鬼怒沼山自体は眺望もなく訪れる人はまれで、ちょっとかわいそうな感じもしますが、秘境感を求めるなら最適な山ではないでしょうか。
そして秘境感といえば麓にある奥鬼怒温泉郷。
車でも行けるのは女夫渕温泉まで、そこから先は歩いてしか行けない八丁湯・加仁湯・日光沢温泉、そのさらに奥へ少し離れた手白沢温泉と、ここは奥鬼怒四湯といわれる関東最後の秘湯。
鬼怒沼の天空湿原と奥鬼怒温泉郷がセットになってはじめて魅力を発揮する鬼怒沼山登山。奥鬼怒の大自然に身をゆだねてみてはいかがでしょうか。
鬼怒沼山の基本情報と魅力
登山ルートは長い道のりですがほとんどが樹林帯の中。木陰の中を歩けるので好天での直射日光の心配がありません。苔むした岩や木、川のせせらぎなど気持ちの良い山行を楽しめます。
山の名前 | 鬼怒沼山(きぬぬまやま) |
エリア/都道府県 | 関東/栃木県・群馬県 |
山域 | 奥鬼怒 |
標高 | 2,141m |
基本情報 | 鬼怒沼山 難易度・天気などの最新登山情報 |
魅力①鬼怒沼ここは天空湿原
鬼怒沼は大きなひとつの沼ではなく、大小合わせて47余りの池塘が点在する湿原のことを言い、あの尾瀬よりも標高が約600mも高い位置に存在する日本有数の高層湿原です。
実際には「日本でも有数の高層湿原」と呼ぶほうが正解で、苗場山や立山連峰の五色ヶ原、新潟の平ヶ岳などは鬼怒沼より高い位置に存在します。
鬼怒沼の北端から、北東に約1Kmのところにある鬼怒沼山を境に群馬県側に広がるのは尾瀬という位置関係。関東平野を流れる鬼怒川の源流部にもなるところです。
チングルマやヒメシャクナゲなどが生息する高山植物の宝庫で、6月中旬のミズバショウにはじまり高山植物が次々に開花。8月下旬には草紅葉が色づき始め9月中旬には沼全体が燃えるような赤に染まります。
魅力②秘湯・奥鬼怒温泉郷
鬼怒沼山の山行とは切っても切れない奥鬼怒四湯。ここは人里離れた関東最後の秘湯と言われる日光市川俣にある温泉郷。手白沢温泉、日光沢温泉、加仁湯、八丁湯と泉質の異なる温泉宿が点在しています。
女夫淵温泉までは車の乗り入れができますが、その先の奥鬼怒四湯へは1時間30分ほど歩かなくてはたどり着けない秘湯中の秘湯。地元民が古くから利用していましたが、温泉が発見された時期は不明で温泉郷が形成されたのは昭和初期のこと。
各宿に電気・電話が引かれたのが1986年になってからで、それまではランプや自家発電の宿でした。1988年奥鬼怒スーパー林道が開通するまでは徒歩での往来に限られ、容易に訪れることのできないまさに秘境の地だったのです。
日光国立公園内にあることから車での往来は関係者のみ。また、バスでの送迎を行っているのは八丁湯と加仁湯だけで、それ以外はタクシー・徒歩・自転車に限られています。
魅力③鬼怒沼の機織姫(はたおりひめ)伝説と四十七沼の七不思議
昔、鬼怒沼には「天女のごとき乙姫が黄金に輝く機織り機で白い布を織っていた」という伝説があった。
『 テレビアニメ日本昔ばなしの「鬼怒沼の機織姫」では、機を織る姿を見たものには恐ろしい祟りがあるという言い伝えを破り、機を織る美しい娘の姿に見とれてしまった弥十という男。命からがら逃げ帰った弥十だったが、身体に糸をぐるぐる巻きにされ沼まで引きずり戻された。しかし機織り機の杼(ひ)を娘に突き立てると娘は氷が砕けるように消えてしまった。ぼんやりと村に帰ってきた弥十は顔や手足が血と泥にまみれ、手にはすばらしい細工の杼(ひ)が握りしめられていた。』
それからも鬼怒沼は春から夏にかけて見事な花を咲かせ、人を夢見心地に誘い込むのだそうです。
鬼怒沼山の難易度別登山ルート
①女夫渕温泉~日光澤温泉登山口~鬼怒沼山往復コース
奥鬼怒温泉郷のいで湯を楽しむコース。ただし難易度は高くないとはいえ距離があるため、日帰りなら早朝から入山することが原則。また、正午を限度として引き返すなど余裕を持った計画を立ててください。
おすすめは奥鬼怒温泉に前泊です。そしてコースの魅力を味わうなら下山後の温泉にはぜひとも浸かりたいところ。加仁湯・八丁湯なら夫婦渕駐車場まで送迎してもらえます。
