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北アルプス登山 テント泊縦走 第3回『三俣山荘と本と山賊達の面影』

北アルプス登山 テント泊縦走 第3回『三俣山荘と本と山賊達の面影』

前回は薬師峠から黒部五郎岳経由で、三俣山荘というルートにおける素晴らしい景色についてレポートした。

三俣山荘 伊藤正一

昨日の夜から降りしきる雨は、3日目になる今日もやむことはなく、強さを増してテントを叩いていた。後から三俣山荘の中にあるテレビで見ると、富山では記録的な大雨だそうで、降雨量も風も非常に強くそれが一日中続くということだった。ひとまず三俣山荘に逃げようと決めた僕たちは、必要最低限の荷物を携えて移動した。

三俣山荘のテレビ

昨日晩餐を共にした方々のテントは既に撤収されており、きっと今頃は大雨の中、新穂高温泉に向けて歩いているのだろう思うと、無事を祈るばかりだ。

三俣山荘の公衆電話

さあ、僕たちはどうしよう?と悩む。本来ならば、雲ノ平へ出かけて、その足で高天原温泉へ向かい、水晶~鷲羽と経由して、三俣山荘に戻ってくる行程を考えていたが、この豪雨と暴風に躊躇を強いられる。とりあえず午前中は様子をみようということになり、朝食を済ませて読書をして過ごすことにした。

三俣山荘の本棚

山荘の中には興味深い書籍が多くある。やっぱりせっかく三俣山荘にいるのだから、改めて「黒部の山賊」を読もうと思い、読書を開始する。

黒部の山賊

この書籍の舞台となるのが、まさに今僕たちがいる黒部源流界隈で、今日出かけようと思っていた高天原温泉などは、山賊と呼ばれた、狩猟を糧として生きる山人たちの基地として利用されていたことがわかる。

また三俣山荘付近には山の獣たちにあふれ、熊、タヌキ、テン、カモシカはよく見かける動物たちであり、たった100年ほど前の話とは思えない驚きが書籍から溢れている。

三俣山荘 伊藤正一

そして三俣山荘で登山客を待ち受けていると、命辛々で登山客が山荘に入ってきた出来事などが描写されている。さらには無理な移動で鷲羽で死体がでたり、そうすると山の中で火葬をするなど、今では考えられないような出来事が、写真と共に紹介されている。

僕らは改めて登山の怖さを再確認し、今日の高天原行き、雲ノ平行きについては、潔く断念することに決め、午後も読書に耽ることにした。

薬師平

この書籍の中には一昨日出かけた薬師平でみた、あの愛知大学山岳部薬師岳遭難事故についても触れられていて、何もかもが昔のことでありながら、舞台が目の前の山で起きた事だから、まるで近い過去で起きた事のように思えてしまう。

三俣山荘で地図を見る

書籍の中で死んでしまう登山者のほとんどが疲労死からの凍死で、細かく読み進めると、ゴアテックスをはじめとする進化したレインウェアが世の中に浸透したことは、多くの登山者の人命を救うことになったのだとよくわかる。

今目の前で起こっている嵐の中を躊躇なく移動できるのも、機能性のある装備あってこそのこと。進化というのが時に便利で、時に恐怖をよぶものだと改めて考えさせられる。

三俣山荘

本を閉じると、既に夜 。少しばかり雨は弱まったのだろうか…。「明日は晴れるみたいよ」と登山客の声もチラホラ聞こえてくる。夏場というのに寒いのは、例年にない寒気が押し寄せているとのこと。

三俣山荘のストーブ

三俣山荘の主人である、伊藤圭さんに天気の事をきいてみると、「こんなに雨になるのも、こんなに寒いのも、例年になく非常に珍しいです。こんなの初めてです」ということ。

三俣山荘で山ごはん

読書の後はお楽しみの晩山ごはん。メスティンでお米を炊いて、乾燥野菜で味噌汁を作って、カレーを湯煎で温めて食す。そうして、雨の中、テントに戻り就寝する。

1日中防風雨に見舞われたテントの中は水没状態。ダウン類は山荘に持ってきていたので、ぬくぬくと寝ることができた。こういう大雨の可能性を考えると、ウルトラライトと呼ばれるテントやウェアというのも考えものだ。

雨の中のテント

寝静まる頃には雨もポツポツとなり、明日の晴れの可能性に心が躍る。明日は楽しみにしていた笠ヶ岳。

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