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戸隠マウンテントレイル / 雨の20kmラン

戸隠マウンテントレイル / 雨の20kmラン

戸隠を20km走る。

多くの人にとって「走ること」とは嫌われる行為であり、私も全然そっち側の人間です。
小5で親に言われるがままバレーボールを始めるまでは運動能力の低い子供だった。後天的に人並みの体力を得たタイプなので、運動神経に関するコンプレックスは今でもずっとある。小5の持久走大会で私が6位入賞した日、幼馴染のジュンヤ君は家のドアを開けるなり「お母さん大変!なっちゃんが持久走大会で入賞した!」と言ったらしいし、高校バレー部時代、伸び悩む私に母は「魚は海を泳ぐし、鳥は空を飛ぶ。みんなそれぞれ特技を活かした世界で生きてるんだよ。あんたはニワトリなのに頑張って浮いている方だよ。」と慰めてきた。
高校バレー部を引退した時、ああこれでやっと運動しなくていいんだと思ったのになんでこんなことになってしまったのか。

今大会に出場することになった理由は一つ、ジュンに誘われたからだ。「戸隠で20kmのトレラン大会があるんだけどよかったら一緒に出ない?」と言われた。嫌なら断ればいい話なのだけど、この時私にはそれができなかった。
なぜならジュンからこの誘いが来たとき、私は二十歳になった教え子と会社の先輩たちを集めて同じ趣味の話で飲むという、人生で指折り楽しい飲み会の帰り道だったんだ。マグロ焼き肉めちゃくちゃ美味しくて、みんなで店の前で撮った写真が共有されたくらいのタイミングでジュンからのお誘い。上機嫌の私は「いいよ〜ん」と即レスしていた。
今ラインを見返すと「え、本当にいいの?」「20kmだけど本当に本当にいいの?」と何度も来ている確認に、全て「いいよ〜ん」「大丈夫だよ〜ん」と返信し、その30分後に「エントリー完了したよん」と言っていた。
まあこの時点で1月末であり大会は5月末とのことだったので、その頃までには未来の自分がなんとかしているでしょう、と思っていたというのもある。4ヶ月も先のことなんて誰にもわからない。

4月に入ったところでジュンにリマインドをされ、流石にまずいということを思い出す。1月末の無邪気を呪いつつ、「キャンセルしたらエントリー代って返ってこないのかな」とジュンに悪態を尽く始末。最終やるのにずっとうだうだ言っててスタンスの最悪な女。

ジュンと私は性格が全く違う。ジュンは心にファイターを飼っているので今大会に向けて「今回の目標は…」などとよく口にしていた。そして平日置かれている環境に加えてそもそも搭載された運動能力もかなり違う。もちろんジュンの方が優れているという意味で。
2年前に一度野沢温泉の14kmのレースに出た時はペアで出場した。ペア出場とは公式的に「ねえねえ、一緒に走ろうね。」が成立するやつだ。その時は私が初めてのトレランだったのでジュンは私に伴走しながら色々とお世話をしてくれた。今回はちゃんと実力を発揮したいと思っているみたいなので、思いっきり別行動になる。
私はというと、昔からわかりやすく順位がついたり競ったりすることが苦手で、むしろ逆張りして手を抜いたりしてしまう痛い性格なため、ジュンに迷惑をかけないよう別々で走ることは全然オケだった。自分が20km走るということがどれだけ大変なことなのか考えて不安な気持ちになりたくない。なるべく当日をイメージするスイッチをOFFにしておくというその日暮らしの自己防衛をしながら日々を過ごす。特に大きな準備をすることなく当日を迎えた。

要項は一応流し読みした。当日のジュンお迎え時間の連絡を見て意外と集合時間がが遅いことを知る。てかレース開始13時なんだ。めっちゃ余裕じゃん。

東京から戸隠まで約4時間。行きの車の中でもジュンにぐちぐち言う。ジュンは楽しみにしているのに隣でこんな後ろ向きなやついたら嫌になるだろうということを俯瞰で見ることはできるはずなのに、どうしても嫌でつい「不安〜」などと言ってしまう。ジュンは私の声を音として聞いているためおおかたスルーしてくれる。

今回憂鬱な理由は、単に20km走るということだけではない。何を隠そう、この日戸隠はとんでもない雨予報なのである。ちょうど大会で走っている時間に被って雨粒いっぱいの雨マーク。あれね、傘が開いててその下に雫が書いてある、「雨」って漢字の元になってるマークのるやつね。
私雨の戸隠を20km走るのかよ。

