夏のアクシデント
厄祓いに行きたいと思わせるほど不運なことが続くなんて可哀想すぎる。
私はジュンがいないと山に行けないポンコツハイカーだけど、その肝心のジュンの身には直近色々なことが起こっている。そして私と比べて繊細な彼女は、その度に少しずつ寿命を縮めるのだった。
先日、私の家族旅行にジュンが便乗する佐渡ヶ島の旅(この時点で変な文脈なのはわかってる、警察の人にも何回も確認された)の際に高速道路で飛び出してきたシカに正面衝突した。この時に運転していたのはジュンだった。
衝突する瞬間のシカとばっちり目まであっていたと言うのだからこの件でジュンにかかったストレスは相当なものだろう。
そしてここから数日も置かずにAppleIDの乗っ取られ事件。iPhoneの全てのデータが初期化され2週間ラインすらできないというサイバー攻撃に遭うことになった。
そのほかの細かな不運は知らないが、単体でもなかなかハードな案件が数日中に起こったことで、なんだか人生全体に対して萎縮してしまうジュンなのであった。
私は「シリアスは全てユーモアで解決せよ」という家訓(嘘です。寄居にユーモアという言葉はない)で生きてきたため、同伴していたシカまではヘラヘラと笑い話にしてしまっていた。
さすがにiPhone全体が乗っ取られた経験はないので、そのショックがどの程度なのか想像できない。私が乗っ取られたことがあるのはフォロワーが30人しかいない鍵アカのインスタグラムである。それを乗っ取って何がしたいねんという話は置いといて。
↑ちなみにジュン視点での不運はジュンのNoteにまとめられていました。
山へお祓いに
さすがに周囲の信心深い大人たちに「お祓い行ったら?」と言われ出したこともあり、悪い気を断ち切りに出かけることは私たちにとって必要なムーブメントだった。たとえそれがサイバー攻撃の翌日だったとしても。
この土日は本当は白山に行く予定だったが、私の体調不良が長引いて日曜日のみの日帰り計画と変更してもらっていた。
白山に登っていたら乗っ取りに気づくのが最悪下山後の日曜夕方になっていた可能性を考えると、まあ不幸中の幸いか。もしくは犯人はジュンが白山に登ることを知っていた人物か(イタズラの可能性が高いとAppleの人に言われたらしい。コワ)。
ジュンがめちゃくちゃローテンションであることはもちろん理解しつつ、サイバー攻撃の翌日でも山に行く気力があるのかどうかは確認しないといけない。
iPhoneを丸ごと乗っ取られた時にどんな手筈が必要になるのかわからなくてチャットGPTに聞いた。私にできることは何かあるのか確認すると「寄り添ってあげて」と言われたので、そうすることにする。
メンタル面とそれに紐づく体調面、どちらも心配なので「無理しないでほしいのだけど明日本当に山に行く?」と何度も聞いた。何度聞いても乗り気なのかどうか判断しづらいテンションで「行く」と言われるので、まあそれなら行くでいいのか。
若干意地のようなものも感じながら候補地を探す。そもそも全国的に晴れているところが多くなかったが、その中でも目に留まったのが戸隠の高妻山だった。
高妻山を候補にした理由は、まだ(私が)登ったことのない百名山であるということ、他の地域と比較して晴れが見込めるということ。
そして学がないので到底うまくは言えないが、何度か訪れて感じた戸隠という場所の土地の力。埼玉生まれの東京都民には街丸ごとパワースポットみたいに見えるこの場所に浸かれば、なんの神様かもわからない何かに澱みを祓ってもらえるんじゃないか、って。
この神様がいるから〜とかそういうことは調べて知っているからじゃなく、体感のざわめきは体感の神秘と相性がいいんじゃないか。って。
ただ「よく調べてない」ことを長文で意訳してるだけです。
社用携帯が使えるらしいが、今ジュンは生活の全てのツールがいったん水没している状態と等しい。今まで山に行くときにあたりまえにジュンがやっていた準備は最低限私がしないといけない。天気を調べて登山計画を提出し集合時間を決めた。書き出してみたら全然大したことなくて草である。
スマホがないだけでなく、夜中にシカと正面衝突した事件のせいで夜の高速に対しても苦手意識を強く持ってしまった彼女。なるべく明るい時間に高速道路を走れるよう4時にお迎えに行くことにした。
戸隠という場所の名前を聞いて「忍者の里みたい」と言った友達がいたが、私もそう思う。刀鍛冶の里みたいに案内人を何人か介さないと辿り着けない場所、みたいな。当然そんなことはなく、Googleマップで「戸隠キャンプ場」と調べると車で3時間半かかる道のりであるということをしっかり教えてくれた。
