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マウンテンカラ『御嶽山トレイルランニング編』

マウンテンカラ『御嶽山トレイルランニング編』

木曽駒ヶ岳のファストパッキングを終えて早々に寝静まった僕。夜中にポツポツとテントを叩く雨音が気になったものの、起きた時にはすっかり止んでいた。胸をなで下ろしそそくさと荷物を片付け終えると、早々に木曽福島駅に向かう。

木曽駒ヶ岳 中央アルプス

マップ上ではテント場から駅まで、おおよそ7.5時間。10時に待ち合わせなので、4時出発となると約6時間で下山したい。今までのファストパッキングでの時間で考えたら余裕は十分にあったものの、初めての登山道。気を緩めずに下山を開始する。

暗闇の中ヘッドライトの明かりを頼りに歩いていると、少しづつ夜が明けてくる。日が昇ると朝日が山肌や岩にあたり幻想的な景色を生み出してくれる。

このあたりの山域は樹林帯も非常に美しく、小鳥の声が森の中に響く空間は非常に幻想的だ。

こうして木曽福島駅に1時間前に到着した僕は、朝から何も食べていなかったので、駅近くにあるイオンで腹ごしらえしながら東京からやって来る高橋くん、王滝村から迎えに来てくれる大瀬くんを待つ。久しぶりの街、食べたいものが手にはいる贅沢。晴天の中もの思いにふける。そんなこんなで2人と合流した僕は、一路御嶽山の登山口へ。

御嶽山といえば、まだ記憶に新しい噴火災害が2014年にあった。先日8月22日には、噴火が起こってからはじめて警戒レベルが引き下げられ、レベル2(火口周辺規制)から、一番低い1(活火山であることに留意)になった。僕たちが向かったのはその前だから、これから紹介する内容と現在とでは情報が異なっているかもしれない事は注意して頂けると幸いだ。

御嶽山 トレイルランニング

トップトレイルランナーとしても有名な大瀬くんは王滝村で地域おこし協力隊をしている。周辺の山々に足を運ぶことも多いそうで、話を聞いてみると新たな発見が多くあった。

今回のルートはそんな大瀬くんからの提案で、黒沢口登山道から御嶽山に入る。王滝村から入る王滝口登山道からだと九合目避難小屋までとなり、その先は行き止まり。御嶽山の北側に位置する三ノ池までは足を運べない。

御嶽山のトレイルラン開始

準備を整えた僕らは約2,200mの登山口から約2,900mのニノ池本館までまずは向かう。どんどん突き進む大瀬くん、それに着いていく高橋くん。『むむっ。早い…。』完全に遅れをとりながら、とにかく前へ前へと進む。

御嶽山は富士山や白山、立山と並んで、山岳信仰の山だから御嶽信仰に関わる石碑や鐘が多いと大瀬くんが説明してくれた。僕たちは御嶽山にお邪魔しますという気持ちを込めて手を合わせる。

登山口から程なく行場山荘に。非常に趣のある今まであまり見たことの無い空間で、ゆっくりと休憩する登山客の方々もちらほら見受けられた。

地図上に明記の1時間10分のコースを30分ほどで登り、到着したのは女人堂。多くの霊神碑があり山岳信仰が今でも盛んに行われていることがよくわかる。

九合目の石室山荘まで800mとある。このあたりから雨で流れ落ちていずに残っている噴火の灰を見ることができると大瀬くんが教えてくれた。

御嶽山 トレイルランニング

どんどん登っていく2人に置いてきぼりになりながらも、森林限界を越え、世界がガラリと変わった違いの大きさに驚く僕。

御嶽山 トレイルランニング

ふと登山道を見ると、火山灰がある。

御嶽山 トレイルランニング

周りの景色を眺めながら大瀬くんに御嶽山の噴火場所を教えてもらう。そして噴火時にこの黒い大きな噴火石が空から落ちてきたことを聞くと驚かずにはいられなかった。被害に会われた方、関係者の方々の想像を絶する思いを感じ、身が引き締まる。山の面白さと同時に山の厳しさ、怖さを改めて知り、ファーストエイドやエマージェンシーキットなどの常備、緊急時の対処の重要性を改めて考える。

