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苗場山 / 天国のような山頂

苗場山 / 天国のような山頂

5. 究極の朝活

リフトに乗る直前にタクミがおっことしたサングラスは後ろの人が回収してちゃんと届けてくれたし、めちゃくちゃ晴れてるし1時間半短縮できたしで、不安要素は全てなくなり無事登山開始だ。山頂をゴールにしたシンプルピストンコース。途中の登り返しが心配だ。
山に行きたいムラムラを毎日5km走ることで消化してきた私にとって久しぶりの登山はとても嬉しく、まるでジュンの如くスタートから一気に飛ばしてシゲルを心配させてしまった。このペースでずっと登るのは私も無理だから安心してくれ。
タクミはというと、この人はとっても元気いっぱいでいつでもニコニコ飛ばしており、時に私もついていけなくなるくらいだったからやはり元駅伝部とジム通いは伊達じゃないのだな。暑くなってアウターを脱いでタンクトップ姿になると、出会った時にはなかった気がするタトゥーがたくさん腕に増えていて、私は星の絵がジョジョみたいで好きだった。外人さんとかによくそれで話しかけられるらしいのに本人ジョジョ見たことないから「知らないんだよね〜!」って言って会話終了するらしい。めちゃくちゃ機会損失だから一旦第4部から見始めよう。
タクミさんは性格が明るいので、視聴者さんが私に声をかけてくれた時も積極的に話してくれて結構最高である。私とは3回しか登ったことがないのに「ボクが出てるところはいっつもカットされるんですよね〜!」と元気に言っていてめちゃくちゃ良かった。

リフトを使ったので下の芝は余裕で通過、中の芝で長めの休憩した。中の芝の前はかなり登りが続くのでどうしても疲れてしまい、少し広いところに出たところで「ここで休憩しよう!」となってしまう。二人もそうなっていたが、私は3年前の秋にジュンと来た時にも同じことがあったのを覚えていたので、あと10秒だけ歩いて中の芝に二人を案内した。シゲルは疲れていたけど、ここは撮るべき!って感じの場所にようやく到着したので、ここに長めに滞在していいか確認してからカメラマンらしく景色を撮りに回っていた。イキイキとしているように見えたし、タクミが「師匠に撮り方がそっくりだな」と言っていて、良かったな。

中の芝にて

タクミは梅干しが好きらしく、セブンの小さいお惣菜コーナーにある生の梅干しを持ってきていた。生の梅干しを持ってくる発想がなかったのでなかなか新鮮だったしとても美味しかった。今日私はジュンに代わってカリカリ梅を持ってきていたけど、生の方がいいよなぁ。ただ生の梅干しは種のやり場に困り、捨てるところがなかったので私が持ってきたカリカリ梅のジップロックに入れるしかなくて、みんなで食べようと思ってたカリカリ梅をもう誰にもあげられなくなってしまったので残念だった。塩分チャージを配る。わかりやすいエネルギー補給にシゲルは少し安心した顔をしていた、ように見えた。

自分の足で上げた標高がだいぶ溜まってきて、景色が気持ちよく感じるようになってきた。太陽に近いはずなのに、サングラスさえしていれば嫌な感じがしないのはなんなんだろうね。ニッコウキスゲがところどころ咲いていて、めちゃくちゃに夏だな。シゲルが「緑が元気な感じがする」と言っていた。秋→冬→春と山の季節を見てくると夏の植物のエネルギーは嫌でも感じるけど、初めて山に登る人もそう感じるのだなと思った。
短パンから出た生足に擦れる草の温度が心地いい。山に行くと自分の肌に触れたものからエネルギーを奪える感じがするんだよな。それは空気とか風とか日差しとかも同じで。