十分ではないとはいえ、新緑の秩父や奥多摩を週末15kmほど走ることで私なりに5月のランモチベは高めてきていたつもりだった。雨は想定してないのよな。
前日準備の際にジュンがあれこれと持ち物についてアドバイスをしてくれる。「防水用グローブを持っていかないとね」と言われて、「防水用グローブを、持っていればね。」と思った。防水用グローブという存在を今初めて知った。
自宅にあるできる限りのものをかき集めてそれっぽい準備をする。これで雨の戸隠20kmに立ち向かえるのか、全然自信はないがもう前夜22時なのでどうすることもできない。

とはいえ2年前の野沢温泉の時に比べると、かなり装備も自分で揃えられているし、格好はそれっぽくなっているはずだ。野沢温泉ランの時は見知らぬオヤジ(ジュンの知り合い)に「その格好で走るの?ハン」みたいなこと言われて心の中でブチギレる事件があったが、今回は思慮深く行くぞ。

ジュンと合流して「忘れ物してないか心配だな」と言ったら「ハガキ持ってきた?」と聞かれて「…ん、ハガキって?」と言った。ん、ハガキって?
なんかエントリーした人の自宅にはハガキにて案内が来ているらしいのだが、私は1月末に住んでいた家と今の家が違うためなのかどうなのか、ハガキなどというものは届いていなかったし、届くことの認知もしていなかった。「言ったじゃんー!!!」とジュンに言われたが、言われた記憶がないので頭の中ではジュンが嘘をついていることにした。
「ハガキなくて走れるのかな?」とジュンに言われたので「もし走れなかったら見学するね」とトレラン嫌がりキャラを貫き通すために言ったが、流石に戸隠まで行ったらもう走ってしまいたい。でも大丈夫。昔血迷ってベジタブルマラソンなるマラソン大会に出たことがあるが、あの時もハガキを忘れたけど走ることができた。3年前から何も成長していないところは今の論点ではありません。

戸隠に着いた。とりあえずハガキを持ってエントリー列に並ぶ。「ハガキないんですけど…」と言ったら、はいはい大丈夫ですよと優しく案内してくれた。受付の人が全員「TMT」と書かれたTシャツを着ていたので「TMT?トマトですか?」って直感的に聞こうと思ったが、ノベルティでもらったTシャツがそれと同じだったので「戸隠マウンテントレイル」の TMTだったことに気づき、本当に変なこと聞かなくてよかったと思った。

さあもういよいよ雨です。ジュンに「低体温症が心配。体を濡らさないようにね」と言われた。なるほど、低体温症に気をつけるんだな。低体温症って何だろう。
とりあえず体を濡らしてはならないという唯一のジュンの教えを胸に、早速レイン上下を身につけた。が、どう考えてもレインパンツは走る時に邪魔すぎるのでのトイレの前で脱ぐ。手際が悪く地面に座ってレインパンツと格闘していたら、トロすぎてジュンがもう始まるから早くしろと呼びに来た。

レースが始まる。みんなして膝にクロス状にカラフルなテーピングを貼っている。私も貼ったらそれっぽくなれるかな。雨でも出場者の皆さんは元気いっぱい。何やら実況をされながらみんなでカウントダウン。ついに雨のトレラン大会がスタートした。

私はこう見えて登山歴30年なのだが、その登山歴の中に一人で登山をした経験というのが一度もない。山に入るときは家族やジュン、友達が必ず一緒だった。今回は登山ではないし、レースだから周りに人はいるので厳密には一人ではないが、私にとっては初めてのソロハイクのような形になる。レースのお尻時間は確か5時間後とかで、私は5時間もスマホも見ず誰とも話さずに山の中で過ごせるのだろうかと心配になる。気になったことは声に出してリアクションするタイプなので、初めての環境に身を置くことにドキドキする。これはいい意味で。

スタートしたら砂利の坂からコースが始まる。あっという間にジュンは見えなくなった。ペースが早くて追いつけないからというより、前側に行く人たちの波のようなものが発生していて私は早々にその流れから降りたのだ。トレイルランナーの集団が作る楕円のどのあたりに自分が位置しているのかわからないけど、私の周りには同じく波に乗れなかったのか乗らなかったのかわからない人たちがたくさんいた。少し空間的ゆとりのできた集団と、服装調整のことを考えながら走る。雨は全然降っている。

