秋冬の登山でテント泊をする時に最も気になる装備の1つにシュラフがあります。寒くて目が冷めないだろうか?と不安に感じられる方は多いと思います。今回は0度前後の気温で安心して寝ることができる軽量なシュラフの選び方とおすすめのモデル、そして快適に寝るためのTipsを紹介します。
寒い季節の登山で快適に寝るためのTips
まずはじめに寒い季節の登山で快適に寝るためには、どのような対策をとるべきか?という点からお話をしていきます。
寝る時に使用することが考えられるアイテムをまずリストアップしてみましょう。
- ★テント
- ★テントマット
- グランドシート
- ★◆エマージェンシーブランケット
- ★◆エマージェンシーヴィヴィ
- 枕
- ★◆ダウンジャケット
- ★◆ダウンパンツ
- ソックス
- ニット帽
- ネックウォーマー
- ホッカイロ・湯たんぽ(状況による)
- 腹巻き
- 着替え
ざっと挙げだして14種類ありました。枕を除いていづれも寒さから体を守るために使用するアイテムです。これらのリストの中で★がついているものは秋冬のテント泊登山で必須装備に数えられるものです。◆がついているものは山小屋泊登山で必須装備に数えられるものです。
これらの必須装備を宿泊する時に使用することでシュラフを軽量化することができます。例えば夜中2時頃の外気温が-5度だった場合
- テントの内外気温差:約3度(モンベルのステラリッジを使用してのテスト結果)
- ダウンウェアを着用することでさらに体を温める:追加温度はダウンによって異なる(コンサバに見て仮で+2度)※想定外で寒さが厳しい場合はシェルジャケットなどを着用する
- エマージェンシーヴィヴィを使用して熱の断熱と遮熱効果を高める(コンサバに見て仮で+1度)
-5度+3度(テントの内外気温差)+2度(ダウンウェアを着用)+1度(エマージェンシーヴィヴィを使用)=1度
上記のような計算ができ、シュラフの快適使用温度を-5度ではなく1度で考えることで軽量化を行うことができます。
また寒い季節の登山で寝る時には、上で挙げた14種類の道具について考えることで、冷えの防止、さらに快適に寝ることが可能です。
テント
本体のメッシュ生地が少ない、フライシートが地面近くまであることで冷気の侵入を防ぐ。
テントマット
R値は4.0で外気温5度、5.0で外気温0度、6.0で外気温ー5度と考えて、この基準を下回ると寒くて起きてしまう可能性が高くなる。
グランドシート
テントマットのR値に不安がある場合、使用することで地面からの冷えを抑制することができる。
エマージェンシーブランケット
テント内に敷き詰めることで地面からの冷えを抑制することができるとともに、テントの壁から滴った結露がブランケットの下に落ちるのでシュラフの濡れを防ぐことができる。
エマージェンシーヴィヴィ
シュラフの上にかぶせることでシュラフカバーのような役割で結露による濡れ、冷気の侵入を抑制することができる。
ダウンジャケット&パンツ
寝ている時の保温力を高めることができる。
ソックス
足首〜ふくらはぎを温めて寝ると足先の冷え防止に貢献する(実感としてかなり高い)ので、レッグウォーマーや足首だけを温めるソックスを準備。
ニット帽
頭や耳が寒いと感じた場合活用すること以外に、目を覆うことでアイマスクの役割を果たす。
ネックウォーマー
首を温めると体全体温かくなる。
ホッカイロ・湯たんぽ
使い捨てカイロは酸素濃度が薄いところでは発熱しない。標高が低いとこでは活用することができる。水筒にお湯を入れて足元に置くことでシュラフ内を温め、寒い時には快適に寝ることができる。
腹巻き
体の中心部(腸)を温めることで体温を効率よく上げることができる。体が冷えることで起きる不調を改善する効果もある。
着替え
付着したベースレイヤーやミドルレイヤーを着用していると、気化熱によって体を冷やすため、体の芯を冷やさないために着替える。
ここまでが実際に秋冬の登山で僕が実践していることです。
0度前後の気温で安心して寝ることができる軽量なシュラフの選び方
このように秋冬の登山で快適に寝るためにはシュラフだけで考えるのではないことがお分かりいただけたかと思います。次に0度前後の気温で安心して寝ることができる軽量なシュラフの選び方です。
温度域はコンフォート温度で選ぶ
EN13537という英語と数字で表現されるシュラフの温度規格ヨーロピアンノームは、消費者がシュラフを比較しやすいようにメーカーで採用されている規格です。このヨーロピアンロームでは3つの温度帯で表記されています。
- 快適温度(Comfort:コンフォート):標準的な女性が寒さを感じることなく寝ることができる温度。
