登山の安全を守る滑り止め、その選び方
登山道を安全に歩くための装備として、足元の滑り止めは非常に重要です。特に雪が残る季節や、雨上がりで滑りやすい環境下では、アイゼンの有無が登山の安全性を大きく左右します。しかし、一口に滑り止めと言っても、「チェーンアイゼン(チェーンスパイク)」と「軽アイゼン」「アイゼン」の3種類があり、何を選ぶべきか迷われる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、本格的な雪山登山以外でよく使用するチェーンアイゼンと軽アイゼンそれぞれのデザインの違いや特徴、そして具体的な山の状況に応じた使い分けについて、わかりやすく解説いたします。
チェーンアイゼンと軽アイゼンのデザインと構造の違い
まずは、両者の外見と構造的な違いについて確認しておきましょう。
靴全体を覆うチェーンアイゼン(チェーンスパイク)

チェーンアイゼンは、伸縮性のあるシリコンやゴム製のバンドを靴のアッパー部分(甲からかかと)に被せ、靴底全体にチェーンと1センチ前後の短い爪(スパイク)を沿わせるデザインです。靴全体を包み込むような構造のため、柔らかめのトレッキングシューズから本格的な登山靴まで、幅広い形状の靴にフィットしやすいという特徴があります。
着脱も比較的容易であり、足裏の全体に均等に爪が配置されているのがポイントです。
土踏まずを中心に固定する軽アイゼン

一方の軽アイゼンは、主に4本から6本の長めの爪(2〜3センチ程度)を備えた金属製のプレートを、靴底の中央(土踏まずの周辺)にバンドで固定する構造をしています。チェーンアイゼンと比較すると爪が長く太いため、雪面にしっかりと突き刺さるデザインです。

靴の中央部にのみ爪があるため、歩行時には足裏全体を地面に平らに置く「フラットフッティング」という歩き方を意識する必要があります。フラットフッティングは雪面での歩き方に限らず様々な登山道において滑りにくい歩き方となるので、常に意識すると良いでしょう。
チェーンアイゼンの特徴と適したシーン

チェーンアイゼンは、全体が軽量であり、コンパクトに折りたたんで収納できる点が大きな魅力です。そのため、「もしかしたら標高の高い場所で滑り止めが必要になるかもしれない」といった、使うかどうかわからないような登山において、お守り代わりに荷物へ忍ばせておくのに大変適しています。
雪以外の場面(粘土質の道や枯れ葉)でも活躍

チェーンアイゼンが活躍する場面は、決して雪の季節だけではありません。靴底全体に配置された細かな爪は、雨上がりでツルツルと滑りやすくなった粘土質の山道や、濡れた枯葉が深く積もった秋の登山道などでも、優れたグリップ力を発揮します。足裏の全体で地面を捉えることができるため、普段の歩き方に近い自然な感覚で歩行できるのも大きな利点です。

凍結した硬い登山道や氷の上であれば、チェーンアイゼンでもしっかりとグリップが効き、安定して歩くことができます。しかし、積雪量が増えてくると注意が必要です。雪が深く積もっている場合、チェーンアイゼンの短い爪では表面の柔らかい雪を捉えるだけで、その下にある硬い雪や氷の層まで爪が届きません。結果として、雪ごと滑ってしまうことがあるため、深雪には不向きとされています。
軽アイゼンの特徴と適したシーン

軽アイゼンは、チェーンアイゼンよりも爪が長く、雪面に対して深く食い込むのが最大の特徴です。凍った登山道では両者ともにグリップ力を発揮しますが、雪が多い環境下においては、長い爪を持つ軽アイゼンの方が確実な歩行をサポートしてくれます。
積雪時や柔らかい雪渓での確かなグリップ力

特に夏場から秋口にかけての雪渓(谷間に雪が残っている場所)のある登山道などで、雪の表面が溶けて柔らかくなっている状況では、短い爪のチェーンアイゼンでは滑りやすくなります。このような場面では、雪の奥深くまで爪を刺すことができる軽アイゼンが適しています。深く雪に爪を刺すことで足場の崩れを防ぎ、安定した歩行が可能になります。
軽アイゼンが下り坂での雪道歩行に推奨される理由
軽アイゼンの特徴である「長い爪」は、雪面には深く刺さり強力なグリップ力を発揮しますが、雪の少ない場所や硬い地面では、逆に歩きにくさの原因となることがあります。今から紹介するエリアでは登山道を見ながら注意して歩くようにしましょう
岩と雪が混在する登山道(ミックス帯)

雪が部分的に溶け、岩肌が露出しているような道では、長い金属の爪が直接岩に当たってしまいます。金属と岩の接触は非常に滑りやすく、転倒のリスクが高まります。また、足裏の中心だけが持ち上がる「竹馬」のような状態になり、歩行時のバランスを崩しやすくなります。
木道や木の根が張り出した道

木道や、木の根が露出した樹林帯も、軽アイゼンが苦手とする環境です。滑りやすいだけでなく、登山道そのものや植物の根を鋭い爪で傷つけてしまう恐れがあります。このような場所では、こまめな着脱が求められます。
雪のない硬い地面での足への負担

雪が少なく硬い地面が続く場所を歩き続けると、着地のたびに足裏の局所に突き上げの衝撃が加わります。また下駄を履いてるように不安定になります。
足裏全体を使った自然な歩行ができず、足首やふくらはぎで無理にバランスをとることになるため、疲労が蓄積しやすくなる点も留意しておきたいポイントです。
チェーンアイゼンと軽アイゼンの重量差
チェーンアイゼンの重量(約250g〜450g)
チェーンアイゼンは「軽量で持ち運びやすい」というイメージが強いですが、靴全体を覆うためのシリコン(またはエラストマー)製のバンドと、足裏全体に張り巡らされた金属チェーンを使用しているため、極端に軽いわけではありません。軽量モデルで250g前後、標準的なもので350g〜450g程度となります。
軽アイゼンの重量(約150g〜500g)
軽アイゼンは「爪の本数(4本か6本か)」によって重量が大きく変わります。
4本爪の場合: 足裏の中央に当てる小さな金属プレートとナイロン製の固定ベルトのみで作られているため、実はチェーンアイゼンよりも軽く(約200g前後)、純粋な「重量」だけで見れば最軽量クラスです。
6本爪の場合: 雪面へのグリップ力が高まる分、金属プレートが大きく厚くなり、重量も400g〜500g程度と、チェーンアイゼンよりもやや重くなる傾向があります。
状況に応じた使い分けのポイント(まとめ)

これまでの特徴を踏まえると、使い分けの基準は「雪の深さと状態」、そして「目的地の環境」にあります。
雪が少なく凍結がメインの道、あるいは雪がなくても泥や枯葉で足元が不安な道、そして滑り止めの出番があるか不確実な山行であれば、軽量で歩きやすい「チェーンアイゼン」が適しています。
一方で、ある程度の積雪が見込まれる山、夏場の柔らかい雪渓を歩く予定がある場合、また雪道での下りがルートに長く含まれる場合は、より確実なグリップ力を備えた「軽アイゼン」を選ぶのが賢明です。
ご自身の計画される登山のルート状況や季節を事前に確認し、どちらの装備がより適しているかを判断することが、安全で余裕のある山歩きへと繋がります。状況に応じた適切な道具を選び、美しい山の景色を安全にお楽しみください。
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