今回紹介するのは2022年に登場した、「設計思想や技術をコスト度外視で追求する新たな試み」として生まれたザック、オスプレーのアンリミテッドを紹介します。トップローディング型で4シーズン対応の「エアスケープ」と、クラムシェル型で3シーズン対応の「アンチグラビティ」の2タイプがあり、今回紹介するのはエアスケープです。
通常コスト的に難しい素材や製造工程を見直す必要があるのですが、このザックは自由な発想で検討を重ねて2年間開発に費やされています。背負い心地の素晴らしさは最高で、荷物の重さを感じさせない不思議な背負い心地を感じることができるザックです。
今回はアンリミテッドのスペックを紹介し、最大のイノベーションとも呼べる新たな試みの概要を説明し、それぞれ細かなデザインと特徴を紹介していきます。
アンリミテッドエアスケープ68のスペック
アンリミテッドエアスケープ68 メンズ
価格:¥100,100(税込)※2023年12月現在
重量
- S/M=2.23kg
- L/XL=2.25kg
容量
- S/M=68リットル
- L/XL=68リットル
背面長
- S/M=40.5~51cm
- L/XL=48~58.5cm
推奨パッキングウェイト
- 14~27kg
メイン素材
- 210Dハイテナシティナイロン+UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)リップストップグリッド、PFCフリーDWR
アンリミテッドエアスケープ68 ウィメンズ
価格:¥100,100(税込)※2023年12月現在
重量
- WXS/S=2.19kg
- WM/L=2.21kg
背面長
- WXS/S=33~43cm
- WM/L=40.5~51cm
容量、推奨パッキングウェイト、メイン素材はメンズモデルと同様です。
アンリミテッドの最大のイノベーション
最大のイノベーションは腰にあたるパッドに3Dプリンティングを採用したことです。また超高分子量ポリエチレンを使った高強度の生地を開発し、これをザックのメイン素材として使用しています。この素材はグリッド状に配することでオスプレー史上最もタフな生地となっています。
フレームはハイカーボンステンレス鋼、射出成形と言って金型を用いた成形法のハブで高い引き裂き強度を備えています。これによって推奨パッキングウェイト14~27kgと従来のザックを上回る荷重を支えることができるようにデザインされています。
真空成形したポリカーボネートで開発されたフレームシートは、空気の通り道を設け、この上に熱成形したEVAパネルを重ねています。このEVAパネルをメッシュ生地で覆い優れた通気性で登山中の背中を快適に保つことができます。
専用樹脂パーツにおいてもアンリミテッド専用にいちから開発され使い心地に優れた特徴を備えています。
細かなデザインと特徴
今回紹介するアンリミテッドエアスケープ68は他のザックとは異なった様々な特徴を備えており、使い心地に優れていることはもちろん、非常にユニークなデザインだと感じてもらえる点が多いです。1つ1つ見ていきましょう。
ランバーパッド
ランバーパッドとはザックを背負った時に腰に当たる部分のパッドです。このパッドは3Dプリンティングで作られています。六角形のハニカム構造が重なっている優れたクッション性で、ザックの重量が登山中、体にダイレクトに伝わらない弾力感があります。また保水せず通気性が備わっているのも特徴です。
実際に背負ってウエストベルトを閉めた時にランバーパッドの弾力感で腰回り全体が均等にフィットされている感覚があって腰荷重のクオリティが格段にアップしているような感覚です。
背面パッドとフィット感
背面パッドはEVAパネルとメッシュ素材による通気性で背中から出た熱や湿気を効果的に背中上部から排出する構造です。
フィット感はこのザックの最も味わい深い部分で、今まで触ったことのないような程よく形状記憶するクッション性に優れた素材がショルダーハーネスの内側に備えられており、ウエストベルトの内側には上質なクッション素材と滑り止めがプリントされており、高級車に乗っているような背中へのフィット感と、ザックが左右にぶれない構造に驚かされます。
バックパックの重心調整に重要なロードリフターストラップの存在
ショルダーストラップの頂点から荷室へ繋がるストラップがロードリフターストラップと呼ばれる部位です。ロードリフターストラップがあることでバックパックの重心を上半身へ移し、バランスよく荷重を分散して背負うことができるようになります。
アンリミテッドエアスケープ68にはこのロードリフターがショルダーハーネスと一体化されています。非常にユニークな作りでショルダーハーネスが二重構造になっています。
ショルダーハーネスの下の部分についているストラップを閉めることでロードリフターストラップとショルダーハーネスを同時に調整することができ、ロードリフターストラップを調整することを忘れてしまったりすることなくベストな形でザックを体にフィットさせることができます。
