山の中で泊まるというのは、山の魅力を思う存分味わえる手段の一つです。夜と朝の景色、山の中で楽しむ食事やお酒は最高です。だからまだ日帰り登山しか楽しんだことがないという人には是非ともテント泊登山に挑戦してもらいたいと思っています。そこで今回は、テント泊登山をしようと考えた時に、必要となるシュラフについてどのようなポイントで選ぶべきなのか?僕がシュラフを選ぶ際のポイントと、3シーズンのテント泊向けの汎用性が高いおすすめのシュラフを紹介します。
シュラフの選び方を5つのポイントで解説
- コンフォート温度で快適に就寝できるモデルを選ぶ
- できるだけ軽量なモデルを選ぶ
- 登山装備全体におけるシュラフの位置づけを考える
- 2泊以上の場合はシュラフに使用されている素材を確認する
- 寒いことが想定できる場合はシュラフの構造を確認する
5つのポイントについて紹介をしていきます。
コンフォート温度で快適に就寝できるモデルを選ぶ

コンフォート温度とは、快適に寝ることができるテント内の温度を示しています。ここでのポイントは
- テント内の温度である
- 快適に寝ることができる温度というのは人それぞれ異なる
テント内の温度

まずはじめに「テント内の温度」について考えていきましょう。
テントによって変わりますが、テント内外の気温差は約3度(ダブルウォールテントの場合)と言われています。
よってテント場の最低気温が0°cの場合はテント内の気温は3度です。
ちなみにテント泊初心者の方が最初に行くテント場として人気が高い八ヶ岳の赤岳鉱泉(標高2215m)周辺の月間最低気温は以下になります。
月 | 最低気温 | テント内気温 |
1月 | -15.3 | -12.3 |
2月 | -16.3 | -13.3 |
3月 | -10.6 | -7.6 |
4月 | -4.9 | -1.9 |
5月 | 0.6 | 3.6 |
6月 | 5.6 | 8.6 |
7月 | 10.2 | 13.2 |
8月 | 10.8 | 13.8 |
9月 | 7 | 10 |
10月 | -1 | 2 |
11月 | -5.9 | -2.9 |
12月 | -11.6 | -8.6 |
このことからも標高2000m付近で3シーズンテント泊をする場合は、コンフォート温度10°cで安心と言えます。
場所 | 涸沢周辺 | 白馬山荘周辺 | 赤岳鉱泉 | |
標高 | 2309m | 2832m | 2215m | |
1月 | 冬 | -16 | -21 | -15 |
2月 | 冬 | -16 | -21 | -16 |
3月 | 春 | -11 | -17 | -10 |
4月 | 春 | -5 | -11 | -5 |
5月 | 春 | 1 | -5 | 1 |
6月 | 夏 | 5 | 0 | 6 |
7月 | 夏 | 8 | 4 | 10 |
8月 | 夏 | 9 | 6 | 11 |
9月 | 秋 | 5 | 1 | 7 |
10月 | 秋 | -2 | -4 | -1 |
11月 | 秋 | -5 | -12 | -6 |
12月 | 冬 | -13 | -16 | -12 |
しかし2800m付近の白馬山荘周辺ともなると、平均気温はそこから-6°cとなるので、汎用性が高いシュラフをセレクトしたいと考えるならばコンフォート4°cが1つの基準と考えることができます。

このコンフォート温度については各メーカ毎で基準値を定めている場合もあれば、ヨーロピアンノームと呼ばれる統一規格として制定されている規格で表されている場合があります。ヨーロピアンノームの良いところは、認定された第三者機関が行う公平な検査なので、比較しやすいことが挙げられますが、ドライな環境でのテストなので、登山のような湿度が高く、ダウンが圧縮されているような状態での検査ではないことから疑問視する声もあることは確かです。ですのであくまで一つの指標として考える必要があります。
快適に寝ることができる温度というのは人それぞれ異なる

