レインパンツは、山間部の強い風雨を防ぐために欠かせない登山の必需品です。登山用レインパンツに使用される素材は、雨を防いで汗蒸れを放出する「防水透湿素材」です。多くのアウトドアブランドで独自の防水透湿素材を開発し、さまざまなレインパンツに採用しています。本記事ではレインパンツの選び方に加えて、各ブランド独自の防水透湿素材の特徴やおすすめレインパンツを紹介します。
レインパンツの必要性
着脱に手間が掛かるレインパンツは、さっと羽織れるレインジャケットに比べ、出番少なめのアイテムです。しかし平地より悪天候に見舞われやすい山間部では、レインパンツ無しに安全・快適な登山はできません。ここではレインパンツの必要性・メリットについて紹介します。
横・下から吹き付ける雨を防げる
風が強い山中では、雨が上だけでなく横や下から吹き付けることも珍しくありません。レインジャケットのみ、もしくはポンチョ・レインコートでは裾から雨が入り、下半身がびしょ濡れになってしまいます。登山中の体の濡れは、低体温症を引き起こすため絶対避けるべき事態です。レインパンツ着用であれば、雨が四方から吹き付けても下半身をしっかりカバーできます。
跳ね上げによる汚れを防ぐ
雨天時や雨上がりの山道は、小さな流れやぬかるみだらけです。歩く度に水や泥がはね、パンツが濡れたり泥で汚れたりします。多くの登山用レインパンツは、防水性とともに撥水性にも優れており、パンツの濡れや汚れを防げます。
草木に付いた雨・露で濡れるのを防ぐ
草木に付いた雨だけでなく、朝露も登山ウェアが濡れる原因の一つです。早い時間の登山では、朝露で植物がしっとり濡れています。濡れた笹やハイマツの茂みを進む際も、レインパンツが衣服が濡れるのを防ぎます。
風をブロックして体温低下を防ぐ
登山中は、雨だけでなく冷たい風も体温を奪います。防水透湿素材は、防水性・透湿性とともに防風性も併せ持つ素材です。パンツ内に風を通さず、体温低下を防ぎます。
登山用レインパンツの選び方8つのポイント
登山用レインパンツは以下の8つのポイントを押さえると、登山スタイルにピッタリの製品が選べます。
- ブランド独自の防水透湿素材で選ぶ
- 登山に必要な防水性
- 登山に必要な透湿性
- 撥水性があると濡れにくく汚れにくい
- 生地の厚さで選ぶ
- 着脱しやすいさ
- 動きやすさ
- プラスアルファの機能で選ぶ
1.ブランド独自の防水透湿素材で選ぶ
登山用レインパンツは、防水性と透湿性を併せ持つ「防水透湿素材」が使われます。防水透湿素材の代名詞ともいえるのが、アメリカの材料科学企業「ゴア社」が開発した「ゴアテックス」です。最強のスペックを持つゴアテックスは、多くのブランドでレインウェアやシューズに採用される非常に信頼度の高い素材です。
その他にモンベルの「ドライテック」やザ・ノースフェイスの「フューチャーライト」など、多くのアウトドアブランドが独自の防水透湿素材を開発し、レインパンツに採用しています。そのため一言で防水透湿素材といっても、各社の素材ごとに機能性やスペックに大きな違いがあります。
各ブランドの独自素材のメリット・デメリットなど特徴を押さえ、最も登山スタイルに合う素材を選ぶとよいでしょう。
2.登山に必要な防水性
レインパンツで、最も重視すべき防水性は「耐水圧(mm)」で表されます。これは1㎠の生地が、何mmの高さの水圧に耐えられるかを表す数値です。例えば耐水圧が10,000mmであれば、水が高さ10,000mm(10m)になるまで浸みこまないことを表しています。
キャンプやハイキングなど比較的天候が安定した環境でのアクティビティでは、耐水圧は10,000mmあれば充分です。しかし登山では、嵐のような強風雨が長時間続く場合もあります。そのため20,000mm以上の耐水圧が必要とされています。
3.登山に必要な透湿性
「透湿性」とは、生地が蒸気を通す性能です。透湿性が高ければ、蒸気となった汗を外により放出して、衣服内をドライに保てます。逆に透湿性が低ければ、汗が衣服内に残り、不快感や汗冷えの原因となります。
透湿性を表す単位は「g/㎡/24h」です。これは1㎡の生地が24時間で放出できる水分量を表します。
運動強度の高い登山用レインウェアに推奨されるのは、10,000 g/㎡/24h以上の透湿性です。透湿性10,000 g/㎡/24hの生地は、1㎡当たり24時間で10,000g(10L)もの蒸気を排出できます。暑く湿気の多い夏の登山でも汗蒸れを防ぎ、衣服内をドライで快適な状態に保ちます。
4.撥水性があると濡れにくく汚れにくい
「撥水性」とは、生地が水を弾く性能です。撥水性のある生地上では、水が球状になり転がり落ちます。撥水性が高いほど、生地に水が浸みこみにくくなります。そのため泥汚れが付いてもさっと拭き取りやすくなるでしょう。