背面調整
背面調整の設定も非常にユニークな作りです。左右に設けられた、漢字の「人」の字のようなマークを目印に調整することができます。左右の下部に設けられたカムロック式のレバーで微調整することができます。
ウエスト調整
オスプレー独自のウエスト調整フィットオンザフライを採用しています。これはウエストハーネスに備えられているので、これを外して長さを調整することができます。
フレーム
フレームは軽量だけれども非常に太い物が使用されており重い荷物を背負っても体に負担をかけないねじれ剛性の高い特徴があります。フレームは外周部分以外にランバーパッドの内側にも備えられていて、他のザックと比較するとねじれ剛性がさらに改善されています。
トップリッド
トップリッドはフロント部分のバックル、背面側に取り付けられたバックル、合計4箇所のバックルで取り外すことができます。取り外したトップリッドは、上部のジッパーに収められたショルダーハーネスを取り出せばザックに様変わりします。
このザックはほどよくクッション性のあるショルダーハーネス、ハイドレーションを収納することができるポケット、かなりの容量を収納することができるメインポケットジッパー付きのフロントポケット2つ備えられており、アタックザックとしてはもちろん、日帰り登山用ザックとしてもしっかりと機能します。
トップリットを取り外すとメインのザックの上部はトップローディングのメインポケットの中に雨が入らないように上から蓋をすることができるような生地が備えられています。使用しない時にはジッパーポケットの中に収納しておくことができます。
メインポケット
トップローディングのメインポケットは、上部から圧縮させながら登山装備をパッキングしやすく、ポケット内部にはシンプルな構造で余計なポケットなどは一切ありません。
メインポケットはザックを正面から見てU字型にダブルジッパーで開閉することができて、ポケットの中を大きく開くことができます。このジッパーを上手に使えば、ザックの底、左右などに直接アクセスすることができます。またテント場について荷物を取り出す時に大きく開閉するので便利です。
ポケットのボトム部分には気室を分けることができるバックル付きの生地が備わっています。バックルのストラップでボトム部分の容量を調整することができます。
フロントポケット
メインポケットとは別に素早くアクセスすることができるジッパー付きのフロントポケットが左右それぞれについています。ジッパーはフロントの生地に隠れるように備えられているので雨が降っても中には水が侵入しないように作られています。
フロントポケットがこのように2つに分かれているので、整理してものを収納しておくのに便利です。ただし縦長のポケットなので、小物類を収納すると全てボトム部分にまとまってしまいます。また重いものを収納すると重心位置が後方になってしまうので、すぐに取り出したいレインジャケットなどを収納しておくのに便利です。
ボトムポケット
ボトム部分のポケットには専用のレインカバーが備わっていますこのレインカバーは軽量で耐久性のあるハイテナシティーナイロンをシリコン加工した素材でしっかりと雨を弾きます。
ウエストポケット
ウエストに取り付けられたポケットは左側のみで、ザックを背負った状態でものの取り出しが容易に行える三角形の構造です。シングルジッパーでジッパータブは掴みやすく、片手で開け閉めも簡単に行えるようにデザインされています。
サイドポケットはストレッチ素材が使用された大容量のポケットが左右それぞれ取り付けられています。右側はウエストポケットがない分容量が大きいです。ポケットのアクセスは2箇所あり、中で繋がっています。
トレッキングポールを固定するループ&コード
オスプレーの多くのザックに取り入れられている、登山中素早くトレッキングポールを固定することができるループとコードが取り付けられています。
オスプレー製トラベルカバー
アンリミテッド専用のトラベルカバーはザックを購入すると付属品としてついてきます。この袋はパッカブルになっていて、ワンショルダーの縦型のバッグになっています。例えば飛行機でこのザックを持って行く時に、バックルやハーネスが何かと引っかかってしまわないように、このトラベルカバーの中にザックを収納することができます。
ザックを収納した後も容量に余裕があるので、ちょっとした荷物も収納することができます。
まとめ
オスプレーのアンリミテッドはベースとなるバックパックの性能を引き継ぎつつ、よりハイレベルな快適さと荷重コントロール、さらに耐久性を実感することができるザックで、道具によって登山中の快適さの違いが分かる方でしたら、技術の進歩に感動するザックに仕上がっています。このザックは価格にこだわらずに開発を追求したモデルなのでどちらも税込みで約10万円と非常に高価なものですが、ここからオスプレーの新たな進化が始まると想像するとワクワクします。