次に快適に寝ることができる温度というのは人それぞれ異なるということです。自分にとって快適に寝ることができる温度を把握することは日常ではなかなか難しいため、テント泊登山の経験を積み、己を知ることが重要です。
また男性と女性では体感温度に違いがあります。人間の体温のうち6割は筋肉による熱産生によるものと言われており、女性は男性に比べて筋肉量が少なく皮下脂肪が多いと言われていることから、女性は男性よりも熱を産生しにくい傾向にあるようです。男女の体感温度は3~5度もの差があるといわれています。女性モデルのシュラフはシルエットの再設計と中綿量の増量で保温性能を高めているので、シュラフを購入する時は特徴を確認するようにしましょう。
できるだけ軽量なモデルを選ぶ

テント泊登山をする時のシュラフは、テントやマットと同様、テント場に到着するまで、ずっとザックの中に収納されている装備です。だから軽量・コンパクトであることは、登山装備の軽量化に大きなインパクトを及ぼします。
軽量であるということは、ダウン量が減り、使用されているシェル素材が減り、バッフル構造ではなく縫いつぶしの構造となり、それによってコンフォート温度のスペックは低くなります。だから自分が快適に就寝できる温度が何度であるかを把握し、ダウンジャケットやダウンパンツ、ミドルレイヤーなどの休憩着や行動着の活用も含めて、オーバースペックになりすぎないようにシュラフを選びます。
テント泊の最初は「寒くて眠れなくなるのではないだろうか?」と不安にかられると思います。僕もそうでした。僕はテント泊初心者の頃は、ダウンウェア、ミドルレイヤーは少し多めに持ち歩き、シュラフライナーやシュラフカバーを追加して保温力を上げました。こうすることで高価なシュラフの買い替えから逃れました。テント泊登山に慣れてきたらこれらの装備を省く、もしくは足すなどして登山装備のスリム化を目指しましょう。
登山装備全体におけるシュラフの位置づけを考える
テント泊でシュラフに潜り込んで寝る時に、上を向いて寝ていると仮定しましょう。
この時背中以外の保温と、背中側の保温とは、別で考える必要があります。
- 背中以外の保温:シュラフ、保温着
- 背中の保温:テントマット、グランドシート
- 全体の保温:テント、シュラフカバー、ライナーなど
※上を向いて寝ていると仮定

このように考えると「シュラフの保温力が高ければ快適に寝ることができる」というのは間違いであることがわかります。特にシュラフと一緒に考えるべきアイテムにテントマットがあります。普段「地面からの冷え」を意識することは少ないと思いますが、テントで就寝する際に必ず考えなければいけないのか地面からの冷え、いわゆる放射冷却です。