語るまでもなく空は青くて、いずれ雨が降るはずの今日の苗場山ではどこからか生成された雲がずっと湧き上がってくる。たまに片面が真っ白に覆われるが、山のもっともっと上の方の私らの知らない世界ではどうやら風が強いのか、雲はすぐに飛ばされてまた日差しがやってくる。時計を見たらまだ7時台じゃないか。究極の朝活すぎるけど起きてる時間が長すぎて全然朝って感じしないんですけど。
神楽ヶ峰まで来ると、ダム湖のようなものが見えてギラギラに輝いていた。あれがなんなのか知りたくて調べたけど検索スキルが無さすぎてよくわからない。多分二居湖なんじゃないかな?シゲルが写真を撮っていたから説明したかったけど、やっぱりジュンがいないとダメだ。

振り向くたびに景色が変わる

6. 登り返し

前回もそうだった。神楽ヶ峰まで来ると、苗場山が目の前に大きくどどーーーんと現れる。以前来た時は秋で紅葉に色付いていたけど、今日は緑の苗場山。めちゃくちゃかっこよすぎてもう無理だぁ。シゲルは「これに登るの!?」と3年前の私の如くびびっていたが、そういうの全部無視して薄情者になってでもこの山のパワーを感じて黙っていたい。タクミは山の斜面に興奮すると言っていたが、それものすごくわかるんだよな。動くはずのないものをじっと見ている時間って、けっこう変だよね。山を眺めながら、みんな何を考えているんだろ。ああここに来られて良かったなって思いは日常とのコントラストによって生まれるのだとしたら、結局日々生きてる街での自分を同時に見ていることになるんじゃないかな。つまり山を見つめることは、自分を見つめることなんじゃないかな。

そうは言っても雲は動くので、影ができれば山の色が濃くなったり、日に当たって発色したりもする。3年前に写真家の友達が言っていた「雲がある方が空に奥行きがあって好きなんです」という言葉が、今でもずっと好き。

この後ここを登ります

登り返しの下りの途中で水場がある。シゲルが「天然水だ!」と言っていてそうだよんと思った。みんなここで水分を調達する。私はゾクゾクする斜面を眺めていた。以前来た時よりも湧水の水量が増している気がするな。

最後の登りはなかなかにきついが、休憩もそこそこに一気に登るしかない。もう少しで山頂なことは確かなのだ。3人とも一歩一歩山頂に近づいている。まだ9時。家で彼氏が起きれなくて唸っている時間だ。そんな時間に私は、標高2,145mに手をかけようとしている。

7. 天国にて

登り切ってしまえばここまでの2時間半など、途端にあっという間に思えるのだった。木道が現れ、その先に見えるのはワタスゲの舞う広い広い山頂。「山頂」と言うからにはとんがっているのが普通のように思えるが、苗場山の山頂は概念崩壊を起こすくらい広すぎて、ここに一つの町があっても不思議じゃないくらい。少なくとも楽園ではある。
青い空が張られた池塘に鏡のように映り込んでいている。上を見ても下を見てもそこかしこで夏の空だ。緑の草が一面に生えて、アクセントのようにワタスゲがポワポワと揺れている。私には「君たちはどう生きるか」のわらわらにしか見えなくて、だからここはやっぱりこのワタスゲたちの一つの街なんだろうな。「猫の恩返し」の猫の国はこんな感じだったし、人が住むって街っていうか、人よりも小さくて柔らかくてふわふわした何かが住んでいるところなんだと思うよ。

私たちと同じペースで歩いてきた3人組がいて、同じタイミングでここについたからみんなで写真を撮った。その子達が「今までで一番かもなぁ」と後ろで言っていて、ほぼ初心者の二人と来ていたから「今までで」って観点持ってなかったけど、確かにこれは、誰かの今まででいちばんになりうる景色だと思って、そう考えると少し涙が出そうだった。

