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硫黄岳 / 山と夢

硫黄岳 / 山と夢

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06 | 絵で見た場所

翌朝5時に起きる予定だったのが、自然と5時前に目が覚めた。ひんやりした空気が気持ち良い。

歯磨きしてテント内でご飯を食べて、荷物をデポして出発する。テント内でアルファ米とスープを作ったら、蒸気でテントが暖かくなって嬉しくなった。アルファ米は前回食べた時すごくお腹いっぱいになってしまったと記憶していたけど、今回は全然足らなくて食後にすぐ柿の種を食べた。化粧は大きい鏡がなくて、長年の勘を頼りにやった。

朝日の木漏れ日が綺麗。ずっと雪がちょろちょろ残っていたんだけど、途中から登山道に雪の道が出現して、しかもそれが龍の背中みたいに一本の道になっていて不思議。踏み固められすぎて、木道みたいにカチカチになっていた。

林の中からガサガサと音が聞こえて、何者かが地面を掘り返しているのを確認した。完全に何かしらの小動物がいる!となったが姿は見えない。「何かな?リスかな?鳥かな?リスだったらいいな」と言っていたんだけど、待っても全然出てこなくて痺れを切らしたジュンが「じゃあリスってことで」と言った瞬間鳥が出てきて「あ、鳥だった」となった。

天気良すぎて、ほんとうに雲が一つもない。八ヶ岳ブルーすぎる。

途中道がひらけて、八ヶ岳の山肌が目の前にバーーーンと現れて、圧巻。天気もいいし気候もいいし、風もないし、最高の条件すぎてジュンに「ねえ最近何かいいことした!?」と詰め寄ってしまうほど。綺麗すぎて、「もうここまでで十分です」と言った。綺麗すぎて。

最後の登りを終えた時の雄大さったら。360°良い天気。360°絶景。万華鏡の中の世界みたいだった。自分がここにいると信じられないくらい綺麗で、絶景がものすごく遠くまで続いていて、言葉にならなかった。いつも綺麗な景色を見ると「写真を撮りたい」と思うんだけど、このスケールは画角に収まらないと感じたのか、写真を撮ることを忘れてしまった。涙も出た。山を始めてよかった、と思った。ジュンと一生親友でいられるような気がした。

ジュンが描いたイラストのステッカーに雪の硫黄岳の景色があるんだけど、見比べなくても着いた瞬間「ここだ」ってわかった。絵で伝えることができる力ってすごい。私はジュンの絵でしか見たことないけど、冬の硫黄岳とは全然色が違くて、黄色と緑が美しかった。

ところどころ雪が残っているのはこの時期ならではなのかな、と思った。画角的に雪と空の青しか見えないところがあって、その時に空がもんのすごく青く見えたので、やっぱり色のコントラストってそれぞれを際立たせるな、と思った。濃い色の山肌が見えているところにポツポツと白があるのが、絵画的でかっこよかった。

07 | 山に住むもの

山に泊まって山に登ると、「山にも普通に夜が来て、朝が来て、時間の流れがあるんだ、ここで過ごすものたち(動物や植物)の生活があるんだ」ってことに気づいて、ハッとする。私たちの山ではない。動物や植物たちの山なんだ、と肌で感じる。下界と同じ時間が流れているというのが不思議。どっちの方が時間の流れが遅いとか早いとか、そういうことではなくて、ただ別の次元で時間が流れているような感じがする。

山頂付近を歩きながら、今まで登ったいろんな山のことを思い出していた。ジュンが「わかめごはんみたい」と言っていた林は根子岳に似ていた。鉱物を含んだ土の色は安達太良山みたいだった。山頂の平和な雰囲気は磐梯山だった。360°のパノラマは那須岳を思い出した。そして、どこから見てもかっこいい山の姿は鳥海山のようだった。今まで登ったいろんな山たちが私の中でファイリングされている。心に深く残っている景色がここで引き出されて、今までの登山の記憶がぶわーっと蘇った。この1年、いろんな旅をしてきた。

08 | 山頂

山頂まで行くと、どこもかしこも休憩している人が絵になっていた。写真を撮ってあげたいんだけど、知らない人撮ってもしょうがないので、ジュンをあちこちに立たせて撮影会をした。ただ私たちの格好が真っ黒なせいで全然映えていない。スタイル良いモノクロのジュンよりお腹の出ているカラフルなおじさんの方が映えていて、驚愕した。山での格好に色は必要だ。今後は色のアイテムを集めようね、と誓った。

山頂、風がなくて気持ちが良すぎて、15分間しっかり昼寝した。山頂に1時間滞在していた。

爆裂火口があった。行けるところギリギリまで行ってみた。そしたら山頂の裏側みたいなのが見えて、「裏側もかっこいいんかい」となった。

テン場に着いて、テントを回収して撤退した。テントよ、ありがとう。

09 | 優しさに包まれたなら

下山中手拭いが落ちていてジュンがそれを木にかけていたんだけど、その後すれ違った男の人に「どこかに緑の手拭い落ちてなかったですか?」と聞かれてアレのことだ!となった。ジュンナイスだし、手ぬぐいひとつ落として諦めずにきちんと探しに戻るの、物を大事にする素敵な人だなと思った。ジュンは手拭い拾った時濡れていたから「うわっ」と言っていたけど。

