登山やアウトドアで「フリース」といえば、多くの人が思い浮かべるのはパタゴニアのシンチラではないでしょうか。
ふんわりとした質感と確かな保温性を持ち、長年にわたって世界中のアウトドア愛好家に親しまれてきた定番アイテムです。その背景には「ポーラテック(Polartec)」という革新的な素材メーカーの存在があります。
今回は、パタゴニアのシンチラ誕生の歴史を軸に、ポーラテックがどのようにしてアウトドアウェアを変えていったのかを丁寧に紐解きます。
ポーラテック社のはじまり

ポーラテック社の前身は19世紀に創業した「モールデンミルズ社」。
当初は兵士の制服や婦人服向けの素材を製造していました。戦後にはカーテンやソファなどのインテリア用生地の生産が全体の4分の3を占めるほどに成長します。
1950年代になるとファッション界ではフェイクファーが流行し、ポリエステルを起毛させた素材で成功を収めました。

しかし1970年代に入ると需要が落ち込み、転換期を迎えます。そんな中でモールデンミルズ社を訪ねてきたのが、若きパタゴニア創業者イヴォン・シュイナードでした。
パタゴニアとポーラテックの出会い

当時の登山界では、ウェア素材の主流はコットン、ウール、ダウンといった天然素材。
しかしイヴォンは「水に濡れても乾きやすく、軽くて扱いやすい化学繊維こそ、山の世界でも活きるはず」と考えていました。

そんな折、妻のマリンダがフェイクファーコートに使われていたモールデンミルズ社の素材を偶然見つけ、それをもとに試作を繰り返します。
毛玉ができやすく、見た目も洗練されていない。それでもイヴォンは、軽量で乾きが早く、驚くほど暖かいその素材に未来を感じました。
そしてモールデンミルズ社と協力し、アウトドアに適した化繊フリースの開発を進めます。
フリースの誕生と「シンチラ」の登場

モールデンミルズ社の3代目社長アーレンは、イヴォンの提案を受け入れ、ポリエステルを起毛させた新素材を開発。
それを使ってパタゴニアが製作したシンプルなプルオーバーは大ヒットとなりました。さらに改良を重ね、両面起毛で毛玉になりにくく、柔らかく軽量な「ポリエステル・フリース」が誕生します。
その滑らかな触り心地はまるでビロード(英語でChinchilla)を思わせることから、製品名は「シンセティック・チンチラ=シンチラ」と名付けられました。

興味深いのは、パタゴニアとモールデンミルズ社がこの素材の特許をあえて申請しなかったこと。結果としてこのフリース素材は多くのアウトドアブランドに広まり、アウトドアウェアの常識を塗り替えることになりました。
「フリース」から「ポーラテック」へ

1990年代に入ると、フリースはアウトドアの枠を超えてカジュアルファッションにも広がります。
モールデンミルズ社はこれを機に素材ブランドとしての「ポーラテック(Polartec)」を立ち上げ、用途別に以下のシリーズを展開しました
- Polartec 100 / 200 / 300:厚みによる保温力の違いを明確化
- Polartec Wind Pro:防風性を備えた高機能モデル
これによりポーラテックは「フリース=暖かい服」という概念を世界中に浸透させたのです。

そして現在のポーラテック

ポーラテック社は今や550種類以上の素材を展開。アウトドアウェアだけでなく、ミリタリーやワークウェアなど、3つの分野を柱として開発を続けています。
それぞれの分野で培われた技術が互いに影響し合い、より高機能な素材を生み出しています。
| レイヤリング | カテゴリー名 | 素材の種類 |
|---|---|---|
| ベースレイヤー(肌に近い層) | Next to Skin ネクスト・トゥ・スキン | Power Dry / Power Stretch / Poer Stretch Pro / Power Grid / Delta / Power Wool |
| ミドルレイヤー(中間層) | Insulation インシュレーション | Classic / Thermal Pro / High Loft / Alpha / Wind pro / Power Air |
| アウター(外層) | Weather Protection ウェザープロテクション | Windbloc / Power Shield Pro / Power Shield RPM |
「クラシック」—— フリースの原点にして完成形

今回紹介する「クラシック」シリーズは、ポーラテックを象徴する存在です。極細ポリエステル繊維をパイル状に編み上げ、表裏の両面を丁寧に起毛させた構造が最大の特徴です。

