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燕岳 / 夏が終わる

燕岳 / 夏が終わる

1.夏を生きる

あんなに楽しみにしていた夏が終わってしまう。9月に入るともう明確に秋に向かうグラデーションが始まることを覚悟しないといけない。
会社の先輩が「夏が長過ぎて許せない」という内容でNoteを書いていた。「近年の夏はもてはやされて調子に乗っている」と。正直気持ちはわかるし先輩の書く文章は好きだけど、そう言われても私は全然夏の味方でいたい。私は季節を夏か夏以外かで捉えているため、夏の存在には全然刹那を感じられる。
大好きな季節がなるべく長く続いてくれるのは嬉しい。よくJ-POPの歌詞にある「世界中が敵になっても俺だけは君の味方だよ」みたいな表現に「世界中が敵になったら味方でいるの厳しいだろ」と思っていた。でも夏には言える、私だけはずっとあんたのこと好きだよ、と。ただ、8月ももう終わる。言ってる間に終わった。

2.北アルプス

言わずもがな夏は登山のハイシーズンであり、厳冬期にはとても立ち入れないアルプスの山々を薄着で駆け回れる大変素晴らしい季節だ。今年は創作活動をサボっていただけのことはあって、かなり充実した登山ライフを送れた気がする。

大人になってから登山を趣味にして4年経つが、1年目に訪れた北アルプスは雨の白馬大池だった。2年目は唐松岳、3年目は蝶ヶ岳に行ったな。いずれも日帰り。
稜線に出たときに気づく、これが北アルプスの魅力か、っていうのは登山の回数を重ねるたびに強く思うようになっていった。
山頂から街が見下ろせる里山も、神社がある山もいいけど、観光地を作る必要のないくらいの、圧倒的な地力。自然の織りなす凄まじいパワーを前に受け取りきれない畏怖の念と自然への博愛の気持ち。訪れた人全員の走馬灯に流れるであろう景色。それが北アルプスの凄みなのであると知った。

夏にはアルプスに登りたい。
わかりやすく夏の締めくくりである8月31日。夏の宿題が「終わらない♩終わらない♩」とももクロが扇子を持ってワニシャンを踊り狂う日だ。
大好きな曲の歌詞で「8月の空気持ち良過ぎて、抑えきれない胸の高鳴り」と歌われている。その歌詞の通り、登山帰りにフロントガラスに大きく映されるモコモコの入道雲に何度鼻がツンとなったことか。
ジュンが6月末から「な〜つのお〜わ〜り〜」と歌うのを「やめなさい」と制してきたが、本当にこの歌が似合う季節になってしまった。
私たちの夏を締めくくる覚悟で臨むのは燕岳。「北アルプスの女王」の異名を持つ山だ。

3.燕

登山を始めた1年目からジュンに連れて行きたいと言われ続けてきた燕岳。日本三大急登がある燕岳。日帰りでも行ける燕岳。みんな大好き燕岳。
ジュンが好きな山すぎて、何度登ってもいい、と言っていた。今年の冬は2026年初登山を燕山荘で過ごそう、と言われていたけど、登ってみて「これ冬登るの無理だ」と言ったらガーンと言っていた。自分がアイゼンつけて雪の中この急登を登れるイメージが全くないよ。身軽でいられるところも、夏のいいところなんだから。
急登を登り切ると一気に視界が開けるところもいい。ず〜っと登って、最後の最後に急に稜線。この景色は流石にご褒美すぎる。登り切った稜線から目の前に広がる北アルプスの山々は、以前蝶ヶ岳で見たとき雲で一直線に隠されていたものが笑っちゃうくらいあけっぴろげに丸見えだった。

モザイクが全部吹き飛ばされて姿を現している山々の姿。布一枚なさすぎて、見てるこちらが若干恥ずかしくすらなってくる。
槍ヶ岳をこんなに近くで見たのは初めてだったし、少し回り込むと道が見えて、これならばなんだかあそこまで行けそうな気がするな、と思った。アルプス一万尺は遠い遠い場所だと思っていたけど、燕岳から見ていると手が届きそうで、逆に私自身がここに手が届きそうな場所にまで4年間かけて来たんだな、と思った。