必要日数 | 日帰り |
コースタイム | 9時間05分 |
距離 | 19.9Km |
累積標高 | 1,405m |
難易度 | ★★☆☆☆ |
コースタイム詳細
- のぼりタイム 4時間45分
女夫渕温泉→(1時間30分)→八丁湯→(15分)→加仁湯→(10分)→日光沢温泉→(1時間50分)→鬼怒沼→(20分)→鬼怒沼巡視小屋→(40分)→鬼怒沼山 - くだりタイム 4時間20分
鬼怒沼山→(35分)→鬼怒沼巡視小屋→(20分)→鬼怒沼→(1時間30分)→日光沢温泉→(15分)→加仁湯→(10分)→八丁湯→(1時間30分)→女夫渕温泉
コース詳細
女夫渕温泉駐車場からスタートします。駐車場わきの橋を渡って階段を登り下ると鬼怒の中将乙姫橋がありここを渡ります。
しばらく鬼怒川沿いの道を歩き、ほぼなだらかな樹林帯へ入ります。時折、鬼怒川渓流も見えるので気持ちの良い道です。
八丁湯に到着。すでに秘境感満載です。ここはロッジ風の建物で左わきを進むと鬼怒沼へ続きます。ほどなく歩くと加仁湯の堂々とした建物が目に飛び込んできます。
加仁湯の手前を左に行けば奥鬼怒四湯のうち最奥の手白沢温泉ですが、さらにここから40~50分歩くのです。しかし鬼怒沼へは右手の林道を進みます。
そして10分ほど歩を進めると昭和の香り漂う日光沢温泉。実はここからが本番。登山口になるので今までの道のりは序章ということになります。コースタイム的にはほぼ中間地点になりますのでここで一息ついてこの先の急登に備えましょう。登山ポストはここにあります。
次第に傾斜がきつくなりヒナタオソロシノ滝のつり橋、オロオソロシノ滝を経由します。岩や階段の登りがしばらく続き標高差400mをいっきに稼ぎます。危険個所などはないのですが体力を奪われるところ。一歩一歩確実に。
急登が終わる頃、いいタイミングでベンチが現れますので一息つきましょう。この先は、木道が敷いてあったり階段があったりぬかるんでいたりと滑りやすいので注意してください。
1時間ほど歩けば突然視界が開けて、標高2,030m天空の楽園に到着です。鬼怒沼山に向かって真っすぐ伸びる木道と咲き誇る高山植物。この景色を見れば疲れもいっきに吹き飛ぶというもの。
もっとも大きな池等は金沼。その先には存在感を示す根名草山と日光白根山が。そして鬼怒沼山への所要時間はここから約40分です。
②大清水休憩所~物見山~鬼怒沼山往復コース
尾瀬の玄関口である、大清水から物見山を経由して鬼怒沼山を目指す物見山新道。尾瀬に比べてひと気の少ないルートのため静かな山行を満喫できます。
必要日数 | 日帰り |
コースタイム | 9時間55分 |
距離 | 15.2Km |
累積標高 | 1,394m |
難易度 | ★★☆☆☆ |
コースタイム詳細
- のぼりタイム 5時間6分
大清水休憩所→(1時間1分)→湯沢出合→(3時間)→物見山→(20分)→鬼怒沼湿原北端→(35分)→鬼怒沼山分岐→(10分)→鬼怒沼山 - くだりタイム 4時間49分
鬼怒沼山→(10分)→鬼怒沼山分岐→(27分)→鬼怒沼巡視小屋→(21分)→鬼怒沼湿原南端→(25分)→鬼怒沼湿原北端→(25分)→物見山→(2時間)→湯沢出合→(1時間1分)→大清水休憩所
コース詳細
大清水休憩所からのスタート。収容力のある駐車場とトイレもあるのでうれしいですね。
まずは緩やかな根羽沢沿いの林道を進みます。その後林道は湯沢沿いになり物見山取付きの一本橋へ。この沢を渡渉します。
すると物見山までの標高差800mの急登が始まります。距離で言うと3.3Km、平均斜度14度ということでかなりの登りです。
途中、視界が開けるポイントや岩場などを越えると物見山到着。ここまでおよそ4時間30分です。そして物見山を下り切ると鬼怒沼湿原が現れます。
木道の先には日光白根山。池等に映りこむ青空と揺れるワタスゲにさわやかな風が吹き抜ければ、まぎれもなくここは天空の楽園そのもといえるでしょう。
鬼怒沼山のQ&A
Q:「鬼怒川」の「鬼怒」 何故「鬼が怒る」 と言う文字が 当てられているのですか?
