第2回:赤城山の最高峰『黒檜山』で楽しむ極寒のスノーランニング編
早朝5時、気温は何度だろうか・・・。あまりにも暖かいこのシュラフから出たくない、でも出なくちゃアクティビティは楽しめない。帰りのバスの時間も頭に入れながら逆算したプランを遂行するならもう早々に這い出て仕度を整えなくちゃいけない時間だ。近くに置いてあるペットボトルを手に取るとカチンコチンに凍っている。
そういえば「凍らないように水は寝袋に入れておいて!」っていわれたっけ・・・
ぐっと歯を食いしばって外に出ると綺麗な朝焼けが目に入る。「とりあえずスノーランから帰ってきたら直ぐにバス停にむけて出発できるように、ベースキャンプに残す荷物を整えながら準備しよう」と高橋くん。
スノーランニングを楽しむコースプラン
この旅のプランについて「大沼の外周を走って登山口まで向かい、そこから黒檜山山頂に向かってみよう。黒檜山まで行ってみて天気や雪質、トレイルの状態から駒ケ岳まで足を伸ばすか、そのままピストンで戻ってくるか検討しよう」と提案を受けていた。ピストンの場合は往復の夏山歩きで約3時間、駒ケ岳~大洞経由で同じく夏山歩きで約4時間というのが地図上で確認した所要時間。これを雪山にすると果たして何時間で見積もるべきかを話し合ってきた。
「今回のシューズが登山靴ではなくスノーランニング用のシューズだから、ハイクアップ時に雪の状態がよくなければ引き返すようにしよう。無理は禁物ね」と念をおされた。高橋くんは今回チェーンスパイク持参で臨んでいたが僕は持ってこず。そういう状況だったから基本お互いチェーンスパイクなしの状態で『危険』と感じたら止めようという取り決めにした。これは僕が浅はかな判断だったと反省の1つに加えた。
今回僕は汗をかき過ぎず、衣服内がドライな状態をどうやって保つかというレイヤリングに出発ギリギリまで悩んでいた。低温下で発汗必至のスノーラン二ング、汗冷えを起こさないことに最大限の注意を払わなければならない。
悩んだ末の僕のレイヤリング
僕はベースレイヤーにパタゴニアのキャプリーンサーマルウェイトを選び、その上にアイベックスのシャックフーディとパタゴニアのフーディニジャケットというレイヤリング。パンツは前回の奥多摩小屋行きで高橋くんが履いていたマウンテンハードウェアのビズルパワータイツという出で立ち。
シューズは今回新調したTECNICA(テクニカ)のインフェルノ3.0 スノーキャット。スノートレイルシューズで重要視したかった雪の中を走っても濡れる心配なく冷えから守り、そしてしっかりとしたグリップで雪上を安心して走り回れること。今回のアクティビティではとにかくかけがえのない存在だ。
対して高橋くんはベースレイヤーにザ・ノース・フェースのハイブリッドアルファフーディ―、その上にアークテリクスのプロトンLTフーディ―という2枚。パンツは前回と同様、マウンテンハードウェアのビズルパワータイツという出で立ち。
シューズはサロモンのスノークロスCS。スノートレイル特有のジップゲイターが着いて雪の進入を防ぐという、ソールには小さいながらスパイクが付き滑りを防止する。下半身からシューズまでは高橋くんも僕もほぼ同じ機能性を帯びたスタイルとなった。
1つ1つを大事に考える重要性
ドライを保つという1つの目的に対してレイヤリング方法は様々だ。そしてウェアの技術進歩は目覚しいものがあるなあと感じた。結果ドライを保てたのか?効果はどういう按配だったかは、また後ほど。
さあ、いざ出発!という間際、僕がインナーグローブ1枚だけで出かけようとしている姿をみて「この寒さ、天気だったら厚手のウィンターグローブを重ねた方がいいよ!」と意見をくれた。これは結果良好で、雪の付いた岩場や木々を掴む場面も多く、そんな時に1つオーバーグローブがあるおかげで躊躇なく掴むことができたし、-10度を下回っていた山頂付近ではインナー1枚は痛みを伴う結果となっていたこと間違いない。
いよいよ黒檜山山頂に向かう
ドライを保つためのレイヤリングは走りはじめと休憩時がとっても寒い。ハイクアップ、ランニング中といった汗をかく可能性が頂点になった時でも外気温とのバランスでなるべく汗をかき過ぎな
この寒さに堪えながら赤城山キャンプ場から黒檜山山頂への登山口まであっという間の道のり。凍った路面もグリップの効いたスノーランニングシューズに支えられストレスなくラン。
登山口からはいきなりの急登からスタート。一番気にしていた地面の凍結も少なくキュッキュと踏みやすくグリップの効きやすい雪質。これには僕も高橋くんも「いいねえ~!この雪質が続くことを祈ろう!」と勇んで登っていく。
急登は緩むことなく僕たちの体を疲れさせ身体はポカポカに。15分ほどハイクアップすると眺めの良い尾根に出た。思わず2人で「わお!大沼、地蔵岳の眺めサイコー!」と声を上げる。太陽光線が作り出す陰影が美しい。
