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御座山 / 氷瀑と春の香り

御座山 / 氷瀑と春の香り

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05 | 山で感じる四季

風を感じない。木漏れ日の色が柔らかい黄色に見える。頬を撫でる空気には冷たさも暖かさもなく、自然の温度を感じる。寒くも暑くもない。傾いた陽が眩しいだけ。足元は薄く雪がついているけど、落葉しなかった針葉樹の色がなんだか明るい。新芽ではないはずなのに、古さは感じない。みずみずしさはないけど、枯れているわけでもない。今日は紛れもなく春だ。

目に見えない季節の訪れを感じたいなら、山に登るのが最適だとずっと思う。毎週末山に訪れると、風の温度と香り、色がわかるようになる。木々の形はまだ前の季節のままでも、纏う空気が次の季節を語ってる。山に来ると、それがわかる。春も夏も秋も冬も、新しい季節の訪れを一番最初に纏う場所。四季の流れを肌で感じ私も一緒に流されて生きることが、そのまま四季を愛することになる。ちょうど冬に慣れた頃に次の季節がやってくるのは、飽き性の私にとってありがたい。季節に流されて、それを出かける理由にして、そうやって季節に自分の行動やモチベーションをコントロールされながら生きていきたいよ。

06 | 氷瀑

そろそろ氷瀑に辿り着くはず、と何度もYAMAPを確認する。流石にそろそろ…と見上げた先に、白い塊が。でもこれが氷瀑なら、流石にデカすぎない?

そしてその流石にデカすぎてたのが、目指してきた不動の滝の氷瀑だった。山男は想像の2倍くらいあると言っていた。想像のスケールが小さくてよかった。氷瀑って轟焦凍の技みたい、ってセリフ、マジでそうだなと私も思うよ。

私も私で、自然の氷瀑をこんなにしっかり見たのはなんだかんだ初めてのような気がして、とても興奮する。滝から流れ出したその先の川も凍っているんだね。当たり前か?私の中には、小川全体が凍っているという発想がなかったので、とても驚いた。流れの瞬間が氷によって一時停止させられているみたい。なんて不思議な。しかし今日から春なので、溶け出した川が氷の上をチロチロと流れている。

時刻は11時、正午が近い。今まさにすごい勢いで氷が溶け出しているようで、分厚く貼られた氷の表面の裏側をトクトク…とワインを注ぐような音が聞こえる。すげー。

ちなみに今のは氷瀑の前に作られた小川の氷の話で、本題である氷瀑にまだ辿り着けていない。こっちはもうどっから手をつけたらいいのか、近づいていいのかすらわからない神々しさがある。水が落ちる縦の線の氷はまあわかるとして、その下のもこもこした氷がまるで水飛沫がこのまま凍ったようで、Mr.3のキャンドルサービスで固められたロウみたいな。そういうぬるりとした人工物感と、かつて生き物だったような躍動感がある。

どこまで近づいていいのかわからないけど、とにかく近づかずにはいられないので滝の裏側が見えるところまで行ってみた。裏側はもはや宇宙。スターウォーズの氷の惑星です。大きな氷柱が一本と、その隣にもっと大きな氷柱があったであろう断面が。折れたはずの氷柱の残骸は見つからず、氷瀑に取り込まれてその一部になったのだと思った。今まさに溶けゆこうとしている滝から、先に溶けられた水たちが滴り落ちて4月の雨のよう。撮影しようとするとカメラが濡れるので、「来るな帰れ」と言われている気分。洞窟のように、体が吸い込まれそうな引力がある。

山男に「帰る頃には滝とけてなくなってたらどうする〜?」と呑気に言いながら休憩をする。今この瞬間に溶けた滝が崩れ落ちても大丈夫なように十分距離をとって段差に座る。セブンの桜わらびを初めて買ってみたが、とてもおいしかった。なんてったて春だからね(あと100回言うよ)。

