鳥倉登山口の歴史は浅い。1993年に鳥倉林道が開通し、塩見岳の登頂をめざす登山者の多くに利用されていると聞く。僕たち3人はこの鳥倉登山口をスタート地点として登山を開始する。
※南アルプス大縦走の表紙記事では、全体を俯瞰した情報・装備・食料の情報を確認頂けます。
1日目の登山ルートについて
鳥倉登山口の標高は1,630m。標高を上げてまず目指すのは三伏峠で標高は2,580m。途中細い水場が一箇所あると地図上に記述がある。水はメンバーそれぞれ1.5~2リットルを持ち歩いた。
三伏峠まで登ると幾つかのアップダウンを繰り返し目的地の高山裏避難小屋に向かうことになる。まずは2,726mの鳥帽子岳への登りがあり、1日目の最高地点にあたる2,802mの小河内岳へと更に登る。
小河内岳頂上から直ぐ近くに小河内避難小屋があり、そこでランチを楽しむ。ここから一気に短い距離で200m高度を下げ、そこからは緩やかなアップダウンを縦走し1日目のゴール高山裏避難小屋にたどり着く。
どのようなアップダウンが繰り返されているのか、また座標ベースの平面距離でどれだけ歩くのかを事前に知っておくとペース作りに役立つ。
上の高低図を見てもらうと解るが、約15キロの距離に対して頂上や分岐点などのポイントがおおよそ何キロ地点なのかが予習できる。この予習を行うことで、行動時「時間」と「高度」を時計でチェックしながら現在のペースが遅いのか早いのかが理解しやすいだろう。当日は浅賀さんが分岐ポイントで縦走プランの紙を見て「予定通りの行動になっているか」を確認して、軌道修正に励んで頂いた。
縦走レポート
鳥倉登山口までのアクセスはバスと乗り合いタクシーを利用した。毎日新聞旅行が運営している「まいたび」というサイトから「鳥倉林道ゲート(タクシープラン)登山バス毎日あるぺん号」というコースを利用。23時に竹橋を出発し、途中乗り合いタクシーに乗り換え6時前に登山口に到着する。
鳥倉登山口には沢水をトイレ横の蛇口から手に入れることができるが、大きな字で「飲み水ではありません。ご注意ください。」と記載がある。都内からバスに乗る前に必要分の水の入手は必須だ。
予定通りゲートを6時に出発。林道を歩いていると浅賀さんが山ウドを見つけて見分け方を説明してくれる。
40分ほど歩くと鳥倉登山口にたどり着く。林道は緩やかだったのに比べて登山口からはグンッと高度を上げる。登山道は落葉樹カラマツとシダ植物が生い茂る静かな空間。
水場は細くちょろちょろと流れているもののおいしい水の入手が可能。久しぶりの山の水が身体に染み入る。ソフトフラスコにはマルトデキストリンとクエン酸とOS-1の粉を仕込んでおり、水を入れてエナジードリンクにして飲む。今回の縦走で初めて仕込んだアイテムだが、エネルギー補給として多く活躍してくれた。
水場を過ぎると塩見岳が木々の間から眺めることができる。遠くには仙丈ヶ岳も見渡せる。もう間もなく三伏峠というポイントに差し掛かった。ワクワクするような縦走路の景色もあと少しで楽しめる。
三伏峠小屋に到着。「国立公園・南アルプス」という標が何とも格好良い。小さく「日本一高いと言われる峠」と書かれた標もある。後から調べたら後立山連峰の針ノ木峠、秩父の雁坂峠と合わせて日本三大峠と呼ばれるらしい。
三伏峠から1日目のゴール高山裏避難小屋まで水を手にいれることはできない。ここで水筒に水を補給して後半の縦走の準備を整える。
三伏峠からおおよそ50分歩みを進めると、樹林帯から出て景色が広がる。目の前にあるのは鳥帽子峠の頂上だ。
鳥帽子峠の標識の向こうには塩見岳が大きく聳える。
反対に目を向けると小河内岳が見え、頂上の左横に避難小屋も小さく見ることができる。あそこでランチだ!と残り1.5時間の縦走に力を入れる。
前小河内岳までくると、小河内岳の全容をみることができる。南アルプスは1つ1つの山がとても大きく見える。
小屋が間近に見えると「あとちょっと!」と活力がでる。あんなにも遠くに見えていた小屋なのに、もう目の前に迫る。よくここまで歩いてきたものだと足を褒める。
小屋に到着すると何とも魅力的なメニューが並ぶ。避難小屋のご主人からは「みんな同じメニューにしてね」と声がかかる。丼ものが魅力的だったが僕が持ってきているフリーズドライのほとんどが丼もので、アルファ米であることに気付き、みんなで話し合ってミートスパゲティを頼むことにした。
「沢山あって賞味期限も近づいているから、良かったら無料で差し上げるのでどうぞ~」と避難小屋の綺麗な女性に声をかけて頂いた。僕たちは食事を待つ間カフェラテを頂き気持ちを休めた。