「こっち富士山だよ」という立て札の方向をみると遠くに富士山がみえる。それよりも僕らは黒檜山山頂へと続くトレイルに目を奪われる。足元の雪質は非常にいい感じ。
走りたくてウズウズする中、右手をよくみると雪庇。その下は直滑降の崖。ペースを落としゆっくりと歩を進める。それからちょっと進むと、さっきよりもキツイ直登がこれまた長く続く。なかなかの手ごたえがあり身体も暖まる、と同時に標高を上げることによって気温も下がってきた。
しばらく登っていくと稜線らしい景色が目を奪う。「おおっ!もう頂上かもよ!」と30分程で頂上付近に到着する。雪に埋もれた道標には「黒檜山0.1km」とある。この先の神秘的なトレイルに僕たちを最高潮な気分になるのである。
黒檜山の神秘的なトレイル
この道標の約100m先に黒檜山頂上が待っている。そこまでの道のりはフラットで樹氷の間をただ真っ直ぐに進んでいくトレイル。「あっ!あそこが頂上だ」と声を上げた直ぐ先に山頂標識がある。
到着した僕らは無事ここまでこれたこと、そしてなんとも美しいトレイルを一緒に走り楽しめたことの感動に包まれガッシリと握手を交わす。
「ん?まだ先にトレイルが続いている」
その先はビューポイントとあり、これ以上の眺めが見えるのか!と期待に胸が膨らむ。この黒檜山山頂からビューポイントまで、ものの数分で走り抜ける。トレイルは気持ちの良い起伏があり、雪を上手に下半身で捉えて走り抜ける。
後から思えばこのエリアがスノーランニングの楽しさを存分に味わえた一番のポイントだったかもしれない。
到着したビューポイントからは上信越・日光の山々、沼田市の町並みを眺めることができる。強い風が北から僕たちに吹きすさぶも、あまりにもこの神々しい領域から離れられずしばし呆然と景色を眺める。
そして、ここからピストンでキャンプ場に戻るか、駒ヶ岳経由でスノーランニングを楽しむかを相談したが、2人の心は既に決まっていた。僕たちは当然のように駒ケ岳経由で更に未知なるトレイルに足を伸ばすことにした。ハイクアップ時に「この場所下山する時に少し危ないかなあ」という勾配のキツイ箇所も幾つかあったので、それらを回避するためでもあった。
そこからは引き続きの神秘的な雪景色を楽しむも、やはり下山時は雪で足元が滑りやすいのでとにかく気を配ってゆっくりと行動する。
大タルミではなだらかな稜線と広々としたトレイルに開放感に包まれながらランニングを楽しむ。駒ヶ岳到着が8時ごろ。ここまで約2時間ほどで到着した。
後は下りを駒ヶ岳登山口に向かって降りていく。最後下りが続くルートでは更に気を引き締めて降りていく。
約2.5時間経過して僕らは駒ヶ岳登山口に到着した。そこからは引き続きランニングを楽しみながらキャンプ場へ向かった。
スノーランニングを終えて
大沼から改めて黒檜山山頂を眺めながら「僕らついさっきまであそこを走っていたと思うと不思議な気持ちだよね」と心を通わせる。朝の7時に出発して約3時間でキャンプ場に戻ってきた僕らはその爽快さに感動さえ覚える。
戻ってきて高橋くんから「すごいじゃん!目標にしてた通りドライな状態保てているね!」とひとこと。おおっ!そういえば全く汗をかいてない。それでいて朝の寒い!という辛い気持ち以外は比較的ずっと快適だったように感じる。
念のために持ち歩いていた防寒具に全然手が伸びなかったのも驚きだ。
重い荷物を背負えばそれなりに体力を使うだろうから、汗をかく可能性は増えたかもしれない。それでいて、歩いているだけでは身体が暖まりにくいから防寒着を重ねていただろう。そうすると樹林帯で風のない穏やかな場所では暑くなって、汗をかく可能性が出てくる。
だからアクティビティの内容とそれを楽しむ為に必要な自分の体力と体質を把握すると共に、体感するだろうと思われる一通りの登山工程を想像しながら『これだけの装備がちょうどいいだろう』と予測する力が必要になる。幾つかの情報を掛け算して、多くもなく少なくもない、それこそ『ちょうどいい』という装備とレイヤリングが結果ドライを保つことになる。
もちろんいざというときの最低限のバックアップはしっかりと吟味して携えることも重要。
僕が果たしてどこまで把握できていたか、今更ながら不明瞭だが、見よう見まねで実践してみたら結果すこぶる良好だったわけだ。
帰りの身支度をし、レイヤリングに関する非常に興味深いお話を高橋くんに聞きながら、帰路を目指すのであった。次回は帰路途中に感じた赤城山というフィールドの魅力、そしてレイヤリングについて、そして前橋・高崎で楽しんだお風呂&グルメ情報をまとめてみようと思う。
- 第1回:もつ鍋とお酒でまんぷくスノーキャンプ編
- 第2回:赤城山の最高峰『黒檜山』で楽しむ極寒のスノーランニング編
- 第3回:ドライを保てたレイヤリング考察編