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04 | 分岐
母たち、ずっと喋ってる。やれここに新しく駐車場ができたんだとか、やれ今日持ってきたベイシアの肉が硬かったから料理は期待するなとか。山に一歩入ったところから、母たち3人の声が山に響く。いつも山で出会うマダムたちのわいわいパーティ登山、楽しそうだなぁと見ているけど、その中に入っていても同じように、楽しそうだなぁ〜と思う。マダムの年代って言葉数が多い。喋ってないとやってらんないのか、全員めちゃくちゃ喋るのまじでほんと面白くて好き。
と思いながら後ろをついて行ってたら、最初の分岐で一旦今日は別行動になるということを告げられた。あ、そうなん?
なんでもおもてなし手料理の準備をしたいから、その間に私たちは四ツ又山をピークはんとしておいでとのこと。了解しました。鹿岳の一ノ岳のピークの手前にいるからね、と集合場所を確認し、YAMAPの位置情報共有機能だけ作動させて、それぞれの目的地を目指した。
05 | 母という生き物
鹿岳はとても素晴らしい山で、朝日が当たるところだけ黄色く発光している紅葉と、だんだん近づいていく妙義山、大きな岩が二つ聳える景色、そして奥の市街地で視界いっぱいで展望を楽しむことができた。
今年の秋は、紅葉をとても楽しむことができている。9月から毎週末登山に行っていたおかげで、その時々の紅葉している場所に合わせて私たちも山を楽しんだ。そして今日の風からは明確に、冬の風を感じた。冬の風がまだ枝につく紅葉を、吹き飛ばしていく。
登っていたら、母から電話があった。「まめがた峠の少し先に見晴し台があって、そこからの景色がとてもいいのでサムネを撮ってきたらいい」とのこと。理解があって助かる。その後も2度ほど着信履歴があったようだが、まあそんな感じの内容だろうと思って特に折り返しをしなかった。母にトランシーバーとか渡したら大変なことになりそう。
母に「行っといで」と言われた道のアップダウンはなかなか激しめで、加えて風が強く吹くので、久々にしんどい環境下での登山をしている気分になった。キャップが飛ばされそうになるので、顎で止めるために耳を下ろした。今日の私のフライトキャップは、通称「チルタリス」、ジュンのは通称「ゲンガー」だ。わかる人だけわかればいい。
母に言われた展望スポットでちゃんとサムネ風の写真を撮ったけど、寒すぎるのと撮影者がいないのとで全然いい顔で撮れなかった。難しいね。
鹿岳までの道は、「え、本当にお気楽隊通れた?」と心配になるくらい激しい道だった。どのくらい激しいかというと、補助のロープがたくさん用意されていて、そのロープに体重を預けないと登れない。こういうロープとか鎖とか、なるべく体を預けないようにしているんだけど、今回は使わざるを得ない登づらさだった。通れるだろうが、時間がかかる。母が別行動を指示した理由も理解できた。
やっとの思いで登り切る。ずっと近くに見えていた巨大な岩の塔が鹿岳の2つのピークだと途中で気づき、本当にここに登れるのかと不安になった。が大丈夫。なぜならお気楽隊が登れているのだから。
一ノ岳を登る途中で、母たちと再会。というか、めちゃくちゃ遠くからでも母たちのキャッキャが聞こえるので、そこにいることはだいぶ前からわかっていたのだが。
私たちをおもてなしするご飯を用意してくれていた。今日のメニューはビーフシチューだ。やった!
06 | おもてなし
JPが来たぞといそいそと準備をしてくれ、具沢山のビーフシチューに、茹でたブロッコリーをさらにトッピングし、そこにポーションをかけて本格感を出す。このポーションがポイントなんだとか。フランスパンと、ミニトマトと、シャインマスカットをお皿に盛り付け「映え」まで意識してくれた。親子2世代の山女子会。めちゃくちゃ楽しいね。
母たちはこれを準備するために色々と主婦の手を動かしたいのに、寒いし狭いしでめちゃくちゃ時間がかかってて面白かった。私たちはただ見てるだけ。ジュンは3人のやり取りを見てずっと笑っていた。
山で煮込んでくれたビーフシチュー、めちゃくちゃ美味しかったぞ!私に味見役をさせてくれて先に一口飲んだけど、ルーが濃すぎなくてすごくちょうどよかった。マッシュルームとかブロッコリーとか、ちょっと高級な具材が入っているのも、細かいところにおもてなしを感じて嬉しいね。お鍋まるまるいっぱいに作ったビーフシチューを5人で分けて、私とジュンにはおかわりまでさせてくれて、鍋が空になった。私たちばっか食べすぎていいのかな?と思っていたら「あー全部なくなってよかった」と言っていたので、どうやら残すよりよっぽどよかったらしいということを知った。
07 | 秘密のテラス
