『北アルプスでテント泊に挑戦したい!北アルプスの山容を稜線を歩きながら眺めてみたい!』そんな要望が北アルプス未体験の山仲間から聞こえてきて、どの山が良いか調べてみた。
ロープウェイを使ってラクをする方法もあるが、達成感も味わいたいしということで、今回選んだのは蝶ヶ岳のテント場。1泊2日という週末を利用しての登山だったので、今回は車を使って三股駐車場まで向かい、そこから登山を開始することにした。
“三股駐車場×混雑”で検索すると、夏の最盛期シーズンは夜中の3時に駐車場はいっぱいになるということ。僕らは駐車場確保の為に、金曜日仕事を終え22時に都内を出ることにした。
金曜日の夜中ということもあり中央道はガラガラ。想定していた時間よりも早い、2時に三股駐車場に到着すると、まだまだ駐車場は空いていた。本来は70台駐車できるスペースらしいのだが、途中の道で崩落があったようで、手前の広いスペースが仮の駐車場となっており、100台近く停めることができた。
車が駐車できたという現実によって気持ちも落ち着き、今回登山に挑戦をする僕を含めた4人は、狭い車中で仮眠をとった。
4時頃、車のドアを閉める音、砂利道を踏みしめる音に目を冷まし、僕らも登山を開始することにした。この時点でも駐車場は空いていたので、かなり広い場所であることがわかる。
登山口では相談所と称したブースが設けられており、ここで登山届を提出できるシステムになっている。『君はサンダルで行くのかい?気を付けるんだよ』と窘められた友人。『ザックの中に念の為、しっかりしたシューズがあるので、辛くなったら履き替えます』と返答。
僕たちのシューズは一般的に履かれている登山ブーツではなく、いづれもトレイルラン用のシューズであったり、ハイキング向けのものだった。今回向かうトレイルを事前に調べて、皆の体力を鑑みての選択。天気も安定した今回の山行では結果として非常に快適に行動する事ができた。
登山を開始して30分ほどすると、「力水」という水場に到着。ここを最後に蝶ヶ岳の山小屋まで水を入手することができなくなる。冷たく美味しい水に驚く仲間たち。そういえば僕も初めて山の水を飲んだ時は非常に感動したのを思い出した。
水場を後に、次に目指すは「まめうち平」。そうして30分ほど歩いていくと、急に遭遇する「ゴヅラみたいな木」。「いやゴジラだろ!」とヅの字を指摘しつつ、誰かが手を加えたとも思えるような、よく出来た奇形な木に関心しつつしばし休憩。
今回は猛暑の気候を懸念して、日射病対策を余念なくしてきた。そのうちの1つが補給食。これチューブの梅肉なんだけど、これをポケットに忍ばせてチュウチュウと吸う。吸ったら水を補給。そんな事を繰り返していたのだけど、非常に身体の調子が良かった。歩きながらも気兼ねなく補給できるのも良いところ。
もう1つが味噌。ちょっと大目に持参して、余ったら夜ご飯のお味噌汁として飲んでもいいし、スティックタイプであれば、行動中の補給食にもなると思って持参した。
梅肉はクエン酸も効いて摂取しやすいのに対して、味噌は塩の辛さが効いて、「美味しい」には程遠い感じがした。しかしながらエネルギーを摂取した後のようなエンジンがかかるような良さを感じた。これらと水の組み合わせが、脱水時の体には良いだろう。
こうして登山口から2時間ほど歩くと「まめうち平」に到着。結構登った感があったものの、まだ距離としては半分にも満たない。それでも、皆の元気は衰えることなく、残りの3.9キロも乗り越えられそうだ。
そうして、ここから更に2時間歩くと、地図にも出ていた「最終ベンチ」に到着。あとちょっとで頂上だ。標高は2,500メートルとあるから、森林限界付近にいることがわかる。高木も少なくなっているから、そろそろ樹林帯から抜け出せそうだ。
その後パッと視界が広がり、周りの山々が見渡せる場所へ。ここからみんなの元気がみなぎる。「うわっ!急に元気になった!」と早歩きになる友人。皆初めて見るその北アルプスの雄大な景色に固唾を飲む。
更に歩き、蝶ヶ岳のテント場に到着すると、穂高岳と槍ヶ岳の頭だけが見える。この丘を登ればヤリホの山容全てを見渡せる場所だ。
ここで一人を目隠しして、ゆっくりと丘に登る。そしてオープン!「うわあ~」と満面の笑みを浮かべて景色に見惚れる。
大パノラマで見る、槍ヶ岳と穂高岳の山容は芸術的だ。そして言葉なくしばし立ち尽くす。涸沢カールはどこだろう?穂高山荘はどこだろう?槍ヶ岳はいっぱつでわかった。
訪れたことのあるルートを探し出しながら、過去の思い出をあぶり出していく時間はおもしろい。
山小屋に向かいテント泊代金を払う。テント場へは、どうやら僕たちが一番のりだったようだ。景色を楽しめそうな場所に2つのMSRを張り、しばし休憩。
2時間ほどしか寝ていない僕たちは、テントの中に入ると直ぐに昼寝。3時間ほど寝ただろうか?起床するとまだ皆寝ていた。
起こすのも可哀相なので、妖精の池というなんとも素敵な景色が拝めそうな場所に行ってみることにした。おおよそ往復で25分とある。急な斜面もなさそうなので、軽くランニングをして向かってみた。
妖精の池そのものの景色は、驚くようなものではなかったが、周りには高山植物が咲き乱れ、その1つ1つを観察するのが楽しい。
黄色の花は「ミヤマキンバイ」。白い花は「ハクサンイチゲ」。紫の花は「コマクサ」。オレンジの花は「クルマユリ」。多くの花々に囲まれ、静かな時間が流れる。
戻ってみると皆起きていたので、蝶槍までトレランしましょう。ということで稜線を走ることに。
ちょうどトレイルの中心あたりで、すれ違った登山客に『ちょっと先で雷鳥いるよ』と教えてもらう。そうして歩いていくと、ちょっと先で母親らしき雷鳥がハイマツの中に潜り込むところを見つけた。
少し待っていると、母親と小さな子供たちが現れた。これを目にした一同は、声を押し殺して喜ぶ。はじめての北アルプスで雷鳥まで見れるなんて、運がいい!と感動を分かち合いながら、蝶槍へ到着。
非常に気持ちの良いトレイルで、程よい起伏に息をきらす。スタート時はガスっていて景色が楽しめなかったが、蝶槍に到着すると、雲が開けて素晴らしい山容がのぞめた。
素晴らしい景色を1日中楽しみ、昼寝をして、登山もトレイルランも楽しめた贅沢な一日目。あとは戻って山小屋で生ビールを買ってゆっくりしよう。とぼーっと山を眺めながら思う。