5.生地の厚さで選ぶ
レインパンツは生地が厚いほど、耐久性・防寒性が高くなります。岩・草木での摩擦が多い過酷な環境や低温下では、厚地のレインパンツがおすすめです。
しかし厚地になるほど、当然重さ・収納サイズも大きくなります。荷物を軽くコンパクトにしたい場合や、温暖な時期は、薄手のレインパンツを選ぶのもよいでしょう。また引き裂きに強いリップストップ生地は、薄手であっても耐久性を備えています。
生地の厚さの違いは、以下に紹介する「生地のレイヤー数」と「繊維の太さ」の違いにより生まれます。
生地の構造「層(レイヤー)」による違い
防水透湿素材の中心となるのが、防水性と透湿性を生み出す「メンブレン」という素材です。メンブレンが水を防ぎ、水蒸気は通す役割を担っています。
防水透湿素材は、メンブレンの他にいくつか素材が重なった層状の構造をしており「2層(レイヤー」「2.5層(レイヤー)」「3層(レイヤー)」に分類されます。
同じゴアテックスのシリーズであっても「2層」「2.5層」「3層」と層数の違う素材があり、それぞれ違った特徴を持ちます。使用する環境や目的に合わせて、最も適した層数の素材が採用されます。
通常、層数が多いほど、耐久性・防寒性・着心地はアップしますが、同時に重量・収納サイズも大きくなる傾向です。価格も高くなる傾向のため、予算や登山スタイルに合う層数の選択が必要です。
繊維の太さ「デニール」による違い
生地の厚さを決めるもう一つの要素が繊維の太さです。繊維の太さは単位「デニール(D)」で表されます。数字が大きいほど繊維が太く、生地が厚くなります。当然、生地が厚いほど耐久性・防寒性が高くなりますが、同時に重くもなります。そのため登山スタイルに合わせて、適切なデニール数の生地を選ぶことが必要です。
6.登山中に着脱しやすいか
登山中に雨が降りだせば、登山靴のままレインパンツを履くのが一般的です。そのため、レインパンツは着脱しやすさも重要となります。
多くのレインパンツには、靴のまま着脱しやすいよう、裾付近にサイドファスナーが付いています。ファスナーの長さは裾から膝、もしくは裾から太腿までと製品ごとに違いがあります。ファスナーが長い方が、レインパンツの内側を汚さずに靴を通しやすくなるでしょう。
またサイドが完全に開く「フルオープンタイプ」は、靴を履いたままでもスムーズに着脱可能です。
7.動きやすさで選ぶ
大きく脚を動かすことも多い登山では、レインパンツは動きやすさがより重要です。レインパンツの動作性を左右する、以下の項目もチェックしましょう。
ストレッチ性
パンツの生地がほとんど伸びないと、脚の動きが妨げられて無駄に体力を使います。生地のストレッチ性が高いものであれば、脚をスムーズに動かせて体力を消耗しません。
膝の立体裁断
登山中は、膝関節を最も頻繁に大きく動かします。膝部分が立体裁断が施されたレインパンツであれば、膝が突っ張ることなくスムーズに動けます。
ゆとりあるサイズ感
多くのレインパンツは、トレッキングパンツの上から重ね着します。そのためトレッキングパンツ同様サイズでは、窮屈になり動きにくさを感じます。
トレッキングパンツの上に重ね着しても窮屈にならない、ゆとりあるサイズの選択がおすすめです。
またパンツ丈が短すぎると、靴下が濡れて、靴の中に水が浸みこんできます。登山靴と隙間ができないよう、靴が少し隠れる丈のものを選びましょう。
8.プラスアルファの機能で選ぶ
レインパンツには雨の登山を快適にする、その他の機能も備わっています。登山スタイルに合わせて、必要な機能が備わったレインパンツを選びましょう。
止水ファスナー・シームレス加工
長時間、強風雨が続くと、ファスナー・生地の縫い目からも浸水します。より高い水準で防水性を求めるなら「止水ファスナー」や「シームレス加工」採用のレインパンツがおすすめです。
止水ファスナーとは、テープ部分にポリウレタンフィルムをラミネートし、撥水性をもたせたファスナーです。完全防水ではありませんが、水が浸入しにくくなります。
シームレス加工とは、縫い目からの浸水を防ぐため、縫い目の裏に防水性の高いテープを張り付ける加工です。
ベンチレーション
ベンチレーション(換気口)があれば、暑さを感じた時に開けることで、蒸れを放出し涼しい空気を取り入れられます。
サイドファスナーが部分的に区切って開放できる「ダブルファスナータイプ」であれば、ベンチレーションとしての役割も果します。
ドローコード
裾の開口部が大きいと、隙間から水が入りやすくなります。裾にドローコード付きであれば、裾を絞り隙間をなくすことが可能です。