山に入った。途端に走りづらくなる。前の人とペースが合わなくても、抜こうにも抜けない道の狭さと足元のおぼつかなさ。細い川を何度か渡るが、その際に抜こうとした人が川に片足をぼちゃんと突っ込んでいて周りの人に「わあ」と言われていた。
まだ体力的にきついわけではないが、自分のペースで進めないことにストレスがかかる。歩幅が合わない。とか思ってたら、だんだんと息があがってあの辛さがやってきた。あの持久走大会独特の、喉が熱くなるかんじ。
呼吸が浅くなって、肺で大きく息を吸えなくなる。空気を吸いたいのに吐き出す量の方が多いからどんどん苦しくなる。この感じがほんとに嫌いなのは、体力的な辛さと、運動が苦手だった子供時代のことを思い出す精神的な辛さと、どちらもだ。

思えば私のバレーボール人生は全く華々しいものではなかった。小5でのスポ少加入は、同学年が7人の中で誰よりも遅かった。バレーボールとは6人でやるものなのだということすら知らないで加入したが、小1からやっているのに私のせいでレギュラーから外れた友達に「あんたが入ってこなければ私がずっとレギュラーだったのに」といじめられていた。当時のナヨナヨな私ですら「流石に他責すぎる」と明確に思ったものだ(当時他責という言葉は当然知らないが、そう思った)。
中学時代は1個上の先輩たちが極悪すぎて女子部活あるあるのいじめを受けていたし、高校時代はリベロの先輩に「私にあんたの身長があったらもっといい選手になれる」と言われながらシューズで頭をはたかれた。下手なくせに身長のおかげで毎回レギュラーにはなるが、エースになれるほどの器用さとスポーツにおける真の太さがない選手なんだよな。

…とか考える。どうやら山の中に一人だと、私は過去へ潜るようだ。走るという行為と繋がって思い起こされる記憶は人生の中で走っていた時間に結びつきやすく、故に図らずとも青春の邂逅になるらしい。
勝負弱い自分の特性を不甲斐なさと感じていたけど今はそれすら受け入れて、そういう自分じゃないと出せない私の味があると信じることができている。はずなのにどうしても気持ちが暗くなるのは、この雨のせいか。

5kmも走ると走り出しの嫌な感覚は無くなってきた。代わりに体がずっしりと重たくなる。登り坂で走るのはもう無理なので歩こう。呼吸で上下する胸の幅が元に戻るまで。もはや平坦な道すら走りたくなくなってきた。歩く。
体力的な問題ということ以上に、普通にびちょびちょになってきていることが原因なんじゃないかっていうことは素人の私にもなんとなく感じられた。体を濡らさないぞという唯一の信念を胸に、暑くても上はレインを脱がないように我慢していたが下は短パン生足丸出しである。走りづらいし、足が濡れることはなんかセーフなんじゃないかと思っていたけど、なんだか下半身から冷たくなってきた。ジュンに「低体温症になるから立ち止まらないこと」と言われていたので、止まったら死ぬ気がして早歩きで進み続ける。下半身の感覚は、あるっちゃあるし、ないっちゃない。今まで痛くなったことのない背中の部位が痛くなってきたけどこれが低体温症のせいなのか、走る姿勢が悪いせいなのかはよくわからない。

気づいたら飯縄山の山頂に出ていた。飯縄山は2年前のお盆に母と一緒に登ったことがあるが、その時もガスガスで「母と登った」ことと「母がポケモンGOにハマりすぎていて山頂でもポケストップを探していた」こと意外覚えていない。ここはもう登山道なので道が狭く、今まで以上に抜かすとか抜かされるとかそういう話ではなかった。
そしてこのあたりから本格的になってくる雨足。もう普通に外出を躊躇うレベルの雨である。そして山で雨となると自分が濡れることに加えてもう一つ弊害が。地面がドロドロになってくる。
本来ならふかふか走りやすい登山道は、大量の水を含んでどろんどろんである。走らなくとも足元を掬われるので、走る技術というよりも体幹が必要。つるんつるん、とはまた違うんだけど、とにかくぬたぬたの泥道を転ばないようになるべく颯爽と抜ける。前の中年女性はご夫婦で出ているのか旦那さんに「きゃー」みたいになっていてここで脱落していた(実際は脱落していないと思うがそんな感じだった)。
元々気にしていたわけはないけど、もはやどろはね汚れを気にするというフェーズはとっくに通り過ぎた。いかに無事に、林の雨宿りができない剥き出しの稜線をうまく通過するか。

