合などは、座るのも億劫になります。また冬場は雪に触れると体が冷えてくるので、なるべく体温低下を防ぎたいとも。
そんな時に役立つのが登山でも使える椅子で、収納性に優れたコンパクトなモデルから、テント泊での滞在に適した快適性に優れたモデルなど、豊富なアイテムが展開されています。
私が最近使っているのは、ヘリノックスが展開している軽量モデルのチェアゼロで、収納袋こみの重量が510gで、20L前後のバックパックにも収納できるコンパクト性が魅力のアイテムです。
簡単に組み立てられる本体は、放ると宇宙にいるかのような軽さを実現し、座ってみれば耐荷重120kgの安心感と、山にいるのを忘れてしまいそうな座り心地で、私は低山や荷物に余裕があるテント泊には必ず持ち歩いています。
これを手にしてから、休憩での場所選びに難儀する必要がなくなり、好きなポイントで頂上の眺望を楽しめるようになりました。
登山で使える驚異的な軽量コンパクト性を誇るチェアゼロ、持っていて損はないおすすめアイテムです。
SOTO(ソト)フィールドホッパー
山飯を楽しむ時にあると便利な名脇役が、テーブルです。
山では意外と平坦な場所が少なかったり、物を置こうにも泥土に阻まれ、冬はガスバーナー使用するのに下にバーナー板を敷いたりと、なんだかんだで地面の状況に悩まされることがあります。
そんな時にあると良いのがアウトドア用のソロテーブルで、SOTOのフィールドホッパーは特に登山でおすすめのモデルです。
テーブルは折りたたまれており、開くと脚が瞬時に展開される仕組みになっています。開いた瞬間に使用可能になるというストレスフリーさは、無駄のない行動が求められる登山にピッタリです。
収納もコンパクトで、パッキングしやすい点も魅力です。
余裕のある山行の時は上記のチェアゼロと一緒に持ち歩いていて、機能性もさることながら、山飯の時間を大切に過ごす空間を作る上でも重宝しています。
山飯の時間を大切にして、登山を充実しよう
どんな山登りでも必要とされる食事の時間。登山を成功させるために重要な要素でありながらも、たまには山飯目的で登ってみると、いつもの登山とは違う視点で山の魅力に気づきます。
色、音、匂いなど、食事という時間に集中してみると、新しい感覚で山の世界を感じることが出来ます。そんな中で食べる山飯は格別で、忘れることのない味として、登った山の思い出として残ります。
ぜひ山飯を堪能して、より充実した登山を楽しんでください。