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上高地 / トンネルを越えて

上高地 / トンネルを越えて

01 | 冬の上高地

かみこうち、なんて、なんて神々しい名前だろう。漢字を知るより先に、音でその名を知っていた。小さい頃行ったことがあるよ〜なんて親に言われても全然おかしくないけど、記憶の中にはない。
登山が趣味だと言うと、一番話題に上がるのが富士山。「じゃあ富士山とか登るの?登ったことあるの?」みたいな。二番手が高尾山。三番手が、かみこうち。「こないだ上高地行ってきたんだよ〜」など。
音だけ聞いたら「神」の住む「高」貴な「地」域、みたいな。何が言いたいかというと、念願の上高地だよ、ってこと。

人気の場所には人が集まるそれなりの理由がある。そして人気と言うからには、観光地として混雑していることもセット。行ってみたいけどいつでも混んでるんだろうな〜と思っていたところ、ジュンから「冬の上高地に行こう」という提案をもらった。たくさん歩くことになるけど平らだし、冬だから人も落ち着いているんだとか。いいね!ずっと行きたかった場所に、思わぬ季節に訪れることになった。

久しぶりの、ジュンと二人での登山。今年入って初だ〜くらいに思っていたら、なんと10月末のロゲイニング以来だということがわかった。その前は6月の蝶ヶ岳。半年弱開いたことになる。意外に二人っきりでの登山って少ないんだね。ということはそれだけ、ジュンと二人で会話する機会も減っていたということ意味する。ラインで常に連絡は取るし、いつも作戦会議をしているけど、もともと友達同士の私たちには、近況報告とか、最近インプットしたアニメの話とか、お互いの甘噛みや言い間違いを笑う時間とか、そういう余白の時間が実は一番必要。
最近過去の山行をZINE化するために再編成する機会が多いのだけど、高校時代をも超える可能性を秘めたこの青春を、丁寧に味わいたいと最近改めて思う。そのために必要なのは、部活が終わった日の帰り道のようなジュンとのくだらない対話なんだよな。

02 | 遠足前夜

今回は登らない、平坦な雪道を歩く。ゆったりスノーハイクになるけど、バスの時間もあるからお昼はカップラーメンにしようと言われていた。
ただ久しぶりのジュンとの遠出、何かしら特別なことがしたい。冬といえば「サッポロ一番塩ラーメン」では(?)ということで、塩ラーメンにトッピングをマシマシしてアレンジして食べることにした。私が言い出したので「ユウがスペシャルラーメン準備する!!」とやる気満々で引き受ける。
ジュンは前日に高尾山ナイトランに繰り出しており、事前に誘われていたけど「2時出発で睡眠不足が心配だから行かないでおく」と断っておいた。自分の体力を知り無理な計画を立てない、さすが30代の大人なメタ認知。私ってなんて堅実なんだろうと思った。
しかし前日、めちゃくちゃ時間がある中で「ハイキュー!!」の青城戦から目が離せなくなってしまい、3時間もただ烏野を応援する時間が急遽予定に出現。山口のピンサーとしての成長を見届けたところでさすがにラーメンの具材買いに行こうと家を出た時間が22時1分。嫌な予感がして近所のマルエツの営業時間を調べたら22時閉店。ガーン。不動前住んでた時のマルエツは2時までやってたのに。

ジュンに報告したら「相変わらずのポンコツすぎて愛おしい」などとバカにされたが、代わりに「コンビニで買えるサッポロ一番アレンジレシピっていうコンセプトにする?」という最高の切り返しアイデアをもらったので、無事セブンイレブンでご機嫌に買い物を済ませた。買ってきた具材たちを綺麗にパッキング。明日の朝ごはんのおにぎりまで握り始めてしまったが、もう24時半なので絶対に早く寝た方がいい。これじゃ遠足前の小学生だ。

03 | おにぎり

2時にアラームが鳴る。あと10分・・・とむにゃついた5秒後に2時20分になっていた。2時半に家を出たい、でも大丈夫、なんせ昨日全て準備を終わらせたから。昨日、というかたった1時間半前だけど、一度ベッドに入れば翌日だ。
意外とスッキリ目が覚めた。このツケがいつ来るのか怖い。
ほぼ予定通り家を出てジュンを迎えに行く。ジュンもちゃんと起きていた。二人ともほぼ同じようなコンディション(と見せかけてジュンは前日に10km走っているけど、体力お化けなので結果ほぼ同じコンディション)。
ジュンもおにぎりを2つ握ってきており、お互いの二つ目を交換して朝ごはんにした。相当大きく握ったつもりだったのに、ジュンにもらったおにぎりの大きさは私のと全く同じだった。お互いもらった方のおにぎりを先に食べていて、なんかよかったな。私のは茎わかめの混ぜ込みご飯で、ジュンは卵焼きとソーセージが中に入っていた。おにぎりからタンパク質も摂ろうとしている。