この白いのがふわふわなんだよ

山頂標識で写真を撮って、ごはん。昼ごはんのつもりで買ってたけど、やっと9時半なので全然朝ごはんなんだねこれ。
ジュンがいない時しか活躍しない私のジェットボイルでお湯を沸かし、カップラーメンや味噌汁を温める。私はカップヌードルの麻婆ラーメンBIG(BIGしかなかった)を選んでしまっていたので、さすがに食べ切れる自信がなくてドライフルーツを齧った。タクミさんは相変わらず元気そうだが、シゲルは疲れ切っているようだ。ご飯を食べて奥まで散歩しようと歩いた。どこまででも行けるが、どこまでも行ってしまうと反対側に下山してしまうので探索もそこそこにしてコーヒーを飲むために戻る。短睡眠運動に慣れていないシゲルの疲労がピークに達し、淹れたコーヒーを受け取らずにベンチに寝転がって眠りについていた。
さっきの三人組が散策に行きたそうだったので、私たちまだここにいるから荷物番しときますよと言って送り出す。恐縮していたが、どうせ寝ているシゲルをおいていけないので全然平気。3人は寝ているシゲルの足元に荷物をおいて、なんだかご利益を感じたのかシゲルに手を合わせて散策に出かけた。私はタクミと美容室の延長のような話をしながら、私たちも次第に眠くなってベンチを背にして少し寝た。露出した肌の面積が多すぎて手拭いでは覆いきれない。どの体制になっても日が苦しいので、私だけはすぐに起きてしまった。

寝ているタクミさん

雲を見ているとどんどん形が変わって退屈しないなぁ。日曜日の苗場山は人気スポットらしく、多くの人が行き交う。夏の青空を背景に木道を歩く人たちは、誰一人例外なく絵になっていた。登りの時に何回かすれ違った男の子とまた会ったので、「昨日から夏休みだね?」と聞いたら「はい」と言われた。流れで「小5?」と聞いたら「中2です」と言われて、まじでごめん。
二人が寝ている間、自分が何をしていたのか覚えていない。

8. 下山

三人組が帰ってきたのでシゲルを起こして帰路に着く。三人の一人がぼそっと「ガネーシャみたいに寝てらっしゃる」と言ったのがツボだった。見張りありがとうございます、と塩キャンディをもらった。シゲルももらっていたけどシゲルに関してはただ寝ていただけなので本当にお供物として受け取るしかない状況で面白かった。3時間弱山頂にいたことになるけど、こんなことなかなかないのですごく新鮮だった。山頂が広すぎるせいだね。

ガネーシャ

帰る前にトイレに寄っておこうっと、と思って山小屋に入ろうとすると、ヤナさんからよく話を聞いていたマッシュくんに出会った。今シーズンは苗場山頂小屋でバイトをしているらしい。マッシュくんという名前でインプットしたのにこの日の彼は坊主だったため、声をかけてもらった時全く分からずに脳みそがバグってハラハラしてしまった。
ここの山小屋でもう一つ運命的な出会いをしてしまったのでなおも忘れられない1日になってしまったのだが、諸事情につきここでは割愛。

睡眠をとったシゲルはすっかり元気になって私たちは山を駆け降りるように下山した。20日に山に行ったら何か起こるんじゃないかと終始ドキドキしていたが、無事に帰宅できてやっとホッとした。本当に今日山に来られて良かったと思うし、人と山に行くことはとても楽しいし、そもそも人が好きだし、好きだなと思える人を増やしたいし。
私の中に、みんなが言ったセリフや語ってくれた価値観が残る。山に行くことでみんな何かを解放させて街に戻る。何が良かったのかを語ってほしい。いろんな人の言葉で今の私の中にある気持ちを立体的に理解したい。「舟を編む」で読んだ「たくさんの言葉を可能な限り正確に集めることは、歪みの少ない鏡を手にいれることだ。歪みが少なければ少ないほど、そこに心を写して相手に差し出したとき、気持ちや考えが深くはっきりと伝わる。」って言葉を信じて、私は人の話が聞きたい。

居酒屋では聞けない話が明るい太陽のもとたくさん聞けるから、やっぱり人と登る山が好きだよ。

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