以下は、今週土曜日に公開する予定の動画のナレーション原稿です。この文章に映像がついたものが近日公開されるので、公開されたらぜひチェックしてみてください。
01 | オープニング
こんにちは、山歩きJPです。
山旅旅チャンネル柳原さんと二泊三日の山行の、2日目の朝。標高1900mで朝を迎えるのは人生初めてではない気がするけど、子供の頃に泊まった北アルプスは、こんなに晴れてはいなかったはず。門内小屋に宿泊した昨晩、前日の睡眠不足がたたって、夕陽が沈みきるところは見られなかった。避難小屋に泊まるのは初めてで、避難小屋っててっきり、本当に遭難した人だけが泊まれるところだと思っていたので、管理人さんがいてビールを買えることとか、みんなで寝場所の譲り合いをしていることとかが新鮮だった。
小屋から歩いてきた道を振り返って、左側が西。海が見える。右側が東。遠くに町が見える。私が10時間、山小屋で普段よりも大分長い睡眠をとっている間に、地球の裏側を回ってきたんだ。太陽は本当に西へ沈み、東から登るのだと知った。
今朝は5時15分に門内小屋を出る。日の出の時間は6時。一旦北股岳を目指すけど、日の出の瞬間、どこで太陽を浴びることになるかが、重要だ。
今日の工程です。2日目の今日は、門内小屋を出たあとずっと稜線歩き。いくつかのピークや避難小屋を経由しながら、飯豊山本山をゴールにひたすら歩きます。多少のアップダウンはありますが、大展望と紅葉に気を取られてただただ楽しいボーナスタイム。約3時間半のコースタイムで、飯豊山本山、そして2日目の宿である、本山小屋のテント場に到着しました。最終日は、ダイグラ尾根を通って、一気に2000m、9時間半の下り。3日間かけて、飯豊山を大きく周回するコースです。
02 | 標高2000mを歩く
6時をすぎた。山の東側は朝で、西側は夜で。顔の掘りが深い外国人ように、山に濃い影ができる。もうとっくに朝が来ているエリアもあるが、自分自身が朝日を浴びなければまだ夜だと思い込み、北股岳を目指した。夕陽は見れなかったんだ。せめて朝日はベストポジションで。
もう、なんか当たり前みたいに雲海がずっと見える。真っ白な雲から見える山並みは、白波が立つ岩場の海にしか見えない。世の中の名付けられた者たちの中でも、雲海だけは、いつ誰が名付けても「雲海」ってつけるんじゃないかなぁ、って思う。
完全に朝が来て、全てが気持ちよく見渡せる明るさになった。でもまだ雲は上がって来てないから、秋晴れの空がすごくすごく広くて深い。
何人かの人とすれ違った。昨日本山小屋に泊まった人は、100人を超えていて、トイレで寝た人までいたらしい。トイレで寝るのは、ちょっとやだな。昨日の門内小屋の宿泊者は、テントを合わせても20組くらいだったから、ルート選びが成功しているんだなとわかって嬉しくなった。
私たちが何度も立ち止まって写真を撮るからどんどん柳原さんに置いて行かれてしまうのと、人が多くないので、時折ジュンと2人っきりになったのかと錯覚した。草に寝転んでいるとき、最高に秋だった。
緑を基調とした山肌に、秋ならではの紅葉の絵の具がぽんぽんと落ちている。と、遠くの景色に秋を感じていると、足元にもちゃんと秋を見つけられる。この葉っぱは、カナダのマークみたい。持って帰って栞にしたい。
2日目は、いろんな小屋を経由した。柳原さんが10年前に飯豊山を訪れたとき、どこかの小屋で忘れられない景色を見たそうだが、それがどこの小屋かは覚えていないらしい。小屋が見えるたびに、「ここかな、ここかな」と景色を確認する。今日その景色に、再開できるといいな。これ以上なく晴れているから、きっと見たらすぐにその場所だってわかる。ちなみにこのとき柳原さんは、ちょっと泣いています。
