バックカントリースキーの中にも色々なジャンルがあるなか、僕は「滑る」というところにフォーカスをしているので、滑走性能は大事な基準です。
例えば、現在はどんどん軽量化を求めていく傾向があるんですが、そこを重んじると滑走性能を少し妥協しなくちゃいけなくなります。でも僕が選んでいるのは、滑走の部分に関しては全く妥協していないスキーを選んでます。
バックカントリーの雪質
バックカントリーはスキー場のように雪質が均一じゃなくて、パウダースノーを滑っていったら、いきなり凍っている硬いところに出てしまうという事があります。だからスキーは雪質の変化に対応しやすい優しいものを選ぶことによって『強いすべりをして、そこで滑りそのものを楽しむ』というのをガイドとして、お客さまと一緒に共有していきたいので、道具としてのスキーはそれが適う選び方をしています。
ヴェクターグライドのモノづくり
今回紹介するスキーはヴェクターグライドというブランドのものです。このスキーを作っている秋庭さんという方がいらっしゃいます。とにかく妥協しないものづくりをしてらして。このスキーの中でも軽量のものもあれば、太いものもあるし、中にはメタルも入ってすごくずっしりしたものもあるんですけど、全般にスピードを求めているスキーです。
今まではバックカントリー用のスキー、特にファットスキーは、今まで太さばかりで滑走性能は損なわれているというのがあったんですが、ここ6,7年でいっきに変わってきたと感じてます。完成度が高くなりましたね。ヴェクターグライドにはファットスキーが何型もあるんですけど、その中でも今回のスキーは一番太いタイプの「ジニアス」天才っていう名前のスキーです。
ヴェクターグライド ジニアスの個性
このスキーとにかく太いけど、とり回しがし易くて、早くて、雪質はなんでも来いで、簡単なスキーといえば簡単なスキーなんです。誰がのっても強いスキーが出来るスキーなんですけど、その性能を最大限発揮して滑ろうとプロスキーヤーの人が使ったら「こんなにスピードを出してバックカントリーの斜面を攻めれるんだ!」っていう感想が持てる、安心して攻めることのできるスキーなんです。
ピンテールと言ってスキーの先端が尖っているものがあるんですけど、「ジニアス」はテールの形状も尖がっている。板をパタッと置いたときに、ロッカーっていうんですけど、両方とも反り上がっていて、真ん中は従来のスキーと同じようにキャンバー、そのバランスが絶妙なんです。
ヴェクターグライドが対峙する雪質
ひっかかる雪って言うのがあるんですね。表面だけパリッと固まってて、下はほかほかの柔らかい雪、モナカって言ったりクラストって言ったりするんですけど、普通のスキーだと引っかかっちゃって、ものすごい高度な技術が求められるんですよ。でもジニアスに関しては太さも手伝ってくれるんですけど、その形状からしてスキーがターンの時に後ろが引っかからずにチュルって抜けてくれるんですよね。だから安心して、どんな雪質でもすべれるわけです。
ジニアスと谷川岳
僕は谷川岳が一番好きなんです。谷川岳ってすごく急峻な山で、斜面の向きも東西南北色々あるんですけど、すごくいい斜面、大きな斜面って南側を向いていて、南側を向いている斜面って言うのは、いわゆる日射が当たりやすい、日向になる斜面なので、降りたてのほかほかの雪も、そのあと晴れて日射にさらされると表面だけ解けてしまう。それがまた冷えて凍ってしまう。中がほかほかなのに表面だけパリって凍ってしまう難しいコンディションが形成されやすいんですね。そういうところもジニアスを使うともう自分の思い描いたカーブで滑っていけるんですよ。こんな気持ちいいことはないんですよ。(笑)
ジニアスとの出会い