放射冷却とは物体が熱を放出することで冷える現象で、夜間は太陽からの熱がなくなるため地面から熱が放出され地面が冷えます。そして晴れの夜は特に放射冷却が厳しくなるので、テントマット、グランドシートを活用することが重要になります。そんな放射冷却対策のために開発したのが、TyvekSilverエマージェンシーブーストヒートラップです。
2泊以上の場合はシュラフに使用されている素材を確認する
長期縦走登山では、テントの結露によるシュラフの濡れ、体から出る湿気によって、ダウンシュラフの嵩が減ってきます。これによって徐々にシュラフの保温力が失われていくことが想定できます。
だから長期縦走登山では濡れによるダウンの性能低下を防ぐために、結露したテント壁面に接するフードとフットボックスにどのような素材が使用されているかを確認するようにしましょう。例えば長期縦走登山でも使用することができるシュラフは、濡れる可能性がある部分に防水透湿素材を使用しているモデルがあります。
すでにシュラフをお持ちの方で、長期縦走登山を考える場合はシュラフカバーを取り入れるなどして対策をしましょう。この時防水透湿性が低いアイテムを使用するとシュラフカバーの中が結露して濡れてしまうので選ぶものは注意が必要です。僕はモンベルの「ブリーズドライテックプラススリーピングバッグカバー」を使用しています。
ダウンは匂いを取り除くため一度洗浄することが多いです。本来ダウンは撥水性を備えているのですが、この洗いによって撥水性能が落ちてしまいます。だからダウンが濡れてもダウンが固まりづらいように撥水トリートメントを行います。このようなダウンを取り入れているシュラフは長期縦走登山で心強いです。
寒いことが想定できる場合はシュラフの構造を確認する
シュラフの構造は大きく2種類存在します。
シングルキルト | ボックスキルト | |
---|---|---|
構造 | ![]() | ![]() |
軽量性 | 軽い | 重い |
保温力 | 低い | 高い |
価格 | 安い | 高い |
上の表を見ていただくと分かる通りシングルキルトは使用するシェル素材が少ないので軽量性に優れていますが、保温力がボックスキルトと比較すると劣ります。
シュラフの構造に関するコールドスポットとは、テント内の冷気がシュラフの中に入ってきやすいという考え方と、シュラフの中に溜まった暖かい空気が出て行きやすいという2つの考え方があります。同じダウンの封入量でもシングルキルト構造かボックスキルト構造かで使用温度域に大きな差がうまれます。
最近では上半身に保温性に優れたボックスキルトを採用し、下半身は軽量な縫いつぶしのシングルキルトを採用するハイブリッドタイプのシュラフがあります。
3シーズンのテント泊向けの汎用性が高いおすすめのシュラフ
テント泊シーズンは無雪期が主流です。残雪期はただでさえ装備重量が嵩むのでテント泊をする人は極端に減る傾向がありますが、積雪期のテント泊もまた魅力が沢山あります。しかしながらここでは3シーズンのテント泊向けに、おすすめのシュラフを紹介していきます。
Rab「ミシックウルトラ180」


- 重量:440g
- 使用温度域:7℃(ヨーロピアンノーム)
- 中綿:900+フィルパワーグースダウン
- シェル:10デニールリップストップナイロン
- 価格(税込):¥82,500
Rabはシュラフからスタートしたメーカーで、高品質で保温力が高いダウンと、重量パフォーマンスに優れたシェル素材を使用したプロダクトが魅力です。他のメーカーと大きく異なる点の一つに裏地の素材があります。
裏地の素材はTILTと呼ばれるサーモ・イオン・ライニング・テクノロジーという技術を採用しています。これは繊維にチタンコーディングを施して、体の熱を反射させ保温性を向上させています。
また軽量化のためにジッパーは非常に短いシュラフ全体の長さの約1/4の長さに抑え、軽量なのにも関わらずダウンが封入されたドラフトカラー付きで首回りからの冷気の侵入を防ぎます。
シートゥサミット「スパーク-1C」


- 重量:493g
- コンフォート温度:4℃(ヨーロピアンノーム)
- 中綿:850+プレミアムグースウルトラドライダウン(RDS認証)
- シェル:撥水10デニールナイロン製
- 価格(税込):¥64,790
シートゥサミットのスパークシリーズは全部で4種類あり、スパーク-1Cは3シーズンで最も汎用性に優れたモデルといえます。ダウンには撥水トリートメントが施された850+フィルパワーのグースダウンを使用しており、撥水加工を施したシェル素材を使用した、縦走登山で安心感をもたらしてくれるダウンシュラフです。
さらにフードおよびフットボックスに防水透湿素材を使用しているので、テントの結露による濡れにも対処した考えられた作りが特徴です。さらにドラフトカラー、ドラフトチューブによって冷気の侵入を防ぐだけでなく上半身には保温性に優れたボックスウォールバッフル構造、下半身には軽量なシングルキルト構造で軽量化にも力を入れています。
モンベル「ドライシームレスダウンハガー900#3」「シームレスダウンハガー900#3」


