自然の中に身をおき行動をすると、寝るのも早ければ起きるのも早い。4時に出発という約束をして就寝した僕は、起きてからは軽く水を飲んで移動準備にとりかかる。雨は止んでおり、トイレに出かけると満天の星空にしばし目を奪われる。
※南アルプス大縦走の表紙記事では、全体を俯瞰した情報・装備・食料の情報を確認頂けます。
2日目の登山ルートについて
上記は「山と高原地図ホーダイ」というアプリで作った登山ルート。
本日の縦走は平面距離で約16キロ。累積標高は1,942m。全ての縦走計画の中で一番行動時間が長いことが予想される。標高の高い山ランキング6位の悪沢岳(3,141m)、7位の赤石岳(3,120m)。それぞれの登頂を目指し、最終的には2,500mまで高度を下げて、百間洞山の家に到着するというアップダウンの激しい縦走だ。
最初に目標とするのは荒川岳だ。荒川岳は前岳、中岳、悪沢岳(東岳)という3つの山の総称である。高山裏避難小屋からいっきに700mの高度あげて前岳に登り、ここで装備類をデポする。
デポした場所から中岳を経由し悪沢岳を目指し、ピストンで戻ってくる。このピストンの行程は3時間ほどかかる距離で累積標高も約400mあり容易ではない。行動食と水をザックに入れ移動を行う。
荒川岳界隈を歩いていると人の多さに驚かされる。三伏小屋から前岳までは人の少なさに驚きと喜びを感じていた。どうやら登山口に椹島(さわらじま)を利用する人が多く、それが理由のようだ。
荷物をデポした場所に戻ってきたら2,600mまでいっきに高度を下げる。次に目指すのは荒川小屋。上記の写真は荒川小屋に設置されていた逆方向の千枚小屋へ向かう方々への注意喚起の看板。荒川小屋に着いたら改めて次の行動と時間を確認しましょう!ということ。これは「山と高原地図」にも書かれている。
グンッと高度を下げた後はグンッと高度を上げて赤石岳へと向かう。このあと、荒川三山、聖岳のビューポイントが続く。赤石岳を過ぎると後は下り基調となり、百間洞山の家に到着する。
縦走レポート
4時に行動を開始。時計を見ると日の出は4時45分と示されている。約30分間は暗闇に包まれての行動になるだろう。高山避難小屋からの登山道最初は樹林帯からのスタート。
樹林帯を抜けるとパッと景色が広がる。日の出には早いが、空と山の美しいコントラストに目を奪われる。
朝露に濡れる高山植物が美しい。数種類で良いから名前を覚えておくと高山植物を愛でるのが面白くなる、と浅賀さんに教えてもらう。
高山避難小屋と荒川前岳の中間あたりで標高差約600mのカールの大斜面が広がる。「こういう大斜面を見ると雪が積もったら滑りが楽しそうなポイントかどうか品定めしたくなる」とバックカントリースキーを楽しむ2人が話す。
荒川前岳の道標が目の前に迫る。ここまではずっと西側の斜面を歩いている。荒川前岳からの荒川三山は東側斜面となる。
東側斜面からは美しい富士山が眺められる。雲海の上に浮いているかのように鎮座する富士山は浮世絵を見ているような、この世のものとは思えない美しさを放っていた。
悪沢岳までの登りはガレたジグザグした斜面を登っていく。「悪沢」という言葉に惑わされたのか、いつもの登りよりきつく感じる。
3,141m。この山旅で一番標高の高い場所に辿りついた。
千枚岳へと向かう稜線は、双六岳から槍ヶ岳に向かう稜線にそっくりだった。(上が千枚岳へと向かう稜線・ 双六岳から槍ヶ岳に向かう稜線)僕が大好きな稜線の1つだ。
稜線を歩いていると美しい生き物との出会いも楽しいひとときだ。高山植物が美しく、雷鳥の親子は可愛らしい。
荒川小屋でのランチ予定を返上して約2時間の遅れを取り戻す。事前に予定を立てておくと、今の状態が早いのか遅いのか瞬時に把握でき、このような軌道修正が可能なのだ。僕にとってこの発見と収穫は大きかった。
