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初めてのオリエンテーリング / 瑞牆山山麓にて

初めてのオリエンテーリング / 瑞牆山山麓にて

1.プロローグ

好きという気持ちを語る時、心は真に自由であると思う。
「あなたのことが好き」でも「この食べ物が好き」でも「この映画が好き」でも、そう対象はなんでもいい。「好き」だという気持ちに紐付く健全さ、いい意味での奥行きのなさ、圧倒的肯定的な感情であることの保証。これにより、どこまでも正直に、どこまでも堂々と伝えられる感情。それが私の中での「好き」という気持ちである。

好きだなと感じられるシーンは自分の価値観に密接に紐付くものであるため、感じた瞬間それは自分の中で大事にしたいと思い、口から出す。私は大事だと思ったものを独り占めするよりも、人に伝えたいタイプ。(超ときめき♡宣伝部が「独り占めか布教するか選びなさいっ!」って歌っていた。私は布教させてほしい派だ。)
好き、と口に出した時、本来その瞬間に持つ好き度合いや種類は裏側にもちろんありつつ、そこに身を委ねていい気持ちよさで心が解放される。
この日は、人類全員が大好きな牛タン定食が届くまでの待ち時間、その場にいた3人で「好きな食べ物は何か」という議題で永遠に喋り続けた。陸さんの好きな揚げ物1位を当てるためにこの世の揚げ物を全て端から言っていく時間。「カニクリームコロッケ」といったところで「いやぁ、カニクリームコロッケねぇ!!うまいよねぇ!」と概念としてのカニクリームコロッケについて話し合う時間、何よりも幸せを感じた。
好きという気持ち、そのものが好きだ。

2.オリエンテーリング

今日は、瑞牆山の麓で行われるオリエンテーリングの練習に参加する。部長の陸さんが会社で立ち上げた「ナビゲーションスポーツ部」の上期の活動。どうやら登山が好きな女がいるらしい、と私の存在を知った陸さんに声をかけてもらい、発足時から入部していた。
もうこの活動に参加するのも3回め。ナビゲーションスポーツとはなんなのか1ミリも理解せず入部することになったが、陸さんが案内してくれるロゲイニングはとっても楽しくて大好きになった。
今回は初めてのオリエンテーリング。制限時間で散りばめられたポイントをなるべく多く獲得するロゲイニングと違って、オリエンテーリングは山の中に設置されたポイントを順番通りとっていかに早くゴールをするか。
ロゲイニングよりも多少レースみがあるのかな?でもタイムを競う普通のレースと比較して圧倒的に違うのは、チェックポイント同士を繋ぐためのコースが決まっていないということだ。渡された地図のどこを通ってもいい(厳密には通っちゃいけないところもあるが)ので、右の登山道を行っても左の登山道を行ってもいいし、なんなら登山道を行かずにショートカットしてもいい。ショートカットのことを陸さんは「切る」と言っていた。なんだかかっこいい。
私は夏になって自分の体力がアップしている自覚があったので、相対評価で体力面には全く心配がない状態。どんなアクティビティだろうとやってやんよと受け入れられる器ができており、ノリノリで今回の活動への参加となった。

夏に土日の予定が埋まらないことが許せなくて、ジュンが遊んでくれない土日は一緒に山に行ってくれそうな色んな人に声をかけまくっていた。この部活動の実施が決まった時は、会社で私のチームリーダーをしてくれているこぼさんと予定が立ったタイミングと同時だった。
都合よく社内でのブッキングだったので、「じゃあこぼさん、この日は瑞牆山の麓でオリエンテーリングをやりましょう」と予定をドッキング。こぼさんは基本なんでも受け入れてくれる、好奇心旺盛な大人である。

3.ナビゲーションスポーツ部

部外者のこぼさんも加わったグループチャットで、当日の予定が話される。韮崎に9時に到着していないといけないが、さすがお盆の初日、前日も当日も特急あずさは売り切れだった。
鈍行で行くことにすれば行けなくはないなど、前日までにみんなの知見を出し合いつつあとは約束の地で会おう、という感じ。みんな大人だからね。
私は時間を間違えてめちゃくちゃ早く韮崎に到着してしまい、こぼさんが買い忘れたという行動食などを買いながらみんなを待った。
こぼさんに最低限欲しいものを聞いていたが、今日どのくらい走るのか私もわかっていない。こぼさんがエネルギー不足になったら困ると思って大量の行動食を買い込んだら、2000円分になった。
到着したこぼさんに「たくさんあるね」と苦笑いされたが、こぼさんはそのあと全ての移動中にその行動食をつまんで最後にはちゃんとなくなっていたので、量がちょうどよかったのか、これは余すまいとこぼさんが優しいのか、どちらだろう。

