麓から長い時間をかけ、ようやく捉えた山の頂。頂上で見る景色は道中で見るものとは違う価値があり、山頂で過ごす時間は1分1秒が惜しくなるもので、山頂を後ろ髪を引かれる思いで下山する気持ちはとても複雑です。山頂に山小屋やテント場があったら。そんな贅沢な悩みを解決してくれる山、実は沢山あります。今回はその中でも特におすすめの山をご紹介します。
山頂に山小屋・テント場があることのポイント
ポイント①:山頂で過ごせる夢のような時間
山頂に山小屋・テント場あることの恩恵の代表は、後述の安全面ではありますが、山頂で思い思いの時間を心ゆくまで過ごせる贅沢に勝るものはありません。
仲間と語らう、沈む夕陽をぼんやり眺める、横になって本を読む。どれも日常で叶うことですが、山頂で実現できることの感動は、当たり前が何より大切でかけがえのないことであると気づかせてくれます。
私が初めて山頂のそばで宿泊したのは、神奈川県にある丹沢・塔ノ岳の山頂に位置する尊仏山荘でした。結婚前の妻と宿泊し、休憩スペースで本を読んだり、妻と他愛のない話をしたり、朝一番で起きて白銀の世界で写真を撮ったり。
特別なことをしたわけではありませんが、地元である神奈川の山の頂上で過ごす贅沢な時間は、郷土への想いに気付かされ、妻の存在の大きさを改めて感じました。
ポイント②:心身共に身軽に山頂へ行ける
山頂、またはすぐ近くに山小屋やテント場があると、レインウェアや防寒着、ヘッドライトを持っていくほどで山頂に向かえ、山頂=宿泊地の場合は、安全を確保した中で一晩頂上に滞在することができます。目の前や近くが山頂であれば、もちろん自然環境なので注意は必要でありながらも、張り詰めた緊張を解いて山頂時間を過ごせ、その様な経験は滅多にできません。
当たり前といえば当たり前ですが、風雨を遮るものが無い山頂で滞在できる山小屋、テント場があることは、実はとても貴重なことです。
北アルプスには2,000mを越える稜線上に幾つもの山小屋、テント場があります。私も北アルプス登山の際は計画段階で幾つか確認するのですが、それを現地で目視すると、よくあんなところに建てたなと目ン玉が飛び出るような場所にあります。危険な環境下であるが故、必須の存在である山小屋。そのおかげで山頂での思い出深い時間が過ごせるのだと、感謝感謝です。
ポイント③:下山時の負担が少ない
下山が往路と同じピストン山行の場合、山頂からの下山は負担を少なくして行動することができます。
山は標高が上がれば天候の影響や気温の低下など、様々な面で麓とは異なる厳しい環境に変化していきます。最も高い標高である山頂からの下山、そして既に通ったルートであることで下山時の想定もしやすいことから、山頂で宿泊できることはメリットがあります。
私は下山日に登頂までの長い行程を残していたりすると、気持ち的に萎えてしまったり焦ってしまうことがあるので、計画を立てる際はなるべく山頂に近いテント場を選ぶようにしています。
山頂に山小屋・テント場があるおすすめの山
【北アルプス】笠ヶ岳山荘:山頂まで片道20分-頂上付近に位置する稜線からの眺望
標高2,898m、日本百名山に選ばれている北アルプスを代表する頂きのひとつ、笠ヶ岳。山頂を目視でき、20分の場所に位置する笠ヶ岳山荘は、稜線からの眺望に優れた、山頂付近で泊まる山小屋のとしておすすめです。
山荘より5分ほど降りた場所にはテント場もあり、稜線上、しかも山頂近くでテント泊という経験もできます。
笠ヶ岳には主に新穂高温泉をスタートし、笠新道を登って稜線に上がり山頂に至るルートが一般的で、頂上近くで泊まれるメリットを生かしての計画が立てやすいのがポイントです。
初日で笠ヶ岳山荘まで行き、余裕があれば登頂、翌日はご来光を山頂で見て下山というのがおすすめです。
笠ヶ岳は遠望から見てもそれと分かる山容を持ち、登山意欲を湧き起こさせる希少な山頂です。その近くで泊まることは、急勾配と長大な登山道として知られる笠新道によって、忘れることのない時間となることは間違いありません。
【中央アルプス】駒ケ岳頂上山荘:3,000m級の山へロープウェイへアクセス-高所テント泊のデビューに
標高2,956m、中央アルプス最高峰の木曽駒ヶ岳から至近距離にあり、小屋泊、テント泊の利用が可能な
駒ケ岳頂上山荘は、高所でのテント泊デビューにおすすめのスポットです。
木曽駒ヶ岳ロープウェイを利用して短時間で高所まで上がれ、ロープウェイ終点から山荘までは
1時間30分ほどで到着とアクセスも良好。同山域では数少ないテント泊可能地ということで、とても人気があります。