またストレッチ性が高く、体にフィットしたデザインのレインパンツも、裾から水が入りにくいでしょう。
防水透湿素材別おすすめレインパンツ5選
ここからは、各ブランドの独自防水透湿素材の特徴を比較します。さらに素材別のおすすめレインパンツも紹介します。
【ゴアテックス】モンベル/ストームクルーザー
長らく多くの登山者に愛されてきた、モンベルのレインウェアのフラッグシップモデルが「ストームクルーザー」です。防水透湿素材は、3層のゴアテックスが用いられています。
防水透湿素材の代名詞でもあるゴアテックスを採用した製品は、機能性と人気の高さから、高価になる傾向があります。しかしモンベルでは、ストームクルーザーも含めてゴアテックス製品が比較的手頃な価格で購入可能です。
現モデルに耐水圧の記載はないですが、旧モデルは50,000mmとされています。透湿性も35,000g/m2 ・24hrsもあり、高いスペックはあらゆる風雨に対応可能です。しかも着心地はしなやかで、レインウェアにありがちなゴワつきがありません。
レギュラータイプの他に、こちらの「フルジップタイプ」もラインナップしています。サイドがフルオープンするため、突然の雨でも靴を履いたまま、さっと履くことができます。
モンベルのレインパンツは通常の丈の他、ショート、ロングサイズも選択可能です。より自分の体形に合うパンツが選べます。
製品名 | モンベル/ストームクルーザー フルジップパンツ Men's |
価格 | ¥20,350 |
素材 | ゴアテックス ファブリクス 3レイヤー |
耐水圧 | 記載なし(20,000mm以上) |
透湿性 | 35,000g/m²・24hrs |
レイヤー数 | 3層 |
デニール | 20D |
重量 | 217g |
サイドファスナー | フルオープン |
収納袋 | あり |
その他の機能 | 撥水ファスナー・立体裁断(膝)・ドローコード付き |
ウィメンズモデル | あり |
【ドライテック】モンベル/サンダーパスパンツ
モンベル独自の防水透湿素材「ドライテック」を採用したのが「サンダーパス パンツ」です。1万円以下の手頃な価格ながら、登山に必要な防水透湿性能は充分に備えています。
生地は50デニールのやや厚地を採用しており、重量はやや重めです。その分堅牢さがあり、不慣れで転倒が多い初心者でも破損の心配が少ないでしょう。また薄手のものより、防寒性も高い点もメリットとなります。
サンダーパスも、ストームクルーザー同様、フルジップタイプやロング・ショート丈の選択可能です。
モンベル/サンダーパス パンツ Men's | |
価格 | ¥9,020 |
素材 | ドライテック®3レイヤー |
耐水圧 | 記載なし(20,000mm以上) |
透湿性 | 15,000g/m²・24hrs |
レイヤー数 | 3層 |
デニール | 50D |
重量 | 242g |
サイドファスナー | シングルファスナー |
収納袋 | あり |
その他の機能 | 撥水ファスナー・立体裁断(膝)・ドローコード付き |
ウィメンズモデル | あり |
【フューチャーライト】ザ ノース フェイス/フューチャーライトドリズルパンツ
ノースフェイスのブランド独自素材「フューチャーライト」を採用したのが「フューチャーライト ドリズルパンツ」です。フューチャーライトの大きな特長は、汗抜けのよさに繋がる高い透湿性・通気性です。さらに50Dのしっかりした素材ながら、軽くてしなやかな着心地も魅力といえるでしょう。
ただしフューチャーライトは、透湿性とともに通気性が高いため、強風雨時は寒さを感じる場合があります。高山や厳冬期の登山よりも、暑く湿気の多い夏山登山や、トレイルランニングのような運動強度高めのアクティビティに適しています。
ウエストをコードで調整できるウエストスピンドル仕様で、動きやすいサイズに調整可能です。
ザ・ノースフェイス/フューチャーライト ドリズルパンツ メンズ | |
価格 | ¥18,700 |
素材 | 50D Recycled Polyester FUTURELIGHT (3層) |
耐水圧 | 記載なし |
透湿性 | 記載なし |
レイヤー数 | 3層 |
デニール | 50D |
重量 | 記載なし |
サイドファスナー | シングルファスナー |
収納袋 | あり |
その他の機能 | 裾ドローコード付き・ウエストコード付き |
ウィメンズモデル | あり |
【ティフォン50000】ミレー/ティフォン 50000 ストレッチ トレックパンツ