今日参加するメンバーは全部で10名程度。みなさん弊社の仲間たちだが、何しろ従業員が2万人いるうちの10名なので、私たちの間に相関図はほぼ存在しない。陸さんが大学時代部活動でやっていたナビゲーションスポーツ部の後輩が2名、あとは私が多少陸さんに懐いている程度だ。今回は寝坊して1時間くらい遅刻してきた子が1人いたが、「遅いぞ〜!」とか言えるほど仲良くなっていない。優しさと柔軟さでフォローする、大人の距離感だ。
毎回はじめに自己紹介を行う。みんな山でナビゲーションスポーツに触れたくて集まっている。私たちの関係はこの上なく本質的なのだ。

4.瑞牆山の麓で待ち時間

今回は、陸さんの出身の早稲田大学のナビゲーションスポーツ部の合宿に相乗りさせてもらうという企画だった。なので大会とかではなく、大学生が作っているコースに完全に便乗させてもらうわけだ。伝手がないとなかなかできない体験に興奮する。
瑞牆山の麓まで向かう中でだんだん涼しくなる外の空気に陸さんとこぼさんが「興奮してきたな」と言っていた。言った後で「いやこの興奮してきたなっていうのは変な意味ではなく、、、」と言い訳していたが、私も山に登る人なので全然そっち側の気持ちは理解しているから安心してほしい。

予定通りの時刻に集合場所である瑞牆山の麓に到着した。お盆の渋滞で学生側の到着が遅れているとのことで、ただただ駐車場での待ち時間が発生することとなる。
死ぬほどダラダラと準備をし、他愛のない会話を繰り広げる大人たち。こぼさんはずっと私が買ってきた何かを食べてくれているし、一生「やっぱり今日は長袖が良かったかな」と言っている。私は準備の時からこぼさんに「こぼさん今日は半袖で大丈夫です」と700回は言っている。
陽が出ていなくて涼しいから、座り込んでいるのがアスファルトなだけで全然カフェにいる気分になれる。他事業部の皆様と仕事趣味、さまざまな切り口でお話ししたり、しなかったり。
今日の活動が立案されたことに便乗して、昨日は1日早くお盆休みをとり瑞牆山に登って山小屋泊してきたという方がいた。なんとまあ自由で、とっても気持ちがいいな。昨日の瑞牆山は最高に晴れいたらしい。そういう人にこそお天気は微笑むんだから、そりゃそうだ。
アスファルトに座り込んで話していたら眠くなってしまったので、トレランザックを枕にして寝っ転がった。視界に入る空の面積が増えると気持ちがいい。

いざ準備を始めようとなったところで、こぼさんが隣の車のおじさんに怒られていた。私のリーダーはアポでお客さんに謝罪する時こんな感じなのかなとか思って観察してしまって、全然加勢できなくて申し訳なかったな。おじさんは大学生が広がって準備をしていたことが許せなかったらしい。うちらに言われてもねぇ。

5.レース開始

アスファルトカフェの時間があったので、それなりに関係性がほぐれてきた。寝坊して遅れてきた子が「眠いな〜」と言っているのに「人より長く寝てるんだから、そんなわけないだろ」と言えるくらいには。
大学生のレースに便乗すると聞いていたので大学生とどう絡んだら楽しいか考えていたのに、意外と我らおじさんたちはおじさんたち同士で活動することになり拍子抜けした。年下好きの私からしたら若い子と絡める機会が減って残念である。
かつて瑞牆山を登った時と同じ登山口から、ゆるりとコースに入る。

10名の参加者のうち、陸さんを含む大学からのオリエンテーリング経験者は3名、この部活での経験者は3名、私とこぼさんを含むオリエンテーリング初心者は4名。それぞれグッチッパをして力を均等にするべくグループ分けする。1〜3までは案内してもらいながら進め方のルールとモラル、コツを教えてもらうのだ。4から先は野に放たれ、自分の力でレースする。今日のコースは20がゴールだ。
渡された地図はロゲイニングよりもだいぶコンパクトで、かつかなり詳細なものだった。この地図には岩なども掲載されているらしい。以前私がロゲイニングの際に言っていた「地図に書いてあるものが現実世界に存在する感動」は今回の方が強く感じられるよ、とのことだ。

