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甲斐駒ヶ岳 / 下山のその後

甲斐駒ヶ岳 / 下山のその後

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12 | 長衛小屋の夜

ご飯も炊いて、味噌汁を作って、豚キムチを炒めて食べた。なにこれ。幸せすぎるじゃん。味噌汁は大きなきのこがたくさん入っていて、結局味噌汁が1番うまいと言っていたのがよくわかった。でも品数がありすぎて食べきれず、次の日の朝ごはんにしようということでその日の晩酌は終わった。

そのあとも、ライトを囲んで川の音を聞きながらゆっくり話をしたのがとても気持ちが良かった。

私は過去、大道芸人の追っかけをしていた時に、単独ライブの打ち上げに参加させてもらったことがあった。みんなで小さな居酒屋で飲んでいたとき。隣に座っていた人がたまたまオペラ歌手で、たまたまお店にあったトレンペットを仲間のシンガーソングライターの子が合わせて吹いて、居酒屋の店長さんが奥から引っ張り出してきたハーモニカを吹いて、その場で即興で「千の風になって」を演奏したっていう夜があって。その時に、私は真面目に教員になろうとしていて、でもこういう芸能とか芸術の世界に生きている人たちがいて、その人たちが社会で一般的に大事とされてる「所属感」とか「安心感」とかみたいなものを投げた代わりに手に入れているこういう夜を、もう一生過ごせないんだろうな、私はこの壁が越えられないんだろうなっていう悲しみがあったの、21歳くらいの頃かな。なんとなく、私はそっち側に行けなくて、これが人生最良の夜なんだろうなって思ってたんだよね。

でも今、こうして山に登って、絶景見て、山の麓で料理して、お酒飲んで、川の音を聞いて、夢について語っている。この時間とそれを共に過ごしたい人たちが、私には今あるんだってことを、あのときの21歳の私に教えてあげたいと思ったよ。10年前には想像もしていなかった、けど確かにこんな大人になりたいと思った大人になるための道を、今こうして歩んでいるんだよって思って、私はもう胸がいっぱいで、泣きたくなったよ。

うだうだと過ごしているうちにもう眠たくなってしまって、トイレに行きたかったけど、真っ暗で危ないから行かないで寝ることにした。次の日3時45分に起きようと約束して寝ることにする。下山した時には、もう明日は歩けないぜと思っていたけど、肉食べてきのこ食べてタンパク質たくさんとったらなんかいける気がして、明日頑張るぞって気持ちで寝た。

テントの中で寝る前にジュンと2人っきりになる時間が好きで、テントの天井を見ながら「今日気づいた〇〇」みたいなしょうもないことで声を押し殺してクックックと笑った。何で笑ったかは覚えてないな。

13 | 雨だと思ったの

朝、目覚ましが鳴る前に雨の音で起きた。シトシトではなく、ボツボツとテントから雨音がした。めちゃくちゃ雨じゃん、となって、その時は「こりゃ登れないねぇ」と嬉しそうに言った気がする。眠かったんだ。

でもそのあと起きたら、8時くらいかな、空が晴れていて、めちゃくちゃ悔しくなった。こういうチャンス逃す自分ほんとに…!って思って、「今からでもいけるんじゃね?」とジュンに言ってたけど、結局天気予報わからないから行けないなーって。でも、ちゃんとそのあと雨降ってきたから登らなくて良かったんだよ思うよ。山の中で情報がない中で判断するのって超絶難しいね。

朝ごはんゆっくり食べれて超良かった!たまたまこの場に宿泊していた、やなさんのお友達のアサガさんとリョウくんと合流して、一緒に朝ごはんを食べた。アサガさんとやなさん、2人が仲良しなのが伝わってきて、とても良い関係だなと思ったし、良い関係の2人を客観的に見てるのってこんなに気持ちがいいんだ、って思って、私たちを見ている視聴者さんも、ひょっとして同じ気持ちなのかな、と思った。アサガさんは、やなさんのお友達なだけあってやっぱり素晴らしい大人で、無邪気と落ち着きを兼ね備えていてとてもかっこよかった。リョウくんは、やなさんとどんな関係かと前日に言っていたのを忘れてしまい、どういう立ち位置の人なのかわからなくなってしまってうまく話せなかったから、10月に遊ぶ時には仲良くなりたいな。リョウくんは私らと同い年だった。

朝ごはんの時に、私が持ってきたサバ缶が活躍していて、役に立ってよかったと思った。サバ缶をここに運ぶにあたって特になにも努力していないのに、みんな褒めてくれて嬉しい。ジュンは梨を持ってきてくれていて、どのご飯も「お腹いっぱいなんで」と言って食べていなかったリョウくんが「梨…果物で1番好きなんですよ」と食べてたのが、とてもよかった。みんなでジュンが持ってきたコーヒーを「美味しいね、なんてったって名前が『2』だからね。『1』がヒットしなきゃ『2』は出ないんだから」と言いながら飲んだのも、楽しかった。スマホの電波が入らず、会話とか、ご飯とか、川の音とか、景色をただ楽しめばいいだけの時間って幸せなんだね。

昨日の山行の途中で話していた通りドライマンゴーを水で戻せるか実験してみたら、本当に戻せて面白かったんだけど、やっぱり本物の梨に比べたら水でふやかしたマンゴーが弱すぎて、アサガさんたちに振る舞うのが恥ずかしくて1人で食べた(美味しかったよ)。後から知ったけど、マンゴーを水で戻すのはアサガさんからもらったTipsらしいから、恥ずかしがってないで堂々と出せば良かったよ。