- 限界温度(Limit:リミット):標準的な男性が丸まった状態で8時間眠ることができる温度。
- 極限温度(Extreme:エクストリーム):標準的な女性が膝を抱えるくらい丸まった状態で低体温症のリスクなしで6時間までなら耐えられる温度。
あくまでこの考え方は目安で、筋肉量の関係で寒がりな人が多い日本人に当てはめて考えない方が良いという意見もありますが、個人的には今まで様々なシュラフを使っていて快適温度で考えることで寒さを感じずに寝ることができています。
個人差があることなので、寒がりな人は快適温度+保険温度というように+1〜3度ぐらいで検討すると良いでしょう。逆に筋肉量が多く暑がりな人はリミット温度を基準に考える方法もあると思います。
ドラフトチューブのありなしをチェックする
シュラフに取り付けられているジッパーからのヒートロスを抑えるドラフトチューブがあるかないかで、保温力に大きな違いが生じます。
また首から肩周辺に設けられたフードドラフトカラーのありなしも、断熱と遮熱の効果に大きな違いがあるため、寝相が悪い人は特にドラフトカラーのありなしをチェックしましょう。
シュラフが採用している構造をチェックする
シュラフの構造には大きく分けてシングルキルトとボックスキルトの2種類があり、それぞれメリットとデメリットがあります。
※横スクロールで表がスクロールできます。キルト構造 | シングルキルト | ボックスキルト |
---|---|---|
特徴 | 表地と裏地を直接縫い合わせてボックスを作り、作られたボックスの中にダウンが封入されています。直接縫い合わせることでコールドスポットが作られやすいために温暖な時期のシュラフに見られる構造です。 | ダウンの保温性能を生かすために縦横にボックスを作っています。表地と裏地を直接縫い合わせていないのでコールドスポットがなく保温力に優れています。 |
構造イメージ | ||
軽量性 | 軽い | 重い |
保温力 | 低い | 高い |
価格 | 安い | 高い |
0度前後を想定したおすすめの軽量シュラフ
- 外気温が0度だった場合は:0度(外気温)+3度(テントの内外気温差)+2度(ダウンウェアを着用)+1度(エマージェンシーヴィヴィを使用)=6度
- 外気温が-5度だった場合は:-5度(外気温)+3度(テントの内外気温差)+2度(ダウンウェアを着用)+1度(エマージェンシーヴィヴィを使用)=1度
寒がりな人にもおすすめできる、シュラフの快適温度が-2〜6度のモデルを紹介します。
シートゥサミット『スパークSpII』
- 重量:505g
- 快適温度:4度
- 中綿:850+FPの撥水ダウン
- ダウン重量:300g
- ドラフトチューブ:あり
- フードドラフトカラー:あり
- 構造:胴から上がボックス、下がシングル
- 価格:¥53,570(税込)
軽量コンパクトを追求した保温性に優れたシュラフです。体を温めるべき胴から上はボックス構造で、ダウンが移動しづらいように縦型バッフルを配置し、下半身には軽量化のためにシングル構造で横型バッフルを配置しています。
使用しているジッパーはシュラフの半分ぐらいまでの長さで、ダブルジッパーなので換気することもできます。さらに体が大きい人や、寝相が悪い人にも快適に寝ることができるように肩と腰にゆとりがあります。
シートゥサミット『スパークSpIII』
- 重量:665g
- 快適温度:-2度
- 中綿:850+FPの撥水ダウン
- ダウン重量:430g
- ドラフトチューブ:あり
- フードドラフトカラー:あり
- 構造:ボックス構造
- 価格:¥62,260(税込)
全体がボックス構造でコールドスポットを排除した寒がりな人におすすめのシュラフです。氷点下の寒さに対応するモデルでデザインや機能性は上で紹介した『スパークSpII』と同様です。
Rab『ミシックウルトラ180』
- 重量:400g
- 快適温度:6度
- 中綿:900FPの撥水ダウン
- ダウン重量:不明
- ドラフトチューブ:あり
- フードドラフトカラー:なし
- 構造:ボックス構造
- 価格:¥82,500(税込)
熱反射性のサーモ・アイオニック・ライニング・テクノロジーがシュラフの内側に施され体から出た熱を反射し保温力を高めています。短いジッパーによるコールドスポットの削減など快適温度以下での使用でも非常に暖かいシュラフです。
モンベル『シームレスダウンハガー800#3』
- 重量:531g
- 快適温度:4度
- 中綿:800FP
- ダウン重量:不明
- ドラフトチューブ:あり