全て丸見えな稜線を見て初めて、あそこを歩いてみたい、と思った。だってそう思うくらい、全部一直線につながっている。どこまでも歩けるんだ、と思った。
「お願いがあるんですけど。」とジュンに言った。今年中にもう一回北アルプスにテント泊させてもらえませんか、と。仕事の都合をつけてまた訪れることにした。どうしてもあそこを歩きたい。稜線の端っこに立って、自分が今まで歩いてきた道が見えたらどんなにいいか。それって、人生の可視化みたいなもんじゃないか。
燕山荘から燕岳までの道は本当に素晴らしく、ここまで一気に登ってきたスピードからは信じられないくらいゆっくりのんびり歩いた。一歩進むごとに写真を撮らないとやっていられない。こんなに晴れている日はもうないんじゃないかと思うし、それと同じくらい、この場所はいつでもこんなに晴れているんじゃないかとも思う。
有名なイルカ岩をジュンが前回スルーしてしまったというので、見逃さないように注意深く歩いて行く。正直全員イルカに見える。本物のイルカ岩は確かに他のイルカよりイルカっぽかった。

北アルプスなのに南アルプスみたいな地質なんだ、とジュンが教えてくれた通り、甲斐駒ヶ岳にも仙丈ヶ岳にも日向山にも似ていた。今まで登った山に似ている箇所を見つけると、懐かしく感じられるから嬉しい。
もっと山に深く入って、もっと遠く山の空気を知って、山に溶け出すほど一緒に透明になりたい。山を構成する要素になって、そのままもう、日常に戻ってこなくてもいいと思いたい。

下山の時にはスーパー登山部の「燕」を頭の中でリピート再生させていた。
さあ何処へ行こうか、道の先もまだ、あるから。

4.今年の走馬灯

この夏を振り返ってみよう。
仙丈ヶ岳というすごく好きな山に出会うところから夏が始まった。雪渓の下を流れる水が冷たかった。

日本が終わるというので避難がてら秩父に泊まりに行って「人生最後の〇〇〜!」としこたまおやつを買い込んだ。日本は終わらなかった。

親友が離婚しそうだというので励ましにデニーズに行ったらすでに解決していた。エモい気持ちになったので10年ぶりに2人でカラオケに行ったら親友はめちゃくちゃ歌が上手くなっててとても良かった。奥さんがカラオケ好きらしい。

高尾山をトレランして山頂でCCレモンを飲んだ。

土用の丑の日に会社のお友達と名古屋でひつまぶしを食べた。

苗場山の山頂で働く天使のようなひなこちゃんに出会った。

家族旅行に行く途中シカを引いて、壊れた車を新潟に捨てて佐渡に向かった。

そのときに受けたジュンの呪いを解くべく高妻山の頂上で厄払い懺悔した。帰りの高速をジュンが運転している間だけ、天の怒りとしか思えないほど空が荒れ狂っていた。

瑞牆山の麓で大学生に混ざってオリエンテーリングで遊んだ。生まれて初めて山の中で一人迷子になった。

同窓会に参加すべく実家に帰った。10年ぶりに会えたのにあんまり楽しくなかったということにショックを受けた。中学1のギャルが浜崎あゆみを歌ってくれたのはよかった。

3泊4日で四国へ渡った。高知のひろめ市場が気持ち良かった。5年後くらいにまた行きたい。

ニューヨークの単独ライブでちょっと泣いた。

白馬三山を3日かけてのんびり歩いた。幼少期の思い出の上塗りと、山頂でスーパー登山部との衝撃的な出会い。

そして燕岳で北アルプスを全て見せつけられ、トゥービーコンテニューな感じで夏を締めくくる。夏の間に納豆とめかぶを何パック食べただろう。毎週すると決めていた自炊は誇張なしで全部そうめんだった。
夏生という名前をたくさん褒められて、自分の名前が好きになった。
もう2度と訪れない夏。31歳の夏。

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