登山をする人ならきっと誰もが知っている『日本百名山』。著者である深田久弥(1903~1971)は、日本のみならず、ヒマラヤなど海外の山にも精力的に挑む山岳随筆家でした。そんな深田久弥が登山に目覚めるきっかけとなった山が、深田久弥の故郷にある富士写ヶ岳。標高1000mに満たない山ですが、深田久弥ゆかりの山ということもあり、県内外から多くの登山客が訪れる人気の山です。山頂からは百名山の白山を望むことができ、深田久弥のレリーフが刻まれた方位盤も鎮座しています。
深田久弥と富士写ヶ岳
標高942mの富士写ヶ岳は、以前は近くの小中学校の遠足でも登られていたほど、地元の人に愛されている里山です。深田久弥も、尋常小学校6年の時に初めての登山で富士写ヶ岳に登り、その時に「足が強い」と褒められたことがきっかけで登山が好きになったのだとか。褒められて伸びるタイプの少年だったのかもしれません。著書『名もなき山へ』にも「私の40年に近い登山史を書くとしたら、その第1ページを飾る山は、わがふるさとの富士写ヶ岳だろう」と記されています。
富士写ヶ岳のおすすめの季節
富士写ヶ岳に最も多くの登山客が訪れるのは、4~5月にかけてのシャクナゲの開花時期。この時期は登山口にある駐車場が埋まり、路上駐車が列をなすほどです。登山口は主に4カ所ありますが、どの登山口からでも標高を上げていくと濃いピンク色のシャクナゲの群生に出会えます。
また、ブナの原生林が美しいこの山は、新緑の季節や秋の紅葉狩り、冬の雪山ハイクなど、四季それぞれの美しい景色を楽しむことができます。
コース紹介
富士写ヶ岳には、我谷ダムから登る我谷コース、九谷ダムから登る枯淵コース(五彩尾根コース)、大内町から登る大内コース、大内登山口から徒歩5分ほどのところにある火燈古道・不惑新道の、主に4つの登山道があります。どの登山道にも多少の急登はありますが、登山道はきちんと整備されており、道迷いの心配などもほとんどありません。ただ、土壌が粘土質のため、雨後や雪解けの時期は登山道がヌルヌルになるので、スリップには要注意です。
我谷コース-多くの登山者が利用
一年を通じて最も多くの登山者が利用する我谷登山道ですが、駐車場は道路の路肩が広くなっているところを利用するので15台程度しかなく、シャクナゲのシーズンなどは路上駐車が多く見られます。
登山道は、我谷ダムに架かる赤い吊橋から始まります。この吊橋は、登山をしない人にとっても密かな観光スポットとなっており、映える写真を撮りに訪れる人も多くいます。
赤い吊橋を渡ってテンションが上がったところで、いきなり急登が始まります。その急登はしばらく続きますが、中間地点辺りからは比較的歩きやすい尾根道になり、最後の山頂付近で再度急登になります。
枯淵コース(五彩尾根コース)-静かな山歩きにおすすめ
九谷ダムから登るこのコースには駐車場が完備されているので、比較的利用しやすいです。この登山道にもところどころ急登がありますが、我谷コースと同様で歩きやすい登山道になっています。静かな山歩きをしたい人にはお勧めの登山道です。
大内コース-コースは短いけど急騰が多い
石川と福井の県境にある丸岡山中温泉トンネルの脇から脇道を少し入った場所に登山口があります。山頂までの距離は一番短いですが、その分傾斜は急になります。
火燈古道・不惑新道-シャクナゲ開花時期は大いに賑わう
大内コースの登山口からさらに少し奥に進み、道路が行き止まりになったところに登山口があります。火燈山、小倉谷山を経て富士写ヶ岳に登る縦走ルートになるので、アップダウンはかなりありますが、ルート上にはシャクナゲの群生箇所が多く見られ、火燈山に登る途中にはシャクナゲがトンネル状に咲いているところもあるので、開花時期は大いに賑わいます。
下山後のお楽しみ
富士写ヶ岳は、加賀温泉郷の一つである山中温泉の奥に位置しているので、下山後は温泉旅館の日帰り入浴や、総湯という共同浴場で汗を流すことができます。ただ、総湯にはシャンプーや石鹸などの備え付けがないので、利用する際は持参するようにしましょう。
また、せっかく深田久弥の故郷に来たならば、深田久弥に関する資料や山に関する書籍を収集した「深田久弥 山の文化館」に足を運んでみましょう。登山文化をより深く知ることができたり、深田久弥の人となりにも触れたりすることができます。
福井県側には「丸岡温泉たけくらべ」というキャンプ場を併設した宿泊施設があり、日帰り入浴を利用することも可能です。その近くには、福井名物の厚揚げを大胆に食すことのできる「谷口屋」もあるので、空腹のおなかを満たすこともできます。
2023年の富士写ヶ岳のシャクナゲは、どうやら当たり年のようです。深田久弥ゆかりの山で真っピンクのシャクナゲに囲まれながら、春の里山を満喫してみませんか?