5日間の縦走も今日が最終日。朝起きるとひんやりとした空気が肌を刺す。まずは暗闇の中、ヘッドライトの明かりをたよりに笠ヶ岳の山荘のトイレへ。テント場から山荘へは足場の悪い岩場を、矢印に従って登っていく。朝から結構な運動量だ。
戻ってくると、穂高の山塊のバックに日の出前の美しいグラデーションを眺めることができた。テントを畳んで片付けをしていると、あっという間に日の出の時間となる。
辺りが明るくなるのは非常に早い。そして少しづつ気温も穏やかになってくる。
笠ヶ岳から、昨日来た道を、少し戻って笠新道を使って下山をする。バスの時間が11:31発の松本バスターミナル行きで計画する。朝5:30に出れば、ゆっくり温泉に浸かることもできる。
昨日であったダイスケ君とは、来年また北アルプスで会いましょう!と約束をして別れた。こうして僕たちは、多くのテント客の先頭をきってテント場を後にし、笠新道を目指す。すると直ぐに雷鳥の親子が目の前に現れた。
昨日のブロッケン現象といい、雷鳥といい、貴重な体験を立て続けにして運の強さを話し合いながら、分岐点を目指す。ここまでくると後は下るばかり。肌寒い気候ではあったが、汗を抑えるために、短パン&半袖になり下山を開始する。
この笠新道は、北アルプスの中でも非常に急登で有名なのは、この時にはまだ知らず。降りてみて、その過酷さから、登るのは相当に辛いだろうことが解った。しかし、頂上に近づくに連れ、疲れが吹き飛ぶような景色が待っている事だろう。そんな雄大で美しい景色が、下山開始間際の僕の心を包み込む。
右後ろを向くと、笠ヶ岳から伸びる第一尾根~第四尾根までが見渡せる。この上を北に向かって下山する方法もあるが、僕たちは下山時間の短い笠新道を選択した。
ぐんぐんと勢いよく高度を落としていく。気温も徐々に高くなるも、そもそも気温が低かった為に、暑さに苦しまれるようなことはなかった。
キイチゴなどの食べたら甘酸っぱそうな木の実が豊富になっていた。国立公園に指定されているから、こういうのは採取してはいけないので注意しなければ、と言い聞かせ、植生を楽しみながら下山した。
こうしておおよそ5時間の下山が終了した。途中多くの登山客とすれ違ったが、本当によく登るなあ~と感心しっぱなしだった。それほどに辛そうな登りが永遠と続くような登山道だった。
お目当ての温泉まで歩くこと、約40分。中崎山荘 奥飛騨の湯で疲れを癒す。ここからバス停まで直ぐという立地もうれしい。
お風呂あがりに、新穂高ロープウェイの中に併設されている喫茶店で、生ビールを飲む。いやはや、この一杯の為の5日間だったと言っても良いほどに旨かった。旨いって、良い食材とか、良い料理人とかが作った料理じゃなくて、こういう頑張りの後のご褒美のような時にこそ、一番感じるんじゃないか?と意味深く感じたひと時だった。
このあとバスに揺られて松本駅に到着した僕らは、電車までの1時間を駅前にあった「松本からあげセンター」という素敵な居酒屋で、鳥を喰らい、ビールを飲み、この5日間の労を労った。
電車はあえて、特急ではなく鈍行を選択した。そして山の上で飲む予定の余ったお酒と、追加で買った信州の地酒を飲みながら、帰路を楽しむ事にした。
今回の縦走では、
- とにかく人との触れあいが多く思い出深かったこと。
- 物凄い防風に見舞われ足止めを喰らったからこそ、次の日の晴れ間に感動できたこと。
- 笠ヶ岳が思った以上に素晴らしく、道中の秩父平に物凄く感動したこと。
- 雷鳥、ブロッケン現象と貴重な体験ができたこと。
- 行けなかった場所があって、次の夏の目的が既に明確なこと。
というのが強い印象に残った。次の山行も思い出深い時間になることを望んで、また計画を練っていこうと思う。