今年の夏の山旅は、2年ぶりのアルプス登山、槍ヶ岳。
2017年2月、父のお通夜に集まってくれた友達が、父の槍ヶ岳登山のときの写真を見て「一緒に登ろう」と言ってくれたのだ。
父の写真は、モノクロで山のバッチがたくさんついたハンチングにシャツ、ニッカポッカにキスリングスタイル。その写真を見ておそろいのハンチングもみんな揃えてくれた。
初日の朝に新宿を出発して平湯温泉経由で昼過ぎに上高地へ。この後の4日間の天気予報はあまりよくなくて、余裕のある日程でよかったなと思った。
初日は横尾でテント泊。3泊4日の山行のため、初日がとても豪華であとはシンプルなご飯。
前日の夜に家で作って冷凍した鶏ハムを持ってきた。鶏ハムは普段からよくつくるけれど、当日出発だしはじめて山に持ってきた。保冷剤と保冷パックにいれてちょうどいい状態に解凍されていた。
テント場で、たわいもない話をしながらご飯を食べるのはテント縦走の醍醐味だと思う。ほとんどつくるものがなく、ほぼ盛り付けだけの今日のメニュー。おしゃべりがすすむ。
鶏ハムのアボカド添え/ベーコンスープ(4人分)
- アルファ米
- 鶏ハム(前日に家でつくったものを冷凍)
- アボカド 1個
- ミニトマト 1パック
- かぼす 1/2個
- 炒め玉ねぎレトルト 1袋
- ベーコンブロック 1かたまり
- コンソメ 塩適量
- 水800CC
水を沸かし、そこに炒め玉ねぎのレトルト、ベーコン、コンソメ、塩を入れて味を調える。
スライスした鶏ハム、アボカド、トマトを盛り付けてかぼすを添える。
朝は、簡単にすませて出発する。今後の天気も確認してぎりぎりまで奥穂高岳案もあったのだけど、槍ヶ岳に行くことに。
横尾から槍ヶ岳へ
横尾からあがるルートは緑がきれいで気持ちがいい。
ゆっくり高度を上げていく感じも久しぶりのアルプスに登る私には優しい。曇ったり、晴れたり。空はいろんな顔を見せる。
例年より雪渓が多く残るため、慎重に登っていく。夏のアルプスという気がして久しぶりに来れたことを嬉しく思う。
登っていても思い出すのは父のこと。
私が登山を始める前には病気でほとんど話すことができなくなっっていたので、20歳から30歳まで山岳会に入っていたということは知っていたけど、山の話をしっかりしたことはなかった。それでも私が登った山の写真や、山の雑誌を見せるととても喜んでくれたし、自分の山の手帳や昔の山道具を見せてくれたこともあった。そうして譲り受けた山道具の中にニッピンのコッヘルセットがある。
几帳面だった父がとても大切にしていた山道具。大雑把な私は、がしがし使っている。
槍ヶ岳の父の写真は、槍ヶ岳山荘の前の写真とバックに槍ヶ岳が見える場所での写真。
下の写真は、自分が殺生ヒュッテでテントを張って、ガスが晴れてはじめて槍ヶ岳が見えたときに撮ったもの。『あ~この場所で撮影したんだな』と思った。
ご飯中に槍の穂先が見えて『さっきまで真っ白だったのに突然見えたことを奇跡だ!』とみんなで騒ぎながら、父と同じポーズで写真を撮った。
二日目の夜ご飯は、サーモンちらし寿司とTSAMPA SOUP
- アルファ米
- Patagonia provisions WILD SOCKEYE SALMON 1袋
- ちらし寿司の素 4人分
- かぼす
- Patagonia provisions TSAMPA SOUP 1袋
お湯を入れて出来上がったアルファ米にサーモン、ちらし寿司の素を混ぜる。
TSMPA SOUPは水480mlを沸かして中身を入れ1分煮込んだ後9分蒸らして完成。
かぼすをSOUPに絞って入れてもいい。疲れている体には、酢飯がさらにおいしく感じられ、かぼすの香りもよく、みんなでもりもり食べた。
槍の穂先が見えたのは一瞬だったけど、その奇跡のような瞬間がまた、みんなのテンションを上げて明日登るのを楽しみにしながら眠った。
翌朝、やっぱりガスっていたけれど、今後の天気予報もずっとこんな感じだし、また奇跡的な瞬間はあるかもしれないと、テントを置いて最低限の荷物で登り始めた。