森林限界を越えた圧倒的な頂上直下の眺望、峻険な岩峰の中にある美しい高山植物や動物たちが魅せる世界は、ここでしか経験できません。
往復共に余裕を持った山行計画を立てられるのも良いですね。
【奥秩父】甲武信小屋:頂上直下の樹林帯に佇む稜線上の山小屋-小屋泊もテント泊も◎
奥秩父にある日本百名山の一峰、甲武信ヶ岳の直下20分ほどの場所に位置するのが甲武信小屋です。森の中に現れる同小屋は風情ある佇まいと歴史を感じさせる雰囲気があり、ふらっと立ち寄りたくなる魅力を放っています。
視界が開けた山頂とは異なり奥秩父の山深さを肌で感じられる森の中で過ごす時間が私は好きで、甲武信小屋に過去訪れた時は必ずテント泊で泊まっています。特別な眺望や目立った何かがあるわけではないのですが、それがどこか奥秩父らしさがあり、良いのです。
2,000mを越える場所にありながら、樹林帯の中で幕営しやすく、安心感のある小屋の存在と相まって、奥秩父山域の中でもおすすめの小屋です。
アプローチは主に山梨県側、西沢渓谷から尾根で上がるか、長野県川、毛木平から沢を経由して上がるルートがあります。いずれも健脚者であれば日帰り可能圏内ですが、甲武信ヶ岳の世界に浸るには、直下にある甲武信小屋で泊まるのがベストです。
【八ヶ岳】赤岳頂上山荘:八ヶ岳の主峰で過ごす贅沢な一時
八ヶ岳の主峰である赤岳は、山岳信仰を思わせる屹立とした山容と、そのイメージに違わぬ鋭利な山頂は、登頂する度に「もっとゆっくりしたいんだけどな」と思いながら下山をしていく、山頂の深い歴史もさることながら、素晴らしい眺望を持つがゆえに後悔の残る山として個人的に認識しています。
赤岳までは赤岳登山の玄関口、美濃戸から最短コースタイムで4時間10分。険しい道程を経て辿り着く岩峰で、一度は思い切り足を伸ばして宿泊してみたい。きっと私以外にも抱いているであろう願いを叶えてくれるのが、赤岳頂上山荘です。
頂上の目の前に位置し、7月から10月頃まで営業している赤岳頂上山荘。赤岳からの展望は言うまでもなく秀逸で、別世界に来たような感覚さえ思わせる頂上からの眺望をずっと眺めていられるのは、ここでしか味わえない最高の時間です。
【丹沢】みやま山荘:丹沢主脈に位置する山荘で静かな小屋泊
都心から近くアクセスが良好な丹沢において、沢山の登山者が訪れる塔ノ岳。同峰から北に進んだところに位置する日本百名山、丹沢山の山頂に位置するのがみやま山荘です。
かつて多くの山小屋が点在していた丹沢の歴史を現在に残しつつ、2004年に建て替えられた山荘は静かな山頂に合わせたかのような落ち着いた佇まい。木の温もりを感じさせる館内は余分なものがなく、山での一時を穏やかに過ごせる空間になっています。
丹沢には幾つかの山小屋がありますが、みやま山荘をおすすめするのは、アクセスが良好な登山口である大倉からのアプローチが可能でありながら、人気がなく、丹沢が持つ山らしさを感じられる丹沢山の山頂で宿泊できるというところです。
日帰りが可能な山ですが、少し足を止めてのんびり山の時間に浸るのにおすすめです。
おすすめ山まとめ
今回ご紹介した山小屋・テント場のまとめです。営業期間はシーズンで異なることがありますので、各山小屋にお問い合わせください
笠ヶ岳山荘 | 駒ヶ岳頂上山荘 | 甲武信小屋 | 赤岳頂上山荘 | みやま山荘 | |
山頂 | 笠ヶ岳 | 木曽駒ヶ岳 | 甲武信ヶ岳 | 赤岳 | 丹沢山 |
山頂までの所要時間 | 20分 | 20分 | 20分 | 0分 | 0分 |
小屋泊 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
テント泊 | ○ | ○ | ○ | ✕ | ✕ |
営業期間 | 7月頃〜10月頃 | 7月上旬〜10月上旬 | GW〜11月30日 | 2023年度 7月15日〜10月22日 | 通年 |
特徴 | 雄大な稜線からの眺望 | アクセス良好な頂上直下泊 | 奥秩父らしい山深い中での一時 | 主峰赤岳の目の前で泊まれる | 山の時間に浸かれる静かな空間 |
山頂近くで泊まって安心安全で贅沢な一時を
山頂近くにある山小屋は、天候の影響を受けやすい山頂において、登山を行う上で安心と安全が確保された空間であり、山頂近くならではの眺望や特別な時間を過ごせる場所でもあります。テント場も同様で設営できれば他でのテント泊とは違う一夜を明かせます。
山頂近くで泊まって、山が持つ魅力を余すことなく楽しんでみてください。