1、昔、毛野国(けぬのくに)に流れていた毛野川(けぬのがわ)がなまって鬼怒川となった説。
2、読んで字のごとく、鬼が怒るように荒々しい流れから名づけられたという説。
3、昔、絹村でよく絹を洗っていたことから絹川とされ、現在に至って鬼怒川となった説。
4、水源が鬼怒沼であることから呼ばれるようになったという説。
この中でも、特に信憑性が強いのが2番といわれています。
登山口駐車場へのアクセスと各種情報
夫婦渕駐車場 鬼怒沼山登山口
駐車台数 | 70台 |
駐車料金 | 無料 |
標高 | 1,089m |
トイレ | 有り |
- 日光宇都宮道路の今市IC下車⇒国道121号線で鬼怒川温泉⇒県道23号線で川治ダム・川俣ダム経由して奥鬼怒スーパー林道ゲート手前
大清水第一駐車場
駐車台数 | 100台 |
駐車料金 | 1日 500円 |
標高 | 1,192m |
トイレ | 有り |
- 関越自動車道沼田IC⇒国道120号線~国道401号線経由で42Km 尾瀬沼方面への起点
鬼怒沼山周辺のおすすめスポット
奥鬼怒温泉郷 加仁湯
泉質の違う5本の源泉を味わうことができる「利き湯」が楽しめる温泉宿。肌がツルツルになると評判の美人の湯です。以前は混ぜて使っていた5本の源泉を、成分分析後に「それぞれの湯に入りたい」という常連客の要望に応えるため施設を改修し「利き湯 ロマンの湯」としました。
加温・加水は一切なしの自然そのままのかけ流しなので、季節や日によって湯の量、にごり方も変わるため、同じ条件のにごり湯には二度と入れないと言います。また、宿泊の場合は熊や鹿などの料理も別注文で頼むこともできます。
そして、何を隠そうここの女将さんは、雪崩に巻き込まれ車に閉じ込められながらも冷静な判断で対処し、自身の子ども2人と親類の2人の子を3晩にわたり慰め続けた精神力の持ち主。この事故はテレビや新聞でも取り上げられました。
2014年の2月、女将さんと4人の小学生は旅館から2.5Km離れた場所で雪崩に遭遇。女将さんは、まずエンジンを止め、子どもたちを裸にして一枚布に入れ人肌で暖をとり、窓ガラスからスコップで地上までの空気の通り道を作り救助を待ったのです。
建物の佇まいといい5本の源泉といい、そしてこのような素敵な女将さんのいる旅館、興味津々ですよね。バスによる送迎もありますので温泉にだけ浸かりたいというときも気軽に利用できます。
日帰り温泉
営業時間 | 9:00~15:00 |
入浴料金 | 大人 1,000円 小学生 700円 (フェイスタオル付) |
営業日 | 日帰り温泉は実施日が制限されていますので、ホームページにてご確認ください。 |
公式ホームページ | 加仁湯 |
TEL | 0288-96-0311 |
奥鬼怒温泉郷 八丁湯
日が落ちれば今でもランプの灯がともる、「日常をすべて忘れ、何もない贅沢を楽しむ」がモットーの宿。
4つある露天風呂のすぐ脇から自噴している源泉を、鮮度そのままに浴槽へ引き湯しているため、温泉本来の湯力を楽しめる100%自然湧出かけ流しが自慢の温泉宿です。
おおらかな時代の温泉文化を今なお伝える、昔ながらの混浴風呂を歴史の忘れ形見として大切に守っています。混浴風呂はすべて野天のお風呂。開業当時からの「雪見の湯」、正面に滝が流れる「滝見の湯」、高い目線から滝を眺める「石楠花の湯」の3つ。ブナやナラの森に包まれながら極上の湯浴みを体験できます。
また、女性にうれしい女性専用の滝見露天風呂や女性専用の内湯のほか、男性専用内湯は山小屋時代の面影をそのまま残す最も古い湯舟。味わいのある佇まいは常連客にも人気です。
日帰り入浴プラン
日帰り入浴プラン(要予約) | ※入浴+タオルセット+昼食+送迎 大人(中学生以上) 3,500円 小学生 3,200円 |
休館日 | 毎週火曜日 |
公式ホームページ | 八丁の湯 |
TEL | 0288-96-0306 |
奥鬼怒温泉郷 日光澤温泉