この構造により、
- 単体では通気性と適度な保温性
- シェルの下では高い保温効果
を両立し、登山から日常まで幅広く使える汎用性を持ちます。

現在のクラシックシリーズは、防風メンブレンを持たない「純粋な両面起毛フリース」に限定されています。
表面に凹凸加工を施したタイプや、防風フィルムをサンドイッチしたものは別カテゴリに分類されます。つまり、クラシックとは「もっともシンプルで、もっともピュアなフリース」。

誕生から40年以上たった今も、軽さ・保温性・快適性のバランスが取れた理想的なミドルレイヤーとして、多くのブランドに採用されています。
現在購入できるパタゴニアのシンチラ

現在購入可能な パタゴニアの「シンチラ(Synchilla®)」シリーズの代表的な製品は概要欄に記載していますので気になる方は是非チェックしてください。現在パタゴニアの店頭に出ているものがポーラテックを使用しているかは正直わかりませんが、シンチラの特徴を感じてもらえる製品です。

個人的に好きなのはライトウェイト・シンチラ・スナップT・プルオーバーで、軽い着心地と汎用性の高さから普段から山まで活用しています。着用しているのはウィメンズ・ライトウェイト・シンチラ・スナップT・プルオーバーのLサイズです。(身長180cmで66kg)
1.メンズ・シンチラ・ジャケット

平均重量:約 490 g
特徴:100 %リサイクルポリエステルのダブルフェイス(両面起毛)フリース素材(8-oz 相当)を使用。襟はスタンドアップ仕様、ナイロンプレーンウィーブのトリム付き。胸ポケット+両サイドポケットあり。フェアトレード認証縫製
登山向け視点:ミドルレイヤーとして十分な保温性を持つモデル。山行時、行動時〜休憩時に適切な保温を提供
2. メンズ・シンチラ・ベスト

平均重量:約 278 g
特徴:同じくリサイクルポリエステル両面起毛フリース(8-oz相当)をベースに、フルジップのベスト型。スタンドアップ襟仕様。チェストポケット+両サイドポケット付き、ナイロントリム。
登山向け視点:腕周りの自由度を確保しつつ、胴体の保温を重点にしている構造。温度変化の大きい登山時の「活動しながら暖を保つ」に適しており、荷物軽量化にも貢献。
3. メンズ・ライトウェイト・シンチラ・スナップT・プルオーバー

平均重量:約 374 g
特徴:ライトウェイト仕様のSynchilla®フリース(8-oz 相当)を使用。スナップTプルオーバースタイル。四つボタン前立て+胸ポケット、袖口・裾にスパンデックスバインディング。水分をウィック(吸湿)し乾きも速いという記載あり。
登山向け視点:より軽量なミドルレイヤーを求める場合に適う。行動量の多い登山・ハイキングで、保温性能を保ちつつ"軽さ"を重視したいときに有効。
4. メンズ・シンチラ・パンツ

平均重量:約 405 g
特徴:ミッドウェイト仕様のSynchilla®フリースを使用したフリースパンツ。手暖めポケット付き、ウエストゴム仕様など登山・アウトドアで使いやすい仕様。
登山向け視点:寒冷地・休憩時・ベースキャンプ時など「脚部の保温」を重点に置きたい時に有効。動きのある登山行動では多少重さを感じる可能性あり。
5. メンズ・シンチラ・シャツ・ジャケット

平均重量:476 g
特徴:シャツジャケットスタイル("シャツジャケット"=ジャケットとシャツの中間仕様)なので、ミドルレイヤー+アウターライクに使えるデザイン。フリース素材の保温力を活かしつつ、シャツ感覚でも着用可能。
登山向け視点:行動時にも休憩時にも使えるオールラウンド仕様。上に軽いシェルを羽織ることで変化する気候にも対応可能。
1. ウィメンズ・ライトウェイト・シンチラ・スナップT・プルオーバー

平均重量:約 363 g
特徴:女性用ライトウェイトバージョン。断面仕様として「7.5-oz 100%ポリエステル(再生85%)フリース」などの記載あり。胸ポケット、スナッププラケット仕様。
登山向け視点:軽量なミドルレイヤーを求める女性登山者に適。行動量が多めの場面や重ね着で温度調整を重視する時に有用です。
2. ウィメンズ・シンチラ・ジャケット

平均重量:約 405 g
特徴:ミッドウェイト仕様のフルジップジャケットタイプ。ダブルフェイス起毛フリース(8-oz 相当)を使用。ジッパー付きポケット、襟・袖口・裾はバインディング仕様。
登山向け視点:保温力を重視した中間層として活躍。冷え込む時間帯や休憩時、またはアウターとして軽く羽織る場面でおすすめです。