慣れない靴だったので下山中に足が痛くなってしまい、悲しかった。紐を緩めたりキツくしたり色々試したけど変なとこが当たって結局痛くなってしまって、「歩くのしんどい…」となってしまった。頑張って登山道は抜けて、砂利の一本道まで来たんだけど、「そこからまだまだ先が長いからしんどいな…」と思ってたら後ろから車が通りかかってまさかの止まって下さって「よかったら下まで乗っていきます?」とご夫婦が言ってくれた。「いいんですかーーーーーー!?!?!?」となった。車の中で最低限の世間話はしたけど、ご主人が寡黙な渋い方でこちらに根掘り葉掘り聞いてくるわけでもなく、ただ八ヶ岳山荘まで送ってくれた。ほんと救われた。練馬ナンバーのかわいい赤い車だった。またどこかで会えたら。

そのご夫婦はもう何回も硫黄岳に来ているらしいんだけど、こんなに天気がいいのは初めて、と言っていてより嬉しくなった。ジュンは今回で3回目の硫黄岳だけど、今までで1番楽しかったと言っていて、また嬉しくなった。

ジュンは車を停め得る1番上の駐車場に停めればよかったね…ごめん…と私の足を心配して謝ってくれたけど、上まで行ってたら行ってたでじゃり道が凄すぎるから「うわーここだったら歩けるし下に停めて歩けばよかったねごめん」とジュンは言いそうだから大丈夫だよ、と言った。

行きの時に会話した八ヶ岳山荘のかわいいお姉さんにまた会って、駐車券1枚で2人分コーヒー飲めますよと教えてもらい、2日分のコーヒーを水筒に入れて持ち帰った。水筒には1日目の飲み物の残りが入っていたので水で濯ぎたくて、ジュンと駐車場のところで水筒をじゃぼじゃぼとして水を捨てた。捨てるときに私が「ほーら雑草たち、水だぞー」と言ったのをジュンが真似して「ほーら」と水を捨てたら水筒の蓋まで捨てていて、くだらないけど笑った。

山小屋で褒められたり、ビールご馳走してもらえたり、車で送ってもらったり、人との繋がりとか出合いに触れる機会が今回は多かった。車に乗ったときにたまたま流れたのが「優しさに包まれたなら」で、今回の旅のテーマソングみたいだった。

10 | 夢

すごく最高な2日間だったから、車の中でジュンと振り返りをしていて、「今までのJP登山ランキング更新された?」など聞かれたけど、ここまで思い返して今のとこと2位かな、と思う。でも「今まで生きてきた中で1番いいGWだったな」とジュンに伝えた。それから、こうやってジュンと山に行くことで青春を取り戻している感じが、私はしていて。バレーボールを辞めた時から私のキラキラした青春は止まってしまって、そこから不遇の時代に入るのだけど、私が大学時代燻っていたぶんの青春を今、全力で取り戻している気がする。その2つをジュンに伝えたら、忘れっぽいジュンがこれは忘れたくないと思ったみたいでTwitterにメモしていて、なんかいいなと思った。

登っている途中で、ジュンと夢の共有をした。私はしばらく前から、「人生の目標(夢)は本を出すこと」と言っている。それは絵本でも、小説でもエッセイ集でも漫画でも写真集でも画集でもなんでもいいと思っていたんだけど、なんとなく方向性が決まってきた。自分の山行を一遍としたエッセイ集を出すこと。山女日記のように「硫黄岳」と一編にタイトルをつけ、自分の思い出深い山行をエッセイとしてまとめるのだ。登山には物語がある。毎回毎回登るたびに何かを感じ、「旅」として心の中に残る。私はちゃんとした勉強をしてきたわけじゃないのでちゃんとした文章は書けないと思っているんだけど、ちゃんとしていない自分の文章を愛していて、形にしてこの世に残したいと思っている。それを手に取ってくれる人が1人でも増えて欲しいから、発信力を得るためにYouTubeを始め色々活動している。

中3で教員を目指すと決めた時「まあ教員くらいならなれるだろ」と思ってなることにしていて、私の人生ずっとそんな感じ。「夢」とか「憧れ」とかから逃げ続けてきた私にとって、こうやって胸を張って「これが夢なんだ」と言えるものに出会えている。これだけで涙出るくらい嬉しいことなんだけど、ジュンと登山をしているおかげでそれが見つけられて、それが言えて、それに向かって努力できている。今回の山行はジュンにお礼を言う機会が多かったけど、「ありがとう」だけじゃ伝えきれないほど、人生をかけて私がジュンにどれだけ感謝しているのか、自分の感情を歪みなくまるっとそのまま伝えたい。

ジュンは私の夢を「いいね、素敵だね」とすごく応援してくれていて、「ジュンの夢は?私ばかりでいいの?」と聞いたら、「ユウの本の挿絵をかく」と言ってくれてすごく嬉しかった。ジュンの夢は日本百名山を制覇することらしく、そんなの、私の夢の実現と並行して進めていけることじゃない、と思って、2人で違う視点の夢から同じ行動を続けていけるってことだし、すごく嬉しいと思った。お互いの夢を叶えることがお互いの夢の実現につながる関係。なんだ、私たち。夢のことは、今までジュンと話しているだけで特に発信はしてこなかったんだけど、自分の口でちゃんと語って、きちんと発信した方がいいな、と思った。口に出すことで実現することってあると思うし、協力してくれる人も増えると思う。てことでフォロワー2000人記念の動画の時に、その話をしようかなと思う。

大袈裟なことがしたいわけじゃなく、私の中の登山の物語を形あるものにしたい。ただそれだけの、純粋な想いだよ。

今回の山行の様子はYouTube動画でアップしています。

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