御嶽山の噴火、その過酷な状況を振り返る

御嶽山 トレイルランニング

あるニュースサイトでこの噴火時に山の上で取り残されながらも生還した女性が語っていた内容に『この噴火があった登山の際、日帰りでも簡易テントは必ず携行し、3千メートル級の山にはダウンジャケットも持っていくことは大事だと思う。一夜を山の上で明かさなければならなかったとき、夜になるまで生存していながら周囲で亡くなった登山客は、ダウンジャケットや簡易テントは持っていなかったようだった。生死を分けたのは「その差」と思っている』と語っていた。彼女はこの災害で片手を失いながらも、登山は今でも楽しんでいるとも書いてあった。

色々と考えさせられる現実を目のあたりにしながらも、やはりこの怖さは一般の登山客の方々にも浸透しているのか、とにかく非常に人が少なく感じる。

人が少ない分、山と対峙しているような気分で、このトレイルを走り楽しめたのは、なんとも贅沢な時間だったと正直な気持ちを認める。

ニノ池に到着すると「噴火前はここ全てがエメラルドグリーンの水で景色が楽しめる池だったんだけど、噴火後は火山灰で池の半分が埋もれ、水も濁ってしまった」と大瀬くん。

以前御嶽山に登ったことがありニノ池を見たことがある人には驚くような景色なのだろう。ネットで画像を見るとその違いはよくわかる。

このニノ池の近くにはニノ池本館、ニノ池新館と山小屋があるが、本館は工事中で18年にオープンを目指しているという。新館は残念ながら営業を停止しており、今後の対応を検討しているという。(2017年9月現在)

御嶽山の安全がある程度信頼できる状態になった現在、この素晴らしい山に少しでも足を運んで応援したい気持ちになった情報だった。

御嶽山のトレイルラン後半戦

御嶽山 トレイルランニング

ここで地図を広げてこれからのルートを再確認。サイノ河原を抜け、三ノ池をぐるりと周遊し、別のルートを通って先ほどの女人堂に戻るという。

御嶽山 トレイルランニング

登りも下りも緩やかに続くトレイルは僕たち以外人はいない。こうしてサイノ河原を通るとなんとも不思議な気持ちになる。

ケルンが無数に並ぶ様は、まさしく冥途の三途の川の河原という趣。今までの御嶽信仰に関わる様々な景色を目のあたりにしていた僕らはこの御嶽山という山の魅力の虜になっていた。

御嶽山 トレイルランニング

「ちょっと休もう!」とガスストーブとクッカーでお湯を沸かし始める大瀬くん。これから僕たちに暖かなコーヒーを振る舞ってくれるという。トップランナーでこの心づかい、にくい男だ(笑)。頂いたコーヒーはなんとも格別で僕も高橋くんも唸るほど美味しかった。

ここから三ノ池避難小屋に降りていくと雷鳥に遭遇。僕は生まれて初めての雷鳥だった。泣き声はクックックッといった具合。子供を引き連れるメスの雷鳥のようだった。

御嶽山 トレイルランニング
御嶽山 トレイルランニング
御嶽山 トレイルランニング

「ここからのトレイルが走れて面白いんだよ」と女人堂に戻るルートを紹介してくれた。こうして登山口にある駐車場に向かう途中も「走れるトレイルを通っていこう」と僕らの知らないルートを教えてくれた大瀬くん。

御嶽山 トレイルランニング

走りながら僕と高橋くんはなんだか不思議な感動に包まれていた。信仰深い山の中に流れる凛とした空気と、噴火後に静まりかえった御嶽山。途中出会う人々から感じる真摯な態度や姿勢。子ども達だって文句一つ言わずがんばって登っている。そんな風景にぎゅっと心を掴まれたような、どうも言葉に表しづらい感動は、今まで味わったことのないものだった。高橋くんがトレイルを下っているその時に口にした「俺、なんだか泣きそう」という言葉がとっても印象的だった。

御嶽山 トレイルランニング

「いいトレイルでしょ、ほんと沢山の人に御嶽山に訪れて楽しんで欲しい」と心から願う大瀬くんのその言葉は、何とも心に沁みた。御嶽山で登山客や御嶽信仰の行者さんとすれ違うたびに、毎度毎度丁寧に声をかける大瀬くんはまさしく地元の人そのものだった。

僕たちはそんな彼の背中を見て(それこそ本当に後ろから追いかけるように走っていたから背中しか見れなかったのだが)感動したのかもしれなかった。

実に充実した時間を過ごした僕らはナミネムくんを駅に迎えに車を走らせた。これから、とてつもない感動が待っているとは、まだこの時に知る由もない。

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