週末はどの山に行こうかな――。

高嶺の頂や秘境の道で非日常を味わう登山も好きですが、山里の歴史文化を探究するフィールドワーク的な山旅はもっと好きです。登山と“テーマ”を掛け合わせて、超個人的な視点と偏愛で楽しんだ山旅の思い出を、ちょっとずつ綴っていきます。

庭園造りのスペシャリスト・夢窓疎石が修行した絶景の山

小楢山

夢窓疎石と聞いて、ぱっと「登山」を思い浮かべるレアな人には、小楢山を目指すことをおすすめします。いや、そういう人はすでに登っているかもしれませんね。

この人物は、ときの歴代天皇から7度も「国の師」だと認められたすごい人で、夢窓国師とか七朝帝師という呼ばれ方もしています。

ぼくが夢窓疎石を知ったのは、京都の天龍寺や西芳寺を訪ねたときのことでした。もう20年以上も前のことですが、寺院や仏閣に興味をもって日本中の古刹名刹を訪ね歩いていたときのことだったと記憶しています。そこで見た、夢窓疎石の手掛けたという庭園にハートを鷲掴みにされてしまい、以来、この名僧の名前に敏感になった、というわけです。

登山をはじめてからというもの、山梨の山々を歩いたり神社仏閣を巡る機会が多くなり、その名をあちこちで見かけることになります。たとえば、乾徳山。夢窓疎石はこの山で修行したと伝わっていて、麓に開山した恵林寺の山号は「乾徳山」だったりします。この乾徳山恵林寺は、甲斐を治めた武田信玄公の菩提寺ですね。

……と、あぶないあぶない。このまま続けていると、織田信長、伊達政宗、さらには庭園の話にまで脱線しそうなので、ここまでにしておきます(笑)

ともあれ、乾徳山も素晴らしい山です。巨岩をクサリで登って山頂に立ったときの爽快感たるや。何度登っても飽きることのない、山梨を代表する名山。その乾徳山の近くに、もうひとつの夢窓疎石の修行の山があります。それがこの小楢山です。

夢窓疎石は「古那羅山」と名付けたとか

焼山峠から登る小楢山

小楢山には、焼山峠から登るコース、鼓川温泉から登るコース、牧丘から父恋し道母恋し道を登るコースがありますが、初心者なら焼山峠から登るのがおすすめ。とても歩きやすい道で、1713mの山頂まで2時間足らずで到着します。

小楢山の山頂

山頂は広く、南側にひらけていて、正面には富士山が見事。眼下には山梨市の町並みでしょうか、甲府盆地の東に位置する地域が、まるで箱庭のように見下ろせます。寺院の中につくる小さな地球、庭園。もしかしたら、修行中に目にしたこんな山上からの景色からヒントにして、庭園をクリエイトしていたのかもしれません。

北側には名峰・金峰山がたおやかで、山頂直下の五丈岩もはっきり視認できる距離。ちなみに、金峰山までの最短登山コースとして知られる大弛峠は、牧丘の杣口からクリスタルラインに入り、乙女湖の北で林道川上牧丘線に合流してそのまま北上しますが、その乙女湖からすぐ南西のあたりに焼山峠がであります。

麓の塩山あたりから眺める小楢山

麓の塩山あたりから眺める小楢山は、なんとも見事な双耳峰です。この山で修行をしていた夢窓疎石は、古那羅山という字をあてたそう。山中に小楢と水楢が多いことから、やがて現在の山名・小楢山に変化したそうです。

さらなる絶景の巨岩・幕岩まで足をのばす

巨岩・幕岩まで足をのばす

もうひとつのピーク、大沢ノ頭に向かう途中で、かなりの巨岩が現れます。これが幕岩。岩の溝にクサリがあり、これを伝って岩上に出れば、360度の素晴らしき大展望が待っています。

幕岩の上は広いので、ここで休憩するのも◎。思わず昼寝でもしたくなるような気持ちよさに、ぼくは本当に昼寝をしたことがあったりします……。なつかしい思い出。

幕岩からは、すぐ目の前に小楢山のメインの山頂がよく見える

幕岩からは、すぐ目の前に小楢山のもうひとつの山頂がよく見えるので、後から登ってきたハイカーたちが思い思いに休憩している様子がわかるほどの近さ。そのずっと北には、ふたたび金峰山を発見することができます。2599mの巨大な体躯を横たえる姿に、さすがは奥秩父の盟主的存在の山だと、感動すること間違いなし。それはもう、見事な絶景なのです。

幕岩まで来てようやく見えるのが、かの乾徳山

そして、この幕岩まで来てようやく見えるのが、かの乾徳山。ちょうど山肌が出ているあたりが、月見岩から扇平にかけての高原のような尾根。勝沼あたりから見ると鋭利な三角形をしていますが、見る角度で表情も印象も大きく異なるのが乾徳山の魅力のひとつだと言えそうです。

夢窓疎石は、おそらく均整のとれた小楢山の双耳を麓から見上げ、その佇まいに惹かれて、あそこで修行したいと思ったのでしょう。山中を探索する中でこの幕岩を見つけたとき、岩の上に登り、北東の方角に高原と岩の頂をもつ乾徳山を発見した。そしてきっと、あっちの山でも修行をしたいと思った……。なーんて、勝手ながら想像しちゃうのでした。

文と写真:大内 征(低山トラベラー/山旅文筆家)

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