登山の三種の神器と呼ばれる登山靴。行く山や天候などを考え最適な登山靴を選ぶことで、登山を安全に、そして快適に楽しむことができます。今回は「これだけ覚えておけば正しい登山靴を選べる!」という初心者も安心の登山靴の選び方を4つのポイントで紹介します。
特徴1:登山靴の3種類の形と特徴を知る
登山靴は大きく3つの形状に分けられ、それぞれに特徴と適した山があります。どんな山に行くのかを考えながら登山靴を選びましょう。
種類 | ハイカット | ミドルカット | ローカット |
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特徴 | ・登山に最も適している | ・低山など整地された登山に適している | ・素早い行動を楽しむスタイルに適している |
メリット | ・砂利などの異物が入りづらい | ・ハイカットより動きやすく軽量 | ・軽量で運動性が高い ・ペースを上げての長距離移動が可能 |
デメリット | ・重量がある ・足首の可動域が狭い | ・軽量性ではローカットに劣る | ・異物が入りやすい ・怪我のリスクが高い |
様々な登山道で砂利、踝を守るハイカット
足首までを覆う作りにより、以下の2点の利点が挙げられます。
- 岩場などからくるぶしを保護
- ザレ場で砂利などが入りづらい
- 泥や水の跳ね返りからソックスの濡れを防止
怪我や疲れによる登山中のリスク軽減や安全性が高くなると勘違いをされますが、ハイカットだからといって、登ることができる山の範囲が広くなることではありません。
「初めて選ぶ登山靴」としてハイカットの登山靴は、登山の歩きかたに慣れていない方におすすめの形状と言えます。
注意が必要なのは、ハイカットでも登山に適していないハイキングシューズ、ウォーキングシューズと呼ばれるものがあります。登山靴を選ぶ際はこのあと説明する「シャンク」のありなしをチェックしましょう。
軽量性と快適性を併せ持ったミドルカット
ハイカットとローカットの中間にあたる形状をしています。ハイカットに比べて歩きやすく、ハイカットで挙げた利点もある程度得ることができることが最大の特徴で、整地された低山などにおすすめです。
ソールは比較的柔かく歩きやすい作りのモデルが多いため、勾配のある北アルプスなどの登山では、重い荷物を背負うためシャンクがしっかりと入ったハイカットが良いでしょう。
軽快に自然な歩きが楽しめるローカット
トレイルランニング向けからファストハイクと呼ばれるスピードを出して行動する登山に適したモデルです。シャンクが入った登山靴が助ける安定性をある程度削ぎ落としているモデルが多いため、ある程度の筋力が必要なモデルが多いです。よって登山経験者向きの形状と言えます。ハイキングシューズ、アプローチシューズ、トレイルランニングシューズなど使用シーンも様々で、あらゆる環境に対応したモデルは少ないですが、その分想定した環境では突出した機能性を存分に発揮できます。
ローカットモデルの登山靴の多くが、硬いシャンクを使用しておらずそれによってソールは柔らかく軽快に動けるよう配慮されており、機動性と足指を使ってのグリップ力が特徴です。
ハイカットと比較して長期山行には向いておらず、使える範囲は限定的ですが、その特徴を把握し登山者自身のスキルがあれば、性能以上の使い方もできます。
特徴2:登山靴のソールの硬さを知る(シャンクのありなし)
ソールの硬さにも種類があります。高所登山、長い距離を歩く縦走登山といったシーンと登山道の状況に合わせてソールの硬さを選ぶようにしましょう。また上り下りのある登山ではシャンクといってプレートが入っている登山靴を選ぶようにしましょう。
種類 | 柔らかいソール | 硬いソール |
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特徴 | ・ハイキング、整備された登山道向き ・力を加えるとしなるほど柔らかい | ・縦走、高所登山向き ・力を加えてもしならないほど硬い |
メリット | ・軽快な足さばきでストレスが少ない ・路面の感触を感じやすく、無駄のない動きが可能 | ・凹凸のある地形でも負担なく歩ける ・衝撃から守ってくれ、疲労軽減 |
デメリット | ・荷物が重たいと足に負担がかかりやすい ・疲れやすい | ・整地、平坦地では歩きにくい ・感覚が鈍いため、路面状況に合わせづらい。 |
軽快な歩きが特徴の柔らかいソール
傾斜角度が少ないハイキング向けです。靴を持って力を加えると、しなる感触が分かる程度で、足の動きにソールが追従してくれるので歩きやすく、軽快に歩けるため平坦な登山道を歩くのにストレスが少ないです。スニーカーを始めとした街で履く靴に近いですが、 歩く度に足裏に負担がかかり、それが積み重なり足裏が痛くなることを、スニーカーなどと比べると軽減された作りとなっています。
