この文章は、12/8に公開した動画のナレーション原稿です。
01 | 久しぶりの八ヶ岳
11月中旬。場所によっては冬とも秋とも言える時期。今日私たちは、八ヶ岳にやってきた。黒百合ヒュッテで宿泊をして、天狗岳を登る。
11月中旬の八ヶ岳なら、もしかしたら積雪があるかもしれない。ジュンに言われて、今年初、雪に足跡がつけられるのかとワクワクしていたけど、雪が降りすぎるといけなくなるらしい。それは困る。降って欲しいけど、そんなに積もらないでほしい。そして私たちが行く土日は晴れてて欲しい。これが理想。と思いながら週末を迎えた。結果は見ての通り。
天気予報によると、今日よりも明日の方がお天気がいいらしい。なので、天狗岳のピークハントは明日に回した。1日目は宿泊地である、黒百合ヒュッテまでのたった3.0kmの山行だ。
八ヶ岳に訪れるのは久しぶりな気がする。と思って調べてみたら、前回登っているのは昨年のGWの赤岳鉱泉テント泊。私がテント泊デビューをした時だった。もう1年半以上ご無沙汰しているのに、私はいろんなところで「この森は八ヶ岳っぽい」と口にしていた気がする。ひんやりとした苔の香りが神秘的かつ、不思議と懐かしさを感じる森を持つ、八ヶ岳。今後も「この八ヶ岳っぽい」という表現を使わせてもいただくべく、今日はゆったりと、苔の森ハイキングを楽しみたい。
今日の行程です。唐沢鉱泉の駐車場に車を停めました。1日目は黒百合ヒュッテまで約2時間、3kmで標高差527mを登ります。11時半には黒百合ヒュッテに到着、部屋でのんびり過ごしました。2日目は日の出とともに7時前に出発。天狗の奥庭を通って、東天狗岳、西天狗岳の順にピークハント、約6時間で登山口まで戻りました。
黒百合ヒュッテと東天狗岳、西天狗岳を通る周回コースを、2日間たっぷり時間をかけて時計回りで歩きます。
02 | 黒百合ヒュッテまで
山で夜を越せる装備を背負っている。屋根のあるところ、お金を払えば食料を恵んでもらえるところに泊まれるので、今回は準備がだいぶコンパクトに感じた。10月に飯豊山で2泊3日のテント泊をしているので、ありがたみがよくわかる。あの時は、ジュンはテントを持ってくれていたし、3日間困らない分の食料が必要だったし、夜寒くて眠れなかったらどうしようと不安だった。10月のテント泊でなんだか成長した気分になれているのもあって、今日山小屋に泊まれることがものすごく贅沢なことだと理解できた。
朝日の光を見ると、冬を感じる。太陽の角度が低いからせいなのか、彩度の高い葉が落ちているからなのかわからないが、木漏れ日の色がやさしく感じる。これは冬の景色。石に張り付いた苔の渋い緑色と、柔らかい光。
ピークハントは明日に任せて、今日は黒百合ヒュッテに到着しさえすればいい。この上なくゆったり時間を使える、大人登山だ。この道をどこまでも時間をかけて歩いていいことが嬉しいけど、初めて訪れる黒百合ヒュッテが気になるのでやっぱり早く到着しないかな、と思ってしまう。ついつい目的地を目指してしまうのは、山で身についた癖か、仕事で身についた癖か、どちらだろうか。
寒くなると、カルピスが冷えて美味しく飲めるのと、アーモンドチョコが美味しく食べられるところが、好き。だったことを思い出した。
ちなみに今日はユウの弟も一緒なので、急に出てきて驚かないように。社会人2年目になりました。
苔の絨毯がふかふかすぎる。実家で飼ってる柴犬の「ひまわり」みたい。これ山全体がでっかい動物なんじゃないの、と話して盛り上がった。それもあり得る。くらいの毛並み感。
泊り用のジュンのザックの好きなところ。メッシュの中から、今日の山のお楽しみが顔を覗かせているところ。飯豊山に登った時には、ジムハイボールのおじさんとずっと目が合っていた。今日はコンソメポテチ。この登りが終わったらいただけるのだろうと思って、気分が上がる。ジュンに習って、私もメッシュの中にはお楽しみを入れることが多い。後ろを歩く人を、少しでもご機嫌にする、思いやり。
03 | あとはダラダラするだけ
この、森の中に山小屋を見つけた時の安心感って、他のものになかなか例えられない嬉しさなんだよな。ずっと「お邪魔します」って感じで山を歩いていたのに、突然自分がいていい場所を見つけたみたいな。自分がっていうか、人間が、かな。日帰り登山でも山小屋を見つけるたびにそういう感覚になってるのだから、今日自分がここに宿泊できるのなんてそりゃ嬉しすぎる。黒百合ヒュッテは、YouTubeを始めたばかりの頃、一度訪れる計画を立てたことがある。その時にジュンに聞いていた「女子人気No.1の山小屋なんだ」という情報。そんなことを聞いてしまったら、女子としてはもちろん気になるところ。ちょっとした看板のディテールが渋可愛い。