04 | エクストレール

上高地まで行く前に、実家の寄居町にてトランジット。念の為スタッドレスタイヤを履いた四駆を母からレンタルする。親子おんなじ趣味なので、常人では起き得ない時間に実家の呼び鈴を鳴らしても普通に出てくれるから助かる。犬と一緒に。
今日どこの山に行くの?と聞いたら「ウシオクノガンガハラスリヤマ」と早口で言われた。は?全部聞き取れたのに。
なんの冗談かと思ったら「知らない?日本一名前が長い山だよ」と言われた。「牛奥ノ雁ヶ腹摺山」。「ウシは、動物の牛、オクは奥様の奥・・・」と漢字を一字ずつ説明されたが、3文字目の説明を受けるときには1文字目の説明を忘れていた。とにかく変な名前の山に行くらしい。
どうしても二人に言いたいことがある、と私たちの車に乗り込んできて、何かと思ったらおすすめのクイズゲームのアプリについて熱弁された。最近クイズノックのYouTubeにハマっているらしい。あんなに語っていたけど、DLしたのは昨日というので怖かった。もうどっからツッコんだらいいのか、やはり母という存在は底知れぬものである。

とりあえずガンガンガンガハラヤマ(覚える気なし)に行くという母とほぼ同時刻に寄居を発つ。春分の日を過ぎたのにまだ当たりが暗いのは、それだけ私たちが今日を長く楽しむ準備をしているということである。
上高地までは3時間。真っ黒の高速道路を走る。視界の端から徐々にオレンジが滲み出してくる、この景色を見るのが好きだな。
今日は寝坊してない。1日をちゃんと楽しめるはずだ。

05 | ガリバートンネル

さわんどバスターミナルについた。ここまで一度も雪を踏まずに来られたので、スタッドレス車は本当にお守りだったな。私たちも含めて10組にも満たないハイカー達とバスを待つ。バスのチケットは、ジュンが事前に手配してくれた。
ぎゅうぎゅうのバスに乗り込んで、さあ寝ようかと思ったけど、運ばれることほんの10分。寝ている間もなく中の湯温泉バス停に到着した。
バスを下ろされて正面には、大きなトンネル。そこをビュンビュントラックが走って通り過ぎていく。メカ同士の戦いに生身の巻き込まれる気持ち。釜トンネルと書いてある。ここが今日の入口なのか。
トンネルに入って、側道を歩く。途中あった看板によると、このトンネル1km以上あるらしい。人の声も足音も、遠くにいるはずのものの音も、まるですぐ近くにいるかのように大きな音で聞こえる。高速道路でタイヤがパンクしてトンネル内に降りた半年前のことを思い出した。あの時と比べて車通りは多いわけじゃないんだけど、一台一台が重い感じ。トンネルの中にトラックが入ってくると、ゴゴゴゴゴ・・・と大きな音を立てて近づいてくるのがわかる。敵のアジトで、敵の姿が見えず得体の知れない何かの出現にビビってる、あの感じ。めちゃくちゃ怖い。いざトラックが現れると私の横を通り過ぎていくのは一瞬なんだけど、とにかくでかい。ウヴォーギン的力強さで触ったら死にそう。トラックってこんなデカいんだっけ。

トンネルの中、先が見えない。どこまで歩くのか、どこに向かっているのか。本当にこのトンネルの先はあの上高地なのか。
このトンネルが何だったらしっくりくるだろうと考えながら歩いていた。ドラえもんの道具で「ガリバートンネル」っていうのがあるんだけど、それかな。こないだ映画「ファーストキス」見たけど、主人公がタイムトラベルするきっかけはトンネルだったな。「千と千尋の神隠し」でもトンネルの向こうは神の住む世界だったな。「バケモノの子」なんかはここまでわかりやすくないにしろ日常の街とバケモノの世界が繋がってたよな。
是枝裕和の「怪物」は、トンネルを抜けた先だけが子供二人のオアシスだった。トンネルって、こっち側とあっち側を分断するときのバッファみたいな空間なんだよな。1kmも歩かされたその先が、そのまま地図上で見てそのトンネルを出た先になっている方が不自然な、どう考えてもどこかしらの異世界と繋がってないとおかしいような。釜トンネルは、そういう気分になる道だった。
もしも上高地がこの釜トンネルを通らないといけない場所なんだとしたら、それはグリードアイランドみたいに、そこにあると思ってるだけで本当はここじゃないどこかなのかもしれないなーと思いながら、歩いた。一列になって話ができない1kmは、暇なのだ。

釜トンネルを抜けると、想像していた通り景色が一気に変わった。雪を纏った山の壁紙が映える。が、空の色がかなり薄い。水色の絵の具をさらに水分たっぷりの白で薄めたような感じ。これは紛れもなく春の空。
春、ということは花粉が舞うのだが、重度の花粉症のジュンは街からずっと目の痒みを花粉センサーにして今の花粉量を私に教えてくれていた。雪の積もった山の上に来ると、流石に季節がまだ冬で、花粉を感じないんだそう。大量の雪に埋められた木々はまだ冬だと思っているらしい。この調子で起こさないように行こう。
そういうのも全部「いや春だよ〜」って、水色の空に上から見られてるけど。
緩やかな坂でも1km歩いたら暑くなる。雪の中を歩くとは思えない薄着で再出発。

続く。

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