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テーマで歩く山の旅 #10 不動山×芸術祭

テーマで歩く山の旅 #10 不動山×芸術祭

週末はどの山に行こうかな――。 高嶺の頂や秘境の道で非日常を味わう登山も好きですが、山里の歴史文化を探究するフィールドワーク的な山旅はもっと好きです。登山と“テーマ”を掛け合わせて、超個人的な視点と偏愛で楽しんだ山旅の思い出を、ちょっとずつ綴っていきます。

山でアートに触れる旅

「AIR」という言葉をご存じでしょうか。これは「アーティスト・イン・レジデンス」の略で、国内外のアーティストを一定期間招聘し、特定の地域で行われる創作活動を支援するというものです。もう何年も前のことですが、西日本の低山を各地に旅していたときに、現地の山の中でAIRに触れる機会が度々ありました。

たとえば、山の中に現れる作品に驚かされたり、アーティストが仕掛けた壮大な“装置”に巻き込まれていたり、自然景観を活かす巧みな表現から新しい気づきを与えてもらったり。日常的に美術館に足を運ぶ人や寺院などの仏教芸術に関心のある人でなくても楽しむことができて、気がつけば自然の奥深くまで誘われている……。そんな体験に、これからの山旅の可能性を感じた記憶があります。

今や日本各地で「自然×アート」を楽しめる面白そうな芸術祭がたくさんあります。中には、閉会してなお作品を残し、開催期間中に訪れることができなかった人にもその雰囲気を味わってもらうことができるケースもあるようです。

で、ここ大分県の国東半島北東端にある不動山は、そんな場のひとつ。2011年よりスタートし、2012年から2014にかけて開催された「国東半島芸術祭」の舞台でした。

アントニー・ゴームリー作「ANOTHER TIME XX」に会いに

不動山は標高352mの低山ですが、山頂付近からは海まで見渡せる眺めが最高です。周防灘と伊予灘の接点にポツンと浮かぶ姫島がとても印象的。そんな大地と大空と海原の眺めを楽しんでいると、紅葉に囲まれた岩尾根にもなにやらポツンと立つ人のようなシルエットが。そう、あれこそがアントニー・ゴームリーの作品。

近づいてみると、こんな感じ。もうちょっと近寄りましょうか。

はい、こちらがあの“人のシルエット”の正体です。作品名を「ANOTHER TIME XX」といい、邦題として「もうひとつの時間」と付された人体像。忙しない世間の喧騒から離れた岩山で、ひとり気ままに海を眺めていますね。なんだか達観した感があります。

達観、といえば、ゴームリーさんは英国の彫刻家ですが、インドで仏教を深く学んだそう。ここ国東半島は、古来の山岳信仰と宇佐の八幡信仰、そして天台密教が交わり、六郷満山と呼ばれる神仏習合文化が発祥した地。それを開いたのは仁門という僧でした。仏教を学んだゴームリーさん、なにかご縁を感じたのかもしれませんね。

ちなみに、この像は作者のゴームリーさんと等身大だそう。登山口にある小屋(茶屋か事務局だった?)には、当時のプロジェクトの資料が残っており、この像が入っていた大きな木箱も展示されています。

国東半島らしい低山の魅力が凝縮された、不動山と旧千燈寺跡

不動山の山頂直下には、五辻不動尊があります。ここに立つと、国東半島らしさ満載の景観がどーんと眺められて爽快。秋には紅葉が、春には山桜と新緑の競演が素晴らしく、まるで浄土のような雰囲気。いや、浄土、行ったことないけど。

「国東半島芸術祭」の看板がある駐車場からスタートし、ゴームリーの作品に触れ、五辻不動尊で眺めを楽しみ、ぐるりと時計回りに下山する所要時間はおよそ40分ほど。のんびりしても60分といったところでしょうか。

その帰り道、ぜひ立ち寄りたいのが旧千燈寺跡。きっと誰しもが見覚えのある石造りの仁王門がひっそりと佇んでいて、さらにその先に進むと奥の院がこれまたひっそりと……。ここは国東半島に六郷満山を開いた仁門さん入寂の地でもありますが、どこか柔らかくて温かい空気に満ちていて、ぼくのお気に入りの場所。おう、よく来たなと言って歓迎してくれているような気配を感じます。

今回のテーマは「自然×アート」なので、その意味では自然の営みによる芸術にも触れて帰るのが◎です。麓の県道31号まで下りると、すぐ付近に「尻付岩屋」があります。ここから歩くこと30分ほど、屹立した岩と窟の「大不動岩屋」に到着。

どうでしょう、これも自然が創り出した芸術ですよね。人によるアートも自然による造形美も、それぞれに味わえる不動山と国東半島の山旅。みなさんのご近所でも、自然×アートが楽しめる山があるのではないでしょうか。

そうそう、ここは国東半島峯道ロングトレイルの一部でもあります。歩く気満々のハイカーにはオススメしたい低山がたくさんあるんですよね。そんな話は、またどこかで。

紹介した山不動山
都道府県大分県
標高352m
天気・アクセスなど山の詳細情報

文と写真:大内 征(低山トラベラー/山旅文筆家)
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