- ドライシームレスダウンハガー900#3
- 重量:570g
- コンフォート温度:5℃(ヨーロピアンノーム)
- 中綿:900FPEXダウン
- シェル:表地スーパードライテック®12デニール・裏地7デニール・バリスティックエアライト®ナイロン・リップストップ
- 価格(税込):¥57,000
- シームレスダウンハガー900#3
- 重量:531g
- コンフォート温度:4℃(ヨーロピアンノーム)
- 中綿:800FPEXダウン
- シェル:表地10デニール・バリスティックエアライト®ナイロン・タフタ
- 価格(税込):¥36,300
通常ダウンシュラフには構造の違いによってコールドスポットのありなしで保温力の高さが変わるお話をしました。モンベルのシームレスダウンハガーはスパイダーバッフルシステムと呼ばれる隔壁がなく縫い目の少ない構造をなしています。これはシュラフ内部に特殊なスパイダーヤーンと呼ばれる糸を張り巡らせ、この糸に一定量のダウンが絡みつくため隔壁がない構造のシュラフとなっています。
これによって気密性が高く、使用する素材も少ないため、価格を抑えながら高い保温力かつ軽量なダウンシュラフに仕上げています。
さらに伸縮率が最大で135%のストレッチに優れた生地を使用しているので、足を曲げるなどの寝相が悪い人にも突っ張り感がないシュラフに仕上げています。
ドライシームレスダウンハガーは、表地に優れた透湿性を追求した防水透湿性素材が使用されているので、雨や雪の付着によってダウンが濡れて保温力が落ちるといったリスクが極端に少ないモデルです。対してドライという名がついていないモデルは10デニール・バリスティックエアライト®ナイロン・タフタを使用しており、価格を抑えながら保温力と軽量性に優れたモデルに昇華させています。
ウエスタンマウンテニアリング「サマーライト」


- 重量:540g
- 使用温度域:0℃(独自テスト)
- 中綿:850+フィルパワーグースダウン
- シェル:0.9ozエクストリームライト
- 価格(税込):¥72,270
ウエスタンマウンテニアリングは僕が知っているアウトドアメーカの中では、最もダウンの質にこだわ理、高品質なダウンプロダクトが特徴です。サマーライトは数あるシュラフの中で3シーズン向けの汎用性に優れたモデルです。
ダウンの質は非常に高く「850+フィルパワーグースダウン」とありますが、山の中の環境下を作りだし、その上でのフィルパワーなので、勝手な推測ですが1000以上のフィルパワーがあるんじゃないかと思うほど非常に暖かいです。このダウンは東ヨーロッパから独自に仕入れたホワイトグースダウンを使用しており、さらに使用するダウンは過剰な洗浄が施されておらず、ダウンが含有するガチョウ由来の油分による、半永久的な撥水性を保つダウンを使用しています。
さらに「ディファレンシャルカット」と呼ばれる表地よりも裏地の生地を小さくすることで生地のたるみを排除し、保温効率を高めるカットを施し、前面と背面のバッフルがつながった構造なので、シュラフバッグの中で羽毛を移動させ、保温性の調整が可能です。
さらにシングルドラフトチューブが備わっているのでファスナーからのコールドスポットが少なく、暖かく就寝することができます。
シュラフを購入したら考えること


シュラフを購入したらシュラフを濡らさないように持ち歩くことも検討する必要があります。購入した際についてくるスタッフバッグはドライバッグ仕様になっていないことがほとんどなので、ドライバッグを活用することをおすすめします。
特に2泊以上の縦走登山では結露で濡れたテントをザックの中にパッキングすることになります。このテントの濡れ、そしてザックを開けた時に雨が降っていた場合、ダウンウェアやダウンシュラフを濡らしてしまうことが考えられます。ダウンが濡れてしまうと保温力は一気に低下してしまうので、必ずドライバックに収納するようにしています。


ドライバッグは是非山旅のダイニーマ製ドライバッグを検討してみてください。というのもまず価格がかなり抑えられていること、さらに縫い目を極力減らしたL字構造による縫製で軽量なドライバックに仕上げていること。また本体の縫い目はダイニーマテープでシーム加工されており、極限まで軽量化にこだわっています。


ドライバッグに汎用性を持たせたい場合は3Wayドライバックがおすすめです。このアイテムはドライバッグだけでなくザックに外付けが可能な拡張バッグとしても使え、さらにストラップを取り付けることでアタックザックもしくは買い物バッグと3種類の使い方ができます。


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