01 | 年末年始
年末にインフルエンザになったせいで、山納めも山開きも予定通りできなかった。毎年年末は実家に帰って家族で紅白を見るし、1年で一番豪華なご飯としてすき焼きを食べるんだけど、今年はそれもできないから新年を迎えた感覚が全くなかった。初日の出は、東京の自宅の前の公園越しに朝日が出てくるところを家の中から数分眺めただけ。インスタを見ると、みんな登納めやら初日の出やら年越し山小屋泊やらやっていた。私は山でも街でもちゃんと年越しも新年らしいこともできていないから、すごく気持ちが冷める感覚があった。山に登ることも、3年間一生懸命やっていたYouTubeでの創作活動も、なんの意味があるんだっけ?って思っちゃってた。頑張りたいことを頑張り続けるためには、「それを頑張ることが自分にとって重要なことなんだ」ってある種盲目的にならないといけないと思うんだけど、「そっちじゃない」着眼点を持っちゃって、自分が一番言われたくないこと、頭の中で自分自身が言っている感覚。
とにかく山に行かないと、終われないし始まらない。そのことだけはわかっていた。
02 | ありを先生をお誘い
ありちゃんたちに声をかけたのは、本当に急遽だった。(ありちゃんとは、山好きの漫画家のありをさん。ありちゃんとの出会いは、以前こちらの記事に書きました。)
私たちが5日に登る山の候補が決まったのが直前で「群馬の山に行くことになりそう、だったらありちゃんたちも一緒に登れないかな」ってことでお声かけ。直前だからダメもとだったのに、ありちゃんとリョータくん、2人とも来てくれることになってとっても嬉しかった。2人が群馬に引っ越しをして、距離的に予定を合わせるハードルが低くなった。そのことの恩恵を早速受けられ、嬉しい気持ちになった。
登る山は、元々群馬に引っ越してきたら一緒に行きたいねと言っていた榛名山にすんなり決定。有言実行、うれしい。
03 | 早朝出発がつらい
私が年末に使う予定で母に借りていたアイゼンを母が登山で使うため、早朝に返却しないといけないというイベントが発生した。なので、実家の寄居に一度寄らないといけなかったのだけど、母が山に出発する前、指定された時間は5時だった。はえー。東京を3時半に出ることになった。当然ジュンも付き合わせることになる。大変申し訳ない。
ということで、私は2時半に起きないといけなくなったのだけど、やるべきことが終わらず寝るのが1時半になってしまった。インフルで体力が落ちていることに加えて、1ヶ月ぶりの山なのに、睡眠不足確定。本当に今年は大人としてこういうことはしないぞと思っていたのに、一発目からこれかい。今年もまた、こういうところは直せないような気がした。
アラームをセットして、スマホを胸に抱きしめて、1時間後に起きられなかったらどうしよう、と半べそかきながら就寝した。
起きたのは2時45分。寒かったし、眠かった。でも起きないと、5時までに母にアイゼンを返せなかったら絶対怒られてしまう。無理だ。眠すぎるし、寒すぎる。こんなに寒いのに、外出してわざわざ寒いところに歩きに行くの、絶対に変だ。ていうか3時は夜だ。絶対におかしい。
1週間布団の中でぬくぬく過ごした私には、3時に山に向けて外出することの心理的ハードルが非常に上がっていた。絶対に誰も悪くないのに、何かに対してぷりぷり怒りながら準備して、家を出た。車に乗り込んだら、エンジンをつけた時に「道間違いは無駄なエネルギー消費につながります。」ってナビの女性に言われて「当たり前だろ。じゃあどうしたらいいんだよ。」って思った。心に余裕がない。
ジュンの家には3時40分に到着。この10分前後の遅刻を今年は無くしたかったのに、そこもまたいつも通り。