昭和6年から登山客を受け入れてきた山小屋で、昭和の古びた佇まいは長い歴史を感じさせどこかノスタルジック。現在はご夫婦と、わらび・チャンぐ・サンボの可愛い3匹の犬が山小屋を守っています。
鬼怒沼コースをはじめ、尾瀬沼方面へのコース、大清水方面へのコース、丸沼方面へのコース、日光湯元方面へのコースなど各登山口の近くに位置しているため便利な山小屋になっています。玄関横に下げてある鐘は、視界の悪い日に宿の位置を知らせるためとか。
温泉は、男女別の内湯と野趣あふれる露天風呂があり自家源泉は4本。内湯は宿泊者専用となっており24時間入浴できます。2つある露天風呂は基本混浴で、日帰りで利用できるのは露天風呂だけです。天気によって湯色が変わる神泉は有名。
日帰り温泉
営業時間 | 9:00~15:00(最終受付14:30) ※平日は清掃日があるため要確認 |
入浴料金 | 大人 600円 小人 400円 |
公式ホームページ | 日光沢温泉 |
TEL | 0288-96-0316 |
奥鬼怒温泉郷 手白澤温泉
奥鬼怒四湯のなかでも、特に一番奥の高い場所にある温泉のため秘境感は一番です。さぞひなびた温泉宿かと思いきや、15年ほど前にリニューアルしモダンなロッジ風に生まれ変わりました。客室数は6室だけという特別な空間です。
手白澤温泉初代である兵次郎が、鬼怒川の支流に湧き出ていた自噴の湯を温泉に仕立てたその名も「兵次郎の湯」。昔は湯治や登山者の傷や疲れを癒すための温泉でした。
「美肌の湯」とも言われるその供給量は毎分300リットル。この豊富な湯量を手白澤温泉のみで使用しているため、24時間かけ流し可能となっています。さらに浴室は男女別で、内湯と露天風呂がセットになっているため女性にとっては安心ですね。
ここが山奥にある温泉宿なのかと疑いたくなるほど上質・清潔な館内と、温泉を利用した床暖房の熱が優しくカラダを包み込むので深い眠りを体感できます。
ここまで、夫婦渕温泉駐車場からはスーパー林道だと歩いて約3時間30分、林道を歩けば約2時間30分です。その林道は、ほぼ平坦な道と登山道が交互にあらわれるハイキングに毛が生えた程度のため登山初心者でもOK。
日帰り入浴ができないのが残念ですが、一宿の価値ある温泉宿です。
日帰り入浴 | 不可 |
公式ホームページ | 手白澤温泉 |
TEL | 0288-96-0156 |
瀬戸合峡と川俣ダム
鬼怒川の上流に位置する瀬戸合峡は、凝灰岩が浸食されることによって生まれた峡谷で、深度100mにも及ぶ切り立った岸壁が約2kmに渡り広がっています。渓谷美と紅葉の名所としても知られ「とちぎの景勝100選」に選ばれています。
県道23号線の旧道は、眼下に瀬戸合峡を見ながら縫うように走る観光道路になっており、峡谷内にある川俣ダム正面の岸壁に架けられた吊橋「渡らっしゃい吊橋」からの眺望は絶景で、断崖を真近に感じることができます。
川俣ダムは、鬼怒川改修工事の一環として計画され、昭和41年に完成した鬼怒川の最も上流に位置するダムです。洪水による下流河川のはんらんを防ぐための洪水調節、農業用水の供給、発電のためにつくられた、アーチ式コンクリートダムの先駆けです。
ダムによってできた川俣湖の湖畔にある川俣温泉は、ダム建設によって新たに掘り当てられた珍しい温泉です。
またぎの里
30年ほど前に「ドライブイン川俣」という名前でオープン。当初はそばがメインだったそうですが、家族会議で「めずらしくておいしいまたぎグルメつくろうぜ」と生まれたのが熊や鹿などの料理。店主自ら猟に出ている超ワイルドなお店です。
熊丼、鹿丼のほか串焼きでは、いのしし焼き、サンショウウオ焼、かも焼、きじ焼などなどめずらしいメニューが並びます。看板メニューはくま丼です。秘伝の調理法で臭みがなくおいしいと評判。
肉などの仕入れがない日は、うどん・そばのみになるようです。また、不定休なため興味がある場合は確認してから行ってください。珍しもの好きの方、はなしのネタとしていかがですか?
営業時間 | 11:30~15:30 |
定休日 | 不定休 |
TEL | 0288-96-0353 |