ここが後西小屋。ここは柳原さんのお目当ての山小屋ではなかったらしい。けど、景色が素晴らしい。360°、どの方向を見ても、市街地が見えない。
御西小屋に到着する前に、休憩中の方とすれ違って、CCレモンを飲んでいるところを見てからずっと、CCレモンが飲みたくて仕方がなかった。それで私たちが飲んでいるところを別の方が見ていたので、このコマーシャルは続き、賞味期限切れのCCレモンもきっと完売するはずだ。
風が出てきた。ウィンドブレーカー代わりにお互い新しいレインを着る。ジュンのレインは紅葉色だった。私の新しいレインだってとても可愛いのに、ここではジュンのオレンジがよく映え、ジュンばかり褒められていた。まあ、確かにとても似合っている。ジュンにも、今日の空にも。
03 | 山に2泊するということ
日帰りや、1泊の山行では、1日の中で必ず山への入り口か出口とつながらなきゃいけない。2泊の中日には、それがない。山で起き、山で眠る。昔見た映画で、「引き返すことを考えないで泳いだ」というセリフを思い出した。帰り道のことさえ考えなければ、人はどこまででも行くことができる、という意味だ。今日の私たちも、帰り道のことは全て3日目に考えればいいので、ただひたすら山の奥へ奥へ歩いていい。実際には登山計画通り、誰かに決められた安全な登山道を歩いているのだが、目指すのは人生未到の地なので、今日だけを点で見たら、あの映画のように、街のことを全て置き去りに、どこまででも行けるような気がしていた。
04 | 本山小屋へ
こんな道を歩いていけばいいなんて、昨日頑張ってことのご褒美すぎる。気持ちよくてスキップしたかったけど、リュックが重くて無理だった。
山頂手前の小さなピークに登って、今日私たちが泊まる小屋を見つめる。さっきまであんなにのんびり歩いていたのに、ゴールが見えるとこの距離が急にもどかしい。お腹も空いてきた。早く着かないかな。ここの岩場の道は、9月に登ったカイコマにちょっと似ている。
ここまできたら、本山小屋まではわずか10分。近くまで来てみたら、なんだかおしゃれな佇まいでした。飯豊山神社を横目に、本日のチェックイン。
早めに到着していたので小屋の場所取り戦争は問題ないと思っていたけど、前日100人規模の大混雑を危惧した小屋番さんに「テントがあるならできたらテント泊してほしい」と頼まれ、今日は避難小屋ではなく、テント場に泊まります。せっかくテントを持ってきていたので私はテント泊がしたいなーと思っていたので、むしろよかった。まだまだ空いているテント場の、昨日泊まった人が作ってくれたであろう区画を使って、今日の寝床を作ります。
ちなみに柳原さんがかつて見た景色は、ここでもなかったそう。結局どこなんだ。
飯豊りんどうがモチーフの山バッチを買いました。値段は1000円。ちょっと高い。
14時ごろから、超早めの晩酌スタート。1日目に引き続き、みんなが持ち寄ってくれたもので、工夫を凝らした創作料理大会。前菜でポップコーンを弾けさせて、ビーフンとか、オムレツとか、ミネストローネとか、ミルクリゾットとか。ビーフンに入っていた生野菜が、2日目のからだに特に瑞々しかった。卵ケースを買えば、生卵を山に持ってこられると知り、今後の幅が広がりそう。ジュンが持ってきたクリープとアルファ米で作るミルクリゾットは、創意工夫賞をもらっていた。ジュンがココアに入れてくれたウイスキーと、柳原さんの白ワインで、緩やかにご機嫌になっていく。顔が赤いのは、2日分の日焼けか、ワインのせいかわからなかった。お安めのワインとお高いワインでそれぞれ、格付けチェックしたのが、楽しかった。ジュンは、今日見た景色を山ノートに残していた。
05 | テント泊