とりあえず1を取りに行く。地図の中の点線の部分は登山道になっていて、結局はここをみんな通るのだから、結局スピード勝負でそんなに差はつかないのでは?と思ってしまったけれど、そんなことはないらしい。
ロゲイニングと違って、登山道の記載が途中で途切れているのだ。チェックポイントの近くに行くためには、途切れた登山道から放たれた先、自分の位置を立体的に把握した上で場所を特定しなければならない。これが、想像していた以上に難しかった。

近くまで行ければ別に見つかるでしょ、というのは普段登山をしている人の感覚。つまり私はこの30年間、整備された登山道しか歩いたことがないのだった。山を歩くということは登山道を歩くことであり、私が普段山と捉えていたものは全て登山道から見る景色なのだった。
地図に書かれた点線を行くことしか経験がないんだ。私は人よりも少し登山をしてきている分、ここの感覚の粘着性がものすごく強いと思ったし、その分登山道から外れることへの抵抗感がとても強いと感じた。そして、自分が想像以上に山を平面で見ていたことにも気づく。

6.迷子

チェックポイントからチェックポイントへは、どんなふうに行ってもいい。点線まで戻ってわかりやすい登山道を走るもよし。直線距離を突っ切るもよし。近いんだから直線距離を行きたい、ここからひたすら北へまっすぐ歩けば7の場所に着くんだから、と思ってコンパスで方向を合わせてひたすら歩き続けたら、わけのわからない場所に出た。どう見ても登山道じゃないし、気になりきれなかった草のようなものが多い茂っていて足に当たる。
半ズボンの陸さんに「半ズボンで大丈夫?結構足が傷つくけど」と言われて「全然大丈夫です」と言ったのは、登山道を歩くなら大丈夫だということだったんだな。こぼさんに半袖短パンで大丈夫です、って700回言ったこと謝らなきゃ。
コンパスの指す北をひたすらに目指してきたけれど、たどり着いたのは説明しろと言われても何の言葉も出てこないくらい何もない場所。自分がどのくらい進んだのかもわからない。と思ったら、目印のオレンジフラッグを見つけた!良かった、とりあえずついた。と思って近づいてみたら、目指していたポイントと違う数字が書かれていた。え、じゃあここどこ?

始まる前に教えられていた。オリエンテーリングは、同じ山で別のコースを作っていることがあって、その際にチェックポイントが混ざらないように数字で識別するのだと。目指すところが決まっているのだから混ざることなんてありえないだろと思っていたら、自分がまんまとそのトラップにハマっていて笑えた。いや笑えない。ここはどこなんだ。

私が目指していたのは31だったのに、今目の前にあるフラッグには32と書かれている。当然私の方の地図には32は掲載されていないため、この32が一体どこなのか完全にわからなくなってしまった。この狭い狭い地図の中で自分がいる場所が完全にわからない。ものすごい不安に襲われた。もうみんなめちゃくちゃ先に行っちゃってこのエリアには私一人なんじゃないか。コンパスを持っていたって、自分のいる場所が見当もつかなかったら、どっちに進んだらいいのかもよくわからない。そもそも私は北へ進んできたつもりだったが、その方向がずれていたのではないか。ていうかここはどこなんだ。

今まで完全なる「ここはどこ」状態になったことはなかった気がする。もちろん本気を出せば色々とやりようがある。近くに太い道路があるのでそこまで戻ればもう一度やり直せるし、本当に危ないのであればスマホのマップを使えばいい。ただ私はこの時、自分の感覚で進んできた道が全然違ったということと、歩き慣れていると思っていた山の中でいとも簡単に迷子になっていることに打ちひしがれていた。不安で仕方ない。大人だから泣いてないだけで、全然泣いたっていい。

山の中でポツンと360°見渡す私の視界の脇を、俊敏にレースを駆ける早稲田の大学生がシカのように通り過ぎていく。コースを見つけるだけで苦労するのに、あんなに颯爽と走り抜けていくなんて凄すぎる。大学のオリエンテーリング部は東大が一番強くて、次いで京大、東工大とちゃんと偏差値順になっているらしい。頭を使うスポーツなんだ。
私は、ものすごく地図を平面的に見るタイプ。大学数学まで学んでいるが、中学生の立体図形の問題がうまく理解できない。立体で物体を理解する力が乏しい。道を覚える力も壊滅的で、高卒で子供を産んだ地元のギャルにも「夏生って方向音痴だよねー」と言われる始末である。

それでもGoogleマップやナビやYAMAPがあれば自分の場所を理解することができるので、日常生活で大きく支障をきたすことがなかった。しかし今は、自分の無力さに恐怖感すら感じる。とにかく不安だ。もうお家に帰りたい。

続く。

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