メインメニューのビーフシチューは、今日は売り切れとのこと。残念。晩御飯が楽しみで、受付で聞いてしまった。ハンバーグだそう。楽しみ。まだ11時半だけど。
夜ご飯の時間は17時。この後は部屋でゴロゴロするだけなのでお腹が減る予定がないですが、流石にあと5時間は耐えられなさそうなので、カップラーメンを食べることに。山でのカップラーメンの3分、ちゃんと待てたためしがないな。
16時半から20時半までは、電気をつけてもOK。暇つぶしのグッズは色々持ってきていましたが、個室であること、グループ登山であることを利用して、ずっとトランプゲームをして遊んだ。「ビーニー」って知ってますか。13回戦で1セット、1ゲームやるのに1時間半くらいかかるんですけど。もう1年くらい、私たちがどハマりしてやり続けてるゲームで、9時間ぶっ通しでやっちゃったこともあります。ビーニーやってると、時間がどんどん過ぎていく。
20時半、消灯時間になって突然電気が消えた。個室なので、ライトの灯りを利用して、もうちょっと大人の時間を楽しむ。
眠たくなってきたので、各々好きな時間を過ごす。ジュンは今日の山ノートを。私は持ってきた文庫本を読む。でもすぐ眠たくなっちゃった。布団がおばあちゃんちみたいな硬さ。ちょっと年末みたいな気持ち。おやすみなさい。
04 | 登頂と下山
朝。日の出とともに、お世話になった黒百合ヒュッテを後に。今日はずっと晴れる予定、ってことだったから、今日も朝日がまぶしいのかな。出発前にYAMAPを見たら、2日間で登りたい高低差の、半分以上を終えていることがわかって嬉しくなった。昨日時間的にもたくさん贅沢しちゃって、今日すごく頑張らないとなのかと思っていたので、ラッキー、助かる。今日ちょっと登ってピークハントして、後は下りだ。
黒百合ヒュッテから東天狗を登頂するコースは2つ選べたので、「天狗の奥庭」の方を通ることにした。黒百合ヒュッテからさらに山深く入っていく感じは、まさに「奥庭」って感じの入り口。日本人って天狗好きだよね。
小屋からちょっとだけ登って、この高度感。風が強いよ。サングラスが一度吹き飛ばされたけど、すぐに気づいて回収できたので、よかった。うん、流石に360°きれい。
天狗の奥庭には、池を見にきたはずだったんだけど、地図では池になっているところを上から見下ろしたら何もなかった。干上がってしまったみたい。変なの。きっと月を盗んだ大泥棒の仕業。
上に上がったら、朝日と一緒に街が見下ろせた。雲のせいで、街にはまばらに陽が落ちていて、模様ができているのが、当たり前のことなのに不思議に見える。空島の影が青海に大きく映ったみたいに、私たちのシルエットが街に落ちれば面白いのに、と思って手を振ったけど、私の影はジュンの背中に映っていた。
寒いなと思っていたら、いつの間にか私たちもすっぽりと雲に覆われていた。ものすごい曇りじゃん、と遠くを見たら、八ヶ岳南端、蓼科山の上は晴れているじゃないか。どうやらこの雲の長さはあそこまでらしい。「曇り」の大きさを見た。曇りだと思っていたこの空は、「晴れ」に現れた雲の一部なのね。この雲が風で移動して、今蓼科を通過した尻尾が私たちの上を通過するのを、気長に待とうか。
東天狗に立つと、オレンジと、緑とグレーの山肌がかっこいい道か見渡せた。曇ってるけど、すごく鮮やか。
画角の半分が雲で白く濁っているのは、雲が降りて来ているのか、私たちが雲に近づいているのか。どちらだとしても、世界のバグみたいに見える。きれいに写した山の写真を引き裂いたみたい。
下山になったら晴れ始めた。これからたどる帰路を見下ろしながら、自分の歩みが一歩一歩、街に近づいているのがわかる。ガスのように漂う雲は冬の空気の冷たさを可視化してくれたみたいに見えて、澄んだ空気とマッチした心地よさすら感じた。
下山したらまず、お風呂に入りたいな。下山してもまだお昼時だからご飯も楽しみだな。でも山にいる間は、日常から完全に分断されて、土日の間全体みたいな私になれているな。ただ歩くとか、ご飯を食べるとか、たっぷり眠るとか、自然と遊ぶとか、人と話すとか。静かな場所でそうやって時間を過ごす週末は、どんなリゾート地よりも私の心を癒して日常に帰してくれる。帰り道の渋滞さえなければ、最高なんだけどな。
今日も最後まで見てくださって、ありがとうございました。次の動画でまた、お会いしましょう。