なかなかボリュームのあるミートスパゲティ。どちらかというとナポリタンライクな味わい。ここまでの道のり若干遅れ気味だった僕らはガツガツと時短で食べ終える。
食事を終えた僕たちは残り約3.5時間の道のりを進んでいく。この道すがらはお花畑が点在している。ダケカンバの森。マルバタケブキの鮮やかな色彩が美しい。
実際の景色と「山と高原地図ホーダイ」で実際の位置関係を把握する。残り55分で目的地に到着するも、西側ガレの縁注意という場所を通っていくことがわかる。
西側ガレの縁注意というポイントは、一歩踏み外せば「死」が待っているという危険な場所。落ちてしまえば止まることなく転がっていくだろうことが推測できる景色。
テント場レポート
ようやく高山避難小屋に到着。往復30分歩けば水場もある。高山避難小屋でビールを購入し、あまり冷えていなかったので水場にビールを持っていき冷やす。僕は途中うさぎを見た。
テント場はなかなかの賑わいを見せていた。避難小屋の主人にテントを張りたい旨を話すと場所を指定してくれる。夕立がありそうだったので、支払いは後にしてくれた。こういう心遣いはとても有難い。
僕はビッグアグネスのフライクリーク HV2カーボンwithダイニーマ。浅賀さんはビッグアグネスのフライクリーク UL1 。サヤカさんはnemoのTANI1P。
ビッグアグネスの2つのテントを比較してみると若干の作りの違いがあって面白い。今回浅賀さんは作りの違いをチェックしてみるのも面白いでしょう、との心遣いでテントをチョイス。
軽量化に力を入れた僕と浅賀さんの装備が似通っていたのは面白かった。そんな1つにサーマレストのネオエアーウーバーライトSがある。僕が口を使って膨らませていると、「これ使ってごらん」と不思議なアイテムで一気に空気を注入!
ゴミ袋に透明のビニールホースをテープで取り付けたシンプルなもの。今までもアイデアマンだと思っていたが、改めて閃きの巨人感に圧倒された。
後から調べたらサーマレストの空気入れバルブ直径15.8mmなので、ホースの内径が16~18mmぐらいで合うのかなあと思う(15.8mm以下は入らない-実証済)。またテープ部分はダクトテープを使っても良いかと思っている。
僕が大きな声で感動していると「ゴミ袋は45Lも試したけど30Lがちょうどいいね。それと、チャック付ポリ袋にこんな風に収められちゃう。ミニマムだし軽量でしょ」と、これでもかと僕を感動させてくれる。「すげえ!」としか言えなかった。
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更に浅賀さんからプレゼント。僕がエバニューのクッカーの蓋としてアルチディッシュが外れないように試行錯誤していることを話すと「これいいよ」と持ってきてくれた。MoMA エックスシェイプ ラバーバンドという商品。ザックの中で蓋が外れることなく、クッカーの中に入れた小さな装備が外に飛び出さないので、とってもありがたい。僕にとって思い出の装備品として大事に使わせてもらおうと、ありがたく頂いた。
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冷えたビールで乾杯を行い、食事の支度にかかる。
僕はおつまみにドライトマトとビーフジャーキーを振る舞い、サヤカさんは燻製の卵をカレー味に調理してくれ振舞ってくれた。
浅賀さんはたまねぎとソーセージを茹でてトマトピューレで味付けをしたスープを作ってくれ。
粉チーズをたっぷり。
更には生ハムを!「初日は豪勢に、明日からはありません。」と一言(笑)。1日目の食事とお酒を大いに楽しんだ。
山小屋・避難小屋情報
三伏峠小屋
ジュース、お酒が豊富にある。水も販売されているが往復25分の場所に水場がある。食事はカップラーメン、缶詰、パンがあり、11時~13時であればカレー、そば、うどんを食べることができる。個人的には信州限定ウイスキーが気になる。
小河内避難小屋
縦走レポート中でも案内したが、食事のメニューが豊富。避難小屋にいるスタッフの方々も気さくでとても居心地がよい。テーブルの周りは景色を遮るものがいっさいなく、食事時間がなんとも和やかな時間になる。遮るものがないので、日差しも強いこともしたためておく。
高山避難小屋
お酒、ジュース、食事が用意されている。僕たちが出会った小屋番の方はつい最近着任したばかりという方だったが、非常に優しく丁寧な案内が印象的だった。テント場は20張で、800円。南アルプスのテント場料金はどこも安い印象がある。そして避難小屋という名称にも関わらず有人なのも印象的だ。