登りではかかとが浮いて上下に動いてかかとが擦れる、下りでは足が登山靴の中で前後に動いてつま先が擦れる、このような原因で足が痛くなることがあるので注意しましょう。
筋肉の負担を助ける硬いソール
主に高所登山や岩場、重い荷物を背負っての長期縦走に最適です。靴を手に取って力を加えてもビクともせず、主にアルパインブーツやアプローチシューズで使われます。凹凸があり一見して足の踏み場が少ない場所では安定して足を置くことができるのですが、勾配が緩く障害物の少ない場所では硬いソールのメリットがあまり引き出せません。
特徴3:登山靴のアウトソールの種類と形状
登山靴にとってもうひとつの顔と呼べるのがアウトソールです。各モデルによって岩場に強い、雨の日のスリップに強いなど用途に合わせたグリップ形状をしています。
形状だけでなく溝の深さにも特徴があり、溝が深ければトレッキングなどの縦走に向いており、浅ければ足裏の感覚が重要なトレイルランニングなどに適しています。
またアウトソールの素材にも特徴があり岩場や木の根などに吸い付くような素材が使用されているもの、使用されていてもその吸着感に違いがあります。代表的なアウトソールにはビブラムソールがあり、これはアウトソール専門のメーカーで、レインウェアでいうところのゴアテックスのような位置づけです。
特徴4:登山靴のアッパー素材
アッパーとは登山靴を上から見たときに足を覆う箇所を指します。よって雨や泥への対応力、防寒性能、通気性、柔らかさ、メンテナンスのしやすさなどから選びましょう。
登山靴への愛着が湧く「レザー」
最も歴史がある素材で、ヌバック、スエード等の種類があり、防水、保温性が高いのが特徴です。使えば使うほど味が出てきて、自分だけの登山靴となっていくことを歩きながら実感してきます。定期的なメンテナンスが必要で、オイルやスプレーを塗布していきます。他素材の登山靴より念入りで一見して面倒なメンテナンスですが、手入れをするほど愛着が湧き、命を預ける道具を大切に扱うという、登山者の精神を身を以て感じられます。
通気性と軽量性に優れたエントリーモデル「メッシュ」
通気性と軽量性に優れているのがメッシュ素材です。軽快なモデルに好んで使われ、3シーズン対応のトレッキングシューズなどに使われます。単体では防水性が無く雨に弱いという弱点を持ちますが、後述のゴアテックスと組み合わせることで防水透湿性が獲得され、内外部からの水分から足をドライに保つという、登山靴ならではの性能を発揮します。
縦走登山にも安心な「防水素材」
世界最高水準の防水透湿性を誇るゴアテックスを始めとして、各メーカーオリジナルの防水透湿性素材が登山靴に使用されています。
ここまで登山靴がもつ4つの特徴について紹介してきました。次は登山靴を選ぶ際に持つべき視点についてお話していきます。
視点1:お店の人と話すことができる!登山靴の各部名称を覚えよう
登山靴の名称を覚えておくことで、特徴を理解して自分にあった登山靴を選択することができるようになります。役割を知って登山で歩くということの意味の理解も深まると思いますので確認してみましょう。
※横スクロールで表がスクロールできます。番号 | パーツ名称 | 役割 |
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① | アンクルパッド | 足首にあるパッド。ふくらはぎに当たるので、柔らかい素材を採用している |
② | アイレット | 靴紐を通す部分。多少のことでは緩まず、適度に締められるように配慮されている。 |
③ | ヒールカップ タン | 踵を保護する部分。岩や木々などの自然物から守ってくれる |
④ | コバ | セミワンタッチ、ワンタッチアイゼンを装着するための部分。 |
⑤ | サイドプロテクター | 靴の左右を保護する役割を担う。主にゴム素材が使われる |
⑥ | タン | 舌の様な形状の泥除け。登山靴によってはクッション性があるものも |
⑦ | シューレース | 靴紐。平紐と丸紐があり、登山靴の特徴や個別に使い分けることができる |
⑧ | アッパー | 甲皮と呼ばれる靴の大部分を占める部分。用途によって防水素材や皮革が使われる |
⑨ | ミッドソール | 衝撃吸収の役割を持つ部分。登山靴の特性によって構造が異なる |
⑩ | トウカップ | つま先を保護する部分。ヒールカップ同様、自然物から足を守る |
⑪ | アウトソール | 靴底。各社独自素材のソールからビブラム社などのものを使用している。 |
視点2:山の難易度を知る・登山道の状況はどうなっている?