とにかく明日は戸隠に禊に行くんだ。何かの。
戸隠はトレランぶり
ちゃんと起きれているのに何故かいつもお迎えの時間に10分遅刻してしまう。歯医者に数分の遅刻はつきものと過去思っていたが(今は家が近すぎてオンタイムで受付カード出してる)、同じ感情を抱いている可能性があるのでいつも改善したいなあと思う。
と思ったら今日はジュンが寝坊して1時間待つことになった。彼氏に言ったら「めずらしいねえ」と言われた。そう、珍しいのである。1時間遅刻しても私が今まで寝坊でジュンを待たせてきた時間のトータルには全然満たないので、心ざわめく今日くらいゆっくり寝てほしい。
5時すぎに無事集合できたので戸隠に向かう。ガソリンは満タンだしなんだか晴れそうな空だ。行きの車はいつも通り色々話していたが、一瞬で時間が過ぎて気づいたら戸隠キャンプ場に着いていた。何を話したかは一文字も思い出せない。
戸隠のキャンプ場は5月末にトレランで20キロ走った時に通ったコースに駐車場があった。あの時ラスト3キロをダラダラ走る私の隣をハイカーが下山しているのを横目に見たことを思い出す。めちゃくちゃ嫌だった。
今日は走らなくていいが、普通に行程がなかなか長いのと、病み上がりなので油断は大敵。7月はちょこちょこ主体的に10キロ走るなどしていたのでよくわからなくなっているが、山での12キロ獲得標高1,400メートルってどんな感じなんだっけ。
私はこの7月初めてランニングに目覚め、家の周りを5キロ〜10キロ走ることを毎日行っていた。私は女なので、本当に毎日やっていなくても「毎日5キロ走っていた」と言えてしまっているというのもあるが、いずれにしてもこれは私の人生的になかなかの快挙なのである。走るのが大嫌いだった学生時代の自分が常に心の中でスタンディングオーベーションを行っているため、自己肯定感が常にうっすら満たされている。高妻山がなんだか疲れそうという雰囲気は感じつつ、今の私がいけなきゃいつ行けるねんっていう気持ちなので全然不安に思ってはいなかった。相変わらず自分の中のものさしだけで物事を考えるから、いつまで経っても会話が薄っぺらいんだよな。
登山開始の直前にジュンが自販機を見て「水が足りない気がするからもう500ml買おうかな」と言い出した。結果的にこの判断がめちゃくちゃ正しかった。
私も便乗して買ったアクエリアスがめちゃくちゃ美味しかったので、情報弱者ver.のジュンにもいつも通り大変感謝である。使えるiPhoneを携帯している状態なのに、手ぶらのジュンに頼もしさで勝てない。
山を歩いて赦されよう
信州大学でアイデンティティを獲得したジュンにとって戸隠は思い出の場所。高妻山は、ゼミの子どもキャンプの引率で何度も訪れていたらしい。
ジュンの思い出の扉が開き、当時のことを色々と語ってくれる。3泊だか4泊だかの期間、ホームシックで泣き叫ぶ子供をいっぱい連れて山に登ったり泊まらせたりしないといけないらしい。お金もらってもやりたくない仕事をゼミの単位を人質にやらされていて本当に大変だなと思った。
私はゼミで、目の前に描かれた結び目が解けんのか解けないのかをクーラーの効いた部屋でずっと考えていたよ。数学はたいていの人にとってなんの役にも立たないし、思い出の蓄積もしてくれない。
牧場を横目に登山口へ向かう。帰りは牧場を通って帰ってこようねと何度もジュンが言う。とにかく思い出の上澄みをすくいたいんだね。ここはジュンにとって特別な場所なんだろう。
いつもと違って私しかYAMAPを起動できていないので、小さな分岐も全て私が確認することになるが、毎回ジュンに言われないと自分から確認しないので、いかにいつもぼーっと登山をしているのかを思い知らされた。
今回はピストンではなく、途中まで周回できるコースらしい。まずは川の近くを歩くことになった。
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もう半年近く前のことなのでここから先は詳しく覚えていないが、この後暑すぎて9合目まで来たのに嫌になって一瞬帰ろうとするなどあったものの、無事に到着した山頂で禊を終えることができた。
その時撮った写真を載せておくが、笑顔が素晴らしいのできっと付き物は落ちたのだと思うよ。





次の夏も早く来ないかな。
あ、でも体重を元に戻すくらいの時間が必要だから、もう少しの間は寒くても大丈夫です。

