昨日の遅れを反省とし、本日の出発は3時。1時間違うだけで暗い時間の歩行は2時間増し、不安も募るが楽しみもある。百間洞山の家から2時間要して歩けば見晴らしの良い場所に出ることができるだろう。そこからはきっと美しい日の出を拝めるだろう。そんな期待を膨らまし、僕らは登山を開始する。
※南アルプス大縦走の表紙記事では、全体を俯瞰した情報・装備・食料の情報を確認頂けます。
3日目の登山ルートについて
上記は「山と高原地図ホーダイ」というアプリで作った登山ルート。
本日の縦走は平面距離で約13キロ。累積標高は1,939m。本日のメインディッシュは聖岳。聖岳は日本アルプスの中でも最南に位置する3,000m峰。ここまでは100mほどの標高のアップダウンを何度も繰りかえす。
聖岳に登頂したらなんと約700mも標高を落とす。その後は400m標高を上げるので、「また登るのに、こんなに降りるの?」と縦走時に必ず1回は思う感想がここで爆発する。
約700m下にあるのは聖平小屋。赤い屋根の聖平小屋は下山時にちょくちょく目に入る。あそこまで下山するのか~、まだあんなに距離あるな~、など溜息と共にもれる声の裏には「あそこで楽しいランチの時間が待っている」というモチベーションも潜んでいる。
聖平小屋は名前にもあるとおり、土地は平らで木道が接地されている。椹島へ下山する人は多く、そういう登山者の方々にとって聖平小屋は経由地となっている。結果多くの登山客の方々が聖平小屋で食事を楽しんでいた。
聖平小屋を後にした次に目指すのは200名山の上河内岳。ここは地図にも360度の眺望とあり晴れていれば富士山、笊ヶ岳、聖岳、光岳、恵那山などを臨むことができる。Wikiによれば、上河内岳の夏は雨量が多いと書かれている。また周辺は高山植物が群生しておりお花畑と称され、更にはハイマツ帯で雷鳥が多く見られるという。100名山の登頂も縦走時の大きなポイントだが、100名山を見ることができる、上河内岳のような山の存在も楽しみの1つに加えると、また違った趣で縦走を満喫できるだろう。
上河内岳を過ぎると下り基調が続き茶臼小屋へと到着する。
縦走レポート
3時に百間洞山の家を出発。テント場を出発して登り基調が続くのは今回の縦走ではお決まりとなっている。
暗がりの中、僕たちが向かっている方向が本当に正しいのか?山と高原地図ホーダイを使って向かう方向とルートを念のためにチェックする。
百間洞から来た僕たちはこの分岐点を左へと「兎岳」を目指す。
この兎岳を目指す稜線上で僕たちは日の出を拝む。富士山の輪郭が美しい。
富士山とは逆の名古屋側へと目線を移すと雲海が広がり、中央アルプスの空木岳から南駒ヶ岳、越百山と離れたところに恵那山が顔を出す。
こんな風に山の名前がわかるのも山と高原地図ホーダイで見ている方向をチェックすることで一目瞭然。
日の出前でもあたりは大分明るくなり、ヘッドライトの必要はなくなる。
小兎岳あたりで美しい日の出をみることができた。4時に出発していたら、もしかしたらこの景色を見ることは出来なかったかもしれない。「早起きは三文の得」という言葉通り、ごく僅かな三文という銭でも得るものはあるのだ。
日の出そのものの景色も美しいが、日の出がもたらすコントラストが強い山の景色も美しい。あの山は緑なのだろうか?オレンジなのだろうか?
標高を上げていくと中央アルプスの全体像が見えてきた。1つ1つの山の特徴がわかりづらいから何がどれか解らないね、と話ながら景色を楽しむ。
兎岳は遠目から見ると優しく見える。しかしどこからどのように登るのかがよくわからなかった。
しかし目を凝らすと兎岳頂上へと直登するジグザグのガレ場が見えた。優しくないなあ。
兎岳へ登頂。上の写真は南アルプスの北側を見ている。この兎岳からの景色は手前の山が奥の山を隠すのでもなく、南アルプスのほぼ全ての山を見ることができる。兎岳は100名山ではない、200、300名山でもない。地図上にもこれといったメッセージも記載されていない。でも僕にとっては今回登頂を果たした全ての山の中で一番の眺めをもたらしてくれたと思っている。
兎岳の目の前に迫るのは聖岳。写真からはなかなか伝わりづらいのだけれど、頂上へはどのようなルートで進むのか皆目検討がつかない。都度ドキドキしながら登山を行う。
印象的なのは赤茶けた岩盤が露出していること。これ調べてみると遠洋性深海底堆積物の代表であるチャートが酸化鉄によって赤く見えるということらしい。赤石岳という名前はこのチャートの色に由来しているということだ。目の前にあるこの岩がその昔深海にあったということなのだから不思議であり、ロマンを感じる。
僕達のペースとほぼ同じで、追い越したり、追い越されたりして、何度も一緒に感動を分かち合った登山者の方とパチリ。彼は聖平小屋まで目指すと言う。
徐々に雲が出始める。ここから天候が崩れるのだろうか?午前中は晴れ間が広がり、午後に雲が多くなり、テント場につくと雨に打たれ、夜に晴れるというのがここ3日間のお決まりパターン。今回も同じような天気を辿るのだろうか?