私たちを励ますように、コースの至る所に小さな看板が小気味良く配置されている。「ここが正念場!」みたいな一般的な応援文句ではなく、「今自分何してるんだろー…って思ってない!?」とか「おいオレのハムストリング!(なかやまきんに君の画像)」とか、なんていうかまあ走っている私たちの心情をちゃんと理解した文言が書かれている。良い余興にはなるものの、心を見透かされている感じは不貞腐れたい私からしたら面白くはない。ちょうど思ってたことが看板に書かれていると自分が浅はかに感じられる(わかりづらいと思うけど褒めてるつもり)。
「足元ばかり見てないで見上げてごらん、美しいブナ林だよ!」みたいなことが書いてあったから見上げてみたら本当に美しいブナ林だったから「ほうっ…」となった。素直。
毎回立ち止まって写真を撮っている人がいた。私も撮りたいなと思ったけど止まったら死ぬし、「ふん、私はまんまと撮らないんだから」みたいなモードになっちゃって結局一枚も撮らなかった。今全然思い出せないので、強がらないで撮っておけばよかった。

ゲレンデを登ったところで、「飛び込め!戸隠連峰の絶景!」と書いてある看板に出会う。わぁーーーーー!!!うん!真っ白だぁ!!!!!
本来であればここからの下り坂、戸隠連峰の絶景に飛び込める坂道なんだということを認識、そこに山があろうが墓場があろうが霧によって何もわからない坂道を駆け降りた。ずるずる滑るけど下が芝生だからスピード出してもへっちゃら、と思ったら転んだ。しかもところどころ小さな木が生えてて普通に危ないである。あららと思いつつ、以前ジュンに「トレランで前重心で転ぶと褒められるんだよ」と言われたことがあるので、心の中でナイスファイトと言った。

7km進んだところでエイドが現れ、これにはものすごく救われた!メンタルと体力、どちらの面でも。
まず、飲み物が水・コーラ・なっちゃんオレンジなど5種類くらい用意されていた。ジュンが折り畳みのコップを持たせてくれていたのでこれでなっちゃんオレンジを飲むと本当に本当に美味しくて、冷えた体にもっと冷えたなっちゃんオレンジが巡り、そのまま私の中でエネルギーを表す数字になるのがわかった。血液がオレンジ色になる。

食べ物はバナナ、ちっちゃいドーナツ、一口サイズのクッキーと塩分タブレットとあとなんだっけ。とにかく色々たくさん。めちゃくちゃ嬉しくて、バーゲン中のみさえの如く目の色を変えておやつたちを貪る。このシーン絶対に好きな人に見られたくない。

一通り食したが、私はこういう時ドーナツとか自分の好きなものを食べることでテンションとエネルギーが回復することがわかった。あの時食べた甘いお菓子たち血が騒ぐほど美味しかったな。
ということでまんまと回復を果たしてまた走り出す。止まったら死ぬからね。

ここから第2エイドまでの7〜14kmはなかなか辛い道のりだったように思う。基本的には林の中を通っているのでそんなに濡れないが、とにかくとにかく道がぐちゃぐちゃ。飯縄山の稜線ほどではないが、雨に濡れた時間が経過した分ここの地面たちもちゃんと水分を含んでいる。雨に濡れ霧に包まれたブナ林は始めこそ神秘的に見えるが、だんだん見慣れてきて日常になってきた。日常に神秘は潜まない。
私は20km走る今回の大会ではロングに当たるレースに出ているが、10kmのショートレースもある。違う色のゼッケンをつけた彼らは同時にスタートしているのでロングの人もショートの人もここまで一緒に走ってきた。のはずなのに、ついにロングとショートが分岐する場所が現れた。ショートの人は右へ、ロングの人は左からぐるーんと回ってここに戻ってきて右へ。という十字路(?)
明らかに私らは無駄な遠回りをさせられるコースということで、目の前にショートカットしてそのまま右へと消えていくショートレースの人をたくさん見送り、最悪な気持ちになった。私も全然そっち側でいいんだが。

ショートの人と別れたことで私の中の悪態がまた心に芽生え始める。思えばベジタブルマラソン(再掲)出た時ハーフ・10km・5kmとあったので10kmでエントリーしていたのに、途中でもう嫌になってしれっと5kmでゴールしたんだよな。高校の時あんなに嫌だったマラソン大会は10kmだったのに、今なんで自分でお金払って20km走っているんだよ。
そもそも走る行為って「急いで目的地に向かう」ためのものなのに、なんで自分でお金払って出ている大会を少しでも早く終わらせようと頑張ってるんだ?少しでも早く終わらせることが目的ならショートカットした方がよくないか?など、頭の中の時空が歪んでIQと性格がおかしなことになってきた。