ミレーの防水透湿素材「ティフォン50000」を採用したのが「ティフォン50000 ストレッチ トレック パンツ」です。 ミレー50000は、50,000g/m²・24hrsという驚異的な透湿性が最大の特徴です。汗抜けがよく、激しく動いても衣服内は快適です。またストレッチ性も高く、大きく足上げが必要な場合も動きを妨げません。
「ティフォン50000 ストレッチ トレック パンツ」はトレッキングパンツとして一枚で着用が可能です。レインパンツを別に携帯する必要がなく、荷物を減らせます。ただし長時間雨が続くと、薄手のため寒さを感じることがあります。悪天候が予想される場合は、中にタイツの着用がおすすめです。
こちらは春夏用の薄手タイプですが、秋冬には裏毛素材の「ティフォン50000ウォームシリーズ」が適しています。
ミレー/ティフォン 50000 ストレッチ トレック パンツ | |
価格 | ¥24,200 |
素材 | DRYEDGE™ TYPHON 50000 3L KNITTED BACK |
耐水圧 | 20,000mm |
透湿性 | 50,000g/m²・24hrs |
レイヤー数 | 3層 |
デニール | 50D |
重量 | 214g |
サイドファスナー | シングルファスナー |
収納袋 | 不明 |
その他の機能 | 立体裁断・ポケッタブル仕様 |
ウィメンズモデル | あり |
【エバープレス】ファイントラック/エバープレス フォトンパンツ
「エバープレス フォトンパンツ」は、ファイントラックの独自防水透湿素材「エバープレス」を採用しています。「エバープレス」は登山に充分な防水透湿性に加えて、抜群の伸縮性が特長です。また加水分解による劣化スピードを遅める加工がされており、長く防水性が続くので長期間の着用が可能です。
抜群のストレッチ性を誇る「フォトンパンツ」は、動きやすさとともにスリムなデザインも魅力です。スタイリッシュに見えるのはもちろん、レインパンツにありがちなバタつきがありません。
太腿まである長いサイドファスナーは、ダブルファスナータイプです。登山靴を履いたまま着用しやすく、暑くなった時は開放して、ベンチレーションの役割を果たします。
パンツ丈はレギュラーサイズの他、ショート・ロングタイプも選べます。
ファイントラック/エバープレス フォトンパンツ | |
価格 | ¥20,240 |
素材 | エバーブレス |
耐水圧 | 20,000mm |
透湿性 | 10,000g/m²・24hrs |
レイヤー数 | 3層 |
デニール | 15D |
重量 | 220g |
サイドファスナー | ダブルファスナー |
収納袋 | あり |
その他の機能 | ドローコード付き・ウエストコード付き・フルシームシーリング加工 |
ウィメンズモデル | あり |
【H2Noパフォーマンス・スタンダード】パタゴニア/トレントシェル3L
「H2Noパフォーマンス・スタンダード」は高い防水性・透湿性・撥水性・耐久性を持つ素材だけがクリアできるパタゴニア独自の製品テストです。テストをクリアした素材のみ「H2No」のタグを付けることが許されます。「トレントシェル3L レインパンツ」は、この厳しいテストをクリアした素材で作られており、抜群の防水性と透湿性を備えています。
デザインは立体裁断が施されたゆったりめで、動きやすいパンツに仕上がっています。
サイドファスナーは、太腿までの長さがあるダブルファスナータイプです。暑くなったら、開放して涼しい風を取り入れるベンチレーションとして活躍します。
裾部分には、裾を絞れるスナップ付きです。ジャストサイズに調整することで、雨の侵入や風によるバタつきを押さえます。
パタゴニア/メンズ・トレントシェル 3L・レイン・パンツ(レギュラー) | |
価格 | ¥17,600 |
素材 | H2Noパフォーマンス・スタンダードをクリアした防水透湿素材 |
耐水圧 | 記載なし |
透湿性 | 記載なし |
レイヤー数 | 3層 |
デニール | 50D |
重量 | 335g |
サイドファスナー | ダブルファスナー |
収納袋 | 記載なし |
その他の機能 | パッカブル機能・撥水ファスナー・立体裁断(膝)・ドローコード付き |
ウィメンズモデル | あり |
お気に入りのレインパンツで雨の日も安全・快適に登山を楽しもう!
レインパンツは四方から吹き付ける山中の雨を防ぐ、登山に欠かせないアイテムです。レインパンツに使われる防水透湿素材の選択肢には、絶対的な信頼を誇るゴアテックスの他に、各アウトドアブランドが独自開発した素材もピックアップされます。今回紹介した素材やレインパンツの特徴・登山スタイル・予算などを考慮してお気に入りのレインパンツを見つけ、雨の日も快適・安全に登山を楽しんでくださいね。