07 | 静かな山

登山口の地図によると、ここからまだまだ歩かなきゃいけなさそうだった。母にも「御座山の栗生コースは岩が多い」と言われていたから、ここから大変そうだな。

登山口に解説があった「ん」の木は無事に通り過ぎた。看板に載せるほど不変的なものなのか気になったが、これだけ立派なら確かに大丈夫か。

一定の登り道に飽きてきた頃、ちょうど鎖場に到着した。今日は足が重たいから、鎖も存分に使わせてもらおう。所々雪もついているから、鎖の存在が本当にありがたい。ついでにどっちに行ったらいいのかの方向もわかるしね。とはいえ御座山は、ピンクテープや「登山道→」の看板がたくさんある、とっても親切な山。白壁のジムみたいとか言ってごめんなさい。

山頂が近づいてきたところでふと気づいたのが、とにかく音がないこと。3組くらいしか出会っておらず人が少ないって言うのはもちろん、動物が動く音とか風の音とか感じない。加えて空に雲もないから、雲も音も全部谷に吸い込まれてしまっているみたい。図書館でももう少しうるさいよ。

それがなんとも神秘的な雰囲気を醸成していて、来る前何かあったらとびびっていたけど、なんだか今日は無事に帰れるんだろうなって気持ちになってた。なんでだろ。

山頂付近では流石にチェーンスパイクをつけて歩く。雪の踏み心地がなんとも言えない。降りたてでないからもふもふでもサラサラでもないんだけど、溶けてしゃりしゃりになっているわけでもない。片栗粉とか小麦粉とかみたいに料理に使ってもいいねと思うくらい綺麗なもののように見える。地面に落ちてるのにね。

08 | 山頂ビュー

いよいよ山頂へ。避難小屋から山頂までのカウントダウン、本当に10秒歩けば、という感じ。許されるなら目を瞑って10歩歩いて山頂に対面したい。ってくらい、一気にひらけてすんごい景色!ちょっとすごすぎて。

山頂の岩は全部雪に埋められて、グレーと白と、この色がカッコいい。近くの山はだだけが白い山を見下ろし、遠くの方にはアウトラインだけ白い山、かと思えば全部真っ白く空に浮かぶ山たちも。白馬とかなのかな。根本の方はピンクになって空に溶けている。

御座山の標識だけは3年前の記憶があって、そこまで辿り着いてやっとリベンジ成功だよ。わーこんなに展望のいい山だったなんて!久しぶりにもっと山頂にいたくて、山頂でご飯を食べることにしたよ。

山男は朝セブンで一生懸命探したカレーメシを大事そうに両手で取り出した。私は変わり種カップヌードルを買いたいという気持ちでチーズ鶏白湯。「変わり種カップヌードルを食べる」という行為がしたく、手段と目的が逆転している。

私のジェットボイルでお湯を沸かして温める。いつもジュンがやってくれるから、二人だとジェットボイルで沸かす水の量がちょうどいいってこと初めて知った。沸くまでの間、堅揚げポテトをつまむ。山男はお家であんまりジャンクフードを食べず、先日マックを久々に食べたら脳みそがとろけたらしい。わかるなー。今日はカレーメシでも脳みそとろけるよ。

私のグッズに一つ一つ「今は便利なものがあるなー」とおじ反応をする山男。今日で山の色々がアップデートされたね。

帰宅後に下山の記憶って本当にすべてなくなるんだよな、と話していた言葉がまるで呪いだったかのように、下山中のことは何も思い出せない。

普段山男とは月1くらいでモーニングをする仲で、お互いアジェンダ作って持ってかないと話すこと話しきれないくらいおしゃべりな二人なんだけど。山を歩くときは、話さなくてもいい時間が風とともに流れるのが気持ちいい。太陽を浴びて、皮膚から新芽が出るかもと思うくらい、人間もパワーをもらう。こうしてまた、街で頑張る理由が一つできる。それが週末登山。

山男は今年「旅をする」がテーマなんだと言っていた。神保町に古本を探しに行った濃い一日の話、とても良かったな。旅の中で起こったことは、感情も含めてとても濃い記憶になる。だから私も、山の記憶が濃い。毎日が旅だと思えたら、日常の中に小さな旅を見つけられたら、それって人生を丁寧に生きることにつながるね。

山男は私の車にスマホ財布をはじめとする全ての貴重品を忘れて帰っていた。30にもなって中学生当時のように母親のスマホから私に連絡をしてくるハメになったのは、山頂メシで脳みそがとろけたからってことにしておいてあげる。

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