陽が沈んだら一気に寒くて、急に外にいられなくなったので、横着してテントの中から夕陽を見た。夕陽を見たというより、「せっかくなので夕陽を見ることをした」くらいな感じ。二日連続、夕陽を見ながらチルすることが叶わなかった。でも今は、この秋のために買った新しい寝袋に、一刻も早く包まれたい。
眠いわけではないので、テントの中で、ウイスキーココアを飲んだり、デザートを食べたり、本を読んだりして、楽しんだ。2人で並ぶとテントの中はすごく狭いけど、すごく狭いお陰で、ライトの灯りがすごく明るい。気分はさながら、修学旅行の夜。好きな子誰だよ、みたいなテンションで、好きな食べ物なんだよ、みたいな話をする。
ジュンの、テント購入時のこだわりポイント。入り口が、テントの短辺にあるということ。そうすることで、夜目覚めたとき、頭だけ出して、星を眺めることができる。
ジュンに何度も説明されていたけど、実際にそうしてみたのは初めてだった。よく晴れた東北の星空を見上げたとき、近頃コンタクトの調子が悪いことを放置していたことを後悔した。それでも、一筋の流れ星は、目に焼き付いている。
ぼんやりと星を見ながら、不思議と体は寒くなくて、いつまででもここにいられるのかもなと思ったし、今私はこうやってジュンに運んでもらったテントで寝て、ジュンの作った料理を食べていることを急に思い出し、私は今明確に、ジュンに生かされてるんだ、って思った。私は今ジュンに守られているんだな、と思って、そのときなぜか、いつか自分の子供と山に登る日のことを、ぼんやり考えた。
06 | 3日目
再び朝を迎える。昨日よりも出発時刻が遅かったお陰で、今日はじっくりと朝日の登る瞬間を眺めていた。昨日と違って、雲海はピンク色だった。動画で見返しても、その時の気持ちをよく思い出せないのは、カメラに残った映像よりも、ずっとずっと空が綿菓子みたいな、キキララみたいなパステルカラーのピンクと青だったからだ。あれが磐梯山で、あそこが安達太良山、などと教わった。登ったことのある山は、遠くから眺めた時に、そこだけ塗り絵をしたかのように、思い出で色づいて見える。あそこに見えるのは、あの秋の磐梯山、あの夏の、安達太良山。
はじめに行程を説明したのを、覚えておりますでしょうか。3日目は、2000m11kmをひたすら下り、9時間半。今日歩くダイグラオネの登山道はなかなか急で、そして荒れていた。3日間背負っていても慣れない大荷物に、下りで重心がぶれそうになる。大変だ。でも頑張る。頑張るしかない。だって頑張らないと、帰れない。
3日目もものすごく晴れていたので、初めこそ秋を満喫してご機嫌だったが、さすがに9時間半も下りが続けば飽きてきて、最後にはホームシックになっていた。「おうちに帰りたい」とジュンと柳原さんに言った。信じられないほどの秋晴れに、飛行機雲が2本クロスで通るとか、その飛行機雲の先を見たら、君の名は。の世界みたいだったりとかで、時折気を紛らわせながら、みんなで励まし合い下山した。
最後の最後に、川にぶつかり水浴びをができた。もう嫌だと思っていたけど、最後にこんなサプライズとは、憎いですね。
柳原さんは最後に「人間は生存本能で、辛い経験の方が強く残るものなんだよね。だから楽しい思い出っていうのは案外思い出せないもので、大変だったとか辛かったとかいうのばっかり覚えているもんなんだよね。今回の旅は、きっと忘れてしまうんじゃないかな。」と言っていた。それだけ、この3日間が私たちにとって清々しく、気持ちの良い旅だったのだ。全ては覚えていられなくても、今後百名山を並べた時に見る飯豊山、という文字が塗り絵のよにで彩られて見える。
最後まで見てくださって、ありがとうございました。次の動画でまたお会いしましょう。