デザートもあるらしいけど、それは二ノ岳で食べることとして再出発。みんなで一ノ岳をピークハントしたら「この先に秘密のテラスがあるの知ってる?」と言われ、行ってみることにした。少し降りたところに、広くて平らなスペースと、身を乗り出すと足が震えるほどの高所感を味わえる場所があった。岩の先に立ってみたら、足が震えて立ちくらみがした。ここでふらっとしたら確実に死んじゃう。ピョーンって飛び込みたくなっちゃう、とジュンが言ったら「ダメダメ〜」とお気楽隊が言ってみんなで笑ってた。
一つの山でも、こういう小さなスポットを見つけて、「秘密のテラス」とか「穴場」とか言って、自分たちだけの地図にしちゃうのがお気楽隊は本当に上手。山は、ただの場所だし、行って帰るだけでは本当は何も世界は変わらないはずなのに、誰かと登って笑い合って、その場所その場所に勝手に意味を見出すことができちゃう。母はお気楽隊と8年間で、そうやっていろんな山を旅してきている。新しい山の楽しみ方を教えてくれるので、お気楽隊と登ると面白い。
二ノ岳を登る。私たちの方が先に山頂についた。上から母たちがまだ遠くにいるのが見えまだ時間がありそうだったので、その時眠たすぎた私は適当なスペースを見つけてザックを枕にして昼寝をした。その間、ジュンはあの特徴的な山頂をスケッチしていたらしい。ふわふわ空を飛ぶ夢を見ていた頃、頭の端ですみちゃんの声を拾って、起きることにした。15分くらい立っていたらしい。スッキリ。
ジュンと2人で二ノ岳のピークに立った。遠くから見たらものすごい高台にいるように見えたのに、登ってみたらとても広くて、ちっとも怖くなかった。お気楽隊が遠くから写真を撮ってくれたよ。
08 | 山女子お茶会
再び5人揃ったので、山頂でお茶会。インスタントコーヒーを入れて、お気楽隊のとっておきのおやつを出す。その名も「フルーツあんみつ大福」。これが、食べてみたらとんでもなく美味しかった。
大福の記事の中に、あんこと、黒蜜寒天ゼリーと、パインとみかんとクリームが入っている。一口食べるごとに違う味がして、しかもフルーツは瑞々しくて、コーヒーに十分合うあんこの甘さもあって、最高。一口食べるごとに「美味しい!」と感動して、一口食べるごとにコーヒーを啜った。
コーヒーは、お湯を沸かすわけではなく、山専ボトルに入れてきた熱湯で作ってくれた。山専ボトル、ジュンが持ってきてくれたことあったけど、改めて使うとめちゃくちゃ便利ね。スペシャルおやつ食べる時のお供のコーヒー入れるのに、ちょうどいいクイックさ。私も山専ボトル買おっと。
いつもバームクーヘンとかも、行動食としてささっと食べちゃってたし、コーヒーはトイレ行きたくなっちゃうからあんまお茶会してなかったけど、こうやってゆっくり座ってとっておきのおやつ食べるのって最高だなーって思い出した。行動食と一緒にささっと食べちゃうには、勿体なさすぎる美味しさだった。フルーツクリーム大福。
コーヒー休憩中に、ジュンは私の昼寝タイムに描いた絵を完成させて、母たちに見せた。そしたら3人が「やっだもう、かわいい〜〜〜〜!!!」「もうほんっとかわいい!ジュンは絵が上手いねぇ、すごい才能だねぇ」「この、タッチがいいよね!!!センスがすごい!!!こんなのかけないわ〜〜〜〜やだ〜〜〜」とマダムスイッチ全開で大ホメしてくれるもんだから、ジュンから湯気が出るほど喜んでいて、全てまるっとめちゃくちゃ幸せな時間だった。ジュンのホメから派生して、「JP2人はね!!!ほんっとに、才能が被ってなくて、いいよね!!!」と私までほめられていい気になった後に、「お気楽隊もね!?被ってないんだよね!?キャラが!!!」「そうね!!!リーダーとか、ムードメーカーとか…」と自分たちの話になってなお盛り上がっていたので、ほんと最高にお気楽な人たちで最高だったな。
下山も私たちの方が早いので、ちょくちょく休みながら3人の声がだんだん近づいてくるのを、タイベックシートにすわってのんびり待った。
私の登山のルーツは母である。山は楽しむ場所。山は心を開放する場所。山は仲間とつながる場所。山は四季を楽しむ場所。山はちょっといいおやつを食べる場所。冷えた空気を胸いっぱいに吸ったら、頭の中まで透明になる。とか。いくつになっても、心の赴くままに大声ではしゃいでいい。とか。山に行くと、その日1日が絵日記みたいに頭の中に保存される。とか。
体力があるとかないとか、山に詳しいとか疎いとか、経験豊富とか初心者とか、オシャレと流行とかULとかジャンルとか、そういうものさしとかなくて、ただ山が好きで、それでいいって私が思っているのは、全部母から教わったことだなって、今日改めて思った。
なので、私はこれからも山に詳しくなれないので、よろしくねジュンちゃん♡ジュンの記憶力が人よりちょっとだけ悪い分の、記憶の補填として。書記係は任せてくれ。