- フードドラフトカラー:あり
- 構造:スパイダーバッフルシステム
- 価格:¥34,100(税込)
モンベルのシュラフは他のメーカーのシュラフとは異なった、2つの特徴があります。1つはスーパースパイラルストレッチシステムで伸縮率135%で、シュラフがストレッチします。これによって寝ている時に足を曲げる、腕を曲げるなどで突っ張り感がありません。
またスパイダーバッフルシステムはシュラフの内部に特殊な糸が張り巡らされ、この糸に一定量のダウンが絡みつくことで隔壁をなくしコールドスポットができにくくなっています。
モンベル『シームレスダウンハガー800#2』
- 重量:677g
- 快適温度:0度
- 中綿:800FP
- ダウン重量:不明
- ドラフトチューブ:あり
- フードドラフトカラー:あり
- 構造:スパイダーバッフルシステム
- 価格:¥42,900(税込)
『シームレスダウンハガー800#3』の次に保温力に優れたモデルです。寒がりな女性に人気のモデルです。
ウエスタンマウンテニアリング『サマーライト』
- 重量:540g
- 使用温度域:0度
- 中綿:850+FP
- ダウン重量:255g
- ドラフトチューブ:あり
- フードドラフトカラー:なし
- 構造:コンティニュアスバッフル
- 価格:¥76,120(税込)
高品質で保温力に優れたダウンを使用した軽量で暖かなシュラフです。フィルパワーにおいては独自のテストで現実的に評価した測定を採用しています。またダウンが含有するガチョウ由来の油分を洗わずに使用することで半永久的に撥水性を保ちます。本来ならばこの油分が嫌な臭いを引き起こすのでどのメーカーも洗浄するのが常とされていますが、ウエスタンマウンテニアリングは異なります。
よってダウン重量わずか255gなのに対し使用可能な温度域が0度であることからも、非常に優れたダウンであることが想像できます。ちなみにウエスタンマウンテニアリングはヨーロピアンノームを採用せず独自の厳しいテストで最低の温度域を使用温度域という言い方で表現しています。
サマーライトはコンティニュアスバッフルと呼ばれる保温性の調整が可能な構造を使用しています。背中側に来る羽毛を体の前側に移動させることで保温力を向上させることができます。表地素材には高密度な素材を使用することで保温力の低下を防いでいます。
サーマレスト『ハイペリオン』
- 重量:577g
- 使用温度域:0度
- 中綿:900FPの撥水ダウン
- ダウン重量:360g
- ドラフトチューブ:あり
- フードドラフトカラー:あり
- 構造:ボックス構造
- 価格:¥97,900(税込)
非常に高価なシュラフですが360gのダウン重量に対して,総重量が577gと驚くような軽さのシュラフです。その上ボックス構造やドラフトチューブなど採用していることに驚きです。シュラフはサーマレストらしくテントマットとつなげることができマットからの落下を防止します。米バックパッカー誌の2019年エディターズチョイスを受賞しています。
ナンガ『MINIMARHYTHM5BELOW』
- 重量:540g
- 使用温度域:1度(下限使用温度-5度から+6度で計算)
- 中綿:770FP
- ダウン重量:250g
- ドラフトチューブ:なし
- フードドラフトカラー:なし
- 構造:体前面ボックス構造・背中側シングル構造
- 価格:¥49,500(税込)
ナンガのシュラフの中で最軽量のモデルです。そのため表生地は7デニールの非常に薄い素材で、ファスナーは極力削られたミニマムなデザインです。ダウンが潰れてしまう背中側はシングル構造で、体の全面側に構造を配置したユニークな作りです。オフィシャルサイトでは-5℃(NANGA基準)と記載があり、これがヨーロッピアンノームのリミット温度と近いという情報から、他のシュラフを参考に+6度で使用温度域1度と紹介させていただいています。
ナンガ『オーロラライト350SPDX』
- 重量:730g
- 使用温度域:0度(下限使用温度-6度から+6度で計算)
- 中綿:860FP(93%、7%フェザー)
- ダウン重量:350g
- ドラフトチューブ:あり
- フードドラフトカラー:あり
- 構造:シングル構造
- 価格:¥66,000(税込)
ナンガのシュラフのフラグシップモデルに位置付けられる代表的なシュラフです。ナンガのオーロラモデルよりも軽量コンパクトで、登山ユーザーに人気のあるモデルです。
そのほかのシュラフについて
その他にも登山用シュラフとして有名なブランドにISUKA、NEMOなどがありますが、軽量とは言えない重量があることから省かせていただきました。