このスキーとの出会いですが、ヴェクターグライドではスノーボードも作ってて「ジニアス」っていうのがあったんです。このボードが僕の考えているイメージとマッチしていて、「これはいいスノーボードだなあ」と思ってたんですね。そしたらこのスノーボードからインスパイアされたスキーが出るっていうのが発表されて、「これは乗らないわけにはいかない!」と思ったんです。(笑)その後、形状とサイズをみて「うわっ!来たな!これ絶対買おう」って思ったのを覚えてます。
ジニアスに乗った感動
乗ったときには「ああこれだ!」と感じましたね。初速感が抜群なんです。
パウダーの中って、スピードが出てくると浮いてくるんです。ウェイクボードと一緒で、スピードが出てこないと水面に出てこないじゃないですか。それと同じように斜面を滑り始めて、スピードが出てきて初めて雪の上に「スーッ」と浮いてくるんですね。でもジニアスは、滑り始めた瞬間から全然沈まないんですよ。最初一発目はちょっと体が置いていかれるくらいスキーが走りすぎちゃって、そこに自分の体を追いつかせて、自分の真下にスキーを持ってきて・・・そうしてターンし始めたら・・・もう最高の滑走感で、やめられないですね。(笑)
3Dの動きを要求されるバックカントリーの世界
スキーで斜面を切っていく、これをゲレンデの圧設した雪だと、その上は二次元の上に板が乗っかって動かしているわけなんですけど、パウダーとなると雪が沈んでくれるから3Dの動きを要求されるんですね。前後にも動くから水の上と同じ動きをする。そこで深雪を切り裂きながら急な斜面をスピードを出して上から下まで駆け抜けるんですけど、こんな気持ちいいことはないんですよ。
僕は究極なスピードは求めてないんですけど、ストレスなく行けるスピードっていうのはあります。滑る道具というのは性能が上がれば上がるほど、スピードが出ても同じようにストレスを取り除いてくれると感じてます。言ってしまえば板切れなんですけど、そこには形状だったり、中に使う心材だったり。どこを硬くして、どこを柔らかくしてという・・・費やされているテクノロジーがストレスを全部解消してくれて、最高のターンを提供してくれるわけなんですね。
ヴェクターグライドのジニアスに合わせるビンディング
ジニアスは3本持っています。
1本は長さが短くて177センチです。ほかに販売されているバリエーションに185、193センチがあって193センチは、僕の滑りのスタイル、滑る場所では持て余してしまうな、と思ってて持ってないんですが、185センチを2本持っています。ビンディングにも今色々あって、いわゆるゲレンデで使うようなビンディングを177センチにつけて一番最初は使っていたんです。
その次の185センチには、ツアー用というモード切替ができるビンディングをつけてます。滑走モード、歩行モードと切り替えができるビンディングで、これだと足元が硬くなってるんです。なので板が上手にたわまない、中心が綺麗に円を描けないようなシェイプになってしまうので、逆に長くして、その円を描くようなイメージで長さを177センチのものより長くしてみてます。結果良好ですね。
3本目も同じツアービンディングをつけたので、同じ185センチにしました。そして3本とも現役で使ってます。
ツアービンディングを付けた185センチの2本の違いですが、新しい方は張りが合って硬いから速さが出ます。そこから使い込むと馴染んだ感触があって、柔らかくなった方はしなやかになってるから、乗り味の気持ちよさがまた異なってくる。だから駄目になる時っていうのは、折れる時なんじゃないかと思います。
ビンディングはマーカー
ビンディングはマーカーのものを使ってます。マーカーのツアービンディングは歩行モードに切り替えるときに、いちいちスキーを一回脱がなくちゃいけないんです。レバーで滑走モード、歩行モードと切り替えるんですが、利便性よりも滑走の部分をおざなりにしていない、妥協せずに開発をしているので、結果として他のブランドよりかは面倒なものにはなってるんですが、滑走性能を妥協しないビンディングとしてはベストなんです。結果としてではあるんですが、ヴェクターグライドスキーも、推奨ビンディングをマーカーとしてますね。