槍ヶ岳山荘についたときは、穂先が見えたり見えなかったり、ときおり見える登山者に手を振ったりした。
チャンスを狙って私達も登り始めたが、槍ヶ岳の肩から頂上は思ったより険しくガスっていて下が見えないことが良かったと思えるくらいだった。
頂上に着いたら、貸し切りで4人で写真を撮ったりしばし休憩していたが、友達の一人が、父に手を合わせるためにおちょことお酒を持ってきてくれていた。
頂上の祠におちょこをおいて手を合わせたら、いろんな思いがあふれて涙が止まらなかった。友人たちの思いがとてもうれしく、この天気の中、無事に登れたことや、父も同じ場所に立ったことを考えていた。
登りよりも怖いんじゃないかという槍の穂先を無事に降りて、槍ヶ岳山荘でお昼を取った。そのときに売店でお話した小屋番のお母さんに昔の父の写真を見せたら、同世代で多分この頃もバイトしていたと話してくれて昔の写真をとても懐かしんでくれた。
私もなんだかその時代のかけらを知ることができてとても嬉しかった。
今から45年くらい前の登山は、きっと荷物も重いし、キスリングだし、防寒もそんなにないんだけど、山が好きで槍ヶ岳を目指すっていうのはきっと今も昔も変わらないんだと思う。
山は、日常よりも生死を感じやす場所なのかもしれない。過去の登山では、本当に危ないと感じたことは少ないけれど、それでも自分の歩いたことのあるルートでの遭難や山行前後での急激な天候不良など、一歩間違えば、という状況はある。日常から離れ、思い切り自然と向き合い、自分の足でしか戻ることのできない山の中で、同じ場所に立ったであろう父と向き合うことができた。本当は一度でも山に一緒に登ることができていたらよかったけれど、きっとずっと見守ってくれていてとても父を近くに感じることができた。急に亡くなったこともあって、まだ受け止めることができなかったけれど、友人たちと父の話を沢山していると、自然と笑顔になれて悲しみが消えていった。
この企画をしてくれて一緒に登ってくれた彼女たちには沢山ありがとうを言っても足りないくらいだ。
馬場平のテント場へ
殺生ヒュッテのテント場に戻って、テントを撤収して、調子が良ければ横尾まで降りようと話していたけれど、天候も朝はそんなに良くなかったので時間はおしてしまい、馬場平のテント場を目指すことにした。雪渓も慎重に降りる中、山を降りていくときの何とも言えない寂しさを感じた。まだもう1日あるけれど、とっても楽しい山だから終わりに向かうのが寂しいのだ。
馬場平のテント場は、白砂が気持ちのいい川のそばにテントを張った。
三日目の夜ご飯は、Patagonia provisions BLACK BEANS SOUPのカレー
- アルファ米
- Patagonia provisions BLACK BEANS SOUP 1袋
- カレー粉 適量
BLACK BEANS SOUP は水480mlを沸かして中身を入れ1分煮込んだ後カレー粉を入れて混ぜる。
この日は行動時間も長かったのと、頂上に登れた安堵感もあってすぐ寝てしまった。
翌朝は、快晴。テントの横で、軽くヨガをしたり、隣の韓国人のパーティーと行動食を交換したりと、青空の下気持ちの良い朝の時間を過ごした。
最終日とはいえ、上高地のバスターミナルまではまあまあ距離があるし、今日中に帰るので寂しさを持ちながらもちょっと時間を気にしながら、3日前に登ってきた道をすがすがしい気持ちで降りていく。
徳澤園でソフトクリームで乾杯して、平湯温泉にゆっくりつかりおいしいご飯を食べて、帰路へ。
父を想いながら、こうして登山ができていることや家族や友人たちに感謝しながら、とにかくよく笑って少し泣いた4日間。
下山した翌日は、半年たった月命日。父にこの山行を報告し気持ちが落ち着いたような気がした。
この山行が良すぎて、しばらく山に登らなくてもいいんじゃないかと思ったくらいだったけど、山を降りたら考えるのは次に登る山のこと。父のアルバムには槍ヶ岳の写真の次に奥穂の写真、槍穂縦走したのではないだろうか、次の楽しみにしておこうと思う。