夏になるとタンスの肥やしになるフリースなどのミドルレイヤー。着用しない時はザックの中に収納されると荷物が重くなる。オールシーズン使えて、軽く持ち運べるミドルレイヤーがあればいいのに……。
そんな思いから生まれたのが山旅ポーラテックアルファダイレクト90ULジャケットです。なぜポーラテックのアルファダイレクト90なのか?素材選びからデザイン、アクティビティでの使用テストなどの開発秘話を紹介していきます。
なぜポーラテックのアルファダイレクト90なのか?
僕はウェブマガジン山旅旅を2015年8月11日「山の日」に創業させてから、様々なウェアのレビューを行ってきました。ポーラテックにおいてはポーラテック生地の日本の代理店をしているエスシーティージャパンと協力をして、ポーラテック社がフリースを生み出すまでの歴史や種類、またポーラテック社の様々な素材を実際に着用して記事や動画でレビューをしてきました。
通気性 | 保温性 | |
アルファダイレクト60 | 6 | 1 |
アルファダイレクト90 | 5 | 2 |
オクタCPCP | 4 | 3 |
プリマロフト エボルブ | 3 | 4 |
アルファダイレクト120 | 2 | 5 |
アルファダイレクト190 | 1 | 6 |
またポーラテックのアルファダイレクトと比較されることが多いオクタ、プランプリマロフトのエボルブ、その他アークテリクスのコアロフトなどブランド独自の化繊インサレーションも実際に着用して記事で紹介をしてきました。
アプローチ | 長所 | 短所 | 対象 |
通気性重視 | ユーザーの快適性を向上させ、暑い時期や運動量の多いアクティビティに適した製品になる可能性が高い | 保温性が低くなり、寒い時期や静的なアクティビティには適さない可能性がある | 通気性を重視する顧客 |
保温性重視 | ユーザーの体温を維持し、寒い時期や静的なアクティビティに適した製品になる可能性が高い | 通気性が低くなり、暑い時期や運動量の多いアクティビティには適さない可能性がある | 保温性を重視する顧客 |
バランス重視 | 幅広い温度やアクティビティに対応できる製品になり、汎用性が高い | 通気性や保温性、どちらか一方を重視する顧客には、物足りない製品になる可能性がある | 幅広い層の顧客 |
それらを踏まえて2022年春の開発段階で幅広い層の顧客を対象としたバランス重視の素材として最も適切だと考えたのがアルファダイレクト90です。夏ではアウター、春夏はアウター兼ミドルレイヤー、冬はミドルレイヤーというように、実際に1年着用して汎用性の高さを実感しました。
ポーラテックの素材について
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ポーラテックの素材の色決め、購入はポーラテックへブランド登録が必要です。ブランド登録をしないと素材の色決めやポーラテック社から直接生地の購入ができません。ブランド登録をしていない場合は、繊維専門商社を経由して購入することになるため決められた色や番手から選択することになります。山旅は2022年にブランド登録をして素材の選定と購入を行っています。
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色を決める前に生機(きばた)と言って、染色や仕上げ加工をする前の状態のものを着分もらうことが可能で、この素材で1STサンプルを作ることになります。そして今回は1STサンプルから、さらに必要な微調整としてストレッチバンドの素材やファスナーの部材を微調整して2NDサンプル、そして製品化という流れで進行しました。
アルファダイレクト90ULジャケットのデザインについて
今回このプロダクトで最も重視したポイントはジャケットタイプで脱ぎ着がしやすいということ、ミドルレイヤーとして動きやすく快適であることです。
ジャケットタイプで脱ぎ着がしやすいということ
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約1年半、縦走登山、日帰り登山、トレイルランニング、渓流釣り、雪山ハイキング、バックカントリースキーでアルファダイレクト60,90,120の3種類のジャケット、フーディを着用してテストを続けてきました。
結果、少しでも暑いと感じ、汗をかく可能性があると「脱ぎたい」と思うこと、また少しでも寒いと感じたときに「着たい」と思うことです。当たり前のことですがフーディだと帽子やサングラスなどを一度外さなければ着脱にストレスを感じてしまう。またそれが理由で着脱が面倒くさいと感じて、汗をかいても着続けてしまうことがありました。
だからミドルレイヤーは汗をかくことが少ない、ずっと寒くて着用し続けたいと考える雪山ハイキングや厳冬期シーズンにおけるバックカントリースキー以外ではジャケットタイプが良いという結論に至りました。そしてそもそもオールシーズン使えるというコンセプトを掲げていたので脱ぎ着しやすいジャケットタイプに決めました。
ミドルレイヤーとして動きやすく快適であること
ミドルレイヤーとして動きやすいということは、デザインにしたときに以下のようにすべきである、と結論づけてみました。
- 軽ければ軽いほど快適である
- シルエットはタイトすぎずゆったり過ぎないレギュラーフィットである
- フードはない方がレイヤリングしやすい
- ポケットはミドルレイヤーなのだから必要ない
軽ければ軽いほど快適である
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ミドルレイヤーとして着用テストを行った中で当時最も軽量だったのがノローナリンゲンアルファ90でした。このウェアの重量は180g、パタゴニアのR1エア・フルジップ・フーディが366g、アークテリクスのアトムLTフーディーが330gなど様々なミドルウェアを着用して軽量であることは動きやすく、ハードなアクティビティであればあるほど快適性が格段に異なります。
そこで「世界最軽量級」とうたえるほどの軽さを実現することは、行動着としての快適性を向上させるとともに、持ち歩く際は登山装備の軽量化にインパクトを及ぼすため重要視し、結果Mサイズで124gを実現しました。
シルエットはタイトすぎずゆったり過ぎないレギュラーフィットである
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シルエットはミドルレイヤーとして着用した時にウェア内でダボつかず、普段着として着用した時にテクニカルすぎず、手を曲げた時に引っかかりづらいレギュラーフィットを目指しました。ここではプロのパターンナーにお願いをして、数回の手直しを加えパターンを仕上げました。
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フィットだけでなく襟の高さにもこだわりました。ミドルレイヤーの上からハードシェルやレインジャケットを着用する時はミドルレイヤーのフロントジッパーを全て閉めることがほとんどです。首全体を覆うほどの高さがあると、行動中暑いと感じることが何度かありました。襟は低くアウターウェアと干渉しづらい低さが、行動中の快適性が向上することが多かったため低くデザインしています。
フード・ポケットの必要性
ミドルレイヤーとして位置付けた際にフードとポケットは必要であるかという点において吟味しました。この点はそれぞれニーズが分かれるところだと思いますが、プロダクト生産者として、また発信者として、軽さとレイヤリングのしやすさを目的とした場合にフードとポケットは省くべきだと結論付けました。
ベースレイヤーとアルファダイレクト90ULジャケットの2枚を着用している時は、フードがあると便利なのではとフィールドで何度か確認をしましたが、僕の場合はフードを使いたくなるような低い気温と風が吹いている環境ではウィンドブレーカーを着用したくなり、フードはウインドブレーカーで事足りることがほとんどでした。
ポケットにおいては素材の特性上、ものを入れては素材が引っ張られるし、ジッパーやジッパータブと素材の起毛が干渉してストレスに感じることが多くあり、手を温める目的ではミドルレイヤーのポケットは使うべきではない=体幹を温めることを優先してウィンドブレーカーやダウンジャケットなどを着用すべきと考え省きました。
このフードとポケットを省くことは素材代金、縫製代金にも反映させることができ、結果商品価格を抑えることにもつながりました。
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