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仙丈ヶ岳 / 言葉にできない山行

仙丈ヶ岳 / 言葉にできない山行

1. 平日を乗り越えて得られるもの

気づけば世間には夏が訪れていた。
日に当たった肌がじんわり火傷していく感覚。日陰と日向の寒暖差。サングラスがないといられない日差し。7時に玄関を開けた時の嘘だろっていう熱気。じとっと垂れる汗とそれを冷やすクーラーの風。6月は春夏秋冬に属さない「梅雨」という特別な季節だと思っていたけど、梅雨はこんなにも夏だったのか。それとも梅雨はもう終わって夏が始まったのかな。確かに今年の梅雨分の雨粒は、戸隠で全て浴びたけれど。

夏の到来は嬉しいけどだったら雨によって見送ってしまった火打妙高旅を返してくれって思うよ。山に行けていると、街で過ごす人たちと比べて季節を先取りできている感覚になれる。「私は季節を知っている側の人間である」って優越感は日常をご機嫌に過ごすためのスパイスとしてよく利用するけど、逆に山に行けないと生活の中で上がらない標高に、自分の存在がどんどん平面になっていく感覚になり、焦ってしまうよ。
仕事がうまく進められなくて土日にもワークしないと無理だなこりゃ、と思いながら、それ以上に山に出かける時間が必要だということは、露出が増えることで空気に触れている面積が増えた私の肌が一番そう言っている。

6月になって、とにかく変に仕事をしている時間が増えてしまった。人生で大切なことはもっとたくさんあると幽体離脱した自分が後頭部から話しかけてくるが、「わかってるよ」と返事をしながらもメールを打つ。今週は特に大変で完全に夏休みの宿題が終わらない小学生状態。全然不機嫌になることもできるが、終わらないよぉと彼氏に言ったら「ワニシャンだねぇ」とゆるく言われてしまうので語尾に音符をつけて元気にワークするしかなくなる。終わらない♪終わらない♪
寝ることを気絶と捉えるような一週間の中で、会社のいろんな人が夢の中に登場した。金曜日、流石に疲れすぎて脳みそが痺れる感覚があったが大丈夫、明日は山で、季節は夏で、私の名前は「夏生」だ。

本当はただ、季節を風で感じて、話しても仕方のないことだけをずっとうだうだ話していたいのに。

2. 段取り

そんなこんなで久しぶりの登山である。今回は南アルプスの仙丈ヶ岳へ。以前やなさんと甲斐駒ヶ岳に行った時に登るはずだった百名山で、雨でお預けになっていたのだった。
あの南アルプスの濃い緑色が夏の光で本領を発揮することは写真を確認しなくてもわかっている。そしてそのイメージはジュンの頭の中ともきっと繋がっている。

前日は23時半まで人のお金で焼肉を食べていたが、ちゃんと3時に起きて4時に家を出た。ジュンの家まで向かう30分の中でレミオロメンの「スタンドバイミー」を大声で歌う。これから浴びることになる夏の日差しが待ち遠しすぎて。コインと太陽が出会ってスタンドバイミーしたい。
4時台にはもう辺りが明るくなってきていたし、高速に乗ってしばらく走ると何だかもう昼みたいな外の空気で、でも時計を見たら6時半だった。あんまり早く朝が来るとその分活動時間を損している気分になるから本当勘弁してほしい。夏と冬でこんなに日の長さが違うのって、覚えてないけど人生10年目くらいまでは毎年新鮮にびっくりしただろうな。信じられないもん。

ジュンと話すのは戸隠トレランぶりなので三週間空いている。行きの3時間の中でこの三週間の全てを話す。ちょうど昨日のことを語り終えたところで戸台パーク駐車場に到着した。前回はやなさんの車で連れてきてもらっていたんだ。
8時のバスに乗りたかったんだけど、独断どこかで急いだりすることなく到着したら、時刻は8時5分だった。まあ臨時のバスあるんじゃない〜と特に焦ることなく確認すると全然臨時のバスなどなく、次の時間何時だろぉと特に焦ることなく確認したら次のバスは10時だった。えー2時間待つのかぁ。
信じられないほどの段取りの悪さだが、ジュンに一応「別の山にするー?」と聞いたら2時間待てば別に登れるよと言われた。あとから聞いたら、もう仙丈ヶ岳に行く気持ちが高まりすぎてこの時点で他の山に行く選択肢が全くなかったんだそう。いつもの通りジュンに計画を身を委ねている私はこの「別の山にするー?」という発言をただ何か言わないと気まずいので間を埋めるために言っているだけなので、全然私も同じ気持ち。


登山開始は2時間遅くなってしまうけど、コースタイム×0.6で歩けば問題ないらしいということが判明。コースタイム×0.6がどのくらいの速さなのかわからないが、「コースタイム×0.6ってどのくらい?」と質問されても「コースタイム×0.6くらい」って答えるしかないだろうなと思って質問するのをやめた。
とにかくここで2時間バスを待って、予定よりも少し急ぎつつ仙丈ヶ岳に登る。時間ができたので、目覚ましをかけて車の中で寝ることにした。せっかく早起きしたのに、と一般的には思いそうなところだが、無駄な時間が人生を豊かにすると信じているので別に全然平気なのである。
喉が渇いていないのに自販機があったという理由だけで小さいコーヒー牛乳を買った。黄色の缶が青空に映えて綺麗。こんな天気で山に登らないなんて、そんな人生ごめんだ。寝不足で判断力が鈍る。おやすみなさい。

3.夏の南アルプス

目覚ましに気づかず爆睡した。ジュンに起こされた瞬間は最悪な目覚めだったが、起床0秒で山に迎えるということを思い出してすぐにご機嫌になる。多少の身なりを整えてバスに向かう。チケットを買って列に並んだ。
流石に10時のバスで山に入る人は少ないようで、かなり快適なシャトルバス車内。9月に甲斐駒ヶ岳に行った時は補助席に座らされていた。
夏になり、満員電車の中で見知らぬ人と肌がぴとっと密着することがあって不快を感じているけど、バスに揺られてぶつかるのがジュンの肩なら全然平気だね。前の席に座るお兄さんのドレッドヘアがバスの揺れに合わせて左右に揺れている。
バスの運転手さんはところどころ見どころな場所を通過するときにいちいち止まって紹介してくれる。観光バスみたいだ。バスの揺れが止まったところだけ目と耳を開けて説明を聞いてまた寝る。1時間かけて北沢峠へ運ばれるのだ。

晴れ。晴れ。とにかく晴れ!お手本のような晴れ。何度も過ごしてきた晴れの中でも今日がいちばんの晴れ。とっくに新緑を終えた緑の青さと、土の色のこげ茶と、木の隙間からこぼれ落ちてくる白い日の光と。
好きだな、夏が好き。


素晴らしかった仙丈ヶ岳の1日を振り返っていつも通りNoteを書こうと思ったんだけど、なぜだか筆が進まなかった。あんまり言葉が出てこなくて。
この景色を言葉で残すことが野暮に思えたということにして、この文章は写真を貼り付けて終えることにします。

これからは、山に行った先を旅先と捉えて美味しいラーメン屋さんを各地で開拓していくことにした。今までなかった「ただラーメン屋の開店を待つ時間」が発生して、こういう余白がやっぱり楽しい。

とにかく夏が大好き。

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