週末はどの山に行こうかな――。 高嶺の頂や秘境の道で非日常を味わう登山も好きですが、山里の歴史文化を探究するフィールドワーク的な山旅はもっと好きです。登山と“テーマ”を掛け合わせて、超個人的な視点と偏愛で楽しんだ山旅の思い出を、ちょっとずつ綴っていきます。

女神に会いに、山へ行く

雨飾山

神話や民話を辿って山を歩くのが面白くて、毎年たくさんの聖山霊峰を訪ねています。

神話が残る山の山神、民話の伝わる山の精霊、人の暮らす里の妖怪……。それらは神社仏閣に祀られていたり、依り代は自然(磐座や巨木など)だったり、家屋にいたり、文書や絵画に描かれていたり、あるいは“現象”みたいなものもあって、そういうことを見聞しながら歩く山旅は、ピークを目指す登山とはちょっと違った面白さがあります。

登山というより「フィールドワーク」に近い調査山行。個人的な(調査)課題や関心を調べるのが楽しいし、ウワサや評判を確かめに山に行くのが好きなのです。

古事記や日本書紀といった書物や各地の風土記、地方神話などなど、その山域に伝わる話を総称して「記紀神話」と言ったりしますが、このあたりのことに興味がある人・詳しい人なら、登山×神話民話というテーマで山歩きを続けていくと、山旅ライフがより一層楽しいものになるはず。

たとえば、長野県の小谷村にある雨飾山には横顔の美しい女神さまがいると評判です。大国主大神が出雲からわざわざ求婚にくるほどのお姫さまもいたのだとか……。

雨飾山、女神の横顔

雨飾山

雨飾山は、深田久弥の『日本百名山』にも登場する北信の山です。1963mとミドルクラスの標高ながらどっしりした山容で、なかなかの登りごたえ。やや奥まった山域にありながらも、姫川対岸の北アルプス(白馬周辺)や、同じ頚城山塊の妙高山・火打山と遜色ない人気があります。アクセスの面ではやや分が悪いので、その意味では「いつか登りたい憧れの山」だと言うハイカーも多い印象。

雨飾山 双耳峰
雨飾山 双耳峰

この山は南北に2つのピークをもつ双耳峰で、それらの頂はすぐそばに寄り添うようで、誰かが猫の耳と表現をしたほど。まさに“猫の額”を伝って行き来しながら、日本海と後立山連峰、隣り合う頚城山塊、その先に連なる高妻山や戸隠方面と、この山ならではの絶景を楽しむことができます。

双耳峰
双耳峰

南側のピークから見下ろす笹平には、山頂へとつながるクライマックスの道がついています。ああ、あの道を歩いてここまで来たんだなあと目でなぞってみると、それが女神の横顔になっていることに気がつくでしょう。

そうとは知らずに登った方、ぜひ写真を見返してみてください。そこに女神さまが写っているかもしれません。

姫川の女神、奴奈川姫

奴奈川姫

そうそう、記紀神話に描かれる姫川の女神・奴奈川姫にもちょっとだけ触れておきます。

奴奈川姫はこの地(高志国)のお姫さまで、祭祀に使われた翡翠が神格化した女神さまでもあります。姫川は、長野県小谷村を縦断する長大な谷を流れ、新潟県糸魚川市で日本海に注ぎますが、もしや雨飾山の横顔は、この川の女神さまでは……なんて思うとロマンがありますね。

ぼくは、山の全体像を撮影するために麓の里町を訪ねるクセがあって、この時も雨飾山のビュースポットを探しながら里歩きを楽しみました。

この写真は、糸魚川市にある翡翠橋(みどりばし)から撮影したもので、美しい姫川越しに雨飾山を眺めることができるお気に入りの場所です。

ちょうど真ん中あたりにちょこんちょこんとピークが見えますね。この翌日に、あの頂から逆に翡翠橋を探すわけですが、その楽しさたるや。麓と山頂それぞれの眺めによって、山と土地がそれぞれ立体的にイメージされていき、旅に味わい深さが出ます。

登山の“予習”に、そうした山岳展望を求めるのも楽しいし、下山した後にこういう場所から遥拝して山に“感謝”をするのも、また一興です。

文と写真:大内 征(低山トラベラー/山旅文筆家

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