ジュンは車に入って「あけましておめでとう」と言った。そうか、あけましておめでとうか。やっぱり全然年越しした感覚ない。私って不幸だな…と思いながら、寒くて眠くて上がらないテンションのまま夜の東京を走らせた。ジュンの姪っ子のエピソードを聞いてたら、だんだん車内があったまってきて、明るい気持ちにもなった。
寄居にて、無事にアイゼンを母に返す。5時ジャストの到着だったが、母はパジャマ姿で歯磨きをしていて「ちょうどだったね」と言われた。遅れる前提で時間を伝えられていたことに気づいて、複雑な気持ちになった。でも30年間も私の母やってるだけあって、絶対にそうするのがベスト。私でもわかる。
04 | 榛名山までの道
寄居を出てもまだまだ夜だった。ジュンが握ってきてくれたおにぎりを食べながら、群馬に向かう。おにぎりはごま油と昆布と胡麻のおにぎりで、取り出した瞬間にめちゃくちゃいい匂いがして、急に食欲が湧いた。ごま油の香りってすごい。ジュンが握ってきてくれたおにぎり、2個を遠慮することなくたいらげた。
4時5時台の高速は、流石に空いていた。順調に群馬に到着し、まだまだ時間があったのでコンビニで仮眠をとることにした。30分後にアラームをかけて、就寝。しっかりアラームの音で目覚めたので、仮眠と思えない熟睡をかましていたことを、起きた瞬間に理解できた。ということは、またまた寝起き不機嫌の再来。寒すぎて眠すぎて、これから山に登ることが無理すぎるなと思った。眠ったと時には暗かったはずだけど、起きた時にはしっかり外が明るくなっていたので、車中泊したみたいな気分(それは言い過ぎ)。
ゆるゆると化粧をして、追加の朝ごはんと行動食をコンビニで調達。久しぶりだったから、何を買ったらいいかわからなくて、無駄に時間がかかってしまった。
「榛名湖に行くにはチェーン必須」と道に書いてあり、「そうだったっけ?」と思いながら、道の様子を慎重に確認しながら向かったけど、今日は運よくなのか道は問題ないようだった。
メロディーラインの「静かな湖畔の森の影から♩」を聞きたくて、2分くらい窓を開けていたけど、車の中が冷えて不機嫌になった。この調子で本当に山登れるか?
05 | 再開
駐車場には、ありちゃんたちが先についていて、準備をしているところだった。車の外に出ているだけでも立派に見える。
窓を開けて挨拶したものの、例によって外に出る勇気が出なかったため、靴紐を縛るなどできる限りの準備を運転席から手の届く範囲で行った。横着の極み。ジュンも準備ができたので、「よし行くよ、エンジン消すよ」と満を持してエアコンのスイッチを切った。もう逃げられない。外に出ないと。
とまあこんな具合で、山に登る資格などないほどうだうだやっていたのだけど、車から降りてありちゃんとリョータくんに挨拶したら、会えてうれしい気持ちで本当に元気が出てきたから不思議だ。彼女らの持つ陽のパワーって本当にすごいんだよな。ジュンは「やっと出てきたなー!」って言われたらしい。
ありちゃんたちは、体操を終えたところだった。前回、鳳来寺山に登ったときも2人で並んで体操をしていた。登山の丁寧に1日を始めようとしているところに、本当に人柄が出ていて恥ずかしくすらなる。暮らしも創作も、本当に丁寧に向き合っている2人なんだろうな。
最近ジムに行ったから胸筋がきついかもしれない、というそんなわけないありちゃんの近況報告を受けながらザックを背負って登山を開始した。ありちゃんは、群馬に来る前から榛名山を知っていたみたいで、群馬に来たら登りたいと思っていた山の一つだったんだそうだ。私は母たちと何回も榛名山に来ているし、寄居出身だから群馬なら私の方が詳しいぜ案内したいぜ、と思っていたけど、ありちゃんは引っ越してから1ヶ月で私なんかより全然群馬のことをたくさん調べて、たくさん愛しているのが伝わってきた。榛名山も、紙の地図を印刷して持ってきていて、遠足みたいで可愛かった。ところどころ、注釈が書いてあった。
06 | 山に入っただけで
今日は、榛名富士から最初に登る。8時ごろ登山をスタートした。