ぐちぐち言ってると、今まで以上のぬかるみの道に。ここはTHE登山道という感じでかなり「下山」感があるな。つまり地面は元ふわふわ、今はぬちゃぬちゃだ。
急ぐのはナンセンスなこの道で、前後をおじさんたちに挟まれながら一歩ずつ降りる。と、ここでめちゃくちゃしっかり滑って左膝と左腕を泥の中に突っ込んだ。これには流石にぼっちトレランの私もまるでジュンが隣にいるかのように「うわぁ〜〜〜ん」と声に出して言った。普通にぼっちの人が出すボリュームの声ではなかったので前後のオジが私に「大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。紳士である。その時のオジたちの声がとてもいい声だったので、雨で視界が悪く顔が見えないのをいいことに私を心配してくれたのは二人とも超絶イケメンのおじ様であるのだと心の中で設定してこの道をご機嫌に乗り越えることにした。
白いレインを着ていたので泥まみれになって当然悲しいが、この辺りからなんか色々楽しくなってきて、イケおじにも挟まれているしもうなんでもOKという感じで楽しく進んでいた気がする。

途中でとても走りやすくて広めの下り坂に出た。会社で私をロゲイニング部に加入させた部長の陸さんだったら「気持ちのいいトレイルだなぁ!」って絶対言うだろうなっていう。
陸さんといえば、6月に奥多摩の大会に一緒に出た時初心者の女の子を「下りの時の足の運び方が上手だね!」と褒めていた。本人覚えていないかもしれないが、私は1年前のロゲイニングデビューの時に全く同じ文言で陸さんに褒められているので、彼は山に一緒に行った時の女子の褒め方を1種類しか見つけられていないのではないかと予想している。
そんな陸さんに褒められた下山の足捌きがあるので、この道を駆け降りるのがちょーーーーー楽しかった。そして私はなんか知らないけど下りがめちゃくちゃ早く、私の前にいた全員をここで抜かした。みんな足を取られないようにを気にしてモタモタしているが、私は下山の加速を殺すことなく駆け降りること風の如し。自分でもなんでこんなに早く走れるのかよくわからない。やっぱ足捌きがいいのかな。

めちゃくちゃ気持ちのいい下りを終え、本来ならば目玉であろう「小川の小径(?)」へ。川がちょろちょろ流れているところの脇を通れるコースなのだ。
確かにいい道なのだけど、雨に当たってきた今日の私たちに水場は特別感が薄く、蓄積した疲労からさっきのスピードからは考えられないくらいノロノロと歩いた。ここでさっき抜かした全員に抜かされていく。もしも私に注目している人がいるのなら、この女はやる気があるのかないのかなんなのかといった感じだ。

小川の小径を抜けてしばらく行ったところだったと思うが、なんだか見覚えのある景色になってきた。あれ、これスタートしたところでは?
なんかワイワイ実況しているし、なんかあの感じゴールした人もいそう。えーまだ終わらないよね私流石に。だって2回目のエイドしてないもん。
ちゃんとコースを把握していないのが悪いのだけど、今日のコースは一度スタート地点に戻ってくる8の字的なコースなのだった。第2エイドはゴールした人たちを横目にもぐもぐすることになる。これはメンタルやられるなぁ。

2回目のなっちゃんオレンジで血をオレンジ色にしながら、「まあもう全然ここでやめたっていいんだからね」と悪態を心の中でだけまだついている自分。本当に誰へのなんのためのスタンスなのか。
第2エイドにはチップスター薄しお味があったので一気に5枚くらい掴んでもぐもぐしていたら、隣にいた男性がスタッフさんに「すみません、ここまでで…」と申し出ていた。何やら膝が痛そうだ。ほーんそんな感じで申し出るのか、とドーナツをもぐもぐする私。
わかりました、と爽やかに言ったスタッフさん、くるりと後ろを向いたかと思えばインカムで「こちら第2エイド、〇〇番脱落です。」と言った。
ガーーーーーーン。脱落。脱落か。脱落ってめっちゃ嫌な言葉だな。ここで辞めたら私のトレラン最終学歴は「戸隠マウンテントレイル脱落」となるのか。「中退」とかよりもめちゃくちゃ尖った響きだし、不名誉すぎる。
これはもう行くしかない。じゃないと余生を「戸隠マウンテントレイルで脱落した女」というレッテルを貼って生きていくことになる。