聖岳に登頂すると、唯一富士山の方面だけ眺めることが出来た。360度中20度ぐらいガスってないという景色。このアングルが凄くいいよ~!と素敵な案内を頂いた登山者の方に写真を撮って頂く。素晴らしい1枚を頂けた。
聖岳を後にし、いっきに標高を落とす。「登りたくないなあ」という角度のあるガレ場を降りていく。そしてその後はガレの縁のヤセ尾根を伝って小聖岳へ。
小聖岳からみる聖岳は圧巻だ。
もうすぐ聖平小屋というところでみる薊畑が美しい。
その後聖平小屋へと向かう木道を歩いていく。別世界のような景色が広がり、楽しませてくれる。
予定通りの時間帯で聖平小屋に到着。広く居心地の良さそうなテント場が広がる。
聖平小屋でのランチ。僕とサヤカさんは中華丼。
浅賀さんはカレー。で一息つく。
食後には嬉しいサービスもあり、遠慮なくいただく。ここで僕たちは今後のプランについて検討をする。その1つは予定通り茶臼岳へと向かうというもの。もう1つはここ聖岳でテント泊をして、明日ここから光岳を目指すと言うもの。後者を選ぶと、最終日の下山ルートが長くなり、結局歩く距離は変わらない。
みんなかなりの距離を歩いてきたので、色々と支障を来たしている。しかしながら、現在の天気は上々、まだ時間に余裕もある。そんな状況を鑑みて予定通り茶臼岳へ向かうことにした。状況に応じて、明日の光岳へは行ける人と休む人と分けてもいいし、選択肢は色々とあるので、無理に行動を共にするのはやめようと、指針を明らかにして動き出した。
目の前にせまる上河内岳の登り。ここを登ればあとは下り基調となる!と己を鼓舞。
上河内岳に到着するときには360度ガスに覆われ視界はゼロだった。
360度の素晴らしい眺めが拝めないのは残念ですね~なんて男どうしでぼやいていると、サヤカさんから「想像を膨らませて景色を作ってみて」と言われて僕たちは目の前に勝手な景色を作り出し笑顔を作る。それはそれは美しい景色が広がっていた。
上河内岳を下り、茶臼小屋に向かう稜線をみて「ガスった状況含めて奥穂高からジャンダルムに向かう稜線に似てる」とサヤカさん。僕は行ったことがないので解らなかったが、恐ろしい危険なポイントがありそうな予感に包み込まれたことは確かだった。確かに写真を並べてみると納得がいく。(上記の写真下がジャンダルムに向かう稜線の写真)
でもそれは一瞬の印象で、実際に歩みを進めてみると、ジャンダルムとは異なり平和な下りが続いているのだった。
下り基調ではあったが、最後にいじめのような登りが一箇所あり、その稜線を越え無事に茶臼小屋に到着した。途中の曇りとは一転、到着するとお日様が顔を出し、前日の雨で濡れたテントや、湿ったシュラフなどを乾かすことができた。
小屋でビールを調達し晩餐がはじまる。後半の縦走に突入すると食料が減り荷物が軽くなってくる。それは寂しくもあり、達成感もある。念のためにと食料を保持しておく心配も少しずつなくなり、少し豪勢に晩御飯を作り出す。僕はフリーズドライの親子丼とカモシカスポーツで手に入れたヒマラヤンカレー、それと味噌汁。
こうして夜がふけ僕たちは眠りについた。明日は光岳へのピストン。荷物を軽くして行動できるので、気分は上々だ。雨模様という予報は残念だ。
山小屋・避難小屋情報
聖平小屋
食事はカレーと中華丼の2種類で、時間は10~14時と決まっている。色々とルールはあるものの、非常に穏やかな雰囲気に包まれた山小屋。食事は外か中のいずれかを選択できる。
小屋の中からみるテント場の景色。非常に広々とした空間で気持ちよく過ごせそうだ。テント場は700円/1人。トイレはテント場の右側に設置されており山小屋からは200mほどの距離になる。
南アルプス★天然水と書かれていると不思議と水も美味しく、また特別に感じる。山に入ってから手に入れた水はいずれも天然水ではあるのだが、軟水、硬水という違いは感じることができそうだ。
茶臼小屋
小屋の中ではお酒、ジュース、食事などが販売されている。
人気の高いビールなどは外で冷やされており、代金の支払いも外で個人任せになっている。山に登る人に悪い人はいないという言葉を想起する。
テント場の料金も個人に任せられている。テントは45張で空いているところに設営する。代金は700円/1人。
水場は緑と高山植物に囲まれた小屋の横に設置されている。ここから直ぐ下にトイレがある。