榛名富士の入り口のところに、大きな落ち葉が池のようにたくさん集まっているところがあった。そこに霜が降りていて茶色い落ち葉が透明な鱗で覆われていて、めちゃくちゃ綺麗だった。
ただの枯葉なんだけど、私たちには宝物がたくさん落ちているように見えていた。葉っぱだけでなく、木の枝にも同じように鱗がついていて、リョータくんはそっちの木の方を手にとって持ち上げていて、やっぱ男子って剣とかの方が好きだよなと思った。ありちゃんは今日カメラを持ってきてくれていたのだけど、落ち葉ではしゃぐ私たちを被写体にしながら、「今日はカメラから火が出るぜ」って言っていて、めちゃくちゃセンスいいコメントで好きだった。私が葉っぱを持ってニコニコしていることろを、リョータくんがさっきの枝を上に掲げて枝を揺らして鱗を落とし、落ちてきたキラキラの中で写真をありちゃんが撮る、っていうふうに協力して撮影してくれていて、七五三みたいな気持ちになった。
まだ歩き始めて1分も経っていないから、体があったまっているわけでもないのに、こうやってなんでもない景色で元気になれるんだなーって思ったし、それを同じテンションで共有できるお友達ができたんだってことも、とても嬉しかった。
ピークとも言えるほどの盛り上がりを登山口で見せ、若干燃え尽きながら登りが始まる。自然に感動するフェーズを一旦終えてしまっていたので、登りだした時には、世間話を始めていた。群馬に引っ越してきてどうか、兄弟の話、インフルエンザが大変だった、猫を飼いたいんだ、とか。誰が何を喋ったかもあんまり覚えていないんだけど、とにかく覚えているのは、会話の流れも話題も、全部友達同士だなって思ったこと。間が全く気にならないし、誰と誰が喋っててもいいし、冗談も言えるし。そんで何話したか覚えてないっていうのも、友達同士のそれだし。
そんで特にジュンなんだけど、ジュンって気を許せていない人に対して背筋が伸びた感じで接するところがあって。仲良くなればなるほど、甘えん坊になるというか、ふにゃふにゃになる。呂律が回らなかったり、ゴニョゴニョ喋ったり、人見知りしてる人みたいなリアクションが逆に出てくる。今日ジュンがそれになっていたから、ジュンが2人に気を許せたんだなーって思って、それもとても嬉しかった。私ももちろん、ずっとリラックスして会話をしていた。
07 | 榛名富士を登りながら
久しぶりの登山だったので、体力・筋力面が心配だったけど、あまり苦しさを感じなかったので嬉しかった。ジュンも言っていたけど、山に入っていくことで淀んでいたものが流れていくよね、という感覚。1ヶ月沈殿していたものが、一歩一歩標高を上げていくごとに、冷たい空気にどんどん削ぎ落とされていくのがわかった。だから苦しいとか疲れるとかがあんまりなくて、ただ「山に帰って来たんだな」って思うことができた。榛名富士の登りって、正直何があるわけでもないんだよね。たまに振り返ると榛名湖からだいぶ離れたなー登ったなーって思うくらいだけど、それも裸になった木の林の間から見えるだけだから、展望がいいとは言えないし。
霜がいろんなところに生えているのは少し楽しいけど、登りの最中に注目するほどのポイントは感じない。でもすごく気持ちよくて、冷えたカルピスが喉を通る感覚が心地よく流れて、だんだんと内側から暖かくなっていくのは、体だけじゃない気がした。
登りながら、私の後ろにいたありちゃんがザックの中身に注目してくれた。メッシュの中に色々入るのが羨ましい、と。ありちゃんのザックは7年?使っているらしく、メッシュの中に夢をたくさん詰め込んで歩くのがやりたいそうだ。一つのザックを7年も使い続けることができるありちゃんって素敵だなと思うのだけど、今のザックがついに壊れた時にどんなものを買うのか気になるな。メッシュの中に著書を入れて、宣伝しながら歩いたらいい。
続きはまた来週更新します。