わかりましたもう行きますよ、と腹を括って走り出した。一体あと何キロなんだ。エイドからコースに入るところにニコニコしたおじさんが立っていたので「すいません、あと何キロですか!?」と半ギレで聞いた。「あと6kmだよぉ」とニコニコ言われたので「まあ6kmくらいならやってやらんでもないけど」みたいなやれやれ的な表情を浮かべつつぺこりと会釈する。相変わらず感情をぶつける先がスポ少時代のいじめっ子くらい間違っている。

この残り6kmの道に関して、私はあまり納得していない。なぜなら被っているのだ、スタート2kmほどど、ここのコースが。8の字になっていると言ったが、算用数字の8ではなく、デジタル数字の8のデザインなのだ。真ん中の線のところが被っている。


スタート時にここを通った時には雨は降り始めだったが、もはやこの4時間の間でかつて登山道だったものは長細い水たまりになっていた。同じ道にもかかわらず違う景色を見せてくれて嬉しいーーーー…とか言ってる場合ではなく、もうびちゃびちゃどころかぼちゃぼちゃである。始めの頃こそなるべく濡れないようにと工夫して足場を選んでいたが、靴の中も靴下の中も濡れ切ってずっしり冷たいので、川も水たまりも関係なく逆に足場を気にしなくなってきた。
途中足場を気にしなさすぎて、インド映画で出てくるトイレばりのぬかるみに左スネの半分まで浸かった時は流石に「うぎゃっ」となったし頭の中で「アールイーズウェール」が流れたけど。

周りにいるトレイルランナーたちのことがだんだん愛おしくなってきた。今日の大会に意気込みを持って参加している人もたくさんいるだろうに。濡れていつもよりも重力のかかった服たちは、後ろ姿を普段よりもガックリとしているように見せてくる。みんなの心の吹き出しから「あーあ…」と見えた。気がする。
残り6kmの道の中にも下り坂があったので、最後の最後でまた全員抜かし、その後3kmほど平坦な道だったのでまた全員に抜かされてなんとか私はゴールまで辿り着いたのだった。
ゴールした瞬間の感動のようなものは特にない。性格上ラストスパートなどはもってのほかなため、ノロノロと小走りを続けた延長にゴールがあった、ただそれだけだった。とにかく「脱落」にならなかったことだけが一安心。
と思いながら結果の紙をもらったら「80位/146人」と書いてあった。全員に抜かされたと思っていたので全然健闘していることにもうご満悦。走り切れたし私すごいじゃない。

あいつはちゃんとゴールできるのかと心配していたジュンから連絡が来ていることに気づいた。電話して「ゴールしたよ〜ん🎵」と言ったら「よかった!!!元気そうで本当によかった!!」と一緒に喜んでくれて嬉しかった。私の身に途中で何かあったり、もう嫌だ出たくないと半泣きで帰ってきたらどうしようと思ってくれていたらしい。大丈夫だよん。
とにかく死ぬほど足が泥だらけで、完全に泥に埋まったところがハゲて肌色が見えており、さらに血も出てたりしたので自分の足がちょうどゾンビ映画の特殊メイクのように見えた。ゾンビ映画のゾンビ役に一度でいいからなってみたいと思っていたので嬉しかった。

言うまでもなく靴も全身もドロドロ、一度車に避難して暖をとり、お互いの健闘を讃えながら大変だった大雨のレースを振り返りそのまま温泉へ向かった。
芯まで冷えた体に温泉、大変気持ちが良かったな。

この日はこのまま戸隠に宿泊し、翌日は「YAMASAI」というイベントに顔を出したが、そこには昨日のレースを走った人たちがたくさんいて「昨日は大変だったねぇ!!!」とみんなでレースのレビューを言い合った。
初対面の人ばかりなのに「昨日のレース出てた人」ってだけで地元一緒の人くらい仲間として話せる時間が大変心地よく、早くも挑戦して良かったなと思ってるピュアな私である。

走ることは全然嫌いと言い続けたいけど、雨の戸隠20kmトレランはまあ、楽しかったと言ってあげようと思う。

戸隠マウンテントレイル 長野県戸隠で2023年6月3日に行われるトレイルランニングレース、戸隠マウンテントレイル、自然を駆け抜ける爽快感を感じてい www.nature-scene.net

追伸:色々言っていますが運営と参加者の皆様と誘ってくれたジュンには最大限の感謝と愛を伝えたいです。

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