登山靴を選ぶ上で一番大切なのが、『どのような山にいつ行くか』ということです。
- 標高はどれくらいか?
- 歩く距離はどれくらいか?
- 岩場がある登山道か?
- 雪や氷がある季節か?
「その時に登る山」の情報をよく調べてから登山靴を選ぶと、最適な1足を選べます。継続的に登山をするなら、いずれ何足か持つのが良いですが、初めは汎用性の高いモデルを選んで、どこへでも行ける様になるのが良いです。
継続的に登っていると「次の1足」が欲しくなります。最初の1足での経験をもとに「重量」「カット」「ソール」などを見ながら選んでいくと、より自分に合った登山靴を選べます。
視点3:無積期か積雪期かで選ぶ登山靴が大きく異る
積雪がある山では、無積雪の時期と違い「低温」「凍結路面」「岩と雪のミックス」など、積雪のない3シーズンでは想定されない環境により、登山靴に求められる性能が一変します。「硬いソール」「アイゼンを装着できるコバ」「丈夫なアッパー」「保温材」などを備えた、いわゆる「アルパインブーツ」と呼ばれる登山靴が必要となります。
「3シーズンで使った登山靴は使えないの?」と考えることはよくあり、私も冬山に無積雪期で使う登山靴で登ることがあります。使うときは「雪が薄っすら積もる程度」「軽アイゼンで対応できる」「低山である」など、条件を満たしているときに履いていきます。
視点4:自分に合った足型を選ぶ
どんな性能の良い登山靴でも、自分の足に合っていないと十分な歩行ができず、足が擦れたり痛みを感じたりします。足幅、つま先の形状、足の甲の高さなどは人それぞれに違います。そのためメーカーに拘らず、まずは色々と試し履きをしてみるのも良いです。より自分の足型に合わせた靴を履きたい場合は、オーダーメイドで自分だけの一足を作ってもらえるお店もあります。また同じ登山靴でもレディースモデルやワイドモデルが展開されていることもあります。
視点5:登山靴と一緒に検討すべきアイテム
登山靴だけ購入したら終了という単純なものではありません。より快適に登山を楽しむために抑えておきたいのがソックス、インソールです。よりこだわるならばシューレースもチェックしましょう。
クッション性と通気性に優れた登山用ソックス
登山靴は通常のソックスと異なり、厚手で疲労を軽減してくれるタイプのものが好まれます。登山靴を選ぶ際には、必ず登山用のソックスを履いてから試し履きします。素材によって保温性や速乾性などの特徴があるので、季節や山の状況に合わせて何足か持っておくのがおすすめです。
インソール
疲労を軽減し、靴とのフィッティングを高めてくれるインソールは、純正品と交換することで大きな効果を発揮してくれます。衝撃吸収性が高いものから保温力を持ったものまで様々な特徴があるので、長期縦走からハイキングまで、是非持っておきたいアイテムです。
シューレース
シューレースは2種類あり、耐久性が高く長時間の移動に向いた丸紐と、フィット感が高くしっかりと結べる平紐があります。丸紐は平紐より解けやすいというデメリットがあり、平紐も丸紐より耐久性という点では劣ります。モデルの特性に合わせたシューレースが選ばれていますが、自分の好みに合わせて純正より明るい色に変えて存在感を出してみたり、自分のスタイルに合わせて丸紐に変えるなど、カスタマイズしにくい登山道具において、シューレースによる登山靴は、自分らしさが出せる楽しみがあります。