テントを撤収して戻る時に、ある高校の山岳部の子達が合宿に来ていたので、引率の先生も大変だなぁと同情して「高校生ですか?」と質問したら「え…?あ、はい、…」っていう話しかけられる人史上1番下手くそなリアクションされたから、心が折れて「あ、すいません…」って言って立ち去った。いやいや、教員ならコミュニケーションとってくれよ。あれ絶対私悪くない(私は元教員なので、世界一教員に厳しい)

14 | ありがとう甲斐駒ヶ岳

帰りに寄った温泉で、ジュンと色々話をした。ここ2ヶ月、ジュンとあんまり上手に話せていなかったから、今日のことも、今までのことも、これからのことも全部話したかった。

話をしていて、ジュンとやってきたJPの時間がかけがえのないものになっていて、大事な居場所になっていて、自分に自信をつけさせてくれたJPとジュンにものすごく感謝していて、これをずっと続けたいと思っているんだ、ってことに、気づいた。夢を実現する姿の解像度が上がって、山歩きJPの終わりを感じたのかもしれないけど、夢を追っていたら、必ずその先にまた目的地が見つかる。

日本で1番高い山に登って満足して、じゃあ後はもう下山するだけ、ってならないと思うんだ。力をつけた今だったら、もっとこんな楽しみ方ができるのでは、世界を広げて海外の山はどうだろう、って。ドキドキと出会いと冒険を求めて、もっともっと前に進みたくなると思うんだよな。ジュンとはそうありたいって。親友であり、相方であり、仲間でありたいって思うんだ。今は2人でいたら最強で、でもだんだん力がついていったら1人でも最強の存在になって、でもやっぱり2人が1番最強で、そういう関係でいたいと思う。

以前、ウエストランド井口が、相方の結婚式のスピーチで「相方になった時点で、ある種、こいつの人生が僕の人生の一部になってしまったような感覚で、だからこいつの奥さんのことを幸せにする責任は僕にもあるんです」って語っていたけど、私だってそうだ。ジュンの幸せは保証してあげられないけど。誓約書も何も書いていないけど、ジュンの人生はそうやって、もう私の人生の一部になっているんだよ。っていうのを話したり、話さなかったり、お湯から出たり浸かったりしていたら約束の時間の10分前になっていて、慌てて風呂を出た。13時3分だった。

お風呂上がりにお蕎麦屋さんに行った時、みんながお気に入りのお店を教えあって、美味しそうだとGoogleマップにクリップしあっているのがとても微笑ましかった。やなさんもアサガさんも、年上なのにジュンが紹介したものについて「へぇー!美味しそう!!今度〇〇の時はここかな」とすごくまっすぐ受け入れていて、なんて素敵な人たちなんだろうと思った。対等に話をしてくれつつ、女の子なんだから先に椅子使いなよと紳士的なところも、とても素敵だ。

アサガさんリョウくんと、ジュンが「大学の実習で」トークをしていて、私はジュンが初対面の人とかに「大学の実習で」トークをしているのを見るのが好き。みんな驚くし、この子若くて可愛いのにすごいって顔してて、自分のことじゃないけど、へへへと思う。ふふふ。

アサガさんたちと車で尾白川渓谷の駐車場まで行った。初めて日向山のバッチ見つけて、欲しかったけど1000円は高すぎて諦めた。撮影場所を探してうろうろして、最終的に音がちょっとだけ気になるベンチで動画撮影をした。内容はものすごくおもしろかったし、やなさんはさすがで、でも私は奥の子供の声とかがめちゃくちゃ気になっちゃって、編集するときのことを考えながら話聞いてたから、話聞いてないみたいなリアクションになってるところがあって、反省している。ジュンが私の分までキラキラ話聞いてくれてて助かった。

▽ やなさんとお話しした内容はこちらの動画 🎬

帰りの車は、渋滞で長かったはずだけど、たくさん話すことがあって全く長く感じなかった。やなさんが提案してくれたことを受けるために、「私ができること」を自己PRしたんだけど、そのときの私が「文章を書くのが得意」と言い切っていて、今までこうやって「得意です!」と言い切れるほどの特技はなかったなと気づいて、こうやって言い切れるほど、続けるなかで自信がついていたんだなと知って嬉しかった。自分の口から出た言葉を自分で聞いて、驚いた。

私は後部座席に乗って、座り方を横向きに変えたら上の窓から月が見えることに気づいて、左側が欠けた月と、その手前の林をしばらく眺めていた。途中少し寝て、多分そんなに時間が経たずに起きたんじゃないかと思ったんだけど、その時にはジュンとやなさんがお話をしていて、私は目を瞑って、雨音と、2人の声をラジオのように聞くことにした。目を瞑っていたから途中寝たかもしれないけど、2人がゆっくり、静かに話をしていて、私はこの会話に入らない方がいいなと思って、途中にんまりしたりもしながら、ずっと黙っていた。

やなさんに家の前まで送ってもらう時に「ユウちゃんが来ると晴れるんだよ」と言われながら、最終的に降りる時には土砂降りに振られながら、挨拶もままならず家のオートロックに鍵を差し込んだ。

すごいことが起こってしまったな、という気持ちと、ジュンへの想いと、やなさんへの感謝の気持ちと、私が感じた感動、私が感じた強い感情を一粒も取りこぼさずに2人と、未来にこの文章を読む自分に伝えたくて、一生懸命書いた。


私は山に詳しくないけどちゃんと山が好きで、文章を書くのが好き。

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