浄化されて生まれ変わる、蘇りの道と蘇りの湯

思考と身心をととのえる山の旅、熊野古道。前回は、その核心となる中辺路の人気区間、滝尻王子から近露王子までを歩きました。

どんどんととのう道程の後半は、近露王子から本宮大社までやや長めの道のり、およそ25km。そして大斎原から大日越をして湯峯王子まで、2km強の急峻な山道を歩きます。

異なる3つの祈りの地を結ぶ、紀伊半島最奥の道

紀伊半島の最奥の地に、熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社の3つの聖地があることは、前回触れました。これらを総称して熊野三山と呼び、特に畿内と吉野、そして伊勢とを結ぶ広大な山域は「紀伊山地」という名称でよく知られています。

地図をよーく眺めて見ると、半島の西に位置する和歌山市あたりと東にある伊勢市あたりとを横断している「中央構造線」の存在に気がつくでしょう。このラインから南の広大な山域が紀伊山地ということになります。そしてそのラインの“際”に、真言密教の高野山と山岳信仰の吉野大峯という聖地があるわけです。熊野三山とあわせて、それぞれ異なる3つの信仰文化が結びついている道。これが世界的にも稀有なことだと評価され、世界遺産への扉が開かれました。

それにしてもよくよく眺めて見ると、高野山の金剛峰寺、吉野の金峯山寺、そして伊勢神宮も含めた名だたる祈りの聖地が、まるで「壁」のようになって熊野の地を護っているかのようです。なにか意味深いものを感じますね。

それはそうと、この中央構造線上にはとても魅力的な地域が点在していて、ぼくは毎年のように通ってフィールドワークをしています。その理由は「水」と「木花」が抜群によいこと。雨がよく降り、分水嶺が水を四方に配り、山中いたるところに滝と川が存在しています。水がいいところは作物がよく育ちますから、人の営みの色濃く、したがって文化が発展します。そして、水の豊かな山里には美しくて強い樹木と花が必ずあるのも魅力のひとつ。たとえば室生から吉野、天河から十津川、そして玉置山へと、紀伊半島を縦断するラインは極上の山旅を楽しむことができるフィールド。奥大和とも言われるこの土壌、おすすめです。

その吉野から玉置山を縦断する山稜の縦走路を「大峯奥駈道」と言いますが、最終的な終着地が大斎原(おおゆのはら)。明治の大水害まで熊野本宮大社の境内があった中州で、熊野川・音無川・岩田川の合流点でもありました。古来、三方向から流れ来る川が合流するところはよい場所とされ、日本の各地にそうした聖地が存在します。まさに大斎原も、そのような尊崇の対象地となっていたわけです。

蘇りの道・中辺路 ~近露王子から熊野本宮大社~

さあ、ここからは前編を引き継いで、近露王子からふたたび歩き始めます。

このコースには旅の疲れを癒してくれる温泉がとても少なく、近露を過ぎると湯の峰までありません。そんなわけで、温泉好きとしては近露をスルーできず、ここで一泊するケースが多いようです。一般に、2日目に本宮を目指す場合は1日目のうちに継桜王子まで歩いておくのが理想的ではあるでしょう。まあぼくは長く歩くことが好きなので気になりませんが、とはいえ日の短い冬場は、計画と時間の管理に注意が必要です。

その継桜王子から本宮までの道のりは、山道の崩落等で迂回になっている区間がいくつかあります。もちろん要所には案内板が出ていますし、距離的にもさほど変わらないので、ご心配なく。

そうそう、熊野古道には番号が入った道標が500mごとに建てられています。これを目印に歩けば、目的地まで辿り着けるというもの。ちなみに、中辺路の核心コースは滝尻王子に1番が、近露王子の直前に26番が、継桜王子の先に34番が、熊野本宮大社の直前にある祓殿王子に75番が設置されています。

この写真の65番は、水呑王子の前です。ここからは鬱蒼とした「蘇生の森」を貫く道となり、時に石畳を踏んで悠久の熊野の営みに触れ、時に遥か高野山から続く小辺路を果無山脈の眺めに思い、ようやくのことで73番の先にある見晴台に立ち、大斎原を遠望するあの光景を目にすることができるわけです。その感動たるや、推して知るべし、です。

あまりに知られた熊野本宮大社と大斎原なので、わざわざここで写真を出すまでもないでしょう。というよりも、ぼくの思いとしては、ぜひ自分の足で歩き、自分の目で確かめて欲しいということ。登山が好きな人なら、必ずその基礎と装備が役に立つし、歴史文化や温泉伝統工芸などに触れる喜びもあるし、きっと楽しんでもらえるはずだから。

蘇りの道・中辺路 ~熊野本宮大社・大斎原から湯峯王子~

本宮そして大斎原で感謝のご挨拶を済ませ、もし体力と時間にゆとりがあったら。ぜひ「大日越」をして自らの脚で湯峯王子まで歩いてみてください。2日目の最後の最後に、まあまあな急登が待ち構えている山道は、いささか身心に堪えるでしょう。

しかし、それを乗り越えて浸かる湯の峰温泉のお湯は、きっと自分史上最高になること間違いなしです。小栗判官が“黄泉がえり”した伝説が残る日本最古の湯。

蘇りの道からの、まさに蘇りの湯で締め括り。これは間違いなく整いますよ。

文と写真:大内 征(低山トラベラー/山旅文筆家)

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