荒川小屋を過ぎると美しいトラバース道を歩く。「小赤石の肩」までの登山道がずっと続く。前に歩く人のサイズ感で遠近感を把握する。自然と人間しか存在しない空間で見る景色は一際美しい。
肩から赤石岳へもう一息というところでエンジンを投入。トレイルランなどのハードなアクティビティ用に発売されているものを登山でも活用する。
もう一息で赤石岳。後ろを振り向くと美しいトラバース道が見える。頑張って登ってくるサヤカさん。
赤石岳へ到着。残念ながらガスって景色は遮られてしまっていた。
赤石岳の直ぐしたには赤石避難小屋が見える。余裕な表情だけど、きっと疲れている。
赤石避難小屋でしばし休憩をとることにした。正面に座る2人は明らかに他の登山者とは異色を放っていた。話をしてみると、これから何泊かした後、南アルプスの最北端「甲斐駒ヶ岳」までファストハイクをし、下山ルートを黒戸尾根にするかどうするか検討中という事だった。期間も僕らと大して変わりなく、南アルプスを横断しようというから、その脚力に驚いた。
赤石避難小屋を後にした僕らは急ぎ百間洞山の家へ。昨日と同じくこの時期は夕立が多い。雲行きの変化は忙しく百間洞山の家まで残り5分というあたりで大雨に見舞われる。
百間洞山の家からテント場までは距離がある。雨の中のテント設営は避けたい。更には今日の長い縦走を無事歩ききった祝福も顔を合わせて行いたい。そんな思いがあってか、雨が止むことを祈って百間洞山の家の休憩スペースでビールを飲むことにした。
雨止むといいねえ~なんて話をしていたら「昨日も同じような天気で、ひとしきり雨が降ったら、晴れましたよ」と嬉しい情報を隣に座るナイスガイから頂けた。「どこから来たの?どこへ行くの?」と質問をすると彼も黒戸尾根で下山を計画しているという。途中仲間との待ち合わせするから、明日はゆるりと登山を楽しむという。
トランスジャパンアルプスレースのような試みに自ら挑戦をして楽しんでいるように感じた。登山にも様々な楽しみ方があるのだなあと感じたひと時だった。
そして彼の言うとおり雨は止んだ。これは嬉しかった。
ここのテント場で去年三又蓮華の小屋で出会った仲間と「逢えたらいいね」と待ち合わせをしていた。彼女はゼログラムのエルチャルテンというテントを張っていて、カラーはピンクだという。一発でそれがわかり声をかけてテント場の夜を一緒に過ごすことになった。スマホを使わずに人と会うのが懐かしい。
山の出会いって面白い。
山小屋・避難小屋情報
荒川小屋
今までの小屋の中で一番賑わっていた。荒川小屋では荒川カレーが有名のようだ。お酒やお菓子、ジュースも豊富。テント場は開けていて心地良さそうだった。
赤石岳避難小屋
「山登れ!酒飲め!」とか
「山登れ!!酒やめろ」といったTシャツを着て登山を楽しんでいる人を多くの場所でみかけたが、その発生源がここ赤石岳避難小屋のようだ。
小屋の中にはオリジナルTシャツが販売されている。
小屋の前では赤石岳避難小屋の主人と一緒に写真をとる人たちが多く居た。彼の人柄の良さ、奥様のハーモニカー演奏など、非常にアットホームな空間で営業されていることが、あとから調べて解った。
もちろんお酒やジュースなども販売している。
百間洞山の家
「ひゃっけんぼら」山の家と読む。赤石岳避難小屋で、14時までに到着すればカツが食べられますよ!と教えてもらったとおり、カツ丼とカツカレーが販売されている。デザート、おつまみも豊富で、山小屋とは思えない充実ぶり。
カツは揚げたて、ご飯は炊きたて、やはり山小屋っぽさが良い意味で少ない。テント場は20張で1人600円。テント場は家から離れていることと、川に面しているためテント場によっては川のせせらぎが楽しめる。